24 / 38
teeM 話21第
しおりを挟む
「今日もティミリアはネイト侯爵と会っていたか……。」
俺はジェラルの報告を受けて、ため息をついた。
アルメリア公爵家でのパーティー以降、ティミリアは頻繁にネイト侯爵と会うようになった。
カフェで会って1時間ほど話をして解散をする。それだけだ。
何もやましいことはしていない。
友人同士の茶会だと言われればそれまでだ。
だけれど、このもやもやする気持ちを一体どうしたら良いのだろう。
愛人を作っても良い、と言った手前口出しなどできない。彼女がネイト侯爵を好きだというのならば許容すべきだ。
ただ、心配くらいはしても良いだろう。正直なところ、ネイト侯爵には良い印象がない。
妻であるロレッタ・ネイトを結婚当初から放置して、様々な女性と行為を持っていたという事実は貴族男性の間では有名な話だ。
結果として、ロレッタ・ネイトは外に愛人を作りお互い利害のもと夫婦をしているらしい。
ネイト侯爵は自身に愛人はいない、と公言している。それは間違っていない、特定の愛人作らず女性間を渡り歩いているだけなのだから。
ティミリアは必ず傷つくだろう。
でも、どう伝えるべきなのだろう?
正直に言ったところで、信じてくれるのだろうか。
いや、正直に伝えても良いのだろうか。またここにきて、母の言葉が俺を苦しめる。
俺たちは上手くいき始めていたはずなのに、一体どこで間違えたのか。
「そろそろ調べはついたか?」
「はい……。」
返事をするジェラルの顔は暗かった。
俯いてこちらを見ようとしない。
俺はジェラルへ彼女が侯爵に会いに行く際には必ず護衛につくと共に、ネイト侯爵について調べるように命じていた。
表情から察するに、良い報告ではないのだろう。
「僕の報告は、きっと奥さまを傷つけてしまいます。」
ジェラルは、何故か初めからティミリアへの好感度が高く、彼女のために尽くそうとしていた。
今も心底彼女を気にかけている。
「もしも報告をしなければ、もっと悪い事態になるとは思わないのか?」
ジェラルは下唇をぐっと噛んでから、意を決したようにこちらを見た。
「侯爵は奥さまに近づいて、アレクセン様を失脚させようとしているようです。」
やはり、と俺は目を伏せた。
何となく予想はついていた、彼は以前から俺を退けようとした。そうして、俺の位置に立とうとしたのだ。一侯爵家のくせに何と浅ましいことか。
「ネイト侯爵は、ティミリアを利用しようとしているのか。」
真正面からくるのならば、いくらでも勝負を買おう。しかし、ティミリアを利用することは許せない。
彼女は人一倍繊細だ。
傷つけたくない、傷ついて欲しくない。
ジェラルはこちらに視線を向けずに、まだ浮かない顔をしていた。
「……まだ何があるのか?」
ジェラルは、コクリと小さく頷いて写真を一枚見せた。
「これは!?」
ネイト侯爵が親しげに話す相手、それは裏組織では有名な人間だ。
彼が裏組織と繋がっているという決定的な証拠。
「良くこれが手に入ったな。」
「情報ギルドがネイト侯爵に目を付けていて撮れた写真のようです。撮った本人は消されたようですが、写真は死守でき情報として売られています。」
ということは、騎士団が動くのも時間の問題か。わざわざ、我々が動く必要はない。
だが、ティミリアを今のうちに遠ざけておかないと後々巻き込まれてしまいそうだ。
最悪、彼の悪事に絡んでしまうかもしれない。
「きっと、上手い理由でも考えて会わないようにさせることが最善なんだろう。」
「僕も、そう思います。」
だが、もしも嘘だとバレたら?
あとで侯爵の思惑や正体を知ったら?
もっと傷ついてしまう。
正直に話してわかってもらう方が最善なのでは?
傷ついてしまうかもしれない。
だけれど、俺がその傷を癒すことは出来ないだろうか。今こそ、彼女の夫として支えるべきではないだろうか。
「俺は彼女に全てを伝える。」
「アレクセン様!?」
ジェラルは、やめて欲しいと懇願するようにこちらを見つめる。
いつだって、何も考えていない訳ではない。考えた上で、相手を思った上で失敗してしまう。
今回も失敗してしまうかもしれない。
だけれど、彼女には下手な嘘をつきたくない。いつだって正直でいたい。
俺は、そんな夫婦でいたいのだ。
俺はジェラルの報告を受けて、ため息をついた。
アルメリア公爵家でのパーティー以降、ティミリアは頻繁にネイト侯爵と会うようになった。
カフェで会って1時間ほど話をして解散をする。それだけだ。
何もやましいことはしていない。
友人同士の茶会だと言われればそれまでだ。
だけれど、このもやもやする気持ちを一体どうしたら良いのだろう。
愛人を作っても良い、と言った手前口出しなどできない。彼女がネイト侯爵を好きだというのならば許容すべきだ。
ただ、心配くらいはしても良いだろう。正直なところ、ネイト侯爵には良い印象がない。
妻であるロレッタ・ネイトを結婚当初から放置して、様々な女性と行為を持っていたという事実は貴族男性の間では有名な話だ。
結果として、ロレッタ・ネイトは外に愛人を作りお互い利害のもと夫婦をしているらしい。
ネイト侯爵は自身に愛人はいない、と公言している。それは間違っていない、特定の愛人作らず女性間を渡り歩いているだけなのだから。
ティミリアは必ず傷つくだろう。
でも、どう伝えるべきなのだろう?
正直に言ったところで、信じてくれるのだろうか。
いや、正直に伝えても良いのだろうか。またここにきて、母の言葉が俺を苦しめる。
俺たちは上手くいき始めていたはずなのに、一体どこで間違えたのか。
「そろそろ調べはついたか?」
「はい……。」
返事をするジェラルの顔は暗かった。
俯いてこちらを見ようとしない。
俺はジェラルへ彼女が侯爵に会いに行く際には必ず護衛につくと共に、ネイト侯爵について調べるように命じていた。
表情から察するに、良い報告ではないのだろう。
「僕の報告は、きっと奥さまを傷つけてしまいます。」
ジェラルは、何故か初めからティミリアへの好感度が高く、彼女のために尽くそうとしていた。
今も心底彼女を気にかけている。
「もしも報告をしなければ、もっと悪い事態になるとは思わないのか?」
ジェラルは下唇をぐっと噛んでから、意を決したようにこちらを見た。
「侯爵は奥さまに近づいて、アレクセン様を失脚させようとしているようです。」
やはり、と俺は目を伏せた。
何となく予想はついていた、彼は以前から俺を退けようとした。そうして、俺の位置に立とうとしたのだ。一侯爵家のくせに何と浅ましいことか。
「ネイト侯爵は、ティミリアを利用しようとしているのか。」
真正面からくるのならば、いくらでも勝負を買おう。しかし、ティミリアを利用することは許せない。
彼女は人一倍繊細だ。
傷つけたくない、傷ついて欲しくない。
ジェラルはこちらに視線を向けずに、まだ浮かない顔をしていた。
「……まだ何があるのか?」
ジェラルは、コクリと小さく頷いて写真を一枚見せた。
「これは!?」
ネイト侯爵が親しげに話す相手、それは裏組織では有名な人間だ。
彼が裏組織と繋がっているという決定的な証拠。
「良くこれが手に入ったな。」
「情報ギルドがネイト侯爵に目を付けていて撮れた写真のようです。撮った本人は消されたようですが、写真は死守でき情報として売られています。」
ということは、騎士団が動くのも時間の問題か。わざわざ、我々が動く必要はない。
だが、ティミリアを今のうちに遠ざけておかないと後々巻き込まれてしまいそうだ。
最悪、彼の悪事に絡んでしまうかもしれない。
「きっと、上手い理由でも考えて会わないようにさせることが最善なんだろう。」
「僕も、そう思います。」
だが、もしも嘘だとバレたら?
あとで侯爵の思惑や正体を知ったら?
もっと傷ついてしまう。
正直に話してわかってもらう方が最善なのでは?
傷ついてしまうかもしれない。
だけれど、俺がその傷を癒すことは出来ないだろうか。今こそ、彼女の夫として支えるべきではないだろうか。
「俺は彼女に全てを伝える。」
「アレクセン様!?」
ジェラルは、やめて欲しいと懇願するようにこちらを見つめる。
いつだって、何も考えていない訳ではない。考えた上で、相手を思った上で失敗してしまう。
今回も失敗してしまうかもしれない。
だけれど、彼女には下手な嘘をつきたくない。いつだって正直でいたい。
俺は、そんな夫婦でいたいのだ。
4
あなたにおすすめの小説
男装令嬢はもう恋をしない
おしどり将軍
恋愛
ガーネット王国の王太子になったばかりのジョージ・ガーネットの訪問が実現し、ランバート公爵領内はわいていた。
煌びやかな歓迎パーティの裏側で、ひたすら剣の修行を重ねるナイアス・ランバート。彼女は傲慢な父パーシー・ランバートの都合で、女性であるにも関わらず、跡取り息子として育てられた女性だった。
次女のクレイア・ランバートをどうにかして王太子妃にしようと工作を重ねる父をよそに、王太子殿下は女性とは知らずにナイアスを気に入ってしまい、親友となる。
ジョージ殿下が王都へ帰る途中、敵国の襲撃を受けたという報を聞き、ナイアスは父の制止を振り切って、師匠のアーロン・タイラーとともに迷いの森へ彼の救出に向かった。
この物語は、男として育てられてしまった令嬢が、王太子殿下の危機を救って溺愛されてしまうお話です。
悪役令嬢は反省しない!
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。
性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
【完結】お嬢様だけがそれを知らない
春風由実
恋愛
公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者でもあるお嬢様には秘密があった。
しかしそれはあっという間に公然の秘密となっていて?
それを知らないお嬢様は、日々あれこれと悩んでいる模様。
「この子たちと離れるくらいなら。いっそこの子たちを連れて国外に逃げ──」
王太子殿下、サプライズとか言っている場合ではなくなりました!
今すぐ、対応してください!今すぐです!
※ゆるゆると不定期更新予定です。
※2022.2.22のスペシャルな猫の日にどうしても投稿したかっただけ。
※カクヨムにも投稿しています。
世界中の猫が幸せでありますように。
にゃん。にゃんにゃん。にゃん。にゃんにゃん。にゃ~。
あなたのことが大好きなので、今すぐ婚約を解消いたしましょう!
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「ランドルフ様、私との婚約を解消しませんかっ!?」
子爵令嬢のミリィは、一度も対面することなく初恋の武人ランドルフの婚約者になった。けれどある日ミリィのもとにランドルフの恋人だという踊り子が押しかけ、婚約が不本意なものだったと知る。そこでミリィは決意した。大好きなランドルフのため、なんとかしてランドルフが真に愛する踊り子との仲を取り持ち、自分は身を引こうと――。
けれどなぜか戦地にいるランドルフからは、婚約に前向きとしか思えない手紙が届きはじめる。一体ミリィはつかの間の婚約者なのか。それとも――?
戸惑いながらもぎこちなく心を通わせはじめたふたりだが、幸せを邪魔するかのように次々と問題が起こりはじめる。
勘違いからすれ違う離れ離れのふたりが、少しずつ距離を縮めながらゆっくりじりじりと愛を育て成長していく物語。
◇小説家になろう、他サイトでも(掲載予定)です。
◇すでに書き上げ済みなので、完結保証です。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる