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『高遠鷹華』
歳は今年で二十歳。
病弱。
職業、家事手伝い。
高遠傑の一人娘
私の義理の姉。
そして...ラノベの住人かというばかりのドジっ子である。
「えー冬華ちゃん酷いよ、お姉ちゃん、そこまでドジじゃないよ」
「それはその物体エックスを食してから言ってねーーお、ね、え、ちゃ、ん」
一般家庭での生活。そう聞いていたが私はそれについては考えない事にした。
正確な指令は高遠家で良好な家族を演じることだ。
ならば、そうするのが『物』としての私の役割だろう。
ここがラノベ的一般家庭というのならば、
ラノベ的な対応すればいいだけの話だ。
ただ、この経験がどのような時に活かされるのかは、完璧と言われる私にもわからない。
「ふぎゃ!」
「きゃあ! だ、大丈夫お姉ちゃん?」
「あはは、転んじゃった」
何故、何もない廊下を歩いているだけで転ぶ?
「えーと、確か東って言ってたから...こっちだね。ちゃんとお姉ちゃんについてきてね」
「お姉ちゃん...どうして夕陽に向かっていくの?」
あなたは三刀流の剣士か?
「ふわぁー。綺麗に洗濯できると気持ちいいね冬華ちゃん。お日様の匂いが何とも言えないや」
「...あっ、うん、そうだねお姉ちゃん。き、気持ちいいね」
当たり前の事を当たり前にされて軽く混乱する私がいた。
病弱と言うにはアグレッシブな鷹華に振り回される日々が続く。
かつて傑が言っていた
少しドジだが何事にも一生懸命で、とても良い子で可愛い娘だと。
少しという文字を抜けば、その評価は正しいだろうと私も思う。
鷹華といる時間、私は笑顔で楽しいふりをしていればいいのだから間違っていないだろう。
そう言えば私は知らない内に思考するまでもなく笑顔で楽しいふりができるようになっていた。
そして今日も鷹華との時間を過ごす。
「えへへ」
いつものように私を膝の上にのせ、頬擦りする鷹華は今日も幸せそうだ。
因みに今日も二人ともメイド姿だ。
家ではメイド服が基本なのは傑ではなく鷹華の趣味だった。
どうでもいい情報だが傑の名誉のために一応伝えとく。
「楽しいな、嬉しいな。こんな可愛い妹ができるなんてお姉ちゃん幸せだなぁ」
「私もお姉ちゃんがお姉ちゃんになってくれて嬉しいよ」
今日も私にだだ甘な鷹華に考えるまでもなくいつものように返す。
「ふふ、ありがとね冬華ちゃん。その言葉だけでお姉ちゃん幸せだよ。ああーもっとこの時間が続けばいいのになぁー」
「...」
私は沈黙で返す。
いくつかの候補は上がったが返す気にならなかった。
「ん? ああ、ゴメンね。デリカシーない事言っちゃったね。でもね、思わず口にしちゃう程、本当に幸せなんだよ」
どこからみても元気そうな鷹華だが、その余命は少ない。
詳しい病状は聞いていないが持って数年。半年後の二十歳の誕生日を迎えられない可能性もあるらしい。
「んー、本当にごめんね。でもね大丈夫。お姉ちゃんは死んでもお姉ちゃんは生きている! 冬華ちゃんがお姉ちゃんを忘れない限りお姉ちゃんは不滅なのだよ」
私が落ち込んでいると勘違いしている鷹華は、そんな使い回されてきた言葉を、おどけるように言う。
それでも反応を返さない私にどうしたものかと困惑していたが、突然、ワナワナと震え出すと、
「いやぁー! 忘れるの! 忘れちゃうの! お姉ちゃんの事⁉」
涙声で絶叫した。
私は思わず
「わ、忘れないよ! 絶対忘れないよ! 私、お姉ちゃんみたいな大人になるよ!」
絶叫で返した。
私は何をいっているのだ?
私は『物』だ鷹華のような...いや、正しい。
この場でこの返しは正しい。
私は完璧な答えを返しただけだ。
それが証拠に鷹華は機嫌を直し、私をご満喫だ。
暫くして鷹華は珍しく真面目な声で話し出した。
「私みたいにか...でもね冬華ちゃん。冬華ちゃんはなりたい自分になればいいんだよ。そうなるように望まれたからってそうなる必要はないんだよーー冬華ちゃんは冬華ちゃんでいいんだよ」
まるで私の正体を知っているかのような言葉に不覚にも体がビクッと震えた。
一瞬疑ったが、すぐにそれは解消された。
私の震えに気づかなかったのか鷹華は笑いながら、しみじみと言った。
「だって、私みたいになっちゃったら大変だよ。他人のドジは見てて楽しいけど、自分がすると、ほーんとに大変だよ」
その通りだろうと普通に私は思ったが口にはしない。
そして鷹華は私を膝から下ろし立ち上がると恐ろしい事を口にした。
「さてと、そろそろお料理の材料を買いにいこうか」
「...はっ?」
思わず素で返してしまった。
「大丈夫、安心して。今日はちゃんとレシピ通りにするから」
いえ、そんな当たり前の事は当然だろうとして、それ以前の問題なんです、お姉ちゃん様。
お姉ちゃん様のラノベ的資質の大半は料理に収束してるのです。ですです。
材料事態は毒ではないからと口にした当時に私を殺したい!
思い出しただけで心の声まで口調がおかしくなっていますよ、私。
「だ、ダメだよお姉ちゃん。無駄使いはお義父さんに怒られるよ? カプセル食でいいよ」
ここでいう無駄とは二つの意味がある。
一つは当然、食材を無駄にすること。
二つのめは、この時代、食材を使った料理は贅沢品となること。
資源の枯渇が問題になっている現在の主食はカプセル食だ。これは、きちんと栄養も取れて満腹感も得られ、しかも安価だ。
一般家庭にとって料理とは、何か祝い事がある時にするぐらいだろう。
だから私の言葉は完全無欠の正論だったが...
私の正論は正論で返された。
「大丈夫。今日は冬華ちゃんが家族になった1ヶ月記念日だよ。ちゃんとお父さんから許可は貰っているよ」
傑、あなたは勇者だ。
まあ鷹華にだだ甘なだけだろうが...。
これはもう料理をする行為事態は覆せないと踏んだ私は一つの提案をしてみた。
◆◆◆
「お料理お料理、冬華ちゃんの手作りお料理♪」
「はは、ご機嫌だね鷹華」
そう、私が提案したのは私が料理をする事だ。
「じゃあ、私が作るよ。家族になってくれた二人に私のお料理食べて欲しい」
上目遣いで提案すれば一発OKだった。
そして現在、私は鷹華の歌を耳にしながら料理をしている。
出来上がったシチューを皿に移す準備をする。
その時、私の携帯端末が震える。
私はメールボックスを開く。
そこには新たな指令が送られていた。
確認の為に一行しか書かれていない文を三度読み返す。
携帯をポケットに戻す。
拍子抜けするほどに簡単な指令を果たす方策をシチューを移しながら考える。
私は思う。
客観的に自分を見て思う。
傑のいう通り私は虚ろで完璧だと。
そしてこうも思う。
なるほど、これもラノベ的だと。
「よくある使いふるされたパターンですね」
私は誰にともなく呟いた。
歳は今年で二十歳。
病弱。
職業、家事手伝い。
高遠傑の一人娘
私の義理の姉。
そして...ラノベの住人かというばかりのドジっ子である。
「えー冬華ちゃん酷いよ、お姉ちゃん、そこまでドジじゃないよ」
「それはその物体エックスを食してから言ってねーーお、ね、え、ちゃ、ん」
一般家庭での生活。そう聞いていたが私はそれについては考えない事にした。
正確な指令は高遠家で良好な家族を演じることだ。
ならば、そうするのが『物』としての私の役割だろう。
ここがラノベ的一般家庭というのならば、
ラノベ的な対応すればいいだけの話だ。
ただ、この経験がどのような時に活かされるのかは、完璧と言われる私にもわからない。
「ふぎゃ!」
「きゃあ! だ、大丈夫お姉ちゃん?」
「あはは、転んじゃった」
何故、何もない廊下を歩いているだけで転ぶ?
「えーと、確か東って言ってたから...こっちだね。ちゃんとお姉ちゃんについてきてね」
「お姉ちゃん...どうして夕陽に向かっていくの?」
あなたは三刀流の剣士か?
「ふわぁー。綺麗に洗濯できると気持ちいいね冬華ちゃん。お日様の匂いが何とも言えないや」
「...あっ、うん、そうだねお姉ちゃん。き、気持ちいいね」
当たり前の事を当たり前にされて軽く混乱する私がいた。
病弱と言うにはアグレッシブな鷹華に振り回される日々が続く。
かつて傑が言っていた
少しドジだが何事にも一生懸命で、とても良い子で可愛い娘だと。
少しという文字を抜けば、その評価は正しいだろうと私も思う。
鷹華といる時間、私は笑顔で楽しいふりをしていればいいのだから間違っていないだろう。
そう言えば私は知らない内に思考するまでもなく笑顔で楽しいふりができるようになっていた。
そして今日も鷹華との時間を過ごす。
「えへへ」
いつものように私を膝の上にのせ、頬擦りする鷹華は今日も幸せそうだ。
因みに今日も二人ともメイド姿だ。
家ではメイド服が基本なのは傑ではなく鷹華の趣味だった。
どうでもいい情報だが傑の名誉のために一応伝えとく。
「楽しいな、嬉しいな。こんな可愛い妹ができるなんてお姉ちゃん幸せだなぁ」
「私もお姉ちゃんがお姉ちゃんになってくれて嬉しいよ」
今日も私にだだ甘な鷹華に考えるまでもなくいつものように返す。
「ふふ、ありがとね冬華ちゃん。その言葉だけでお姉ちゃん幸せだよ。ああーもっとこの時間が続けばいいのになぁー」
「...」
私は沈黙で返す。
いくつかの候補は上がったが返す気にならなかった。
「ん? ああ、ゴメンね。デリカシーない事言っちゃったね。でもね、思わず口にしちゃう程、本当に幸せなんだよ」
どこからみても元気そうな鷹華だが、その余命は少ない。
詳しい病状は聞いていないが持って数年。半年後の二十歳の誕生日を迎えられない可能性もあるらしい。
「んー、本当にごめんね。でもね大丈夫。お姉ちゃんは死んでもお姉ちゃんは生きている! 冬華ちゃんがお姉ちゃんを忘れない限りお姉ちゃんは不滅なのだよ」
私が落ち込んでいると勘違いしている鷹華は、そんな使い回されてきた言葉を、おどけるように言う。
それでも反応を返さない私にどうしたものかと困惑していたが、突然、ワナワナと震え出すと、
「いやぁー! 忘れるの! 忘れちゃうの! お姉ちゃんの事⁉」
涙声で絶叫した。
私は思わず
「わ、忘れないよ! 絶対忘れないよ! 私、お姉ちゃんみたいな大人になるよ!」
絶叫で返した。
私は何をいっているのだ?
私は『物』だ鷹華のような...いや、正しい。
この場でこの返しは正しい。
私は完璧な答えを返しただけだ。
それが証拠に鷹華は機嫌を直し、私をご満喫だ。
暫くして鷹華は珍しく真面目な声で話し出した。
「私みたいにか...でもね冬華ちゃん。冬華ちゃんはなりたい自分になればいいんだよ。そうなるように望まれたからってそうなる必要はないんだよーー冬華ちゃんは冬華ちゃんでいいんだよ」
まるで私の正体を知っているかのような言葉に不覚にも体がビクッと震えた。
一瞬疑ったが、すぐにそれは解消された。
私の震えに気づかなかったのか鷹華は笑いながら、しみじみと言った。
「だって、私みたいになっちゃったら大変だよ。他人のドジは見てて楽しいけど、自分がすると、ほーんとに大変だよ」
その通りだろうと普通に私は思ったが口にはしない。
そして鷹華は私を膝から下ろし立ち上がると恐ろしい事を口にした。
「さてと、そろそろお料理の材料を買いにいこうか」
「...はっ?」
思わず素で返してしまった。
「大丈夫、安心して。今日はちゃんとレシピ通りにするから」
いえ、そんな当たり前の事は当然だろうとして、それ以前の問題なんです、お姉ちゃん様。
お姉ちゃん様のラノベ的資質の大半は料理に収束してるのです。ですです。
材料事態は毒ではないからと口にした当時に私を殺したい!
思い出しただけで心の声まで口調がおかしくなっていますよ、私。
「だ、ダメだよお姉ちゃん。無駄使いはお義父さんに怒られるよ? カプセル食でいいよ」
ここでいう無駄とは二つの意味がある。
一つは当然、食材を無駄にすること。
二つのめは、この時代、食材を使った料理は贅沢品となること。
資源の枯渇が問題になっている現在の主食はカプセル食だ。これは、きちんと栄養も取れて満腹感も得られ、しかも安価だ。
一般家庭にとって料理とは、何か祝い事がある時にするぐらいだろう。
だから私の言葉は完全無欠の正論だったが...
私の正論は正論で返された。
「大丈夫。今日は冬華ちゃんが家族になった1ヶ月記念日だよ。ちゃんとお父さんから許可は貰っているよ」
傑、あなたは勇者だ。
まあ鷹華にだだ甘なだけだろうが...。
これはもう料理をする行為事態は覆せないと踏んだ私は一つの提案をしてみた。
◆◆◆
「お料理お料理、冬華ちゃんの手作りお料理♪」
「はは、ご機嫌だね鷹華」
そう、私が提案したのは私が料理をする事だ。
「じゃあ、私が作るよ。家族になってくれた二人に私のお料理食べて欲しい」
上目遣いで提案すれば一発OKだった。
そして現在、私は鷹華の歌を耳にしながら料理をしている。
出来上がったシチューを皿に移す準備をする。
その時、私の携帯端末が震える。
私はメールボックスを開く。
そこには新たな指令が送られていた。
確認の為に一行しか書かれていない文を三度読み返す。
携帯をポケットに戻す。
拍子抜けするほどに簡単な指令を果たす方策をシチューを移しながら考える。
私は思う。
客観的に自分を見て思う。
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