6 / 7
6
しおりを挟む
庭園を出たジェシカは、ふっと大きな息を吐いた。
生きているうちに後継者、つまり国家機密を継ぐ者がいればこの縛りから解放される。
これは王家との誓約書にも記されているので問題ない。
しかしこれまでの当主は、解放される前に殺されていた。
あるいは祖父のように、跡継ぎをこの苦しい立場に立たせたくない一心で、命が尽きる寸前まで当主としての使命を全うした。
病の床で涙ながらに祖父は「国家機密」を話してくれた。
幼いジェシカにも分かるようにかみ砕いた内容だったが、祖父は悲劇的な家の歴史や、王族達の血みどろの権力争いも隠さずに伝えてくれた。
全てを知ったジェシカは驚いた。
普通の娘ならば取り乱しても仕方ない内容だけれど、幸いなことにジェシカは年に似合わず冷静で頭の回転が速い娘だった。
国家機密の事実を知ったジェシカは、すぐにこの理不尽な家から解放されるための計画を考え始めた。
そして男爵位を正式に次ぐ直前で、自らを理不尽から解放することに成功したのである。
「おめでとうございます、お嬢様」
「私はもう平民よ。お嬢様なんて呼ばないで」
平民用の通用門を通って伯爵家を出たジェシカは、隣を歩く老人に笑みを向ける。
人目もあるので、黒衣のローブ姿は逆に目立つ。なので老人は従者姿でジェシカの半歩後ろを歩く。
「ターゲットは決めてなかったけれど、まさかオーバ伯爵家の令息が釣れるなんて思っていなかったわ。これもお爺ちゃん達のお陰よ。ありがとうございます」
親しみを込めてそう呼ぶと、老人も優しい笑みを返した。
彼ら「王家の影」とは、長い付き合いだ。特に早くに両親を亡くしたジェシカの事は、影達も気にかけてくれていた。
王命があるので厳しい監視は続いていたが、トイレとお風呂は女性の影が付いてくれたり、血の毒で病弱なジェシカにこっそり王家の解毒薬を届けてくれたりもした。
お陰で幼い頃に比べてジェシカは随分と体力が付いた。
何より有り難かったのは、計画を知った彼らはジェシカだけでは知ることのできない様々な情報を探り、教えてくれたのだ。
「オーバ伯爵家と繋がりのある公爵家は王家の姫が多く嫁いでおります。セイル様が幼なじみの令嬢と婚約されれば、男爵家の後継が突如変わったとしても「国家機密」の信憑性は落ちるどころか増すでしょう」
「それに公爵家の令嬢なら、うちと同じくらい侍従やメイドがいるんでしょ?だったら他人に見られることなんて、気にしないわよね」
高位貴族の生活がどのようなものか、ジェシカは知らない。以前図書館で読んだ他国の話だが、王族や高位貴族は出産までも多くの人の目に晒されるのだと書かれていた。
この国も同じとは限らないが、あれだけ暗殺を恐れていたのだからきっと周囲に多くの人を置いているのだろう。
(セイル様はなんだか動揺してたけれど…まあいいか。私にはもう関係ないものね)
「ところで、やっぱり公爵家は動きそうなの?」
「ええ。公爵家はセイル様が国家機密を得れば、何かと張り合っている侯爵家に正面から突っかかるでしょうね」
もし一線を越えて公爵家が王家に反旗を翻せば、とばっちりを受ける男爵家とセイルの実家である伯爵一族は殺されまくるだろう。
生きているうちに後継者、つまり国家機密を継ぐ者がいればこの縛りから解放される。
これは王家との誓約書にも記されているので問題ない。
しかしこれまでの当主は、解放される前に殺されていた。
あるいは祖父のように、跡継ぎをこの苦しい立場に立たせたくない一心で、命が尽きる寸前まで当主としての使命を全うした。
病の床で涙ながらに祖父は「国家機密」を話してくれた。
幼いジェシカにも分かるようにかみ砕いた内容だったが、祖父は悲劇的な家の歴史や、王族達の血みどろの権力争いも隠さずに伝えてくれた。
全てを知ったジェシカは驚いた。
普通の娘ならば取り乱しても仕方ない内容だけれど、幸いなことにジェシカは年に似合わず冷静で頭の回転が速い娘だった。
国家機密の事実を知ったジェシカは、すぐにこの理不尽な家から解放されるための計画を考え始めた。
そして男爵位を正式に次ぐ直前で、自らを理不尽から解放することに成功したのである。
「おめでとうございます、お嬢様」
「私はもう平民よ。お嬢様なんて呼ばないで」
平民用の通用門を通って伯爵家を出たジェシカは、隣を歩く老人に笑みを向ける。
人目もあるので、黒衣のローブ姿は逆に目立つ。なので老人は従者姿でジェシカの半歩後ろを歩く。
「ターゲットは決めてなかったけれど、まさかオーバ伯爵家の令息が釣れるなんて思っていなかったわ。これもお爺ちゃん達のお陰よ。ありがとうございます」
親しみを込めてそう呼ぶと、老人も優しい笑みを返した。
彼ら「王家の影」とは、長い付き合いだ。特に早くに両親を亡くしたジェシカの事は、影達も気にかけてくれていた。
王命があるので厳しい監視は続いていたが、トイレとお風呂は女性の影が付いてくれたり、血の毒で病弱なジェシカにこっそり王家の解毒薬を届けてくれたりもした。
お陰で幼い頃に比べてジェシカは随分と体力が付いた。
何より有り難かったのは、計画を知った彼らはジェシカだけでは知ることのできない様々な情報を探り、教えてくれたのだ。
「オーバ伯爵家と繋がりのある公爵家は王家の姫が多く嫁いでおります。セイル様が幼なじみの令嬢と婚約されれば、男爵家の後継が突如変わったとしても「国家機密」の信憑性は落ちるどころか増すでしょう」
「それに公爵家の令嬢なら、うちと同じくらい侍従やメイドがいるんでしょ?だったら他人に見られることなんて、気にしないわよね」
高位貴族の生活がどのようなものか、ジェシカは知らない。以前図書館で読んだ他国の話だが、王族や高位貴族は出産までも多くの人の目に晒されるのだと書かれていた。
この国も同じとは限らないが、あれだけ暗殺を恐れていたのだからきっと周囲に多くの人を置いているのだろう。
(セイル様はなんだか動揺してたけれど…まあいいか。私にはもう関係ないものね)
「ところで、やっぱり公爵家は動きそうなの?」
「ええ。公爵家はセイル様が国家機密を得れば、何かと張り合っている侯爵家に正面から突っかかるでしょうね」
もし一線を越えて公爵家が王家に反旗を翻せば、とばっちりを受ける男爵家とセイルの実家である伯爵一族は殺されまくるだろう。
68
あなたにおすすめの小説
真実の愛に目覚めた伯爵令嬢と公爵子息
藤森フクロウ
恋愛
女伯爵であった母のエチェカリーナが亡くなり、父は愛人を本宅に呼んで異母姉妹が中心となっていく。
どんどん居場所がなくなり落ち込むベアトリーゼはその日、運命の人に出会った。
内気な少女が、好きな人に出会って成長し強くなっていく話。
シリアスは添え物で、初恋にパワフルに突き進むとある令嬢の話。女子力(物理)。
サクッと呼んで、息抜きにすかっとしたい人向け。
純愛のつもりですが、何故か電車やバスなどの公共施設や職場では読まないことをお薦めしますというお言葉を頂きました。
転生要素は薄味で、ヒロインは尽くす系の一途です。
一日一話ずつ更新で、主人公視点が終わった後で別視点が入る予定です。
そっちはクロードの婚約裏話ルートです。
逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます
黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。
ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。
目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが……
つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも?
短いお話を三話に分割してお届けします。
この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。
婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った
葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。
しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。
いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。
そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。
落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。
迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。
偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。
しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。
悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。
※小説家になろうにも掲載しています
婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました
鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」
十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。
悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!?
「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」
ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。
双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた
今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。
二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。
それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。
しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。
調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる