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受け視点~現在~②
10話 穏やかな時間
「ね、そろそろ有給合わせて取って旅行でも行かない?」
───昼休み。二人きりで休憩していると、ふと彼がこちらだけに聞こえるトーンで囁いてきた。
入社してあっという間に過ぎていった日々は、学生時代に比べて二人の時間どころか、一人の時間すらも限られていて、そろそろ羽を伸ばしたくなってきた頃だった。
「旅行……?」
「うん、温泉とか行きたいなーって……」
「いいね。………いいのかな」
「いいよ、行こう? どこがいいかな………」
「だって、そっちは、………」
許嫁の子との結婚が控えているじゃないか、と言おうとするも言葉が詰まる。
「ん?……ああ、挙式はまだお互いに落ち着いてからだし。彼女もまだキャリアアップしたいみたいだから、会うのもあまり都合つかないんだ」
「そう?なら、……いいのかな」
「うん。久々に羽を伸ばして来ようよ」
そう言って微笑む彼はやはりいつもと変わらぬ様子である。その笑顔を見て、改めて本当に彼と二人きりで旅行に行ける事を喜ばしく感じた。
「嬉しいなあ、卒業してから就職まで二人でゆっくりできる時間なかったから」
「……そうだね。えっちもできて最低限だったし」
「ちょっ……!昼間からそういう……!」
不意に耳元で囁かれた言葉にカッと顔が熱くなり慌てる。まだ外が明るく、そうでなくても職場にいて、誰に聞かれるともわからないのに。その様子に彼は「かーわいい」とおどけていて、悔しさから頬を膨らませた。
「ん。もう時間やばいかな。前もって戻っておかないと煩いし───じゃあ細かいことはメッセしようか」
「わかった」
そう言って彼は先に休憩室を出ていった。それを見送ってから自分もデスクへ戻る。仕事中もずっと彼の事が頭から離れなかった。本当に彼と旅行に行けるんだ、と思うだけで頰が緩んでしまう自分が恥ずかしくなりながらも、旅行先を考え始める。
(どこに行こうかな……近場がいいよね……?)
温泉旅館でゆっくりするのも良いし、観光地を巡るのも良いだろう。どちらにしても楽しみで仕方ない。
◆
その後、何度かメッセをやり取りし、近隣の温泉街に行くことに決めた。
喧騒とした都会を離れて、穏やかな自然と適度なお持て成し、観光を求めて。
当日はなかなか寝付けなかった。元から遊び歩く事は少ない方だったけれど、大学時代は彼とよく旅行に出かけていたにも関わらず、久々の機会とあって、まるで小学生が初めて遠足に行く日のように楽しみであれやこれやと想い馳せてしまい、寝床に入っても色々考えてすぐに眼が冴えて落ち着かなかった。
支度も終わり、後は寝るだけだというのに気持ちばかり持て余してしまう。気が付いたらスマホで『起きてる?』と彼にメッセを送っていた。
するとすぐにコールが鳴る。
『───寝付けない?』
通話にするとすぐに優しい彼の声色が聞こえた。
「………うん」
『俺も。───なんかまるで初めて旅行するみたいな気分』
「学生時代なんども一緒に行ったのにね」
『ね』
そう言ってクスクスと笑うと彼も嬉しそうに同調する。そのまま何か適当な話題で時間を潰そうと思っていると、不意に彼が口を開いた。
『……今、何してる?』
「え?いや……別に何も」
『そっか。じゃあさ』と彼は言うと、少し間を置いてから言葉を続けた。
『───今、何考えてる?』
「えっ……」
『教えて』
彼は優しい声色で問いかけてくるが、その口調はどこか有無を言わせぬものがあるが、不思議と嫌な気はしなかった。自然と口が動いていた。
「……りょ、旅行のこと?」
正直に答えると彼は少し間を置いてからクスクスと笑った。
『旅行して、なにする?』
「なにって……その、温泉入ったり」
『うん』
「商店街で買い物したり……」
『それから?』
「それからって……」
先ほどから彼は何を言わせたいのだろう。疑問ばかりで応答に困っているこちらに構わず、楽しんでいる様子は電話口から伝わってくる。
『温泉入ったり、買い物したり、それらが終わったら?』
「終わったら…?」
『その後は、何する?』
「えっと……」
そこまで言われてやっと気が付いた。彼は自分に何を言わせたいのか。
「りょ、旅館に帰って寝る……ね」
それが自分にとって精いっぱいの答え方だった。彼が何を言わせたいのかはわかっている。そして、それは自分も期待してしまっている事だけれど、口にするまで開き直れなかった。
『うん。そうだね。───泊る部屋、一応ツインだけど………いつも同じくらいのベッドでしてると思うし大丈夫かな』
「………う、うん……その……でも……いいのかな」
期待はしているが、具体的にイメージすると、マナー的にどうなのだろうと罪悪感が芽生えてきてしまう。
『いいよ、俺はどこでも。久々にバスルームでするのもいいね』
こちらの気持ちを汲み取ったのか、彼は冗談交じりにそう答えた。あまりよろしくないものだとしても、お互いに期待しているものは同じなのが嬉しくて「うん」と素直に返事をする。
『じゃあ、そろそろ寝ようか』そう言って彼は通話を切ろうとしたので慌てて引き留める。
「あ……あの……」
『ん?』
「……おやすみのキスして?」
意を決してそう言うと、電話の向こうで彼が息を吞むのがわかった。数秒間の沈黙の後、少し照れたような声で『……いいよ』と返ってきたので胸が高鳴る。
『じゃあ、おやすみ』
「ん……おやすみなさい」
チュ、とお互い電話口でリップ音を響き合わせたあと、通話は途切れた。
マホを枕元に置いて布団に潜り込むと興奮は冷めないものの、少し気が落ち着いたのか眼を瞑ると段々と微睡みに飲まれていった。
(早く明日にならないかな……)
そんな期待感を抱きながら眠りにつくのだった。
───昼休み。二人きりで休憩していると、ふと彼がこちらだけに聞こえるトーンで囁いてきた。
入社してあっという間に過ぎていった日々は、学生時代に比べて二人の時間どころか、一人の時間すらも限られていて、そろそろ羽を伸ばしたくなってきた頃だった。
「旅行……?」
「うん、温泉とか行きたいなーって……」
「いいね。………いいのかな」
「いいよ、行こう? どこがいいかな………」
「だって、そっちは、………」
許嫁の子との結婚が控えているじゃないか、と言おうとするも言葉が詰まる。
「ん?……ああ、挙式はまだお互いに落ち着いてからだし。彼女もまだキャリアアップしたいみたいだから、会うのもあまり都合つかないんだ」
「そう?なら、……いいのかな」
「うん。久々に羽を伸ばして来ようよ」
そう言って微笑む彼はやはりいつもと変わらぬ様子である。その笑顔を見て、改めて本当に彼と二人きりで旅行に行ける事を喜ばしく感じた。
「嬉しいなあ、卒業してから就職まで二人でゆっくりできる時間なかったから」
「……そうだね。えっちもできて最低限だったし」
「ちょっ……!昼間からそういう……!」
不意に耳元で囁かれた言葉にカッと顔が熱くなり慌てる。まだ外が明るく、そうでなくても職場にいて、誰に聞かれるともわからないのに。その様子に彼は「かーわいい」とおどけていて、悔しさから頬を膨らませた。
「ん。もう時間やばいかな。前もって戻っておかないと煩いし───じゃあ細かいことはメッセしようか」
「わかった」
そう言って彼は先に休憩室を出ていった。それを見送ってから自分もデスクへ戻る。仕事中もずっと彼の事が頭から離れなかった。本当に彼と旅行に行けるんだ、と思うだけで頰が緩んでしまう自分が恥ずかしくなりながらも、旅行先を考え始める。
(どこに行こうかな……近場がいいよね……?)
温泉旅館でゆっくりするのも良いし、観光地を巡るのも良いだろう。どちらにしても楽しみで仕方ない。
◆
その後、何度かメッセをやり取りし、近隣の温泉街に行くことに決めた。
喧騒とした都会を離れて、穏やかな自然と適度なお持て成し、観光を求めて。
当日はなかなか寝付けなかった。元から遊び歩く事は少ない方だったけれど、大学時代は彼とよく旅行に出かけていたにも関わらず、久々の機会とあって、まるで小学生が初めて遠足に行く日のように楽しみであれやこれやと想い馳せてしまい、寝床に入っても色々考えてすぐに眼が冴えて落ち着かなかった。
支度も終わり、後は寝るだけだというのに気持ちばかり持て余してしまう。気が付いたらスマホで『起きてる?』と彼にメッセを送っていた。
するとすぐにコールが鳴る。
『───寝付けない?』
通話にするとすぐに優しい彼の声色が聞こえた。
「………うん」
『俺も。───なんかまるで初めて旅行するみたいな気分』
「学生時代なんども一緒に行ったのにね」
『ね』
そう言ってクスクスと笑うと彼も嬉しそうに同調する。そのまま何か適当な話題で時間を潰そうと思っていると、不意に彼が口を開いた。
『……今、何してる?』
「え?いや……別に何も」
『そっか。じゃあさ』と彼は言うと、少し間を置いてから言葉を続けた。
『───今、何考えてる?』
「えっ……」
『教えて』
彼は優しい声色で問いかけてくるが、その口調はどこか有無を言わせぬものがあるが、不思議と嫌な気はしなかった。自然と口が動いていた。
「……りょ、旅行のこと?」
正直に答えると彼は少し間を置いてからクスクスと笑った。
『旅行して、なにする?』
「なにって……その、温泉入ったり」
『うん』
「商店街で買い物したり……」
『それから?』
「それからって……」
先ほどから彼は何を言わせたいのだろう。疑問ばかりで応答に困っているこちらに構わず、楽しんでいる様子は電話口から伝わってくる。
『温泉入ったり、買い物したり、それらが終わったら?』
「終わったら…?」
『その後は、何する?』
「えっと……」
そこまで言われてやっと気が付いた。彼は自分に何を言わせたいのか。
「りょ、旅館に帰って寝る……ね」
それが自分にとって精いっぱいの答え方だった。彼が何を言わせたいのかはわかっている。そして、それは自分も期待してしまっている事だけれど、口にするまで開き直れなかった。
『うん。そうだね。───泊る部屋、一応ツインだけど………いつも同じくらいのベッドでしてると思うし大丈夫かな』
「………う、うん……その……でも……いいのかな」
期待はしているが、具体的にイメージすると、マナー的にどうなのだろうと罪悪感が芽生えてきてしまう。
『いいよ、俺はどこでも。久々にバスルームでするのもいいね』
こちらの気持ちを汲み取ったのか、彼は冗談交じりにそう答えた。あまりよろしくないものだとしても、お互いに期待しているものは同じなのが嬉しくて「うん」と素直に返事をする。
『じゃあ、そろそろ寝ようか』そう言って彼は通話を切ろうとしたので慌てて引き留める。
「あ……あの……」
『ん?』
「……おやすみのキスして?」
意を決してそう言うと、電話の向こうで彼が息を吞むのがわかった。数秒間の沈黙の後、少し照れたような声で『……いいよ』と返ってきたので胸が高鳴る。
『じゃあ、おやすみ』
「ん……おやすみなさい」
チュ、とお互い電話口でリップ音を響き合わせたあと、通話は途切れた。
マホを枕元に置いて布団に潜り込むと興奮は冷めないものの、少し気が落ち着いたのか眼を瞑ると段々と微睡みに飲まれていった。
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そんな期待感を抱きながら眠りにつくのだった。
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