4 / 5
第4話 優しさ
しおりを挟む
あの後、俺はすぐに宿屋の部屋に戻り、ベッドに横になった。
先ほどのやり取りが思い出され、理由の分からない不快感が俺の心を襲った。
全てを忘れたくて、目を閉じる。
どれくらい時間がったのかは分からない。
コトン。
何かがぶつかる音で、目を覚ました。何気なくドアを見ると、下の方に一冊のノートが落ちていた。
いや、落ちていたのではなく、ドアの隙間から差し込まれたものだろう。
そのノートに、見覚えがあった。
「これは……、パメラの……」
いつもパメラが脇に抱え書きこんでいた、俺の夢を実現させるためのノートだ。
忘れたと思った先ほどの出来事が再び蘇り、不快感が鳩尾に溜まるのを感じた。俺は悪くないと言い訳をしながら、ノートを拾い上げた。
と、ノートの隙間から一枚のメモ書きが落ちた。
整った読みやすい文字。何度もノートで見たパメラの字だ。
そこにはこう書いていた。
『今まであなたのお手伝いを記録しましたノートです。これからの夢実現への参考になれば幸いです。ご不快であれば処分して下さって結構です』
メモの文章が、彼女の冷静な言葉で脳内に再生された。俺はメモを握ったままノートを広げ、そこに書いている内容に目を見開いた。
びっしり書かれた文字・文字・文字。
俺の短所や長所。伸ばすべきところ、不足している部分。現在の能力、それの良い部分、悪い部分。足りない能力を補う手段。俺の性格から考えられた、トレーニング方法。身体づくりの為に適切な食事内容や疲労回復方法。それぞれ設定した目標を達成するために、やるべきこと、そのスケジュール。俺の知らない、魔法屋の評判や武器の情報。これからやろうとしている計画。
パメラが調べ考え、記録したであろう膨大な情報がノートに詰まっていた。
俺の知らない情報まで書かれている。毎日俺と共にタスクをこなしていたはずなのに、これ程の情報を彼女はどのように集めたのだろう。
パメラが持っていた知識の膨大さに、俺はただ驚くしかなかった。彼女が調べたと思われる情報は、何ページにも続いた。
それが終わると、今度はこの2カ月間、俺が彼女の指示によって行ってきたトレーニングなどのタスクの記録が始まった。
いつ、何を、どれだけの量をこなしたが、細かく記録されている。これだけ見ると、2カ月とはいえ圧巻だ。それだけで、結果が出ないという焦りが小さくなるのが分かった。俺がちゃんと、目的へ敷かれた道を歩んでいる証拠だった。
ふと日々の記録の最後の行に、塗りつぶされている部分を見つけた。毎日行ったことに対し何か書いていたようだが、今はペンで黒く塗りつぶされている。
それが2カ月分塗りつぶされているのだ。俺が気になっても仕方なかった。
パメラの筆圧が強かったため、何を書いているのか解読するのは容易だった。薄く鉛筆を走らせると、上のページに書かれていた情報が、薄っすら浮かび上がって来た。
塗りつぶされた言葉たちが。
『ばっちりです』
『辛いですがここが正念場ですよ』
『今日は今までで最高の出来です』
あの無表情からは想像できない感情に溢れた文章と、最後に書かれている笑顔のマークたち。
これは、タスクを達成した俺に対するパメラの感想だ。
読み進めていくと、彼女のコメントは次第に影を落としていく。
『今日のログ様は調子が悪そうだ』
『ログ様が不安がっている』
『ここで止めたら全てが水の泡。それだけは避けたい』
彼女の不安が、書き綴られていた。そして最後の日付には、大きくこう書かれていた。
『私が動揺してはダメだ。私が冷静でいないと、ログ様が余計に不安になる』
この言葉に、俺はなぜパメラが無表情で淡々と話すかを理解した。どれだけ俺が感情的になっても、彼女が常に冷静であったのかを。
手を引く側が迷いや動揺を見せたら、ついていく人間を悪戯に不安にさせる。だから彼女はいつも、気持ちを悟られぬよう冷静を装っていたのだ。
いつも無表情で何を考えているのか分からないパメラの、生身に触れた気がした。
ふと、手に握っていたメモを見る。裏返し、そこに書かれてていた言葉を見た瞬間、俺はノートを抱きしめてその場にしゃがみこんでしまった。
『あなたの夢は、必ず叶いますよ』
あれだけ酷い言葉を浴びせた俺に、パメラがかけた最後の言葉は、とても優しかった。
夢だけ語るだけで、何もしようとしなかったクズなのに。
自分では何も考えず、指示されたことに不満を持つしかなかったクズなのに。
彼女が来るまで、そして共に過ごした2カ月間、俺は一つでも何かをしようとしただろうか?
夢の実現のために、何か自分で動こうとしただろうか?
パメラのように、本気で叶えようとしていただろうか?
『魔王を倒して姫と結婚する』なんて願望の実現に、誰がまともに相手にするだろう。笑い飛ばされるのが関の山だというのに、パメラはただ一度も俺を笑うことなく、実現のために真剣に話を聞いてくれた。
現実にするための方法を提示し、登ることが不可能な山に道を作ってくれた。
それなのに俺は彼女を信じなかった。
パメラは俺が夢を実現することを信じてくれていたというのに。
一番愚かだったのは、俺だ。
彼女の優しさと真剣な気持ちが、メモとノートを通じて伝わって来る。
そして同時に思ったのは、一つの疑問。
何故、こんなバカな俺の夢に付き合ってくれたのか。
俺はノートを握ると、すぐさま部屋を出てパメラを追った。
しかし、彼女の姿はどこにも見つける事は出来なかった。
先ほどのやり取りが思い出され、理由の分からない不快感が俺の心を襲った。
全てを忘れたくて、目を閉じる。
どれくらい時間がったのかは分からない。
コトン。
何かがぶつかる音で、目を覚ました。何気なくドアを見ると、下の方に一冊のノートが落ちていた。
いや、落ちていたのではなく、ドアの隙間から差し込まれたものだろう。
そのノートに、見覚えがあった。
「これは……、パメラの……」
いつもパメラが脇に抱え書きこんでいた、俺の夢を実現させるためのノートだ。
忘れたと思った先ほどの出来事が再び蘇り、不快感が鳩尾に溜まるのを感じた。俺は悪くないと言い訳をしながら、ノートを拾い上げた。
と、ノートの隙間から一枚のメモ書きが落ちた。
整った読みやすい文字。何度もノートで見たパメラの字だ。
そこにはこう書いていた。
『今まであなたのお手伝いを記録しましたノートです。これからの夢実現への参考になれば幸いです。ご不快であれば処分して下さって結構です』
メモの文章が、彼女の冷静な言葉で脳内に再生された。俺はメモを握ったままノートを広げ、そこに書いている内容に目を見開いた。
びっしり書かれた文字・文字・文字。
俺の短所や長所。伸ばすべきところ、不足している部分。現在の能力、それの良い部分、悪い部分。足りない能力を補う手段。俺の性格から考えられた、トレーニング方法。身体づくりの為に適切な食事内容や疲労回復方法。それぞれ設定した目標を達成するために、やるべきこと、そのスケジュール。俺の知らない、魔法屋の評判や武器の情報。これからやろうとしている計画。
パメラが調べ考え、記録したであろう膨大な情報がノートに詰まっていた。
俺の知らない情報まで書かれている。毎日俺と共にタスクをこなしていたはずなのに、これ程の情報を彼女はどのように集めたのだろう。
パメラが持っていた知識の膨大さに、俺はただ驚くしかなかった。彼女が調べたと思われる情報は、何ページにも続いた。
それが終わると、今度はこの2カ月間、俺が彼女の指示によって行ってきたトレーニングなどのタスクの記録が始まった。
いつ、何を、どれだけの量をこなしたが、細かく記録されている。これだけ見ると、2カ月とはいえ圧巻だ。それだけで、結果が出ないという焦りが小さくなるのが分かった。俺がちゃんと、目的へ敷かれた道を歩んでいる証拠だった。
ふと日々の記録の最後の行に、塗りつぶされている部分を見つけた。毎日行ったことに対し何か書いていたようだが、今はペンで黒く塗りつぶされている。
それが2カ月分塗りつぶされているのだ。俺が気になっても仕方なかった。
パメラの筆圧が強かったため、何を書いているのか解読するのは容易だった。薄く鉛筆を走らせると、上のページに書かれていた情報が、薄っすら浮かび上がって来た。
塗りつぶされた言葉たちが。
『ばっちりです』
『辛いですがここが正念場ですよ』
『今日は今までで最高の出来です』
あの無表情からは想像できない感情に溢れた文章と、最後に書かれている笑顔のマークたち。
これは、タスクを達成した俺に対するパメラの感想だ。
読み進めていくと、彼女のコメントは次第に影を落としていく。
『今日のログ様は調子が悪そうだ』
『ログ様が不安がっている』
『ここで止めたら全てが水の泡。それだけは避けたい』
彼女の不安が、書き綴られていた。そして最後の日付には、大きくこう書かれていた。
『私が動揺してはダメだ。私が冷静でいないと、ログ様が余計に不安になる』
この言葉に、俺はなぜパメラが無表情で淡々と話すかを理解した。どれだけ俺が感情的になっても、彼女が常に冷静であったのかを。
手を引く側が迷いや動揺を見せたら、ついていく人間を悪戯に不安にさせる。だから彼女はいつも、気持ちを悟られぬよう冷静を装っていたのだ。
いつも無表情で何を考えているのか分からないパメラの、生身に触れた気がした。
ふと、手に握っていたメモを見る。裏返し、そこに書かれてていた言葉を見た瞬間、俺はノートを抱きしめてその場にしゃがみこんでしまった。
『あなたの夢は、必ず叶いますよ』
あれだけ酷い言葉を浴びせた俺に、パメラがかけた最後の言葉は、とても優しかった。
夢だけ語るだけで、何もしようとしなかったクズなのに。
自分では何も考えず、指示されたことに不満を持つしかなかったクズなのに。
彼女が来るまで、そして共に過ごした2カ月間、俺は一つでも何かをしようとしただろうか?
夢の実現のために、何か自分で動こうとしただろうか?
パメラのように、本気で叶えようとしていただろうか?
『魔王を倒して姫と結婚する』なんて願望の実現に、誰がまともに相手にするだろう。笑い飛ばされるのが関の山だというのに、パメラはただ一度も俺を笑うことなく、実現のために真剣に話を聞いてくれた。
現実にするための方法を提示し、登ることが不可能な山に道を作ってくれた。
それなのに俺は彼女を信じなかった。
パメラは俺が夢を実現することを信じてくれていたというのに。
一番愚かだったのは、俺だ。
彼女の優しさと真剣な気持ちが、メモとノートを通じて伝わって来る。
そして同時に思ったのは、一つの疑問。
何故、こんなバカな俺の夢に付き合ってくれたのか。
俺はノートを握ると、すぐさま部屋を出てパメラを追った。
しかし、彼女の姿はどこにも見つける事は出来なかった。
1
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる