DachuRa 4th story -冷刻という名の、稀有なる真実-

白城 由紀菜

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III 新しい父親

II

 目の前にそびえ立つのは、豪華絢爛な貴族の御屋敷。今まで目にした事は何度もあるが、此処迄近づいたのは初めてだ。男たちに連れられるまま門扉もんぴを潜り、綺麗に手入れがされたアプローチを進んでいく。

「――おかえりなさいませ。旦那様がお待ちです」

 玄関先に立っていたのは、地味なグレーのドレスにホワイトのエプロンを纏った妙齢の女性。本の中では名脇役と言っても良い程多く登場する職業、女性使用人メイドだ。
 此方も屋敷と同様、これ程近くで見たのは初めてだった。
 本当に貴族の屋敷には使用人メイドが居るのだな、などと呑気に考えながらその女性が玄関扉を開くのをぼんやりと見ていると、

「ぼさっとするな、行くぞ!」

 茶髪の男に、ドンと突き飛ばされる様に背中を押された。つんのめりそうになりながらも、屋敷の中へと足を踏み入れる。
 この状況から逃げられるとは思っていないし、逃げ出すつもりも毛頭ないが、自身の真後ろに背の高い男が立っていると妙な圧迫感があった。決して拘束されている訳では無いのに、“逃げられない”といった強迫観念に駆られる。
 だが、目に飛び込んできた屋敷の内装に、その圧迫感も強迫観念も一瞬にして消え去った。
 周囲の物を映し込む程丁寧に磨き抜かれた、チェス盤を思わせる白と黒のタイル状の床。赤い絨毯が敷かれた長い階段。沢山のガラスがぶら下がった、宝石の塊の様な大きなシャンデリア。極めつけは、天井一面に広がる天界の天井画。

「わ……凄い……」

 耳に届いたその声に、思わず心情を声に出してしまったのかと思った。しかしそれは自身ではなく隣のレイが発した言葉で、彼女も屋敷内を見渡しうっとりとしていた。
 誘拐されたなんて事実を忘れ、魅入ってしまう気持ちには大いに共感できる。確かに、この内装は素晴らしいものだ。日記でも、小説でも、媒体ばいたいは何でも良い。この感動をたった一言でも書き残しておきたい。そんな不埒な感懐を抱く。

「――君が、アンドールの娘かね」

 黒髪の男とも、茶髪の男とも違う声が聞こえ、其方そちらに顔を向けた。そこに立っていたのは、一目で高価だと分かる良質なブラウンのスーツを身に纏った熟年の男性。宝石が埋め込まれた金の指輪を嵌め、ダブルカフスシャツには大振りの紫の石が付いたカフリンクスが付けられている。
 しかし、丸太を思わせるその体型からか締まりが無く、大きな腹の所為でウェストコートのボタン部分が前に出っ張っておりだらしがない。首回りは特に肉付きが良く、顔が肉に埋もれていて顎が無かった。
 父の程良く鍛えられたしなやかな身体や、人形の様に作りの美しい顔に見慣れてしまっているからか彼の容姿の醜さがやけに目立つ。

「――おや?」

 その男は、裏がありそうな何処か薄気味悪い笑みを浮かべていたが、私たちの姿を捉え目を丸くした。

「双子か、珍しい」

 顎の短い白髭を撫でながら此方をまじまじと見つめる男に、私の背後に立っていた黒髪の男が深々と頭を下げた。獰悪どうあくな彼からは想像できないその行動にぎょっとする。
 
「申し訳ありません。片割れの女が、自分も連れていけと言って聞かなかったもので」

 身ごと振り返り、男2人に目を遣る。黒髪の男は頭を下げながらも相変わらず無表情であり、茶髪の男は自身は関係ないとでも思っているのかどこ吹く風だ。

「まぁいいだろう、双子は珍しいからな。それに、片割れを残してきてしまっては意味が無い。私はあの男に、私とローズが味わった地獄をそっくりそのまま味わわせたいのだからな」

 男は私たちに向き直り、口角を上げて再び薄気味悪い笑みを見せた。

「会えて嬉しいよ。私はラルフ・スタインフェルド。この家の当主だ。今日から私が、君たちの新しいお父様だよ」

「新しい……お父様……?」

 男――ラルフの言葉に問い返したのは、レイだったか、それとも私の方だったか。その区別もつかなくなる程に、私は彼の言葉に酷く動揺していた。
 彼は何を目的として、私たちを此処に連れてきたのだろう。彼の言う“あの男”とは、父の事なのだろうか。
 父は一体、この男に何をしたのだろう。父が私達に言えない仕事をしている事にはとっくに気付いていたが、どうしても、自ら人に危害を加える仕事をしているとは思えなかった。
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