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恐怖の炎
心の亀裂2
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一真はホワイト・ティアラ隊のテントで、負傷兵の治療に没頭していた。
血と汗にまみれた兵士たちの話を聞き、彼らの悲しみや絶望が一真の心に重くのしかかっていく。
ホワイト・ティアラ隊に従事する者は旦那と長男を失ったと涙ながらに語り、ある者は親友の最期を見届けられなかったと拳を握り締めた。
その1つ1つの物語が、一真の心を静かに締め付けていく。
そんな人々の物語を想う心が、一真の言葉や態度に無意識に滲み出ていた。
一真の智美を心配する気持ちは、航太や絵美と何一つ変わらない。
いや……むしろ今すぐ敵陣に飛び込んででも、智美を助けたいという衝動に駆られていた。
だが、一真には役割がある。
ホワイト・ティアラ隊の治療者として、兵士たちの命を繋ぎ止めること。
そして、航太たちの立場を守ること。
あの冷徹な言葉は、そんな責任感から生まれたものである。
誰もいなくなったテントの中で、一真は小さく呟いた。
「智姉、ゴメン……助けに、行けなくて……今のオレは……なんて、無力なんだ……本当に……ごめんなさい……」
一真の声は誰にも届かぬまま、闇に溶けていく。
その瞳には、押し殺した涙が光っていた。
だが、そんな一真の想いは航太や絵美には届かない。
ただ仲間を見捨てるような態度にしか映らず、その心に深い亀裂を刻んでいた。
「あいつは……一真は、戦場に出てねぇから分かんねぇんだ! 智美やゼークが、どんな思いで戦ってたか。フェルグスやスリヴァルディとの戦い……あの絶望的な恐怖と、痛みを!」
航太は過去の戦闘を思い出し、唇を噛み締めた。
あの時、智美がどれほど勇敢に立ち向かったか。
ゼークが、どれほど命を懸けて戦ったか。
その全てが、航太の心に焼き付いていた。
一真にはそれが分からないのだと、航太は自分に言い聞かせ怒りを抑えた。
「今は、カズちゃんと話したくないなぁ……」
絵美は深い溜息をつき、自分の頬を軽く叩く。
その瞳には智美への想いと、一真への失望が交錯する。
だが突然、絵美は声を張り上げた。
「おし、ネガティブタイム終了! とりあえず、智ちんを見つけなきゃ! 元の世界に帰るか考えるのはー……それから、それから!」
その明るさには、無理があった。
それでも絵美の言葉に背中を押されるように、航太は前を向く決意を固める。
「そうだな……絵美の言う通り、まずは智美を見つける! 遺体だって、出てきてねぇんだ。オレたちが信じなきゃ……な!」
航太は気合いを入れ直し、馬を進める。
その背中には……わずかな希望と、智美への変わらぬ想いが宿っていた。
しかし心の奥には、一真へのわだかまりが重く沈殿していた。
その頃ホワイト・ティアラ隊のテントで、ゼークはベッドに横になりながら考え込んでいた。
ゼークの心は一真への怒りと、智美を失った悲しみで胸が詰めつけられる。
「どうして……どうして、一真はあんなことを? 智美は、大切な仲間の筈。航太達の前だけでも、智美を心配する言葉を言ったって……」
ゼークの指はシーツを握り潰し、涙が頬を伝う。
「ゼーク、入るわよ。回復魔法、かけにきたわ」
看護隊長のネイアが、林檎の入った籠を抱えて入ってきた。
ネイアはゼークの横に腰を下ろし、優しく微笑んだ。
「ほら、ちょっとでも食べて元気出しなさい。蜜がたっぷりの林檎、剥いてあげるから」
ネイアの優しい声にゼークは顔を上げ、震える声で思いを吐き出す。
「ネイアさん……私、一真のことが嫌いになりそう。みんな、私たちのために必死で戦ってくれてる。命懸けで、ベルヘイムの……遠征軍の力になってくれてる。智美を捜すのは当たり前なのに、あんな言い方! まるで、智美がどうでもいいみたいに……むしろ私に怒りをぶつけても、何も言えないぐらいなのに……」
その言葉は、ゼークの心の底から絞り出されていた。
ゼークの瞳は、智美への想いと一真への怒りで揺れている。
ネイアは林檎の皮を丁寧に剥きながら、静かに耳を傾けていた。
ネイアの動きは穏やかで、まるでゼークの心を落ち着かせるように計算されているようである。
「そうね……一真は、ホワイト・ティアラ隊で傷ついた兵士たちの話を沢山聞いてるの。どうしても、兵士たちの気持ちに寄り添っちゃうのよ。戦場で失ったものの重さを、誰よりも感じていると思うわ」
ネイアの声は柔らかく、しかしどこか遠くを見つめるような響きもある。
「でも、ゼーク……あなたや航太たちの気持ちも、一真はちゃんと分かってると思うわよ。ただ……それを言葉にするのが、下手なだけかもしれないわ」
ゼークは綺麗に剥かれた林檎を受け取り、じっと見つめる。
「それなら、なんで航太や絵美の気持ちを無視する様な事を言うんだろう……どんな事があっても、あの4人は絆で繋がっていなきゃいけない……そう、思うの。そう……でしょ?」
ゼークの声は涙に濡れ、まるで心そのものが零れ落ちるようだった。
ネイアは深く頷き、テント内に漂う林檎の甘い香りを吸い込んだ。
「一真もきっと、葛藤してると思うわ。航太たちのこと、理解していない兵士が多いのも事実だし。一真は、みんなのバランスを取ろうとしてるんじゃない? でも、それが誤解を生んでるのかもしれないわね」
ネイアは切り分けた林檎をゼークに手渡し、食べるように促すと優しく続ける。
「将軍も、何か考えがあると思うんだけど……一真に関しては、ちょっと放ったらかしよね。私、近いうちに話してみようかしら。アルと……将軍と、ちゃんと向き合ってみる」
ゼークの目が、急に輝く。
「え、ネイアさん……アルパスター将軍と、上手くいってないんですか?」
ネイアは驚き、剥いている林檎を落としそうになる。
そして、慌てて手を振った。
「ちょっと! ゼーク、何を行っているの? 違うわよ……最近戦闘続きで、話す時間が少ないだけ! 距離ができたとか、そんなんじゃないから!」
ネイアの頬は微かに赤らみ、普段の冷静な看護隊長とは異なる愛らしい一面が覗く。
その慌てふためく様子に、ゼークの顔にようやく小さな笑みが戻った。
「ふふ……ネイアさん、少し顔赤いですよ! あの……ありがとうございます。なんか……少し、元気出てきました!」
ゼークは林檎の香りに満ちた空気を肺一杯に吸い込み、心を落ち着ける。
ネイアの言う通り、蜜が詰まった林檎にゼークは齧り付く。
「早く治して、私も早く戦線に復帰しなきゃ! そして、智美を……絶対に、見つけるんだから!」
ゼークの声には、微かな希望が灯っていた。
その奥では、一真へのわだかまりが残り続ける。
そして智美を失った痛みは、まだ深く刻まれたままだった。
ベルヘイム軍の背後では、体制を立て直したガイエン軍が迫りつつある。
前方では、ロキ軍の殿を務めるスリヴァルディの軍が牽制を開始していた。
戦場の空気は一層緊迫し、風は血と鉄の匂いを運んできた。
新たな嵐がすぐそこに迫り、航太たちの心にさらなる試練を予感させていた……
血と汗にまみれた兵士たちの話を聞き、彼らの悲しみや絶望が一真の心に重くのしかかっていく。
ホワイト・ティアラ隊に従事する者は旦那と長男を失ったと涙ながらに語り、ある者は親友の最期を見届けられなかったと拳を握り締めた。
その1つ1つの物語が、一真の心を静かに締め付けていく。
そんな人々の物語を想う心が、一真の言葉や態度に無意識に滲み出ていた。
一真の智美を心配する気持ちは、航太や絵美と何一つ変わらない。
いや……むしろ今すぐ敵陣に飛び込んででも、智美を助けたいという衝動に駆られていた。
だが、一真には役割がある。
ホワイト・ティアラ隊の治療者として、兵士たちの命を繋ぎ止めること。
そして、航太たちの立場を守ること。
あの冷徹な言葉は、そんな責任感から生まれたものである。
誰もいなくなったテントの中で、一真は小さく呟いた。
「智姉、ゴメン……助けに、行けなくて……今のオレは……なんて、無力なんだ……本当に……ごめんなさい……」
一真の声は誰にも届かぬまま、闇に溶けていく。
その瞳には、押し殺した涙が光っていた。
だが、そんな一真の想いは航太や絵美には届かない。
ただ仲間を見捨てるような態度にしか映らず、その心に深い亀裂を刻んでいた。
「あいつは……一真は、戦場に出てねぇから分かんねぇんだ! 智美やゼークが、どんな思いで戦ってたか。フェルグスやスリヴァルディとの戦い……あの絶望的な恐怖と、痛みを!」
航太は過去の戦闘を思い出し、唇を噛み締めた。
あの時、智美がどれほど勇敢に立ち向かったか。
ゼークが、どれほど命を懸けて戦ったか。
その全てが、航太の心に焼き付いていた。
一真にはそれが分からないのだと、航太は自分に言い聞かせ怒りを抑えた。
「今は、カズちゃんと話したくないなぁ……」
絵美は深い溜息をつき、自分の頬を軽く叩く。
その瞳には智美への想いと、一真への失望が交錯する。
だが突然、絵美は声を張り上げた。
「おし、ネガティブタイム終了! とりあえず、智ちんを見つけなきゃ! 元の世界に帰るか考えるのはー……それから、それから!」
その明るさには、無理があった。
それでも絵美の言葉に背中を押されるように、航太は前を向く決意を固める。
「そうだな……絵美の言う通り、まずは智美を見つける! 遺体だって、出てきてねぇんだ。オレたちが信じなきゃ……な!」
航太は気合いを入れ直し、馬を進める。
その背中には……わずかな希望と、智美への変わらぬ想いが宿っていた。
しかし心の奥には、一真へのわだかまりが重く沈殿していた。
その頃ホワイト・ティアラ隊のテントで、ゼークはベッドに横になりながら考え込んでいた。
ゼークの心は一真への怒りと、智美を失った悲しみで胸が詰めつけられる。
「どうして……どうして、一真はあんなことを? 智美は、大切な仲間の筈。航太達の前だけでも、智美を心配する言葉を言ったって……」
ゼークの指はシーツを握り潰し、涙が頬を伝う。
「ゼーク、入るわよ。回復魔法、かけにきたわ」
看護隊長のネイアが、林檎の入った籠を抱えて入ってきた。
ネイアはゼークの横に腰を下ろし、優しく微笑んだ。
「ほら、ちょっとでも食べて元気出しなさい。蜜がたっぷりの林檎、剥いてあげるから」
ネイアの優しい声にゼークは顔を上げ、震える声で思いを吐き出す。
「ネイアさん……私、一真のことが嫌いになりそう。みんな、私たちのために必死で戦ってくれてる。命懸けで、ベルヘイムの……遠征軍の力になってくれてる。智美を捜すのは当たり前なのに、あんな言い方! まるで、智美がどうでもいいみたいに……むしろ私に怒りをぶつけても、何も言えないぐらいなのに……」
その言葉は、ゼークの心の底から絞り出されていた。
ゼークの瞳は、智美への想いと一真への怒りで揺れている。
ネイアは林檎の皮を丁寧に剥きながら、静かに耳を傾けていた。
ネイアの動きは穏やかで、まるでゼークの心を落ち着かせるように計算されているようである。
「そうね……一真は、ホワイト・ティアラ隊で傷ついた兵士たちの話を沢山聞いてるの。どうしても、兵士たちの気持ちに寄り添っちゃうのよ。戦場で失ったものの重さを、誰よりも感じていると思うわ」
ネイアの声は柔らかく、しかしどこか遠くを見つめるような響きもある。
「でも、ゼーク……あなたや航太たちの気持ちも、一真はちゃんと分かってると思うわよ。ただ……それを言葉にするのが、下手なだけかもしれないわ」
ゼークは綺麗に剥かれた林檎を受け取り、じっと見つめる。
「それなら、なんで航太や絵美の気持ちを無視する様な事を言うんだろう……どんな事があっても、あの4人は絆で繋がっていなきゃいけない……そう、思うの。そう……でしょ?」
ゼークの声は涙に濡れ、まるで心そのものが零れ落ちるようだった。
ネイアは深く頷き、テント内に漂う林檎の甘い香りを吸い込んだ。
「一真もきっと、葛藤してると思うわ。航太たちのこと、理解していない兵士が多いのも事実だし。一真は、みんなのバランスを取ろうとしてるんじゃない? でも、それが誤解を生んでるのかもしれないわね」
ネイアは切り分けた林檎をゼークに手渡し、食べるように促すと優しく続ける。
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ネイアの頬は微かに赤らみ、普段の冷静な看護隊長とは異なる愛らしい一面が覗く。
その慌てふためく様子に、ゼークの顔にようやく小さな笑みが戻った。
「ふふ……ネイアさん、少し顔赤いですよ! あの……ありがとうございます。なんか……少し、元気出てきました!」
ゼークは林檎の香りに満ちた空気を肺一杯に吸い込み、心を落ち着ける。
ネイアの言う通り、蜜が詰まった林檎にゼークは齧り付く。
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その奥では、一真へのわだかまりが残り続ける。
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