しょうたと家のないおじさん

居場所がない中学生

名前は知っている

　休み時間はあまり好きじゃない。何をしていいのかわからないから。みんなは仲の良い人たちと遊んだり、会話したりしている。途中からこの学校に来た僕には、みんなの好きな遊びや話題の、何が面白いのか今でもわからない。

　転校してきてすぐは、みんなから「しょうた君、あそぼ」とか、
「しょうた君はこれ知ってる？」とか、色々話かけてきてくれたけど、僕はみんなとは少しだけ違ったから、友だちにはなれなかった。

　みんなは僕の名前を知っている。僕はみんなの名前を知っている。でも今となっては、みんなは僕の名前を呼ぶことはないし、僕がみんなの名前を呼ぶこともない。

　家に帰るとお母さんは、
「学校はどう？クラスのみんなとはうまくいってる？」
って僕によく聞くけど、それについて僕はお母さんに話せるようなことがないので、あまり会話が成り立たない。
　だから僕はお母さんに、今日帰り道に変な虫を見たとか、授業でこんなことを習ったとか、そういった話をする。けれど、お母さんはほとんど聞いてはくれない。大抵は
「あら、そう。そんなことより…」
とはじまり、結局は誰々君とは最近どう？とか、僕が返答に困ることしか言わない。

　心配なのはわかるけど、お母さんが話したいことを話して、お母さんが聞きたいことを聞いているだけじゃないか。
　それってつまりは、お母さんがやりたいことだけをやっているだけ、お母さんはお母さん自身の気持ちや考え方が一番大切なのであって、結局僕が何を考えようが、何を思おうが、何を話そうが、この人には関係ないんだな。
　そう思ってからは、自分から話しかけるのを辞めたし、質問されても「んー」とか最低限で適当な返事をするようにした。