雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

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2人の逃避行

絶望の逃避行3

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(智美! この状況で、離れるのは……マズイ! 敵に飲み込まれちゃう!)  

 ゼークは咄嗟に智美に駆け寄ろうとするが、ヨトゥン兵の群れが容赦なく立ちはだかる。
 剣を振り、ヨトゥン兵を斬り伏せていく……が、それに反比例しているかの様に、敵の数は増えている様に感じる。

 智美との距離は無情にも広がり、2人の間に次々とヨトゥン兵が入り込んでいく。

(私が……私が、もっと強ければ! 敵を一掃出来る神剣さえあれば、智美を守れるのに!)  

 ゼークの心は、怒りと絶望で煮え滾っていた。

 どんなに怒りに身を任せても、絶望の中で奇跡を信じても……
 一振りで倒せる敵は、ヨトゥン兵1体。
 敵の攻撃をいなし、反撃して1体。

 ゼークの視界から、少しずつ智美の姿が消えていく。

 航太やフェルグスの神剣を使った戦いを思い出し、ゼークの胸は無力感で締め付けられる。  

(私がMyth Knightだったなら、こんな奴ら……智美を守りながら、本隊に合流する事だって出来た筈なのに!)  

 だが……現実は、あまりにも冷酷だ。

 ゼークの剣は、凡用の物。
 どんなに高速で剣を振っても、力一杯に剣を振り下ろしても……

 1体ずつ、剣と汗を振り乱しながら敵を倒すしか道はない。

 傷だらけの身体は、もはや自分の思考を体現する事も難しくなってきた。

(どうして……どうして……どうして!)  

 ゼークの心は智美を守れない自分への憎しみと、守らなければいけない使命感の間で揺れ動いていた。

 戦い続けるゼークの視界から、もはや智美の姿は完全に消えていた。
 それでもゼークは剣を握り、戦場に立ち続ける。

 血が流れ、傷が増え、動きは鈍る。
 ゼークの身体はとうに限界を超え、崩れ落ちる寸前だった。  

(智美……せめて、智美だけでも! 私の身体なんて、どうなってもいい! Myth Knightを守れ!)  

 その一念だけが、ゼークの剣を動かし続けていた。
 それでも、限界はある……気力すら尽き、視界が揺らいだ。

 その瞬間……

 突如、3本の閃光が戦場を切り裂いた。
 雷鳴のごとく轟く光の刃が、ゼークを囲むヨトゥン兵を一瞬で薙ぎ払った。

 まるで、神が裁きを下したかの様な光景だった。
 光は戦場の闇を裂き、希望の息吹を呼び覚ます。

「ゼーク! 無事か?」  

 その声は、嵐を切り裂く雷鳴のように力強く戦場に響いた。

 アルパスター・ディノ……戦場の伝説、Myth Knightその人だった。

 アルパスターの鎧は血と泥に塗れながらも、なお神聖な輝きを放っている様に見える。

「アルパスター将軍……なぜ? 私なんかより、智美を……Myth Knightを!」  

 ゼークの瞳に、アルパスターの姿が映る。

 その瞬間……全身から力が抜け、ゼークは血と泥に塗れた地面に崩れ落ちる。

 銀色の髪は血で赤く染まり、乱れたその姿は戦場の女神が地に堕ちたかのようだった。

 ゼークの身体はヨトゥン兵の血と自らの血で赤黒く染まり、その傷跡は壮絶な戦いの記憶を刻んでいた。

(将軍……あなたなら、智美を……)  

 ゼークの心は、絶望の淵で一筋の希望を見出していた。
 しかし……希望を抱かせる程の力を見れば見る程、ゼークの内面は強い葛藤に苛まれていく。

(私が、もっと強ければ……私が、Myth Knightだったなら……私が、弱くなかったら……ゴメンね、智美……)  

 アルパスターの圧倒的な力を前に、ゼークの心は再び無力感に揺れる。

「しっかりしろ! お前は、よく戦った!」

 アルパスターの力強い声が、ゼークの心に僅かな希望を灯した。
 僅かに残った力で、ゼークはゆっくりと立ち上がる。

「もう大丈夫だ! 一旦、退くぞ!」  

 アルパスターはゼークを抱き上げ、馬に乗せる。
 その動きは、まるで戦場を支配する王者の如く堂々としていた。

「将軍……まだ、智美が! まだどこかで、助けを待っています! 私より、智美を……」  

 意識が、朦朧とする……
 それでもゼークは血に濡れた唇を震わせ、必死に訴えた。
 その瞳には、戦場に戻り智美を捜し出そうという不屈の意志が燃えている。

(智美……私が、必ず助ける!)  

 ゼークの心は、智美を救うという使命感で燃え続けていた。
 自分の非力さが、恨めしい。

 それでも、アルパスターがいれば何とかなる。
 航太との約束を果たす決意が、ゼークを支えていた。

「分かっている! 本隊と合流した後、直ぐに捜索隊を組織する。お前は、まず休め!」  

 アルパスターの声には、否定の言葉を許さない意思の強さが込められていた。

 決意と使命感と約束と……力強い言葉に、ゼークの心は解きほぐされていく。

 アルパスターはブリューナクを掲げ、光の槍を放つ。
 一瞬にして血路が開かれ、ヨトゥン兵の群れが光の奔流に呑み込まれた。
 光は戦場の闇を貫き、絶望を希望へと変えていく。

(Myth Knight……やっぱり、神器に認められた騎士は凄い。アルパスター将軍なら、きっと智美を……)  

 ゼークの意識は希望と疲労の狭間で揺れながら、アルパスターの腕の中で静かに闇へと沈んでいった……
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