スーパーワガママ女に振り回される奴隷(嫁)の魔王討伐旅行記

クスノキ

文字の大きさ
5 / 8

ところでパチモンって何?

しおりを挟む
ゲラコとヨメルタはいつもの訓練場で、ランニングも筋トレもせずに立っていた。裂け目に手を突っ込んでいるゲラコ、そして見守るヨメルタという構図である。

「んーヨメちゃんの背やと、うちとほぼ一緒やな。ほな、これくらいか……」

百八十センチ後半といったヨメルタとゲラコの身長はほぼ同じである。彼女は高いヒールを履いているので、実際の身長はもう少し低いだろうが。
適当に取り出した剣の長さを確認してから、ゲラコはヨメルタへ剣を手渡した。ということは、今日から訓練内容が変わるということに他ならない。ついに戦う時がきてしまったかとヨメルタは少し緊張した面持ちである。

「アーやっぱやるんだな、そっちの訓練……」

「当たり前やろ。それともなんや、己の拳一本で戦うんか?きゃーヨメちゃんったら男らしいー!」
「あ、俺急に剣で戦いたくなってきたナァー」

棒読みで流しつつ、受け取った剣を見るヨメルタ。片手剣というには少し大きいが、極々普通の鉄の剣だ。この重さなら十分振り回せるかとなんとなく構えてみる。小さい頃冒険者に憧れて木の枝を振り回していた記憶が蘇った。

「しかし、槍でも斧でも良かっただろ、何で剣なんだ?一番シンプルだからか?」
「そら勿論、勇者ポジは片手剣って決まっとるからや!まぁ大剣でもええんやけど、それはもううちが持っとるからな」
「俺勇者役なの……?じゃあゲラコは何なんだよ」
「主人公を鍛える謎に強い師匠ポジやけど」
「もうお前が戦えよ」

聞かなくてもよかったどうでもいい理由に頭を痛める。ヨメルタ的には槍かなぁと思っていたのだが、何にせよ素人なので別にこだわりはなかった。

「一応水晶玉で占った結果やから、ヨメちゃんに一番おうてるんは間違いないんやで?」
「水晶玉ァ……?そんなんで占えるのか」
「困った時には便利やで、わりと運ゲーやけど。ヨメちゃんのこともこれで占って探したんよ。ラッキースポットは牢屋、ラッキーカラーは緑!って感じでな」
「クソッ、俺の髪が父さん似だったばっかりに……!」

最初から逃れようがなかったんじゃねぇか、とこれまた頭が痛い。そうでもなければわざわざ嫁を探しに奴隷のところまで来るかという話なので分かるには分かるが、相変わらず理解できない思考だった。考えても仕方ないため早々に切り替えて本題へ。

「で、俺はこれでどれくらい戦えるようになればいいんだ?」

「そうやねぇ、あんまここでの訓練に時間かけてもおもんないから……」

ゲラコは思いついたように手を叩いてから、パッと両手を広げてにっこり笑った。

「ゲラコちゃんレベル1を倒せたら合格っちゅうわけで、頑張ってや♡」

「レベル1を倒すって、何か条件でも達成すればいいのか?」
「ううん、言葉の通りやで?」

ヨメルタが首を傾げていたら「まぁ見た方が早いわ」と言ってゲラコは人差し指をくるくる回した。すると光の粒子が一箇所に集まって──ぽこんっ。

「な、な、お、お前」

「「やっほー、みんなのゲラコちゃんやで!!!」」

「雑に増えるなッ!!!」

ゲラコの隣にもう一人、彼女と寸分違わぬ見た目をしたゲラコもどきが立っていた。仲良く揃って手を振る様は、もはや過労の時に見る悪夢である。非常に怖い。
複製魔法の一種なのだろうか、しかしここまで完成度の高いものを作れるものなのか……魔法使いではないヨメルタは、細かいことまでは知らなかった。が、何はともあれ凄くヤバいことだけは分かる。あれに……勝たなきゃいけないのか……?

「ちょっと分かりづらいからほっぺにマーク入れとくわな、ほれ、パチモンってな」
「パチモン扱いはヒドいんとちゃう?うちかて生命やのにぃ」
「はいはいうちのドッペルゲンガー風情が、立場弁えよなぁ」

やたらオシャレな字体で『パチモン』と頬に刻まれたおかげで判別はつくようになった。だが、話し方までそっくりとは驚いたものである。ゲラコにぺちっとデコピンされて「あいたっ!もぉ、扱い悪いわぁ」と不満げに声を上げるパチモン。癖のある発音すら見事に同じだった。

「大体うちの二十分の一くらい動けるんよ。ちょっと大変かもしれへんけど、これ倒せるようになるぐらいが丁度ええか思てな。ヨメちゃんとの新・婚・旅・行♡」

「ハハッ、寝言は寝て言ってくれ。そもそも俺ら結婚してないんだよ」

頑なにやめない嫁扱いには遠い目と苦笑である。ブレないなコイツと思いつつ、パチモンの方を向いた。視線に気付いて「ん?」と笑う顔はゲラコそのものである。その顔を見ると、なんというか、凄く。

「やりづらいな……」
「なんや、ほぼ一緒やから気が引けるんか?ワハハ、ヨメちゃんは優しいなぁ。大丈夫や、ひと思いにグッサリいったって!」
「まぁやれたらの話やけどな!うちもすぐにはやられたないし」

パチモンはゲラコに剣を貰うと距離をとって、随分ダラけた構えで待機。そして「どこからでもかかってきぃやぁ」と軽く手を振った。えー、と困惑するヨメルタが横目でゲラコを確認したところ、問答無用とばかりに顎で指される。まだ剣の使い方も知らないというのに、とんだ無茶ぶりである。

しかしまぁ、やらなければ話が進まないので。とりあえず縦に構えたまま走り出して、ヨメルタは剣を斜めに振りかぶった。当然パチモンは剣を滑り込ませて防御し、ギリギリと鍔迫り合いに。押し切るのは難しいか──そう思った時、パチモンはにぃ、といつもの悪戯な笑顔を見せた。つい、ヨメルタの力が少し緩む。
強い力で弾き飛ばされたヨメルタは後方へたたらを踏んだ。パチモンはその隙にサッと距離を詰め、ヨメルタのほっぺをぷにっとつつく。すぐに軽やかなステップで後退していくのを見送ってから、ヨメルタはハッと我に返った。

「はぁい、お情けはアカンでぇ」
「あんたもお情けでほっぺつついとったやないか。もぉ、成長には痛みが付きもんやろ?そこは一発ドカンと吹き飛ばさな」
「まだなんも教えてないから初回サービスやって。次はちゃぁんと吹っ飛ばすわ」
「アノー、恐ろしいこと言わないでもらっても……」
「「い・や♡」」

二人の悪魔がニッコリ笑う。ヤバさマシマシのとんでもない光景である。ヨメルタは青ざめた顔で「うわぁ」とドン引きした。今だけは先の未来が見える気がする。そう、自分がボロ雑巾のように地べたへ転がされる未来であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...