公爵様、地味で気弱な私ですが愛してくれますか?

みるくコーヒー

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steewS 話8第

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 最近、毎日が忙しい。
 次々と仕事が舞い込んで息をつく暇もない。楽しみといえば、仕事中に食べる甘いものくらいだった。

 ただ、今日はまだ何も食べていない。
 次第に糖分不足かイライラしてきた。

 ティミリアと散歩をした日、彼女に寄り添うと宣言したというのに、仕事のせいで俺はまだ彼女に何も出来ていなかった。

 それだってもどかしく感じる。
 決めた以上、行動に移すべきだ。

 そんなことを考えていると、コンコンと扉がノックされる。

「入れ。」
「し、失礼します。」

 俺が入室を許可し、開いた扉から現れたティミリアだった。部屋を見回しながら、ゆっくりと入ってくる。

「ティミリアか、何か用か?」

 書類を置き、ティミリアに目を向けながら問いかける。

 彼女がわざわざ訪ねてくることは珍しい。夕食に誘われた日が最後だったか、あれは確か1ヶ月ほど前だったはず。あの日は部屋に入って来なかったが。

「あの、お菓子を作ったので、アレク様も良かったら、召し上がって下さい。」

 ティミリアはそう言いながら、持っていた皿を俺の机に置いた。

 それはアイスクリームだった。
 溶けておらず、丸い形を保っている。

 色からして、バニラアイスクリームだろうか。

「君が作ったのか?」

 お菓子を作ったので、という先ほどの彼女の言葉が引っかかり問いかける。

「はい……あの、もし食べたくないのであれば無理して食べなくても大丈夫です。」

 いや、食べたくないわけではない。
 むしろ糖分が不足していたので随分とありがたい。

 しかし、以前にレミーエに彼女がどう過ごしているのか聞いた時にお菓子を作っていると言われたが、あれは本当だったのか。

 俺の母が厨房に立つ姿は1度も見たことがなかった。もしや、貴族の女性は自ら料理をすることが普通なのか?

 まあ、どちらでも良い。
 それが普通だろうとそうでなかろうと、彼女がそれを好きならば咎めることではない。

「いや、頂こう。」

 俺はスプーンを手に持ちアイスクリームをすくった。そして、口に運ぶ。

「ふむ。」

 なかなか美味い。
 ひんやりとして甘く、口の中で溶けていく。今日の気温からしても適したスイーツだと言えよう。

 すぐに皿の上のアイスクリームはなくなってしまった。思っていた以上に甘味に飢えていたようだ。

「美味かった。君は料理が上手な様だな。」

 スプーンを置いて、純粋な感想を述べるとティミリアは嬉しそうに笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。実家では良く母とお菓子作りをしていたので。」

 そういうと、あっ! という顔をして顔を伏せた。

 何だ、もしかして言ってはいけないことだったのか。やはり貴族夫人は料理をしないのか。

 ただ、母親と肩を並べて仲睦まじく何かをするという光景が俺とは無縁で、なかなか想像出来ずにいたが、少しだけ羨ましさを感じた。

「ほう、親と仲が良いのは何よりだ。」

 俺がそうではなかっただけに、本心で感じた。

 "私にその顔を向けるな!"

 母、と聞いて思い出すのは怒った顔と怒鳴り声ばかりだ。

 それにしても今日の菓子は美味しかった。彼女は他にも様々なものが作れるのだろうか?

 彼女が顔を下に向けながらもこちらをチラリと見たことに気がついた。

「また、何か菓子を作ってくれ。」

 俺がそう言うと、ティミリアはパッと顔を上げ、そして輝かせる。

「はい、ぜひ!」

 彼女は机の上の皿を持ち、俺に頭を下げてから部屋を出た。

 見届けてから再び書類に目を落とす。

 それにしても、嫌なことを思い出してしまった。あまり思い出すことはなかったと言うのに。

 俺は頭の中の邪念を取り払い、仕事に集中することにした。
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