9 / 13
9
しおりを挟む
その時、
「ミモザ、レティ。お待たせしました」
宿屋に続く階段から降りて来たのは、にこやかに手を振るエルフィンだった。彼は二人のテーブルに駆け寄ると、ミモザの横に座った。
「ミモザの事を、ありがとうございます、レテ……」
「そんなことより、カメリアの様子は?」
少し前のめり気味に、カメリアの容態を訪ねるスカーレット。
彼女を落ち着かせるように、エルフィンは右手のひらを動かした。微笑みを浮かべ、大事がなかったと伝える。
「彼は大丈夫ですよ。先ほど意識を取り戻しました。指輪の呪いも抜けていますから、もう命に危険はありませんよ」
「ああ、よかった……」
息を吐き出し、スカーレットは嬉しそうに呟いた。その表情には、心からの安堵が浮かんでいる。
カメリアの件が解決したら、指輪の件が気になった。両腕を組み少しだけ姿勢を崩すと、眉根を寄せて真相を尋ねた。
「それで、結局あの指輪は何だったの?」
「ああ、あれですか……。あれは……」
少しエルフィンの言葉が、歯切れの悪いものになった。しかし、すぐに何でもなかったかのように、流暢な口調に戻る。
「あの指輪にかかっていた呪いは、私の予想通り、その場にいた異性に一時的に惚れてしまう精神魔法がかかっていたようです」
「ああ、やっぱりそうだったんだ……。で、カメリアが途中で倒れた原因は?」
「あの指輪には呪いとは別に、指輪の主の生命力を奪う魔物が取り付いていたみたいですね。それがカメリアの生命力を奪い、倒れたというのが理由のようです」
魔物という言葉に、スカーレットの表情が硬くなった。真剣な表情で、魔物の処遇を問う。
「で、その魔物はどうなったの?」
「ああ、もちろん私の方で祓いましたので、大丈夫ですよ。全て解決しましたから、安心してください」
「はいはいはーいっ! その魔物を祓うの、私もお手伝いしたんだよっ!」
「そうですね、ミモザ。とても助かりましたよ」
「えへへ~」
ミモザは父親に頭を撫でられ、とても嬉しそうにしている。
スカーレットには良く分からないのだが、エルフィンが強い魔法を使う時、ミモザが傍にいないといけないらしい。
少女が手伝ったという事は、
(指輪に取り付いていた魔物は、結構強かったんだ……。ほんと、危険だったんだ、あの指輪……)
突然倒れたカメリアの映像が、脳内に浮かび上がった。
いつも皆を守る為に戦士として身体を張る彼が、無言で倒れて動かない姿。
再びスカーレットの心が、罪悪感で苦しくなった。もし失われていたらと思うと背筋に寒気が走り、心がすっと熱を失う。
(もう、こんな思いをしたくない……)
二度とこのような事をしないと、結ばれた唇の奥で固く心に誓った。そんな彼女の気持ちを見透かすように、エルフィンの瞳が細められる。
「ああ、レティ。カメリアが話があるって言ってましたから、行って貰えますか?」
リーダーの言葉に、スカーレットの表情が一瞬硬くなった。
話となると、恐らく一つしかない。
彼女は一つ頷くと、テーブルを後にし、カメリアが待つ部屋へと向かった。
「ミモザ、レティ。お待たせしました」
宿屋に続く階段から降りて来たのは、にこやかに手を振るエルフィンだった。彼は二人のテーブルに駆け寄ると、ミモザの横に座った。
「ミモザの事を、ありがとうございます、レテ……」
「そんなことより、カメリアの様子は?」
少し前のめり気味に、カメリアの容態を訪ねるスカーレット。
彼女を落ち着かせるように、エルフィンは右手のひらを動かした。微笑みを浮かべ、大事がなかったと伝える。
「彼は大丈夫ですよ。先ほど意識を取り戻しました。指輪の呪いも抜けていますから、もう命に危険はありませんよ」
「ああ、よかった……」
息を吐き出し、スカーレットは嬉しそうに呟いた。その表情には、心からの安堵が浮かんでいる。
カメリアの件が解決したら、指輪の件が気になった。両腕を組み少しだけ姿勢を崩すと、眉根を寄せて真相を尋ねた。
「それで、結局あの指輪は何だったの?」
「ああ、あれですか……。あれは……」
少しエルフィンの言葉が、歯切れの悪いものになった。しかし、すぐに何でもなかったかのように、流暢な口調に戻る。
「あの指輪にかかっていた呪いは、私の予想通り、その場にいた異性に一時的に惚れてしまう精神魔法がかかっていたようです」
「ああ、やっぱりそうだったんだ……。で、カメリアが途中で倒れた原因は?」
「あの指輪には呪いとは別に、指輪の主の生命力を奪う魔物が取り付いていたみたいですね。それがカメリアの生命力を奪い、倒れたというのが理由のようです」
魔物という言葉に、スカーレットの表情が硬くなった。真剣な表情で、魔物の処遇を問う。
「で、その魔物はどうなったの?」
「ああ、もちろん私の方で祓いましたので、大丈夫ですよ。全て解決しましたから、安心してください」
「はいはいはーいっ! その魔物を祓うの、私もお手伝いしたんだよっ!」
「そうですね、ミモザ。とても助かりましたよ」
「えへへ~」
ミモザは父親に頭を撫でられ、とても嬉しそうにしている。
スカーレットには良く分からないのだが、エルフィンが強い魔法を使う時、ミモザが傍にいないといけないらしい。
少女が手伝ったという事は、
(指輪に取り付いていた魔物は、結構強かったんだ……。ほんと、危険だったんだ、あの指輪……)
突然倒れたカメリアの映像が、脳内に浮かび上がった。
いつも皆を守る為に戦士として身体を張る彼が、無言で倒れて動かない姿。
再びスカーレットの心が、罪悪感で苦しくなった。もし失われていたらと思うと背筋に寒気が走り、心がすっと熱を失う。
(もう、こんな思いをしたくない……)
二度とこのような事をしないと、結ばれた唇の奥で固く心に誓った。そんな彼女の気持ちを見透かすように、エルフィンの瞳が細められる。
「ああ、レティ。カメリアが話があるって言ってましたから、行って貰えますか?」
リーダーの言葉に、スカーレットの表情が一瞬硬くなった。
話となると、恐らく一つしかない。
彼女は一つ頷くと、テーブルを後にし、カメリアが待つ部屋へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる