3 / 13
3
しおりを挟む
喧嘩はいつもの事なので、エルフィンはもう注意する事を諦めると、別の事で二人の意識を喧嘩から逸らすことにした。
ザラザラザラザラッ……。
テーブルの上に、宝石やアイテムなどがぶちまけられた。先ほどの冒険での戦利品である。
この音に作戦通り、スカーレットの意識が宝へと向いた。
「わあっ! 結構たくさん手に入れたわね。これ全部売ると、どれくらいになるのかな?」
「さあどうでしょう? できれば先に鑑定して、使えそうな物以外を売りたいですね。……ほら、この宝石、素早さを一時的に上げる魔法の効果があるみたいですね。後で細工師に頼んで、ネックレスにでもして貰ったらいかがですか?」
「えっ⁉ あたしが貰ってもいいの⁉」
「ええ、どうぞ。売ってもいいですけど、あなたに使って貰った方が、これからの冒険がよりスムーズになりますから」
エルフィンはにっこりと笑うと、ピンポン玉サイズの黄色い宝石をスカーレットに渡した。スカーレットはそれを受け取ると店の照明に透かし、その輝きを確かめている。
宝石をしまうと、スカーレットは一つの指輪に気づいた。指輪に付けるには大きめの紫色の宝石が付いている。
「ねえ、エルフィン。この指輪は?」
「ええっと、これにも魔法がかかっているようですが……、何の魔法でしょうか?」
「……お前にも、分からない効果があるんだな」
黙って戦利品の選別をみていたカメリアが、ぼそっと口を挟んだ。彼の言葉に、エルフィンは困ったように笑いを返す。
「まあ、私にだって分からないことぐらいありますよ。多分……、精神に影響を与える魔法っぽいですね。ただ、どんな効果かは、鑑定スキルを使わないと分からないですね」
スカーレットの持つ指輪に時折鋭い視線を向けつつも、最後は諦めたようにそう言った。
鑑定スキルを使うには、鑑定するアイテムのレベルに応じて道具を準備する必要があるため、すぐに指輪の効果を知る事はできない。
どうやら、この指輪の鑑定レベルは、そこそこ高いらしい。
指輪を見ていたスカーレットだったが、ふと何かを思いついたのか、意地の悪い笑みを浮かべた。
「何かさ、この指輪のサイズ、カメリアにぴったりじゃない?」
確かに指輪のサイズは大きめで、女性であるスカーレットの指にはぶかぶかだ。ちなみに、エルフィンも男性のわりに指が細いため、あわない。
カメリアが口を開く前に、スカーレットが行動に移した。隣人の大きな左手を取ると、その薬指に指輪をはめたのだ。
「レティっ‼ 効果が分からない物を人に着けてはっ!」
止めようとしたが、時すでに遅し。
次の瞬間、指輪の石が輝きだしたかと思うと、光がカメリアを包んだ。光はカメリアの胸の中央に集まると、吸収され消えて行った。
一瞬の出来事だった。
光は眩しかったが、一瞬の事だったため、周囲の人々も何事かと不審に思いつつも、食事や談笑を続けている。
このテーブル以外は。
「カメリアっ! カメリアっ‼ 大丈夫ですか⁉」
「ちょっと、カメリア! 何ぼーっとしてるのよっ! どうしたって言うの⁉」
光がなくなった後、カメリアは焦点の合わない空ろな瞳で、テーブルの上に視線を落としている。
何かを見ているわけでなく、ただ視線の先にテーブルがあったという感じだ。
さすがに心配になったスカーレットが、声をかけながらカメリアの肩を強く叩いた。鍛えられた筋肉によって、逆に跳ね返されているが、今は気にするところではない。
「……あっ」
カメリアの身体が一瞬震えたかと思うと、小さな声を上げた。彼が反応した事によって、エルフィンもスカーレットもホッと胸を撫で下ろす。
「良かったです、カメリア。特に何も異常はなさそうですね」
「ああ、そうだな。特に身体に痛みや変化はなさそうだ。心配かけてすまなかったな」
カメリアが何気なく答える。しかしこの返答にエルフィンは違和感を感じた。
(あれ? カメリアって、こんなに流暢に言葉を発する人でしたっけ?)
いつもの彼は沈黙が多く、さらに簡潔に言葉を発する事が多い。しかし今の発言は、とても流暢で自然な流れ過ぎて、逆に彼らしくなかった。
違和感の正体に気づいた時、それは起きた。
「なっ、何⁉」
突然両肩を隣人から掴まれ、スカーレットは驚きの声を上げた。
カメリアの顔がいつになく近い。
振り払う間もなく、彼の口から出た言葉は。
「スカーレット、好きだ。結婚を前提に、付き合ってくれ」
テーブルが静かになった。
その中で、エルフィンがいち早く正気を取り戻した。そして、まだ固まって動けない彼女と、その両肩を持って真面目な表情で答えを待つ青年を見つめて、大きなため息をついた。
「……異常、ありましたね」
そんな一行に降りかかったトラブルなどつゆ知らず、酒場は今日も賑やかだった。
ザラザラザラザラッ……。
テーブルの上に、宝石やアイテムなどがぶちまけられた。先ほどの冒険での戦利品である。
この音に作戦通り、スカーレットの意識が宝へと向いた。
「わあっ! 結構たくさん手に入れたわね。これ全部売ると、どれくらいになるのかな?」
「さあどうでしょう? できれば先に鑑定して、使えそうな物以外を売りたいですね。……ほら、この宝石、素早さを一時的に上げる魔法の効果があるみたいですね。後で細工師に頼んで、ネックレスにでもして貰ったらいかがですか?」
「えっ⁉ あたしが貰ってもいいの⁉」
「ええ、どうぞ。売ってもいいですけど、あなたに使って貰った方が、これからの冒険がよりスムーズになりますから」
エルフィンはにっこりと笑うと、ピンポン玉サイズの黄色い宝石をスカーレットに渡した。スカーレットはそれを受け取ると店の照明に透かし、その輝きを確かめている。
宝石をしまうと、スカーレットは一つの指輪に気づいた。指輪に付けるには大きめの紫色の宝石が付いている。
「ねえ、エルフィン。この指輪は?」
「ええっと、これにも魔法がかかっているようですが……、何の魔法でしょうか?」
「……お前にも、分からない効果があるんだな」
黙って戦利品の選別をみていたカメリアが、ぼそっと口を挟んだ。彼の言葉に、エルフィンは困ったように笑いを返す。
「まあ、私にだって分からないことぐらいありますよ。多分……、精神に影響を与える魔法っぽいですね。ただ、どんな効果かは、鑑定スキルを使わないと分からないですね」
スカーレットの持つ指輪に時折鋭い視線を向けつつも、最後は諦めたようにそう言った。
鑑定スキルを使うには、鑑定するアイテムのレベルに応じて道具を準備する必要があるため、すぐに指輪の効果を知る事はできない。
どうやら、この指輪の鑑定レベルは、そこそこ高いらしい。
指輪を見ていたスカーレットだったが、ふと何かを思いついたのか、意地の悪い笑みを浮かべた。
「何かさ、この指輪のサイズ、カメリアにぴったりじゃない?」
確かに指輪のサイズは大きめで、女性であるスカーレットの指にはぶかぶかだ。ちなみに、エルフィンも男性のわりに指が細いため、あわない。
カメリアが口を開く前に、スカーレットが行動に移した。隣人の大きな左手を取ると、その薬指に指輪をはめたのだ。
「レティっ‼ 効果が分からない物を人に着けてはっ!」
止めようとしたが、時すでに遅し。
次の瞬間、指輪の石が輝きだしたかと思うと、光がカメリアを包んだ。光はカメリアの胸の中央に集まると、吸収され消えて行った。
一瞬の出来事だった。
光は眩しかったが、一瞬の事だったため、周囲の人々も何事かと不審に思いつつも、食事や談笑を続けている。
このテーブル以外は。
「カメリアっ! カメリアっ‼ 大丈夫ですか⁉」
「ちょっと、カメリア! 何ぼーっとしてるのよっ! どうしたって言うの⁉」
光がなくなった後、カメリアは焦点の合わない空ろな瞳で、テーブルの上に視線を落としている。
何かを見ているわけでなく、ただ視線の先にテーブルがあったという感じだ。
さすがに心配になったスカーレットが、声をかけながらカメリアの肩を強く叩いた。鍛えられた筋肉によって、逆に跳ね返されているが、今は気にするところではない。
「……あっ」
カメリアの身体が一瞬震えたかと思うと、小さな声を上げた。彼が反応した事によって、エルフィンもスカーレットもホッと胸を撫で下ろす。
「良かったです、カメリア。特に何も異常はなさそうですね」
「ああ、そうだな。特に身体に痛みや変化はなさそうだ。心配かけてすまなかったな」
カメリアが何気なく答える。しかしこの返答にエルフィンは違和感を感じた。
(あれ? カメリアって、こんなに流暢に言葉を発する人でしたっけ?)
いつもの彼は沈黙が多く、さらに簡潔に言葉を発する事が多い。しかし今の発言は、とても流暢で自然な流れ過ぎて、逆に彼らしくなかった。
違和感の正体に気づいた時、それは起きた。
「なっ、何⁉」
突然両肩を隣人から掴まれ、スカーレットは驚きの声を上げた。
カメリアの顔がいつになく近い。
振り払う間もなく、彼の口から出た言葉は。
「スカーレット、好きだ。結婚を前提に、付き合ってくれ」
テーブルが静かになった。
その中で、エルフィンがいち早く正気を取り戻した。そして、まだ固まって動けない彼女と、その両肩を持って真面目な表情で答えを待つ青年を見つめて、大きなため息をついた。
「……異常、ありましたね」
そんな一行に降りかかったトラブルなどつゆ知らず、酒場は今日も賑やかだった。
0
あなたにおすすめの小説
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる