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43 ザ・断罪・ショウ②

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「戦争と言えば、貴国では意図的に我が国と開戦しようと画策している者がいるな?」


 またもや国を揺るがすような衝撃的な言葉が、会場内に投げ掛けられる。

 貴族たちは王太子の突拍子もない台詞をすぐには呑み込めず、唖然とした様子でわたしたちを取り囲んでいた。黒色と黒色をマーブリングしたような混沌とした感情がホール中を渦巻く。

 国王陛下の眼光が鋭くなった気がした。


 レイはアンドレイ様に負けないくらいに大仰な演技で、揺れ動く周囲に問いかけるように続ける。

「折角、ジャニーヌ侯爵令嬢が中心となって動き対・帝国への軍事同盟を構築しようとしているのに、残念だ」

 王太子の視線の先には――アンドレイ様。
 誰しもが隣国と開戦しようとしている者の正体を察する。

「……アンドレイ様、あなたはローラント王国のダイヤモンド鉱山に攻め込もうとしていますね? すぐにでも」と、わたしは観衆が薄々気付いていた答えを述べた。

「なっ……!」

 アンドレイ様の顔が青ざめた。額には脂汗が滲んでいる。

「な……なにを馬鹿なことを言っているんだ! 私がそのようなことを行うわけがないだろう!?」

「今、この瞬間、ダイヤモンド鉱山に近い国境付近のダリの街にアングラレス軍の一部が待機しています。王子殿下直属の隊です。隊長に確認したところ、たしかにアンドレイ王子殿下のご指示だと言っておりましたわ」

「これはどういうことかな、アンドレイ王子? あのような国境の小さな街に、なぜ貴国の軍隊が?」

 わたしとレイは威圧するようにアンドレイ様をじっと見つめた。ホールの中央にいる彼のもとに疑惑の視線があちこちから突き刺さる。

 彼はぷるぷると震えながらしばし俯いたあと、

「演習だよっ!! て……帝国に対抗するために、これから大規模な軍事演習を行う予定なのだ!」

 真っ赤になった顔を上げて、苦し紛れの言い訳を叫んだ。
 王子の無様な様子に貴族たちから失笑が漏れる。

「演習で一ヶ月分の食糧? それに、あんな狭い場所で演習ですって?」と、わたしは眉をひそめる。

「これから移動させるんだよ! 数日かけてな!」

「あの街から見て近くで演習が出来そうな場所は国境のキリコ平原ですわ。わざわざ国境で軍事演習? それは隣国への挑発行為なのでは?」

「どういうことだ、アンドレイ。説明せよ」

 にわかに国王陛下の周囲を押し潰すような重々しい声がホール中に響いた。卒然と放たれた威厳溢れる声音に、冷たい緊張の波濤が押し寄せて背筋が寒くなる。

「そっ……それは…………」

 アンドレイ様は二の句が継げないようで、唇を噛みながら悔しそうにわたしを睨んでいた。国王陛下は大岩のような険しい顔をして無言で息子を見据える。

 気が付くと、あんなに彼にべったりと寄り添っていたナージャ子爵令嬢が「あたし知らないわよ」と言わんばかりに、ちょっとだけ距離を取っていた。

 ……逃げようとしたって、そうはさせないわよ。


「畏れ多くも国王陛下」わたしは陛下にカーテシーをして「発言をお許し頂けますでしょうか?」

「許す」

「ありがとうございます。実は、対・帝国に向けて我が国軍の軍備について精査しているうちに、興味深い情報を掴みましたわ。今、こちらで発表しても宜しいでしょうか?」

「面白い。言ってみよ」

 わたしは一礼してから、

「あちらにいるアンドレイ王子殿下が直々に側近に指名したシモーヌ・ナージャ子爵令嬢ですが、任命の根拠となった彼女の功績は全て平民出身の役人から奪い取っていたものでしたわ」

「出鱈目を言うなっ!!」

 アンドレイ様の大音声の叫び声が響いた。もう破れかぶれで、普段の気取った姿とは程遠く、酷く滑稽に見えた。

「……出鱈目ではありませんわ。既に法院には証拠を揃えて訴えております。目下、精査中ですが、彼らの提示した資料を見るに事実のようですわね。皆様、寝る間も惜しんで一生懸命努力をしてきた結果を、権力を笠に着た王子殿下から略奪され、その身分故に泣き寝入りするしかなかった……と、心底悔しがっておりました。これから国の頂点に立つお方が、このような暴挙を起こすのはいかがなものかと。臣下として恥ずかしいですわ」

 優美な死骸は優秀だ。隣国の事情まで隈なく調べ尽くしている。それは国内の貴族が知らないことまでも、だ。

 同時に恐ろしくもなって背筋が凍った。
 レイは帝国と渡り合うために個人の諜報機関を組織したと言っていた。即ち、帝国という巨大な化け物に対抗するには、一国の王子がここまでやらないといけないのね……。

 それに比べて、我が国は王子と侯爵令嬢の婚約破棄騒ぎで、我ながら幼稚で情けない。

 わたしはアングラレス王国に戻ってから、リヨネー伯爵令息らが調べたことの裏を取った。侯爵令嬢という身位と王子の委任状がこれほど役立ったことはなかったわ。両親とアンドレイ様には感謝しなくちゃね。


「…………っ」

「ア、アンドレイ! どうするの!? あたし、牢屋行きは嫌よ。なんとかして!」

 ナージャ子爵令嬢が彼の腕を掴んで懇願するように問いかける。静まり返ったホールに彼女の鈴を転がす声はよく鳴って、その一言で二人が親密な関係だと感じさせられた。


 わたしは追い打ちを掛けるように二人の関係性を暴露する。

「殿下……いくら恋人を側に置きたいからって、王族が不正を働くのはいけませんよ」

 眼前の無様な二人を、くすりと嘲笑った。
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