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「カメリア、入るよ」
「……ああ」
彼の返答を待って、スカーレットは部屋に入った。
中では、カメリアがベッドから身体を起こした状態で、彼女を迎えた。
ベッド横の椅子に腰をかけると、スカーレットはまじまじと彼の身体に異変が残っていないかを見つめる。生命力を吸われた、と聞いていたが、見たところどこも異常はなさそうだ。
彼女が見つめる理由を察したのか、カメリアは自身の身体を見ながら口を開いた。
「……エルフィンが水の癒しをくれた」
「ああ、回復魔法ね。そっか、良かった……、本当に……」
言葉を発する表情、抑揚でない言葉遣い、簡潔で短い会話、これこそ彼女が知っているカメリアだ。
いつもの喧嘩仲間が、そこにいた。
スカーレットは俯くと、膝の上に置いた両手をぎゅっと握って頭を下げた。
「……カメリア、ごめん。あたしの悪ふざけでこんなことに……」
「……気にするな。……お互い様だ」
「……お互い様?」
彼の言葉に、スカーレットは疑問符を付けて尋ねる。
カメリアはスカーレットから視線を外すと、抑揚のない声で答えた。
「……お前には迷惑をかけた」
「……ああ、迷惑ね……」
説明の足りない彼の言葉だったが、全てを理解するには十分だった。
迷惑とは、
(あたしに好き好きって言ってきた事ね。やっぱり……、あの気持ちは指輪のせいだったんだな)
心の中で苦笑いを浮かべると、スカーレットは思った。
呪いが解ければ、そんな気持ちもなくなると言った自分の判断が、改めて正しかったと知る。欠片でも、彼が自分を好きかもしれないと思った事が、少し恥ずかしい。
お互いの気まずい記憶を笑い飛ばすように、軽い口調で尋ねた。
「でもあんたも災難だったわね。あの指輪、近くの異性に惚れちゃう効果があったって聞いたわよ? 指輪のせいだとはいえ、あたしに好き好き言ってたんだから、思い出したらすっごく恥ずかしいんじゃないの?」
「……そうだな。すまなかった」
カメリアは相変わらずスカーレットから視線を外している。
いつもと違う素直な謝罪に、今回の事件の元凶という事も忘れ、スカーレットは胸を張って頷いた。
「うんうん、いいわよいいわよ。許してあげるし、忘れてあげるわ!」
「……すまない」
今度はスカーレットの方を向いて、カメリアは頭を下げた。そして顔を上げると、満足そうに笑みを浮かべている彼女を真っすぐ見つめた。
「……ただ今まで、お前と口喧嘩していたつもりはない」
「……え?」
スカーレットの表情から、笑みが消えた。しかしカメリアはそれ以上言葉を続けず、枕元に置いていた茶色い紙袋を取り出し、差し出した。
彼の先ほどの言葉に意識を囚われていたスカーレットだったが、目の前の紙袋のせいで思考が引き戻される。困惑と疑問が混じった表情を、目の前の青年に向けた。
「これは?」
「……詫びだ。後で開けてくれ」
自分の質問に答えず、且つ紙袋の中身を今は見るなと言う言葉に疑問が沸いた。
問い詰める前に、カメリアが口を開くほうが早かった。
「……売って金にしろ」
「う、うん。ありがと」
どこか有無も言わせぬ言葉の強さを感じ、スカーレットはそれ以上問い詰めなかった。
少し戸惑いながらも、紙袋を受け取る。袋の重さから、それほど大きなものが入っていない事が予想できる。
カメリアの身体が、ベッドに横たわった。それを休息の合図だと分かったスカーレットは、立ち上がった。
「ゆっくり休んで。あんたが元気じゃないと、戦士があんたしかいないこのパーティー、崩壊しちゃうんだからね」
「……ああ」
そっけない一言が返って来る。
人によっては不機嫌なのかと誤解を受けさせる返答だが、スカーレットにとってはいつもの彼の返答が嬉しかった。
そのまま部屋を出ようとしていた彼女の足が止まった。視線だけで見送っていたカメリアに振り向き、少しニヤニヤしながら声をかける。
「ねえ、カメリア。あんた、指輪の呪いにかかってる時、笑ってたのよ? 頑張って練習したら、狂戦士でも笑えるんじゃない?」
少年のようなパッと花咲いた様な笑顔を思い出す。しかしカメリアの反応は、特にない。
むっとすると、スカーレットは再びカメリアに近づいた、そして彼の両頬に手を当てると、無理やり口角を上に引っ張った。
目元は無表情、口元は無理やり口角を上げられたという、不自然な表情ができ上がり、スカーレットは大爆笑した。
明るい声が、部屋中に響き渡る。
「あはははっ! 超面白いんだけどっ‼」
「……人の顔で遊ぶな」
そう言いつつも、カメリアはスカーレットの手を振り払うわけでもなく、されるがままになっている。
彼の顔が笑いのツボに入ったのだろう。
両目に涙をにじませながら、スカーレットはその手を放した。カメリアがいつもの顔に戻る。
「……面白かったか?」
散々自身の顔で笑った彼女に、感想を聞く。スカーレットは笑ったまま、首を縦に振った。
彼女の返答に、カメリアは小さく息を吐く。そして再び真っすぐな視線をスカーレットに向けた。
「……お前の笑顔が見られて良かった」
「……へっ?」
彼の言葉に、スカーレットの笑いが止まる。
しかしカメリアはそれ以上言わず、ごろっと彼女に背を向けて布団をかぶった。
「……下で二人が待っている」
「うっ、うん。何か邪魔して……ごめんね。今度こそ、ゆっくり休んでね」
布団の中から聞こえる声に答えると、スカーレットはどこか心あらずと言った様子で部屋を出て行った。
ドアが閉まる音が聞こえると、カメリアは布団を跳ね除け、横になったまま息を吐いた。
そして、先ほど交わしたエルフィンとの会話を思い出していた。
「……ああ」
彼の返答を待って、スカーレットは部屋に入った。
中では、カメリアがベッドから身体を起こした状態で、彼女を迎えた。
ベッド横の椅子に腰をかけると、スカーレットはまじまじと彼の身体に異変が残っていないかを見つめる。生命力を吸われた、と聞いていたが、見たところどこも異常はなさそうだ。
彼女が見つめる理由を察したのか、カメリアは自身の身体を見ながら口を開いた。
「……エルフィンが水の癒しをくれた」
「ああ、回復魔法ね。そっか、良かった……、本当に……」
言葉を発する表情、抑揚でない言葉遣い、簡潔で短い会話、これこそ彼女が知っているカメリアだ。
いつもの喧嘩仲間が、そこにいた。
スカーレットは俯くと、膝の上に置いた両手をぎゅっと握って頭を下げた。
「……カメリア、ごめん。あたしの悪ふざけでこんなことに……」
「……気にするな。……お互い様だ」
「……お互い様?」
彼の言葉に、スカーレットは疑問符を付けて尋ねる。
カメリアはスカーレットから視線を外すと、抑揚のない声で答えた。
「……お前には迷惑をかけた」
「……ああ、迷惑ね……」
説明の足りない彼の言葉だったが、全てを理解するには十分だった。
迷惑とは、
(あたしに好き好きって言ってきた事ね。やっぱり……、あの気持ちは指輪のせいだったんだな)
心の中で苦笑いを浮かべると、スカーレットは思った。
呪いが解ければ、そんな気持ちもなくなると言った自分の判断が、改めて正しかったと知る。欠片でも、彼が自分を好きかもしれないと思った事が、少し恥ずかしい。
お互いの気まずい記憶を笑い飛ばすように、軽い口調で尋ねた。
「でもあんたも災難だったわね。あの指輪、近くの異性に惚れちゃう効果があったって聞いたわよ? 指輪のせいだとはいえ、あたしに好き好き言ってたんだから、思い出したらすっごく恥ずかしいんじゃないの?」
「……そうだな。すまなかった」
カメリアは相変わらずスカーレットから視線を外している。
いつもと違う素直な謝罪に、今回の事件の元凶という事も忘れ、スカーレットは胸を張って頷いた。
「うんうん、いいわよいいわよ。許してあげるし、忘れてあげるわ!」
「……すまない」
今度はスカーレットの方を向いて、カメリアは頭を下げた。そして顔を上げると、満足そうに笑みを浮かべている彼女を真っすぐ見つめた。
「……ただ今まで、お前と口喧嘩していたつもりはない」
「……え?」
スカーレットの表情から、笑みが消えた。しかしカメリアはそれ以上言葉を続けず、枕元に置いていた茶色い紙袋を取り出し、差し出した。
彼の先ほどの言葉に意識を囚われていたスカーレットだったが、目の前の紙袋のせいで思考が引き戻される。困惑と疑問が混じった表情を、目の前の青年に向けた。
「これは?」
「……詫びだ。後で開けてくれ」
自分の質問に答えず、且つ紙袋の中身を今は見るなと言う言葉に疑問が沸いた。
問い詰める前に、カメリアが口を開くほうが早かった。
「……売って金にしろ」
「う、うん。ありがと」
どこか有無も言わせぬ言葉の強さを感じ、スカーレットはそれ以上問い詰めなかった。
少し戸惑いながらも、紙袋を受け取る。袋の重さから、それほど大きなものが入っていない事が予想できる。
カメリアの身体が、ベッドに横たわった。それを休息の合図だと分かったスカーレットは、立ち上がった。
「ゆっくり休んで。あんたが元気じゃないと、戦士があんたしかいないこのパーティー、崩壊しちゃうんだからね」
「……ああ」
そっけない一言が返って来る。
人によっては不機嫌なのかと誤解を受けさせる返答だが、スカーレットにとってはいつもの彼の返答が嬉しかった。
そのまま部屋を出ようとしていた彼女の足が止まった。視線だけで見送っていたカメリアに振り向き、少しニヤニヤしながら声をかける。
「ねえ、カメリア。あんた、指輪の呪いにかかってる時、笑ってたのよ? 頑張って練習したら、狂戦士でも笑えるんじゃない?」
少年のようなパッと花咲いた様な笑顔を思い出す。しかしカメリアの反応は、特にない。
むっとすると、スカーレットは再びカメリアに近づいた、そして彼の両頬に手を当てると、無理やり口角を上に引っ張った。
目元は無表情、口元は無理やり口角を上げられたという、不自然な表情ができ上がり、スカーレットは大爆笑した。
明るい声が、部屋中に響き渡る。
「あはははっ! 超面白いんだけどっ‼」
「……人の顔で遊ぶな」
そう言いつつも、カメリアはスカーレットの手を振り払うわけでもなく、されるがままになっている。
彼の顔が笑いのツボに入ったのだろう。
両目に涙をにじませながら、スカーレットはその手を放した。カメリアがいつもの顔に戻る。
「……面白かったか?」
散々自身の顔で笑った彼女に、感想を聞く。スカーレットは笑ったまま、首を縦に振った。
彼女の返答に、カメリアは小さく息を吐く。そして再び真っすぐな視線をスカーレットに向けた。
「……お前の笑顔が見られて良かった」
「……へっ?」
彼の言葉に、スカーレットの笑いが止まる。
しかしカメリアはそれ以上言わず、ごろっと彼女に背を向けて布団をかぶった。
「……下で二人が待っている」
「うっ、うん。何か邪魔して……ごめんね。今度こそ、ゆっくり休んでね」
布団の中から聞こえる声に答えると、スカーレットはどこか心あらずと言った様子で部屋を出て行った。
ドアが閉まる音が聞こえると、カメリアは布団を跳ね除け、横になったまま息を吐いた。
そして、先ほど交わしたエルフィンとの会話を思い出していた。
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