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第二章 『呪の杖 編』
009
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「...ここにレガリアがあるのか?」
アストレアとクラトスは王家直属護衛軍が保有する東の海辺にある第一訓練場から見える小さな小島に来ていた。
アストレアは相変わらず烏羽色のローブでフードを深く被った姿であったが、クラトスはいつもの赤のラインの入った護衛軍用の軍服ではなく、また先日のような胸元を強調するようなハーネス型のホルダーと水着だけと言ったような姿でもなく、全身が黒の騎士服のような服装であった。
軍服はYシャツを着こみネクタイを着用し、軍帽を被るなど軍を通しての見た目に統一感が出るのはもちろんのこと、緊急時に備えいくつもの魔道具を仕舞い込む胸ポケットなど収納が多いことが特徴出来だが、騎士服の場合は身体のラインが分かるほど身体に密着した作りになっており、クラトスの熱い胸元とがっしりとした太ももが映える。また密着した分動きやすい作りになっており、軍服にはない騎士服だけにあるマントには防御保護術式の魔法が付与され、もしものための盾になるような完全戦闘向きな服装の違いが軍服と騎士服の違いなのだろう。
「えぇ、ワイバーンが向かおうとしていた方角とフォグの調査結果的にはこの小島にレガリアがある可能性が非常に高いです。
それにしてもそのマントいいですね。
私のローブにも同じような防御保護術式の魔法を付与していますが、そんなに薄いのにこのローブ以上の性能を感じます。」
「褒めてもらえてうれしいよ。実はこれは俺が自分で魔法付与をしてるんだ。
しかし俺はアストレアのローブの方がすごいと思うぞ。そのローブは防御保護以外の魔法付与をしているだろ?いくつもの付与しながらその性能なら十分だと思うぞ。」
「魔法付与をご自身で...。
クラトスさんの魔法はやはりレベルが高いです。
仮に軍人でなくとも、魔道士として成功を納めることが可能でしょうね。
それにしても今日は騎士服なんですね。
それと腰に付けているのは剣ですか?軍服の時には腰に携えているのを見たことがなかったので、気になってしまいました。」
「一応依頼で来ているとはいえ、軍服のまま行動するのは危ないだろうとユースティティア様が別の服装で行けと言ってな。
それに騎士服といっても、かなり戦闘向きな服を選んできた。
これなら冒険者に見えなくもないだろ?
それとこれは剣だ。」
そういってクラトスは鞘から剣を抜き取って見せる。
その剣は冒険者がよく使っているような両刃刀ではなく、片刃刀であった。
レイピアよりも太く、冒険者が使う剣よりも細いその剣は日本刀のような細さと薄さで、鍔のない直刀であり、鞘に納めている状態ではただの黒い棒にしか見えないようなスタイリッシュなデザインであった。
「軍服の時には、魔道具を除いて杖以外の武器を持ってはいけないんだ。
簡単に言えば、反逆などを企てても実行に移せないようにするための措置だな。」
「なるほど...。
それにしてもこの剣もいいものですね。
片刃なのは珍しいですが、よく手入れの行き届いたものであると一目でわかります。
クラトスさんはこの剣といい、以前使われていた指揮棒《タクト》型の杖と言い、道具を道具以上に大切に扱ってくれていますよね。
私のようなモノを作る職についている者からするとこれ以上に嬉しいことはないです。」
「そう思ってくれるだけで俺も嬉しいよ。」
うれしそうに語るアストレアの言葉を聞いてニカッとクラトスは笑う。
その後二人は正面を向き、小島にある洞窟へと足を進めた。
洞窟の中はジメジメしており、空気は重く、陽の光が入らないのか数歩先が見えないほどの暗闇であった。そんな状況ではレガリアを探すどころか、洞窟内を進むことすら困難なためクラトスは自身が得意とする炎魔法で火球を作りだし、光源とした。
「かなり湿気があるな。
水でも流れているのか?」
「そうかもしれませんね。
それにしてもかなり静かです。そっちの方が気になります。
この小島は無人島であるものの、潮の流れや風向きなどからして魔物が生息しててもおかしくありません。それにもかかわらずこの島に上陸してから魔物はおろか虫や動物の姿すら見えません。
かなり危険が感じがします。」
アストレアの言う通りであった。
無人島のためか、草木は無尽蔵に生い茂っている。だが獣道は存在していた。つまり魔物か動物かは分からないが、何らかの生き物が生息していることを意味していた。
そんな獣道もきれいな状態で残っている。
つまりこの数日以内に何らかの生き物が獣道を通ったということだ。
それにも関わらず一匹も姿を見ていない。
「人間がいることに警戒して、身を隠してるんじゃないか?」
クラトスは自身の考えを口にする。
そんな考えを肯定することも否定することもアストレアはしなかった。
「その可能性がないわけじゃないですが、それにしては静かすぎると思います。
ここで言う静かとは気配がしないとか、そういった感覚的なものではなく、動物が身を隠す時に揺れるであろう草木がこすれる音すらしないという意味です。
良ければ、熱感知魔法を使っていただけますか?」
「あぁ。」
その直後クラトスを中心に魔法陣が展開されたと思いきや、そのまま地面へと魔法陣が沈んでいった。
「初めて見ましたが、すごいですね。
しかもそのスピードで魔法陣を展開できるなんて。」
「これもアストレアの作った杖のおかげだよ。」
「またまたご謙遜を。
それで今の魔法陣でどのくらいの範囲の熱感知ができるんですか?」
「直径で言うと500メートルってところか。
もっと広くすることもできるが、魔力効率が悪いからな。
あとは洞窟内ってのが相性が良くない。」
「どういうことですか?」
「この熱感知魔法は展開した魔法陣内の熱を感知するものなんだ。
平面上にしか展開できない魔法陣は、ダンジョンのような階層はあれど基本的に平な環境であれば機能するんだが、洞窟のような斜面が多いような場所だと完全に感知できるってわけじゃない。
魔法陣を斜面に沿って傾けることは可能だが、どうしても隙が大きくなるからな。」
「では、どのように...?」
アストレアの疑問に対して、クラトスは自信ありげに語って見せた。
「魔法陣を地下へと沈めるんだ。
熱感知の精度は落ちてしまうが、こうすればカバーはできる。」
「精度?」
「あぁ、魔法陣を直接踏むような感知方法であれば、どんな形をしてるとか意外と詳細まで感知できるんだが、地下に沈めると何体とかどこにいるとか詳細までは感知はできないって感じか?」
「十分すごいですよ...
それで、どうですか?」
「あぁ、俺が感知できる範囲には何もいない。
確かにおかしいな。」
アストレアはクラトスの魔法の精度に驚きつつも、やはり予想通り近くに生き物がないことを知り警戒を強める。
すると微かにではあるが、何か水が跳ねるような音が聞こえた。
「クラトスさん、止まってください。
何か聞こえませんか?」
「ん?」
クラトスは立ち止まり、耳を澄ませる。
微かだが確かに水が跳ねるような音が聞こえる気がする。
「...水の音か?」
「そのようです。
水があるということは生き物が居てもおかしくないはずなんですが、ここまでくるとレガリアの影響でしょうね。」
「...レガリアの影響とはどういうことだ?」
クラトスは思い出したかのようにレガリアについての質問をした。
そもそも今回はダンジョン発生の兆候であるワイバーンの大量発生が行われたため、ワイバーンの向かった先にあったこの小島に来たという経緯がある。
つまりレガリア自体が魔物を呼び寄せる”何か”である可能性が高い。
それを思っての質問だった。
「...クラトスさんは動物と魔物の違いが何かご存じですか?」
「魔力を持っているかどうか。魔法を使えるかどうかの違いだと認識している。」
「正解です。
これは人間が魔法使いか、そうでないかと同じ理論になります。
人間も魔力を持っていないもしくは少ない人は魔法を行使することはできません。」
「そうだな...」
「でも、それが魔法ではなく魔道具だとしたらどうですか?
魔法は行使できなくとも、光を灯す魔道具や水を生成する魔道具程度で扱うことは可能です。」
「...それとレガリアの何の関係があるんだ?」
「...クラトスさんは強くなれる道具があった場合、それを使いますか?」
「俺は使わない。」
クラトスはそうきっぱりと答えた。
その即答ぶりに感心しつつもアストレアは話を続ける。
「クラトスさんはそうでしょうね。
でもそれはクラトスさんの場合です。
他の人はどうでしょうね。」
「皆は自分力だけで頑張ろうとは思わないのか?」
「全員がクラトスさんと同じ考えではないでしょう。
仮に皆がクラトスさんと同じ考えであればレガリアなんてものは作られないですし、臓器を移植しようだなんて思わないでしょうね。」
クラトスは黙った。
自分にはない考えを突き付けられたからだ。
クラトスは自分に力がないのであれば鍛えればいいという考えであった。頭が悪いのであれば勉強すればいい。体力がないのであれば走り込みをすればいい。すべてではないにしろその分野を鍛えることである程度はカバーできるという考えであった。
その考えを否定されたような気分に陥ったのだ。
それを察してかアストレアがフォローを入れる。
「クラトスさんの考えを否定しているわけではありません。
むしろ皆がその考えを持つべきだと私も思います。素敵な考えです。
...話を戻しましょう。
察しの良いクラトスさんなら既に感づいているかと思いますが、動物も魔物も力を欲するがためにレガリアに集まってくるのです。
魔物であればより強力な魔法を行使するために。動物であれば魔法を行使できるようにするために。
実際に動物や魔物の声が分かるわけではないのでこれが正解かどうかは分かりませんが、まぁ当たっているでしょうね。」
「...理解はした。」
「それから...これは忠告です。」
「忠告?」
「...クラトスさんのその考えは本当に素晴らしいものです。
ですがこの世のすべての事象が努力や鍛錬で解決するわけではありません。
もし自分の力だけではどうしようもない場面に遭遇してしまった場合、道具やアイテムに絶対に頼らずに人に頼ってください。
そして人に頼るときは必ず私を頼ってください。」
洞窟内に風が通った。
クラトスが灯している火球は揺れ動き、それと同時にアストレアの顔を照らしていた光も揺れた。
アストレアの左目は真っすぐクラトスを見つめており、その表情は心配と不安と何かを願うようなそんな複雑な表情をしていた。
「約束しよう。
もしそんな状況に出くわしたら、アストレアを頼ると。」
「ありがとうございます。
...行きましょう。」
「あぁ。」
二人は洞窟の奥へと進んだ。
アストレアとクラトスは王家直属護衛軍が保有する東の海辺にある第一訓練場から見える小さな小島に来ていた。
アストレアは相変わらず烏羽色のローブでフードを深く被った姿であったが、クラトスはいつもの赤のラインの入った護衛軍用の軍服ではなく、また先日のような胸元を強調するようなハーネス型のホルダーと水着だけと言ったような姿でもなく、全身が黒の騎士服のような服装であった。
軍服はYシャツを着こみネクタイを着用し、軍帽を被るなど軍を通しての見た目に統一感が出るのはもちろんのこと、緊急時に備えいくつもの魔道具を仕舞い込む胸ポケットなど収納が多いことが特徴出来だが、騎士服の場合は身体のラインが分かるほど身体に密着した作りになっており、クラトスの熱い胸元とがっしりとした太ももが映える。また密着した分動きやすい作りになっており、軍服にはない騎士服だけにあるマントには防御保護術式の魔法が付与され、もしものための盾になるような完全戦闘向きな服装の違いが軍服と騎士服の違いなのだろう。
「えぇ、ワイバーンが向かおうとしていた方角とフォグの調査結果的にはこの小島にレガリアがある可能性が非常に高いです。
それにしてもそのマントいいですね。
私のローブにも同じような防御保護術式の魔法を付与していますが、そんなに薄いのにこのローブ以上の性能を感じます。」
「褒めてもらえてうれしいよ。実はこれは俺が自分で魔法付与をしてるんだ。
しかし俺はアストレアのローブの方がすごいと思うぞ。そのローブは防御保護以外の魔法付与をしているだろ?いくつもの付与しながらその性能なら十分だと思うぞ。」
「魔法付与をご自身で...。
クラトスさんの魔法はやはりレベルが高いです。
仮に軍人でなくとも、魔道士として成功を納めることが可能でしょうね。
それにしても今日は騎士服なんですね。
それと腰に付けているのは剣ですか?軍服の時には腰に携えているのを見たことがなかったので、気になってしまいました。」
「一応依頼で来ているとはいえ、軍服のまま行動するのは危ないだろうとユースティティア様が別の服装で行けと言ってな。
それに騎士服といっても、かなり戦闘向きな服を選んできた。
これなら冒険者に見えなくもないだろ?
それとこれは剣だ。」
そういってクラトスは鞘から剣を抜き取って見せる。
その剣は冒険者がよく使っているような両刃刀ではなく、片刃刀であった。
レイピアよりも太く、冒険者が使う剣よりも細いその剣は日本刀のような細さと薄さで、鍔のない直刀であり、鞘に納めている状態ではただの黒い棒にしか見えないようなスタイリッシュなデザインであった。
「軍服の時には、魔道具を除いて杖以外の武器を持ってはいけないんだ。
簡単に言えば、反逆などを企てても実行に移せないようにするための措置だな。」
「なるほど...。
それにしてもこの剣もいいものですね。
片刃なのは珍しいですが、よく手入れの行き届いたものであると一目でわかります。
クラトスさんはこの剣といい、以前使われていた指揮棒《タクト》型の杖と言い、道具を道具以上に大切に扱ってくれていますよね。
私のようなモノを作る職についている者からするとこれ以上に嬉しいことはないです。」
「そう思ってくれるだけで俺も嬉しいよ。」
うれしそうに語るアストレアの言葉を聞いてニカッとクラトスは笑う。
その後二人は正面を向き、小島にある洞窟へと足を進めた。
洞窟の中はジメジメしており、空気は重く、陽の光が入らないのか数歩先が見えないほどの暗闇であった。そんな状況ではレガリアを探すどころか、洞窟内を進むことすら困難なためクラトスは自身が得意とする炎魔法で火球を作りだし、光源とした。
「かなり湿気があるな。
水でも流れているのか?」
「そうかもしれませんね。
それにしてもかなり静かです。そっちの方が気になります。
この小島は無人島であるものの、潮の流れや風向きなどからして魔物が生息しててもおかしくありません。それにもかかわらずこの島に上陸してから魔物はおろか虫や動物の姿すら見えません。
かなり危険が感じがします。」
アストレアの言う通りであった。
無人島のためか、草木は無尽蔵に生い茂っている。だが獣道は存在していた。つまり魔物か動物かは分からないが、何らかの生き物が生息していることを意味していた。
そんな獣道もきれいな状態で残っている。
つまりこの数日以内に何らかの生き物が獣道を通ったということだ。
それにも関わらず一匹も姿を見ていない。
「人間がいることに警戒して、身を隠してるんじゃないか?」
クラトスは自身の考えを口にする。
そんな考えを肯定することも否定することもアストレアはしなかった。
「その可能性がないわけじゃないですが、それにしては静かすぎると思います。
ここで言う静かとは気配がしないとか、そういった感覚的なものではなく、動物が身を隠す時に揺れるであろう草木がこすれる音すらしないという意味です。
良ければ、熱感知魔法を使っていただけますか?」
「あぁ。」
その直後クラトスを中心に魔法陣が展開されたと思いきや、そのまま地面へと魔法陣が沈んでいった。
「初めて見ましたが、すごいですね。
しかもそのスピードで魔法陣を展開できるなんて。」
「これもアストレアの作った杖のおかげだよ。」
「またまたご謙遜を。
それで今の魔法陣でどのくらいの範囲の熱感知ができるんですか?」
「直径で言うと500メートルってところか。
もっと広くすることもできるが、魔力効率が悪いからな。
あとは洞窟内ってのが相性が良くない。」
「どういうことですか?」
「この熱感知魔法は展開した魔法陣内の熱を感知するものなんだ。
平面上にしか展開できない魔法陣は、ダンジョンのような階層はあれど基本的に平な環境であれば機能するんだが、洞窟のような斜面が多いような場所だと完全に感知できるってわけじゃない。
魔法陣を斜面に沿って傾けることは可能だが、どうしても隙が大きくなるからな。」
「では、どのように...?」
アストレアの疑問に対して、クラトスは自信ありげに語って見せた。
「魔法陣を地下へと沈めるんだ。
熱感知の精度は落ちてしまうが、こうすればカバーはできる。」
「精度?」
「あぁ、魔法陣を直接踏むような感知方法であれば、どんな形をしてるとか意外と詳細まで感知できるんだが、地下に沈めると何体とかどこにいるとか詳細までは感知はできないって感じか?」
「十分すごいですよ...
それで、どうですか?」
「あぁ、俺が感知できる範囲には何もいない。
確かにおかしいな。」
アストレアはクラトスの魔法の精度に驚きつつも、やはり予想通り近くに生き物がないことを知り警戒を強める。
すると微かにではあるが、何か水が跳ねるような音が聞こえた。
「クラトスさん、止まってください。
何か聞こえませんか?」
「ん?」
クラトスは立ち止まり、耳を澄ませる。
微かだが確かに水が跳ねるような音が聞こえる気がする。
「...水の音か?」
「そのようです。
水があるということは生き物が居てもおかしくないはずなんですが、ここまでくるとレガリアの影響でしょうね。」
「...レガリアの影響とはどういうことだ?」
クラトスは思い出したかのようにレガリアについての質問をした。
そもそも今回はダンジョン発生の兆候であるワイバーンの大量発生が行われたため、ワイバーンの向かった先にあったこの小島に来たという経緯がある。
つまりレガリア自体が魔物を呼び寄せる”何か”である可能性が高い。
それを思っての質問だった。
「...クラトスさんは動物と魔物の違いが何かご存じですか?」
「魔力を持っているかどうか。魔法を使えるかどうかの違いだと認識している。」
「正解です。
これは人間が魔法使いか、そうでないかと同じ理論になります。
人間も魔力を持っていないもしくは少ない人は魔法を行使することはできません。」
「そうだな...」
「でも、それが魔法ではなく魔道具だとしたらどうですか?
魔法は行使できなくとも、光を灯す魔道具や水を生成する魔道具程度で扱うことは可能です。」
「...それとレガリアの何の関係があるんだ?」
「...クラトスさんは強くなれる道具があった場合、それを使いますか?」
「俺は使わない。」
クラトスはそうきっぱりと答えた。
その即答ぶりに感心しつつもアストレアは話を続ける。
「クラトスさんはそうでしょうね。
でもそれはクラトスさんの場合です。
他の人はどうでしょうね。」
「皆は自分力だけで頑張ろうとは思わないのか?」
「全員がクラトスさんと同じ考えではないでしょう。
仮に皆がクラトスさんと同じ考えであればレガリアなんてものは作られないですし、臓器を移植しようだなんて思わないでしょうね。」
クラトスは黙った。
自分にはない考えを突き付けられたからだ。
クラトスは自分に力がないのであれば鍛えればいいという考えであった。頭が悪いのであれば勉強すればいい。体力がないのであれば走り込みをすればいい。すべてではないにしろその分野を鍛えることである程度はカバーできるという考えであった。
その考えを否定されたような気分に陥ったのだ。
それを察してかアストレアがフォローを入れる。
「クラトスさんの考えを否定しているわけではありません。
むしろ皆がその考えを持つべきだと私も思います。素敵な考えです。
...話を戻しましょう。
察しの良いクラトスさんなら既に感づいているかと思いますが、動物も魔物も力を欲するがためにレガリアに集まってくるのです。
魔物であればより強力な魔法を行使するために。動物であれば魔法を行使できるようにするために。
実際に動物や魔物の声が分かるわけではないのでこれが正解かどうかは分かりませんが、まぁ当たっているでしょうね。」
「...理解はした。」
「それから...これは忠告です。」
「忠告?」
「...クラトスさんのその考えは本当に素晴らしいものです。
ですがこの世のすべての事象が努力や鍛錬で解決するわけではありません。
もし自分の力だけではどうしようもない場面に遭遇してしまった場合、道具やアイテムに絶対に頼らずに人に頼ってください。
そして人に頼るときは必ず私を頼ってください。」
洞窟内に風が通った。
クラトスが灯している火球は揺れ動き、それと同時にアストレアの顔を照らしていた光も揺れた。
アストレアの左目は真っすぐクラトスを見つめており、その表情は心配と不安と何かを願うようなそんな複雑な表情をしていた。
「約束しよう。
もしそんな状況に出くわしたら、アストレアを頼ると。」
「ありがとうございます。
...行きましょう。」
「あぁ。」
二人は洞窟の奥へと進んだ。
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