雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

文字の大きさ
74 / 92
レンヴァル村の戦い

ランカスト・バニッシュ1

しおりを挟む
 額から滴る血が視界を赤く染めていき、左腕の傷口から迸る痛みが、まるで全身を焼き尽くす炎のように駆け巡る。

 それでも、私の瞳は決して曇らなかった。
 むしろ心の奥底で燃え盛る意志の炎が、ますます激しく灯り私を支えていく。

 ユトムンダス……ヨトゥンである巨躯の男が、私を見下ろしながら嘲るように低く鼻を鳴らす。

「ふん……ベルヘイム騎士団も、所詮はそんなものか。おい、2人ぐらい宝探しを再開しろ。攻めてくる気のないベルヘイム騎士など、相手にする価値もない」

 その言葉に2体のヨトゥン兵が素早く動き出し、村の奥へと走って行く。
 私は歯を食いしばり、心の中で毒づいた。

(ベルヘイムの正規騎士は、何をやっているんだ! 村の外から、見てるだけかよ! もはや、私がこの将を倒す以外に村を救う道はない……頼るのは、止めだ!)

 ボロボロの体を支えるのは、唯一の相棒であるバスタード・ソードだけ。
 重い剣身が地面に突き刺さり、私の体重を辛うじて受け止めている。

 私はユトムンダスを睨みつける視線を、ふと村の方へ移した。
 そこでは戻ってきたヨトゥン兵たちが、逃げようとする村人たちが進むのを阻み、無慈悲に屠り始めていた。

 だが……村人たちは、勇敢だった。
 鍬や棒……武器にならなそうな武器を持ち、必死にヨトゥン兵に立ち向かっていく。

 ベルヘイム正規騎士団より、遥かに騎士の心を持っていた。
 しかし心の強さだけでは、絶望的な力の差は埋まらない。

 ヨトゥン兵の一振りで、3人程の村人が弾け飛んでいく。

「そんな……みんな、逃げてくれ! 立ち向かうなんて、無理だ!」

 私の叫びは、風に掻き消されるように虚しく響いた。
 村人たちの悲鳴が上がり、血と鉄の臭いが空気に混じる。
 友人や近所の人々……大切な人の命が、次々と刈り取られていく。

 胸が……張り裂けた。
 無力感が、私の魂を蝕む。

「ふん……腑抜けのベルヘイム騎士の中で、お前が一番まともだな。それだけは評価してやる。敬意を表して、もう少しだけ遊んでやるぞ。かかってこい」

 ユトムンダスが呪わしいデュランダルを構え、ゆっくりと私に向かって歩み寄ってくる。
 巨人の足音が、大地を震わせた。

 私は深く息を吸い込み、喉の奥から吠えた。

「このまま……こんなところで、終われるか! 村の皆も、命を無駄にするな! 絶望の中でも、命を繋げろ! 諦めるな!」

 体中の力を振り絞り、私はユトムンダスに向かって飛び込んだ。

 ユトムンダスの左腕に捕らわれた少女……テューネに当たらないよう、慎重に剣を振るう。

 それでも気迫のこめた一撃は、ただの斬撃などではない。
 私のすべてを賭けた、村の未来を切り開く一閃だ。

「テューネ! 必ず助ける! もう少し……もう少しだけ、辛抱してくれ!」

 テューネの瞳と、視線が交錯した。
 まだ7歳ほどの小さな身体で、涙を溜めながらも泣きじゃくらずにユトムンダスの腕から逃れようともがき続けている。

 そしてテューネは、力強く頷き返した。
 その健気さに、胸が熱くなる。

 その小さな頷きが、私の背中を押す。
 テューネの純粋な信頼が、私の剣に新たな力を与える。

 私の剣撃と気迫に押され、ユトムンダスが数歩後ずさった。

 その隙に、民家の影から1つの人影が飛び出す。
 その女性が持つ鋭いレイピアが閃き、ユトムンダスの持つデュランダルを弾き飛ばした。

「今だ!」

 私は更に、一歩を踏み出す。
 もう動かないと思わせておいた、激痛の走る左手にバスタード・ソードを持ち換える。

 血が滴る……だが、そんなモノに構っている余裕はない。

「うおおおぉぉぉぉ!」

 私は、叫んでいた。

 ユトムンダスが、一瞬怯む。
 私の振ったバスタード・ソードを躱わして、体勢を崩す。

 その一瞬……ユトムンダスの左腕に、レイピアの切っ先が深々と突き刺さった。

「なんだと!」

 ユトムンダスの顔が、驚愕に歪む。

 私は息を切らしながら、レイピアを突き刺した人影を見る。
 細身のシルエット、優雅な剣さばき……紛れもなく、ソフィーアだ。
 ソフィーアの登場に、心臓が激しく鼓動を打つ。

 周囲の空気が、変わるのを感じる。
 私の胸に、新たな決意を刻み込む。

 ソフィーアが、ここにいる……いてくれる。
 ならば、勝機はある。

 テューネを、村を救うために……私は、再び剣を構えた。

 戦いは、まだ終わっていない。

 私は、弾き飛ばされたデュランダルを拾い上げていた。
 クレイモアのような形状の剣……デュランダルは、片手剣と言うにはあまりに大きく長い。
 大柄な私でさえ、デュランダルを構えるだけでフラついてしまう。

(くっ! 重い……だが、思った通りだ。私でも、持てる! ユトムンダスは、デュランダルに認められていなかったんだ!)

 神剣は自らの主を見つけるまでは、その質量を保ったまま誰でも使える。
 しかし一度主と認める者が現れると、その人以外の者が使おうとしても持つ事すら許されない。

 つまりユトムンダスはデュランダルには認められる事なく、ただ使っていただけだった。

(これで私がデュランダルに認めてもらえれば、言う事ないが………そう上手く、事は運ばないか。だが、ユトムンダスから神剣を奪えた。それだけでも、勝てる可能性が増した筈だ!)

 私はデュランダルを構えながら、ユトムンダスを睨む。
 だがユトムンダスの左腕には、テューネが捕われたままである。

「ゴメンね、ランカスト……テューネ、取り戻せなかった……」

 突然のレイピアの攻撃に、ユトムンダスは一瞬驚きはした。
 しかし騎士でもない女性の攻撃如きでは、強いダメージを与える事は難しい。

「一騎打ちだと思わせておいて、奇襲攻撃を用意しておくとは……人間にしちゃあ、上出来だ。だが、駒が悪すぎたなぁ……もっと、屈強な騎士でも準備しておけや。デュランダルは、ハンデとして貸しといてやるよ。良い思い出になるだろ?」

 ユトムンダスは笑いながら、余裕な表情を浮かべている。
 私は大きく息を吸うと、覚悟を決めてデュランダルを握り締めた。
 ほんの少しだけ軽くなった感じのするデュランダルは、その刀身を輝かせる。

「いくぞ……ユトムンダス!」

 揺れる記憶の中で、私が叫んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

生贄の少女と異世界ぐらしwith 持ち物一つ

青樹春夜
ファンタジー
俺の部屋にあるもので異世界生活?高校生の俺の部屋にはマンガ・ゲーム・趣味の物プラス学用品・服・ベッド…。生贄の金髪碧眼少女と一緒に村を立て直すとこから始まる救世主生活!だけど特にスキルがついている気がしない⁈あっ…転生じゃないから? 1話1話は短いです。ぜひどうぞ! このお話の中には生活用品で魔物と戦うシーンが含まれますが、その行為を推奨するものではありません。良い子も悪い子も真似しないようお願い致します。 主人公ヒロキ……17才。 現実世界でつまづき、ある理由によって異世界に呼ばれたヒロキは、その世界で優しさと強さを手に入れる——。 ※数字の表記について——一から九までを漢字表記。それ以上は見やすくアラビア数字で表記しています。 ※他サイトでも公開中。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...