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マイベストヒーロー ~病弱君と不良くん~

マイベストヒーロー ~病弱君と不良くん~(原文まま)

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(よりによってなぜ不良の人が……)

 病気で長期間入院していた病弱君。
 高校の入学式から遅れること半年、ようやく学校に登校できた。
 いきなり構築された友人関係の中に入れるとは思っていないが、まずは隣の席の人と仲良くなれたら、と期待に胸を膨らませていたら。

「ガラッ。ドスンッ」

 粗暴に扉を開けて隣に座ったのは、真っ赤な髪の目つきの悪い不良だった。顔や体には喧嘩の痕か、傷も多数ある。

(ひぃぃぃぃぃ)

 凝視してしまい、目線が合った。

(凄い睨まれてる、睨まれてるぅ!)

 病弱君は白い顔を青くして震えた。
 
 そして放課後、先週あったテストを受けてない者が課題提出で残ることになるが、病弱君と不良君だけ。
 病弱君の分は配慮で少ないが、不良君のはめちゃめちゃ多く、とても苦戦している。あまりの必死の形相に声をかけて手伝ってしまうと、不良君は「恩に着る」と言い、終わった後に「礼をする」と病弱くんの手を掴み走り出す。

 どこに連れて行かれるのかと恐怖もあるが、心臓の持病の為、速歩きでも苦しくなる病弱くん。
 不良君は驚き「自分勝手に連れ出して悪かった、帰ろう、家に送る」と言う。
 いつもそうやって友人は離れていく。だから不良君と仲良くなりたいと思ったわけではなかったのに「帰りたくない」と言ってしまう。
 そして自分の病気の事とか辛さもぶちまけてしまう。

(僕は今日会ったばかりのクラスメイトに何を言ってるんだ)

 でも勉強を教えた時の笑顔とか、掴まれた腕の暖かさとか、今してる心配そうな顔とか……なんか、暖かくて力強くて。
 弱い自分もこうだったら、と憧れてしまう。

 病弱君がうるうるしていると、不良君、病弱君を背負って走り出した!
 背が高くがっちりした不良君の背中はやっぱり力強い。全速力で走ったことがない病弱君は、流れるように過ぎていく景色や頬に当たる風に感動しながら不良君におぶさっていた。 
 高い目線で見る世界がきらめいて見え、夕日と不良君の髪色が同じで、綺麗だなと思った。

 

 到着したのは夜の遊園地。ここは病弱君が幼い頃家族でよく来たドリームランドだ。
 病気がわかり初めて入院する前も、ここのヒーローショーが好きで連れて来てもらった。

「ドリームレッドが大好きで、ショーのノベルティのラバーバンドに‘‘頑張れ‘‘って書いてもらって、今も着けてるんだ」

 十年以上大事にしているラバーバンドをつけた左手首を見せる。

 不良君はニカッと笑って
「俺、ここでバイトしてて、土日はドリームレッドやってるんだ」
「えっ?」
「ちなみに初代のレッドは俺の親父。お前が付けてるバンド、俺の親父がレッドやってた時のタイプ。教室入ってお前を見て、手首からバンドが覗いてて凝視しちゃったよ」

(ああそうか。彼は僕を睨んでいたんじゃなく、バンドを見ていたのか)

「すごい偶然。お父さんは引退したの?」
「おととし死んだんだ。交通事故」
「えっ……」

 不良君は今、母親と3人の弟妹の為にバイトを掛け持ちしているそうだ。
 ドリームランドのヒーローショーは高校生になってから出ているが、アクション練習で身体も顔も傷だらけだという。
 赤い髪も、ウイッグでは動きにくいから染めているそうだ。

「学校にはバイトも髪も許可もらってるけど、皆からは不良だと引かれてるし、歩いてたら絡まれたりするから喧嘩もするけど」
 と苦笑いする。
 学校に遅れたり休むのは、弟妹の面倒を見ている事が多いらしい。

 事実や環境の違いに病弱君はショックを受けたが、この日を境に二人は仲良くなる。
 平日は学校で、土日はドリームランドで一緒に過ごし親密になっていく。
 食べものや飲み物を共有したり、男同士で当たり前の肩を組んだりするのを意識してしまう病弱君。ヒーローショーを見ていても不良君しか見えない。
 でも、恋をしたことがない病弱君にはそれが恋だとはわからず、胸の高鳴りは病気のせい?と真面目に思っている。

 不良君はと言えば。
 いちいち反応が素直な病弱君が可愛く見えて仕方ない。自分の家族と仲良くして、弟妹を気遣ってくれるのも泣きたいくらい嬉しくて、実はきつかった毎日の生活に張りが出た。
 そして、病弱君が体調を崩して保健室に運んだ時に、艶めかしく見えてキスしてしまう。
 不良君は先に恋を自覚したのだ。

 でも病弱君は驚いて、一時不良君を避けてしまう。
 タイミング悪く、不良君が他校の生徒に絡まれて相手した事が問題になり、不良君は停学になってしまった。

 
 
 会えない日が続き、我慢できなくなった病弱君は、停学明けの土曜日に不良君の家に行くが、ドリームランドのバイトに出ていた。

 走ってドリームランドに向かった病弱君。
 すぐに気づいた不良君は、ショーの終わりにステージから謝罪と告白をした。

「お前が好きだーー!」

 嬉しくて嬉しくて、同じように返事をしたくて、気持ちに気づく病弱君。
 でも胸が苦しくなり、倒れる。
 観客をかき分けて抱きかかえてくれた不良君と乗った救急車の中、ヒーローコスチューム姿のままの不良君に手を握られながら「生きたい」と強く願う。


 一時処置でひとまず回復した病弱君は、見舞いに来てくれた不良君に
「君が好き。この先も一緒にいたいから、逃げていた手術を受ける」
 と告げる。

 手術は海外で行われ、一年は帰って来れない。

「待っててくれる?」
「当たり前だろ。お前が頑張るなら、俺も本当のヒーローになれるよう頑張る」

 自然に顔が近づき、甘いキスをする二人。暖かさが染み込んでくる。

 それからすぐ、不良君が「頑張れ」と書いたラバーバンドもつけ、病弱君は渡航した。
 不良君は病弱君がいない間、猛勉強して育英金をもらい、バイトをドリームレッドだけにして学業を優先した。


 そして一年後。
 元気になった病弱君は帰国日を偽り、サプライズでヒーローショーのゲストに変装して悪の組織に誘拐される役をする。
 知らずにかっこよく登場した不良君は、気づいた途端ステージで呆然として立ち尽くし、敵役の技がヒットして倒れてしまう。

「レッドが危ない! レッド頑張れ!」「レッド頑張れー!」

 客席から大応援が。
 不良君は立ち上がって最後まで演じ切り、ゲスト役の病弱君を悪の組織から救い出した。

 ステージ後。
「おかえり。もう大丈夫なんだな?」
「うん。手術もリハビリも辛かったけど、僕にはヒーローがいたから頑張れた」
「バカヤロ。お前の方が強いよ。俺のヒロインは最強だ」

 笑い合い、抱き合う二人。不良君の赤い髪が夕日に輝いていて、やっぱり綺麗な色だと病弱君は思った。


 その後二人は同じ大学に合格し、病弱君は医学部に、不良君は社会学部観光学科に進んだが、不良君はなんと戦隊物番組の主役にスカウトされて、芸能界デビューして本当のヒーローになった。

「みんなのヒーローだけど、二人でいる時は僕だけのヒーローでいてね」
「当たり前だ」
 ちゅ❤


 HappyEnd


 おそらくこの二人の関係が大人な関係になるにはかなりの時間を要するでしょう。ピュアピュアな二人です。


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