悪役令嬢代わりました。【更新停止中】

みるくコーヒー

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第2章: 中等部

三ヶ森 綾子、婚約者と外出する

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「こうやって綾ちゃんと出かけるのっていつぶりだろう。」

 隣に並んで歩く海ちゃんがニコニコと笑みを浮かべながら言った。

「私が中等部に入ってからは初めてかもしれないね。」

 私と海ちゃんは2人で外出をしている。
 街の中をふらふらと歩いてショッピングをしたり、カフェでお茶をしたり……そんな何気ないことしかしていないけれど。

 私が中等部に入ってから、こうして2人で会うのは初めてのことだった。
 婚約者として、私たちは定期的に出かけたりして2人の時間を作っていた。しかし、お互い忙しくてその時間を作ることが出来ずにいたのだ。

「昔はよく2人で遊んでたけど、僕らが学園に入ってからみんなで過ごす時間が多くなったからね。」
「うん……私はみんなで過ごす時間が好きだよ。」

 それから少しの間沈黙が続く。
 私たちは今まで一体どうやって話していたのか、何だかわからなくなる。

「僕もみんなと過ごすのは楽しいさ……だけど、綾ちゃんと2人の時間も好きだよ。」
「……うん、そうだね。」

 私はニコリと笑みを貼り付けて言葉を返した。

 正直なところ、私はこの時間が好きではなかった。
 昔みたいに無邪気に過ごしていたあの頃とは違う。

 今のこの時間は、私にとっては三ヶ森 海里の婚約者として振る舞っていなければならないから。
 海ちゃんの従姉妹の三ヶ森 綾子としてではなく、三ヶ森家の分家の1人として存在している。身勝手なことは何一つできない。

 息苦しい、息苦しくて仕方がない。

 隣を歩く海ちゃんは、少し眉を下げていてきっと私のこの心内をわかっているのだろうと思えた。
 だけれど、彼は何を言うわけでもなかった。

 それからしばらく無言で歩き続ける。
 もう日が落ちてきていて、そろそろ解散する時間だと私は少しだけ嬉しくなる。

 もしも2人で会うのなら、婚約者なんて面倒な立場は放棄して昔のように無邪気に遊んでいたい。
 そうすれば、2人で会うことをこんなに億劫に思うことはないのに。

 だけど、本当に婚約者という立場がなければ昔のように戻れるのだろうか。
 私が海ちゃんの婚約者になったあの日、彼から受けた言葉を無かったことに出来るはずがない。

「そろそろ帰らないとね。」

 海ちゃんはそう言ってから、少しずつ歩みを遅めて遂には立ち止まった。

「……2年前に僕が言ったこと覚えてる?」

 2年前、おそらく私が海ちゃんの婚約者となった日のことか。

 私がコクリと頷くと、彼は小さく笑った。

「良かった、覚えててくれて……僕の気持ちはあの日から少しも変わってないよ。だけど、綾ちゃんの負担になりたいわけじゃないんだ。」
「……わかってる。」

 海ちゃんも今の私たちの関係に満足していないということはわかっている。
 だけれど、きっと婚約を解消するつもりはないだろう。そもそも、そんなに簡単に出来る話ではないのだから。

 それならば、私たちはどうすれば良いのだろう。

 海ちゃんは、少し目を泳がせてから何かを決心したような顔つきになって、意を決したというように拳をぐっと握る。

「綾ちゃん、立場なんて考えなくて良いよ。きっと、婚約者として振る舞わなければいけないって難しく考えてるんでしょ? でも……そんなのやめよう! 僕はいつもの無邪気で、無鉄砲で、お転婆で……元気いっぱいでいつも笑顔な綾ちゃんが好きだよ。もしもそれで誰かが何かを言っても僕は綾ちゃんの味方だよ。」

 私は海ちゃんの言葉に目を丸くした。

 海ちゃんの立場では、そんなことは言い難いだろう。
 五摂家として三ヶ森の本家は厳格に振る舞ってきた。
 私のような人間は本家に似つかわしくない、そう思われても仕方がないほどに。
 だから、次期当主である海ちゃんはいつだって"完璧"でなければいけなかった。本来であれば私にも"完璧"を求めなければいけない。

 だけど、私は私のままで良いと言ってくれる。
 そんなことを言ったら、本家で叱られてしまうであろうに。

「知ってる? 僕って実はそれなりに偉いんだ。」
「それって自分で言うこと?」

 海ちゃんが少し得意げに言うので、私は何だか可笑しくてクスクスと笑ってしまった。

「綾ちゃんは、僕の隣でそうして笑ってくれれば良いよ。」

 彼は愛おしそうに私の髪を一撫でしてから「さぁ、帰ろうか。」と言って再び歩き出した。

 私は少しだけ惚けてしまうが、すぐに海ちゃんの後を追った。

 顔が熱いのは、きっと気のせいだ。
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