雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

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意味のある戦い

そして居酒屋へ1

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 ランカスト将軍は、ガイエンとムスペルの騎士の執拗な追撃を退けた。
 その不屈の功績と長年の献身が認められ、軍法会議での処罰を免れる事となる。

 重い幕をくぐりテントから出た瞬間、ベルヘイム軍の兵士たちが将軍の姿を見つけて駆け寄ってきた。
 ベルヘイム兵達の瞳には敬愛する指揮官への深い信頼と、処遇を案じる切実な不安が宿っている。
 夕暮れの冷たい風が戦場の土を巻き上げ、兵士たちのざわめきに重なっていく。

「将軍! ガヌロンの野郎、何を言ってきたんですか?」  

 1人の若い兵士が、声を震わせながら叫ぶ。
 その声にはガヌロンへの怒りと、ランカストへの揺るぎない忠誠が滲む。

 他の兵士たちも肩を寄せ合い、祈るような目で将軍を見つめた。
 ランカストの言葉で、心の重荷が解けるのを待っているかのようである。

「一応、不問という事になった。こんな私を支えてくれている、皆のおかげだ。感謝しかない……」

「将軍、不問になったからいいってモンじゃねぇぜ! ガヌロンの野郎、軍師って立場を利用して言いたい放題言いやがって!」

 ガヌロンの傲慢な態度に苛立ちを抑えきれなかった航太は、ランカストが口を開くのを制した。

 そして航太は、兵士たちをテントから少し離れた場所へ促す。
 そこは、戦場の血と汗の匂いがまだ色濃く漂っていた。

 航太は胸に渦巻く怒りをそのままに、ベルヘイム兵達に軍法会議の様子を熱く語り始める。

 ガヌロンの冷淡な言葉とランカストの静かな威厳、そして不問という結論……その1つ1つが、航太の声を通じて兵士たちの心に突き刺さった。

「ガヌロンの野郎、許せねぇ!」  

「こっちは、ランカスト将軍の為に死ぬ準備はできてんだ! 兵を殺した罪だと! ガヌロンの野郎、何様のつもりだ?」  

「今度、ガヌロンの指示を無視してやろうぜ! そうすりゃ、指揮能力の欠如で奴の責任になるだろ?」

 兵士たちの声は荒々しく、怒りに燃えていた。
 だが……その怒りの奥には、ランカストへの深い絆があるのが分かる。

 航太はベルヘイム兵たちの真剣な表情を目の当たりにし、胸の奥で熱いものが込み上げた。
 ランカストという男は、ただの将軍ではない。
 兵士たちの希望であり、心の支えだという事がよく分かる。

 ランカスト将軍の部隊が、全滅したのは事実。
 仲間達が大勢亡くなったのに、それでも……不問の報せを受けた瞬間、兵士たちの顔に安堵の光が広がった。
 まるで戦場の暗闇に、一筋の陽光が差し込んだように。

 航太は思う。
 アルパスター将軍がランカスト将軍を信頼する理由は、これだと。

「ありがとう、皆んな……だが、失った命は戻ってこない。私の指揮が……私の力が、足りていなかったのは間違いない。すまなかった」  

 ランカストは、部下に対して深々と頭を下げる。

 誰かに、責任を転換しない……ベルヘイム兵と確執を持って、自分勝手に戦った航太に文句も言わない。

 ただ、自らの過ちを詫びた。
 ベルヘイム12騎士という名誉も将軍という立場も、そんなもの関係なく部下に頭を下げる。

 そんなランカストの為に、航太は力になりたいと思う。

「だが……軍師であるガヌロン殿の戦略は、間違いなく優れている。ベルヘイムにガヌロンありと言われる程の軍師だ。冗談でも、命令無視なんてするなよ!」 

 ランカストの声は穏やかだが、どこか深い響きを帯びていた。
 その言葉に、兵士たちは笑顔を取り戻す。

 軽快な声が響き合い、戦場の重苦しい空気が一瞬にして和やかなものに変わる。
 まるでランカストの存在そのものが、ベルヘイム兵たちに生きる力を与えているかのようだった。

「なんか、こういう雰囲気いいよね……」  

 航太はその声に振り返ると、絵美が地面の上で気絶していたガーゴを小脇に抱えて立っている。

「航ちゃん……ランカスト将軍、罪に問われなかったんだね! 良かった! 本当に、ありがとね!」

 絵美の笑顔は、戦場の陰鬱な空気を切り裂く光のようだった。
 航太は、絵美の無垢な明るさに心が軽くなるのを感じる。

「みんな疲れてるのに、時間を使わせてしまって悪かったな! だが身体を休める事も、戦士にとって大事な仕事だ! これから、ゆっくり休んでくれ!」  

 ランカストの号令に、兵士たちはようやく肩の力を抜き始めた。
 ベルヘイム兵たちは、ランカストの無事を確かめるまでは休息など考えられなかった。

「じゃあ、俺らも休むか! 腹も減ったし、疲れ過ぎてて倒れそうだ!」  

 航太が言うと、絵美が大きな欠伸を漏らす。

「ほへー、めっちゃ疲れたねー。これで、まだ夕方ってのが信じらんないよ。疲労のピークだぜー」  

 絵美の瞳にはうっすら涙が浮かび、それをゴシゴシと擦る仕草が愛らしい。
 頭にガーゴを乗せ、のんびりとした足取りで歩き出す絵美。

 その姿に、航太は少し羨ましく思う。
 絵美には、どんな暗闇の中でも笑顔を失わない強さがあった。
 どんなに辛い経験をしても、最後には笑顔を見せる事ができる。

 大切なことだな……そう思いながら、航太は自分に割り当てられたテントへ足を向けた。

 その時、ランカストの声が背中に響く。
  
「航太、まだ時間も早い。疲れてるだろうが、一杯付き合わないか? 腹、減ってるんだろう?」  

 その言葉に、航太の心が一気に弾ける。

「この世界で、そのフレーズが聞けるとは! 酒と飯! 今、一番身体に必要なモンだぜ!」
   
 航太はクルリと振り返り、目を輝かせてランカストに駆け寄った。
 戦場の重圧がほんの一瞬、遠くへ吹き飛んだ気がする。

「なんだなんだぁ! 相変わらず、欲望に正直だね~。ね、将軍! 女の子でも入れる店に行くなら、一緒に行きたいなー」  

「もちろんだ。絵美も誘おうと思っていたしな。男ばかりだと、むさ苦しくてたまらんよ」

 ランカストの言葉に、絵美は小躍りして喜ぶ。

「にしても、航太の頭ん中は酒のことしか考えてないでしゅね~。酒ばっか飲んでるから、若くして尿酸値が上がってるって聞いてましゅよ~。ぷぷぅ!」  

 航太はムッとした顔で、ガーゴを睨む。

「ガーゴ、てめぇ……なんで尿酸値なんて言葉、知ってんだ? つーかよ、俺の尿酸値をなんで知ってんだ?」  

 航太は絵美の頭からガーゴをひったくり、その小さな羽を掴んで振り子のように揺らし始めた。
 怒りと茶化しが混じったその仕草に、航太自身の心の疲れが滲む。

「って、待てよ? ガーゴって、絵美の魂の情報が入ってんだよな……って、ことは?」  

 航太の視線が、絵美に向く。
 絵美は目を丸くして、手をバタバタさせながら反撃する。

「は? 何? なんで私が、航ちゃんの尿酸値を知ってると思ってんの? きっも! 気持ち悪過ぎ!」  

 変態を見るような絵美の視線に、航太は思わずたじろぐ。

「俺か? また俺が悪者になるのか? 男女平等とか言いながら、男が不利になり過ぎじゃねーか?」  

 ストレス発散とばかりに、航太は持っていたガーゴを雑巾のように捻り始める。

「航太しゃん……この展開、飽きてきたでしゅよ~。そろそろ別の展開にしないと、読者の皆様も飽きちゃうでしゅ!」  

「ガーゴ、てめぇ! 相変わらず、頑丈だな……てか、ヌイグルミだから痛覚ねぇのか? つーか、読者……だと?」  

 航太の言葉は軽快だったが、その裏には戦場の重圧を忘れたいという切実な願いが隠れていた。

 航太は捻れたままのガーゴを、絵美に投げつける。
 絵美は捻られたガーゴを持って、楽しそうに笑う。

「ねっ、ガーゴ! 自分でクルクル回って、元に戻ってよー」  

「イイでしゅよ~、クルクルクルでしゅ~」

 そんな1人と1匹を、ランカストは静かに見つめている。
 その瞳には父親のような温かさと、戦場で失われた無垢な時間を惜しむ哀しみが宿っていた……
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