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第1章: 初等部
兄との時間
しおりを挟むあれから時間が経ち、私たちは初等科最高学年の6年生になった。
あの事件のあと、私たちは様々な話を聞かれたが目立って何かがあったわけではなかった。
弥助とエミリーちゃんは留学の期間が終了し、それぞれ自身の学校へ戻っていった。
2人とも、14歳になったらまた留学に来ると言っていたしたまには遊びに来るとのことだった。
特に弥助とは仲良くなれたし、また会いたいし一緒に稽古もしたいと思う。
事実、ついこの間も遊びに来たし。
イルマくんはひと月病院にいた。そりゃ、脇腹をやられてしまったわけで、死ななくて良かったと心の底から思う。
他の人の具合は特に異常は無かった。
私はというと足の骨をやられてしまい、1,2ヶ月歩くことも出来ずにいた。
肩も未だに痕が残ってしまっている。
今でこそ足の具合は治っているのだが、当時は剣の練習も出来ずもどかしい日々を過ごしていた。
おかげで魔法の練習をしたために魔法の技術があがったけれど。
更に言えば、魔法を強化したために奥義のキレも良くなり結果的に良い方向に転んだと思う。
緋堂はあれから少しだけ過保護になったが、依然と変わらず過ごしている。ただ、私が歩けず車椅子やら松葉杖やらの時は大変迷惑をかけたが。
仁科先生は、あの後焼死体として発見された。
未だ謎の多く残る事件であったのは確かである。
学校側もかなりその後の対応に追われていた。
魔物を先生として雇っていた、なんて体裁が悪い。
しかし、その部分は「虧月楼」によって伏せるように言われたために公表されなかった。
単純に学園としてのセキュリティなどについて糾弾されていたのだ。
「綾子、今日は放課後どうするー?」
イルマくんが私の席に来て聞いてくる。
たまに放課後みんなで集まって練習をしているために、それに行くかどうかを聞いているのだ。
「ごめん、今日はお兄様が久しぶりに家にいるの。」
「あー、そっかぁ。雨香と雫もいないし、今日はパスかなぁ。」
イルマくんがしょんぼりと眉を下げて言い、私の席から離れていく。
そうなのだ、篤也お兄様が珍しくお家にいるのだ! この機会を逃すのは何としてでも避けたい事態である。
高等部を卒業したお兄様は正式に虧月楼で働いている。いつも任務で忙しいお兄様は中々家に帰っては来ないのだが、久しぶりに今朝帰って来たのだ!
これからお兄様とゆっくり話せると思うと心が弾む、ブラコン? 勝手に言ってなさい、私はお兄様が大好きだ。
「お兄様!」
家に帰り、すぐに私がぴょこんとお兄様の前に立つと少し疲れた顔をしていた彼は小さく笑みを浮かべた。
「おかえり、綾子。学校は楽しかった?」
「えぇ、毎日とーっても楽しいよ! だけど、今日はお兄様とお話しするのが楽しみで、すぐ帰ってきたの!」
お兄様は「そっか。」と呟くと私の頭をよしよしと撫でた。
お兄様は会うたびにどんどん成長する。
前に会った時よりもまた背が伸びて、いつか知らない人になってしまうのではないかと怖くなる時がある。
どこか遠くへ行ってしまわないか、不安になる。
「お兄様、今回はどんな任務をしたの? お話が聞きたいわ!」
「綾子、僕はとても疲れているんだ。悪いけど今度にしてくれるかな。」
私のわくわくした顔とは対極に、お兄様は笑みをなくして虚空を見つめていた。
任務で何かあったのか、心配になってしまう。
「だけど……お兄様とお話がしたいわ……。」
「僕の妹はそんなに聞き分けが悪かったのか?」
合わさった瞳が今までに向けられたことのない鋭いもので、私は身体を後退させてしまう。
お兄様の瞳の奥に漆黒の闇が見える。
本当に、目の前の人は篤也お兄様なの……?
「ごめんなさい、お兄様……。」
「また今度ね。」
私が了承すると、先程とは打って変わっていつもの優しいお兄様の表情に戻った。
もしも……もしも、お兄様が闇に飲み込まれてしまったら……その時は私は彼に刃を向けることが出来るのだろうか。
私はそんな最悪の事態を頭から振り払っ て、自室へと歩みを進めた。
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