聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

文字の大きさ
163 / 165
学園編

お団子ですよ、お団子

しおりを挟む

 やいのやいのとさわぐディール達を静かに笑みを湛えながら見つめていたアルカティーナだったがふとその状況を不思議に思った。
ディール。ステファラルド。ローザス。
攻略対象3人と悪役1人という豪華キャスト。
ここにスクレリズ先生とチルキ殿下、そしてリサーシャやユーリアがいればロイヤルストレートフラッシュである。
アルカティーナが不思議に感じたのはそのキャストの豪華さに、ではない。悪役である自分と攻略キャラである彼らが当たり前のように話しているという変わった状況についてだ。

 ーーこれがずっと続けば良いんですけど…

 「あ。すみません、私実はこの後予定がありまして、今日はそろそろ失礼します」

 「俺も。今日はロゼリーナ嬢の護衛だから」

 弱気になったアルカティーナの心を見透かしたかのようなグッドタイミングで柱時計の鐘が鳴り、2人が席を立った。

 「そうか、じゃあ今日は特に仕事もないしこれで解散だな。お疲れ様」

 「お疲れ様です」

 「お疲れさん」
  
 「あっお疲れ様でした!」

 慌てて立ち上がって頭を下げると、彼らはほんわかと柔らかな笑顔でアルカティーナを見つめていた。

 「?」 

 「ふふ、男だらけの場に女性が1人いるだけで花があって癒されますね」

 「…だな。なんか良いもんだな、女性がいるってのも」

 「ローザスの口から出たとは思えない言葉だな。今日は空からみたらし団子が降ってくるんじゃないか?」

 そのディールの言葉にアルカティーナは思わずクスッと笑いを零した。

 「何故みたらし団子なんですか?」

 「いや、単に好物だからな。降ってきたら良いなと思ったんだ」

 「ふふ。わたくしもみたらし団子は好きですよ。でも降ってくることはないと思います」

 2人で笑い合っていると、ステファラルドとローザスが何やら微妙な、何ともいえないような表情で顔を見合わせていることに気がついた。何かと思っていると、ローザスが痺れを切らしたように、

 「あー…みたらし団子?って何だ?」

 尋ねてきた。
ひゅっと息を飲んだディールには気がつかず、アルカティーナは何気なく答える。

 「え?ご存知ないです?お団子ですよ、お団子。典型的な和菓…」

 今度は、アルカティーナが息を飲む番だった。驚愕に満ちた表情で、自分の口を塞ぐディールを見上げる。だが、当のディールはそれをまるっと無視した。

「2人とも、そんなことより早く行かなくて良いのか?用事があるんだろう」

 「あっそうだった。じゃ」

 軽く手を上げて、ローザスはあっさりと退室した。だが、ステファラルドはその場を動かず、暫く意味深な視線でディールとアルカティーナを交互に見て、それから漸く綺麗にお辞儀をして退室した。
それを見届けてから、ディールはようやくアルカティーナの口を塞いでいた手を離した。

 「失礼。いきなり悪かったね」

 「い…いえ」

 気まずい沈黙。
いくらアルカティーナでも、一国の王子といきなり2人きりは精神的にくるものがあった。  が、それを妨げるように、唐突にディールが言葉を発した。

 「和菓子」

 「…」

 「和菓子、好きだったんだ」

 「…何故、過去形なんですか?」

 「だってもう食べられないじゃないか」

 そこまできて、ようやく。
アルカティーナは悟った。
 何故彼が自分の口を塞いだのか。
 何故ステファラルドが自分たちをじっと見つめていたのか。
 
 「…アルカティーナ嬢。私は…いや、俺は」

 「転生者、ですよね?」

 そうなんでしょう?

 首を傾げ尋ねるアルカティーナに、ディールは小さく息を吐いた。

 「お前もだろう?」

 
 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 チルキ殿下に引き続き、今回はディール様のターンです。



 
しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...