毒におかされた隊長は解毒のため部下に抱かれる

・めぐめぐ・

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「なっ……、何を馬鹿な事を言っているんですか、隊長‼ しっかりして下さいよ‼」

 まさかの殺してくれ発言に、レフが叫んだ。
 解毒方法がなく苦しみ続けるくらいなら自害じがい、という理由なら理解できるが、レーンドラは解毒出来るのだ。

(なのに、何故⁉)

 隊長の意図いとが分からず、細い肩をつかむと強く揺すった。

 激しい動きに刺激を感じたのか、再び女になったリースが、悩ましな表情を浮かべながら声をらす。

「ん……あっ……」

 ぎゅっと瞳を閉じ、自分をもてあそみだらな感覚を必死で我慢しようとするが、どうしても声が洩れてしまう。

 こちらをじっと見つめるレフの視線が痛い。

(また、はしたない声をあげてしまって……。こんな女が隊長など、レフの評価もガタ落ちだろうな……)

 自分が積み上げて来た部下の信頼が、大きく崩れていると思ったリースは、吐息交じりのため息をついた。

 視線を逸らせずにいる部下がすぐそばで、湧き上がる劣情れつじょうをこらえ、甘い吐息に唾を飲み込んでいるのにも気づかず。

「すまない……レフ。こんな情けない姿を見せて……。ただ……、解毒のため、そんなことを誰かにさせたくない……。こんな私を……だっ、抱くなど……」

「命がかかってるんですよ⁉ 相手を気遣って死を選ぶなんて……、何を考えているんですか!」

「しかし……、本来は愛する者と交わす行為なのに……」

「……なら、相手が隊長に愛を持ってるなら……いいんですね?」

 喉の奥底から絞り出すような声で、レフが問う。

 彼は、これまでにない怒りを感じていた。
 愛する女性が目の前で、簡単に死を望んだからだ。

 返答を聞く前に、すでに身体が動いていた。
 リースの瞳が、こぼれんばかりに見開かれる。

「んっ……」

 レフが、リースの唇を塞いでいた。

 突然の行動に驚き、咄嗟にレフの身体を引き離す。
 何故こんな事が起こったのか理解できず、口元に手をやりながら、副長の青年を凝視ぎょうししている。

 しかし、レフは引かなかった。
 今度はリースを強く抱きしめると、再び唇を重ね合わせた。

 柔らかな感触が、リースの唇に落ちる。先程のように身体を引き離そうにも、強く抱きしめられて動けない。

 首を振って逃れようとしたが頭ごと抱えられ、逃げ場を失った唇をレフが執拗しつように口づける。

 普段の彼から想像できない強引さに、リースは目眩がした。同時に、戸惑う彼女の意思と反して秘所が切なくうずく。

(違う違う違う、私は悦んでなどいない! これは……薬のせいだ! レフとこんな事……、絶対に駄目だっ‼)

 身体は悦びの反応を見せているのに、心は必死でそれを拒絶する。

 葛藤していると、レフの唇が離れた。

 名残惜なごりおしそうな表情で、その唇を見つめる。が、すぐに首を振って正気を取り戻すと、自分にキスをした部下に問うた。

「レ……フ……? これは……どういうことだ?」

「俺は、あなたが好きです。隊長としてではなく、女性として……」

 真っ直ぐな告白が、リースの鼓膜こまくを震わせた。その内容に顔が、薬が原因ではない赤みで染まる。

 頬を上気させながも瞳に怒りを込めて、レフをにらみつけた。

「レフリール・バース! そんな冗談は……やめろ!」

 彼の言葉に身体を熱くしながらも、心は受け入れる事が出来なかった。

(レフは優しい……。きっと私を生かすために嘘を……)

 そう思うと、胸の奥にズキリと痛みが走った。
 肉への欲求ではない別の感情が、心に傷をつけていることを感じながら。

 自身の想いを否定されたレフは、激情げきじょうがスッと引くのを感じた。いや、引いたのではない。

 今まで抑え込んでいたものが、限界を超えたのだ。

 心の模様もようは、静かな声で現れる。

「冗談じゃない。俺はずっと、リース隊長が好きだった。でも、あなたには婚約者がいると……。だから、この気持ちは隠していたんです」

 婚約者、という単語に、思わずリースはうつむいた。
 自分勝手についた嘘が、部下の心をもてあそんだと罪悪感を感じていたからだ。

 レフはそんな彼女を熱のこもった視線で見つめると、さらに身体を密着させた。

「でも……、もうそんなことどうでもいい。俺はあなたを愛している。だから……、婚約者がいようがいまいが、あなたにはどんな事をしてでも生きて貰います」

「どんなことを……しても……?」

「そう。だから死ぬのは諦めて……、俺を受け入れてください」

 そう言ってレフは、リースの身体を抱き上げると、馬上に乗せた。自身もすぐに、リースの後ろにまたがる。

 拒絶し逃げようにも、リースの身体は依然いぜん自由のきかないまま。自身を支えることもままならず、青年に身体を預ける形となってしまう。
 
 自分が寄りかかっても、びくともしない身体を後ろに感じながら、これから彼にされる事を想像し、呼吸が彼女の意思と反して乱れた。

(このままじゃ……、本当にレフと……)

 興奮と同じくらいの焦りを感じつつも、リースはレフに逆らう手段を持っていなかった。 
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