エッチな玩具オナニーがやめられないのにコミュつよイケメン従弟(ぶっちゃけ苦手)と同居することになってしまった

松任 来(まっとう らい)

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20 ニアミス

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時計を見るともうじき深夜の一時になろうとしていた。さすがに眠気が強くなってきているのが分かる。
(この分なら……)
 さほど時間を経ずに眠りにつくことができるだろう。ほっとして、暖雪は目を閉じ……。

「…………」
しかし、僅かな違和感でまた目を開けてしまう。
俄かに、股間が軽く兆すのを感じたのだ。
「なんでこの流れで?」
こんな時にかよ、とうんざりしないでもないが、思えばここ数日処理をしていない。いい具合に弛緩した身体で催すのは、何も変なことではないのだ。

「……」
暖雪は寝ころんだ状態のまま、まず部屋の外の様子を伺った。
物音はしない。
そっと起き上がり、ドアのところまで歩いてドアノブに手をかけ、こちら側に引っ張った。広がる目の前の居間は、漆黒に包まれている。ヴーンという冷蔵庫の放つ音が、静かに聞こえてくるくらいだ。
もしかしたら、このまま無理やり眠ってしまえるのではないかという感覚もあった。しかし、今日も今日でもやもやと気持ちのやり場に困ることの連続であった。この心を持ち越したまま、明日を迎えるのが何となく嫌だという思いに囚われる。それではどうにも気持ちが悪い。

いくら事前に言ってあったとしても、初日から部屋に鍵をかけて一人閉じこもっていたら違和感を持たれるだろうか。

そんな思いもないわけではなかったが、やはり背に腹は代えられない。暖雪は音を立てずに再び扉を閉めて、慎重に施錠した。
ベッド下のカラーボックスを引き出す。雑多な小物の隙間にさりげなく収まっている巾着を、そっと取り出した。口を開け、ローションと、数種類所持している中から少し迷って、やや細身に造られているタイプのエネマグラを選んで取り出す。このエネマグラは手っ取り早く快感を得られる手軽さこそないものの、曲線の一部が絶妙な角度で暖雪の身体に上手くフィットし、集中して快楽を突き止めた暁には何とも言えない冒険心と達成感を同時に満たすことができるのだ。
オナニーにこんなにもこだわりを持ってしまっている自分もどうかと思うが、日々のあれこれを吹き飛ばすのにこれ以上の楽しみはないと言いきれてしまう。
 
(これで身体気持ちよくして精神的なものもなくして、そんで明日すっきり起きよう……)
 
またそっと部屋の鍵をかけ、ベッド脇に戻り、ゆっくりとパジャマの下と、下着を脱いだ。逡巡の後、上も脱いで全裸になる。
ベッドに上り、いつものように四つん這いになった。この家でオナニーをするのは初めてではない。越してきて二日目の夜には既に致していた。だが、まだまだ慣れない環境下での行為ということが、不思議な違和感をもたらす。それは確かな高揚感に変わって、暖雪の鼓動を高鳴らせた。
ローションを片手に取る。上体を低くして尻を突き上げる形になり、一旦心を落ち着かせてから軽くその手で臀部を撫でた。

「ふ、……ん、んぅ」
冷たさとぬめらかさに呻き声が出る。手早く済ませねばならない。そのままつうっ、と手を割れ目の中心へと滑らせ、中にある蕾を探るようになぞると、ゾクゾクする感覚が背中を伝わってきて、思わず身震いしてしまう。意志とは無関係にきゅうんと力が入り、頼りないほどにそこは直接的な刺激をもっともっとと欲していた。
欲望に忠実な後孔を宥めつつも、暖雪はぐじゅぐじゅと何度かそこを掘る。はあ、と低くため息をついて、いつしか暖雪は両目を閉じていた。こうして暗闇の中一人快楽に耽っていると、ぼんやりと瞑想状態のようになる。こうなればもうあとは気持ちよさしかない世界が待っている。
 
(まだちょっと硬いけど……、もう今日はあと少しほぐしたらエネマグラ挿れるか)
深く深くおぼれながらも、意識の片隅では暖雪はそんな風に冷静だった。手早く済ませられる時間配分と、その中でもちゃんと満足いく快感を得られるそんな塩梅を見極めようとしていた。日々エネマグラを使って後ろを慰めている賜物と言える。
そして、今日もまた暖雪の身体のコンディションは良かった。ラッキーだ。内部の少し奥にあるお気に入りの場所、前立腺の向かい側が、今日は特に上手く快感を拾えている。下半身の筋肉と内部の具合のバランスも良い。エネマグラを挿れる前にそこを指で軽く触ってやれば、すぐに絶頂スレスレまで行きそうだ。
(……今日はさくっと抜くのが目的だし。ここ弄って気持ちよくなってからエネマグラ挿れればさっさと終われそうだな)
そう計算しながらも、自分が興ざめしてしまわないくらいの絶妙さで頭を回転させ、暖雪は目的の場所に指を伸ばした。

「んん、ぅん……」
普段に比べるとまだ状態が出来上がっていない内部を少し強引に掘り進めていく。暖雪の脳裏には、何回か繰り返し見たお気に入りのAVのワンシーンが浮かんでいた。受け役の男優が、屈強なタチ役の男に押さえつけられ無理やり後ろを犯される。そんな場面がフラッシュバックし、ますます暖雪は興奮した。
もちろん受け役の男優に感情移入しているのである。別に無理やりされるのが特別好きというわけではないが、こういう非日常的なオナニーをしていると自然とそういうもので盛り上がってしまう。
そして遂に……。
 
「んああああっっ……」
自らの指先が、その箇所を捉えた。思惑通り、最高に近い感覚が襲ってくる。ペニスもだらだらと先走りの汁を垂らし、この孤独な責め苦を大いに悦んでいるのが伝わってくる。
(気持ち、いい……)
恍惚とした暖雪が、一瞬意識を白めた時だった。

―――雪ちゃん。

「…………」
頭の中から聞こえてきた優しい声に、ぴたりと暖雪は全身を硬直させた。
(え。な、なんだ……?)
急速に頭が冷えていく。

(……嘘だろ)
今しがた一瞬脳裏を横切った“彼”の存在を、わざわざもう一度確認するまでもなかった。
(なんで、こんな時に大海のことが……)

瞬時に暖雪は、“自分は最低だ”と思った。いくらなんでもあんまりだ。
恐らく今日大海と直に数年ぶりに会って、一日一緒に過ごして、その存在のリアルさがより強く感じられたからこそこんな時に頭をよぎってしまったのだろう。彼は見た目も良いからなおさらだ。
だが、無意識で頭の中だけとはいえこんなことに巻き込んでしまうなんて。
「……仕切り直すしかない」
頭を大きく振り、暖雪は一旦意識を切り替えた。今までも何らかの拍子に集中力が途切れることはあった。そういう時は、やはりAVの世界観に没入するのが一番いい。
先ほどのフラッシュバックの中に出てきた、タチ役の男優に責められる想像をしながら再度後孔に何度か指を出し入れする。
映像の中で登場した、ネコ役の男優を責めたて煽るような台詞を強く脳で反芻した。
はあ、はあと浅く早い息をすれば、段々自分が彼と行為に及んでいるような感覚になってくる。
そのまま意識をぼんやりとそのイメージに溶け込ませれば、自分がとんでもなく変態的な存在になったような、現実のしがらみから解き放たれたような最高の気分になっていく。
 
(……今だ)
見極めた絶好のタイミングで、暖雪はエネマグラに手を伸ばす。手に持ったまま、その何とも魅惑的な弧を描く本体を眺める。うっとりするようだ。
ゆっくりと先端を後孔に宛がい、じわりじわりと自分の中に埋め込む。感覚の薄い場所から触れさせていき、段々と慣らしてからじきに前立腺まで先端を到達させるのだ。下半身の筋肉に力を入れたり抜いたりする動作だけでその状態まで持っていく。
(……いつも通り動かしてるし、身体のコンディションも悪くないはずなのになかなか“来ない”な)

自分が少し焦っていることに、暖雪は気が付く。
電動タイプのエネマグラは比較的楽に快感を得られはするものの、やはり身体が強ばっていたりすると上手くいかずにただ違和感をもたらすだけで終わってしまったり、時には痛みを感じてしまいオナニーどころではなくなる。
(……落ち着け。力抜いて余計なこと考えなけりゃすぐ気持ちよくなれるんだから。そうすればほんの数分で終わる)
 
 
はずだった。
だが。
(なんで……。なんで消えないんだ)
妄想の中の男優は黒髪で短髪である男優のことを考えていればおよそありえないことだ。
なのに。
まるで追い出そうとすればするほど、追いかけられるかのように“彼”がちらつく。暖雪にとって、“彼”の笑顔というのはエロとは最も無縁の、正反対の場所にあるものだった。
必死に、お気に入りのゲイ向けAV男優の顔で上書きしようとするも、まるでそうすることで意識が分散されてしまい、後ろにただ異物が入っているだけのような感覚になってしまう。

「……冗談じゃねーぞ」
まずい。これではいつまで経っても集中できない。
思い切って一度頭の中をゼロに戻す必要があるかもしれない。
(久しぶりに抜けるマンガでも読もう)
決意した暖雪が、枕元に置かれたスマホに手を伸ばした。
その瞬間だった。
 
 ―――コツコツ。

ふと、後ろからそんな音が聞こえたような気がした。
なんだろうと思う間もなく、「雪ちゃん?」と自分を呼ぶ声がする。

「……っ!!」
暖雪は思わず戦慄した。
(大海……!)
今度は自分の記憶の中からこっちを呼んでいるのではない。自室の扉を一枚隔てた、その向こう側からはっきりと聞こえてくる。

大海が自室の前にいて、ドアを叩いているのだ。
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