答えられません、国家機密ですから

ととせ

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 庭園を出たジェシカは、ふっと大きな息を吐いた。

 生きているうちに後継者、つまり国家機密を継ぐ者がいればこの縛りから解放される。
 これは王家との誓約書にも記されているので問題ない。
 しかしこれまでの当主は、解放される前に殺されていた。
 あるいは祖父のように、跡継ぎをこの苦しい立場に立たせたくない一心で、命が尽きる寸前まで当主としての使命を全うした。

 病の床で涙ながらに祖父は「国家機密」を話してくれた。
 幼いジェシカにも分かるようにかみ砕いた内容だったが、祖父は悲劇的な家の歴史や、王族達の血みどろの権力争いも隠さずに伝えてくれた。
 全てを知ったジェシカは驚いた。
 普通の娘ならば取り乱しても仕方ない内容だけれど、幸いなことにジェシカは年に似合わず冷静で頭の回転が速い娘だった。

 国家機密の事実を知ったジェシカは、すぐにこの理不尽な家から解放されるための計画を考え始めた。
 そして男爵位を正式に次ぐ直前で、自らを理不尽から解放することに成功したのである。

「おめでとうございます、お嬢様」
「私はもう平民よ。お嬢様なんて呼ばないで」

 平民用の通用門を通って伯爵家を出たジェシカは、隣を歩く老人に笑みを向ける。
 人目もあるので、黒衣のローブ姿は逆に目立つ。なので老人は従者姿でジェシカの半歩後ろを歩く。

「ターゲットは決めてなかったけれど、まさかオーバ伯爵家の令息が釣れるなんて思っていなかったわ。これもお爺ちゃん達のお陰よ。ありがとうございます」

 親しみを込めてそう呼ぶと、老人も優しい笑みを返した。
 彼ら「王家の影」とは、長い付き合いだ。特に早くに両親を亡くしたジェシカの事は、影達も気にかけてくれていた。
 王命があるので厳しい監視は続いていたが、トイレとお風呂は女性の影が付いてくれたり、血の毒で病弱なジェシカにこっそり王家の解毒薬を届けてくれたりもした。
 お陰で幼い頃に比べてジェシカは随分と体力が付いた。
 何より有り難かったのは、計画を知った彼らはジェシカだけでは知ることのできない様々な情報を探り、教えてくれたのだ。

「オーバ伯爵家と繋がりのある公爵家は王家の姫が多く嫁いでおります。セイル様が幼なじみの令嬢と婚約されれば、男爵家の後継が突如変わったとしても「国家機密」の信憑性は落ちるどころか増すでしょう」
「それに公爵家の令嬢なら、うちと同じくらい侍従やメイドがいるんでしょ?だったら他人に見られることなんて、気にしないわよね」

 高位貴族の生活がどのようなものか、ジェシカは知らない。以前図書館で読んだ他国の話だが、王族や高位貴族は出産までも多くの人の目に晒されるのだと書かれていた。
 この国も同じとは限らないが、あれだけ暗殺を恐れていたのだからきっと周囲に多くの人を置いているのだろう。

(セイル様はなんだか動揺してたけれど…まあいいか。私にはもう関係ないものね)

「ところで、やっぱり公爵家は動きそうなの?」
「ええ。公爵家はセイル様が国家機密を得れば、何かと張り合っている侯爵家に正面から突っかかるでしょうね」

 もし一線を越えて公爵家が王家に反旗を翻せば、とばっちりを受ける男爵家とセイルの実家である伯爵一族は殺されまくるだろう。

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