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プロローグ

投獄されました

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この辺鄙な村に生を受け早21年。

「ロベルト・ワイズ―――大監獄に収監されたし」

俺は今、目の前の現実に絶望した。




『ロベルトくんが物盗んだ~』
『ロベルトに背中ぶたれた!』

俺は昔から何かと周囲から悪人扱いされた。物が無くなったら俺のせい、怪我をしたら俺のせい。
勿論身に覚えなんてない。清廉潔白もいいとこである。
だが周りは俺の顔を見るなり全て俺のせいにした。

――――そう、原因はこの顔。

『あんな極悪ヅラ初めて見た』
『きっとありとあらゆる犯罪を犯しているに違いない』

大人でさえもこの顔を見るなり『犯人はロベルト・ワイズ』だと決めつける。
どんなに『やったのは俺じゃない』と反論しても誰も聞く耳を持たなかった。

冤罪をふっかけられる度遣る瀬無い気持ちになった。
俺はそんな犯罪者のような顔はしていない!
―――確かめるように鏡を見る。
するとそこには人1人殺していてもおかしくないような凶悪な人相をした男がこちらを睨んでいた。つまり俺だ。

だが、だからといってどうすればいい?
この顔に産んだ両親を恨めばいいのか?
でも俺は孤児だったから両親の顔さえわからない。
もしかしたらこんな顔とは程遠い優しい顔をしていたのかもしれない。
兎に角、そんな生きているかもわからない人間を恨むような真似はできなかった。

俺に残された道は《信じること》だけだった。

どんなに周囲から信じられなくても、俺さえ希望を捨てなかったらいつしか分かり合えると思っていた。

――――思っていた、のに。




「せ、聖騎士長様が……ッ」


ある日突然事件は起こった。

最近各地で内乱が頻発しており、国の守護者たる聖騎士達が牽制も兼ねて各地域の偵察を行なっていた。
そしてなんの間違いか、こんな人口100にも満たないような辺鄙な村へ聖騎士長御一行様が訪れたのだ。
俺はこの顔のこともあり、なるべく人と関わらないように黙々と与えられた仕事――農作業をしていた。
ぶっ通しで3時間只管畑を耕し、さすがに疲れたので休憩しようと森へ入り木陰で休んでいた。

そんな時、微かに聞こえた男の呻き声と漂う血の香り。
なんて、明らかに関わらない方が良いだろうに、好奇心に逆らえなかった俺は香りに誘われるまま近付いた。


――――視界に広がったのは、背中に剣を刺され大量に血を流している男――聖騎士長その人。
そしてその傍らには透き通るような銀髪の男が倒れた聖騎士長を見下ろしていた。
木々の間から差す日光に照らされて、髪がキラキラ光っているように見える。

何が起きているのか、わからなかった。

聖騎士長はピクリとも動かないし、何より背中から出ている血の量が尋常じゃない。
死ん、でる……のか?
殺したのは、銀髪の男……?

その時、何かを感じ取ったように銀髪の男が俺の方へ顔を向けた。
ゆらりとキラキラした髪が揺れる。

――――とても綺麗な顔立ちをしていた。
透き通るようなブルーの瞳が俺を射抜くように見ている。
そして何より、白磁のような肌には眼を見張るような鮮血が飛び散っていた。

呆然とした。
やはりこの男が聖騎士長を殺したのだ。
どうしよう、早く、早く誰かに言わなくては。
頭ではそう理解しているのに、俺の足は全く言うことを聞かない。
目の前の圧倒的な存在に怯えているのか、俺はその場から一歩も動くことができなかった。

すると、そこで気配が変わった。
慌てて銀髪の男を見ると―――その口元が歪な笑みを帯びていた。

そして、俺の意識もそこで途切れた。




漸く意識がはっきりした時には、俺を村人や聖騎士が取り囲んでいた。

「ロベルトお前が聖騎士長様を……」
「なんてやつだ……」

非難めいた口調に冷ややかに浴びせられる視線。
何が何だかわからなかった。
村人連中の目はまるで俺は聖騎士長を殺したと言わんばかりだ。
だが実際俺はそんなことしていない。
だって殺したのはあの銀髪の男だし、俺はそれを見ただけで――――。

と、そこでハッと思い出す。銀髪の男の歪な笑みを。
そういえばあの男はどこに行った?
そう思い周囲をきょろりと見渡す―――までもなかった。

「ロベルト・ワイズ――聖騎士長殺しの重要参考人として同行してもらおう」

透き通るような声が真上から降り注ぎ、目を見開く。
そこには、俺の首元に剣を当てがい見下ろしている銀髪の男がいた。

その綺麗な顔には血など飛び散っていなかった。
反対に、よく見てみると俺の服にべっとりとした血がこびりついており。
右手にはさっきまで聖騎士長の背を貫いていた剣が握らされていた。

ここまでくれば、バカな俺でもわかった。
――――嵌められたのだ、銀髪の男に。

当然俺じゃないと周りに抗議したが、こんな凶悪な顔を持つ俺の言うことを信じる人なんてこの村にはとうにいなかった。

愕然としたまま連行され、気付いた時には証言台に立たされていた。
といっても、この場所でも俺の話に聞く耳持つ者などいない。
むしろ、最後まで無実を主張した俺に、『反省の色なし』と判定した裁判長により、死刑の次に重い罪を下された。

「ロベルト・ワイズ―――大監獄に収監されたし」

そして俺は、目の前が暗くなると共に悟った。
もう期待など抱いても、意味はないのだと。
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