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レンヴァル村の戦い
熱帯びる宴3
しおりを挟む酒場の喧騒が、夜のレンヴァル村を温かく包み込んでいる。
葡萄酒の香りが漂う店内では、航太がグラスを傾け軽い酔いに身を任せていた。
今宵はどこか陽気な航太は、呂律が回らぬ口調で声を張り上げる。
「やっぱさ……皆、背負ってるモノの重さが違うんだよな! 強いのが当たり前だぜぇ、うぉん!」
その言葉に隣にいたガーゴが、からかうようにクチバシを動かす。
「航太、頭悪そうでしゅ~! バカが酔っ払って、更に頭がイカレタ感じになってましゅよ~」
「んだとぉ、アヒル野郎! ちょっと……コッチこい、うぃぃぃっく!」
航太が千鳥足でガーゴを追いかけ始め、ふわふわのアヒルのヌイグルミが小さな羽をバタバタさせて逃げ回る。
瞬間、店内は爆笑に包まれた。
テーブルを縫うように走るその光景は、まるで子供の遊戯のようで村人たちの心を和ませる。
カウンターの隅でランカストは静かに葡萄酒を口に運びながら、その騒ぎを微笑ましく眺めていた。
ランカストの瞳には、どこか遠い過去の記憶が宿っているように見える。
「よく、ここまで……復興したものだ」
小さな独り言が、酒場の喧騒に紛れてこぼれた。
その言葉を聞き逃さなかった酒場の主人が、ランカストのグラスに葡萄酒を注ぎながら温かい声で応える。
「お前が、必死に戦って守ってくれた村だ。いや、お前だけじゃねぇな。嬢ちゃんも、勇気を持って戦ってくれた。あの時は、弱虫な村人だったけどよ……だからこそ、簡単には潰れねえよ。ランカストと嬢ちゃんには、今じゃ心から感謝してるぜ」
ランカストの心に、過去の記憶が鮮やかに蘇った。
目の前でソフィーアが倒れ、デュランダルが自分の身体に入ってきた時のこと……
ソフィーアがデュランダルを受け入れ、共に戦うことを誓ってくれた日のことを……
ランカストは、瞳を閉じる。
思い出したのは、あの日のこと……デュランダルを手に、国王の前に立った瞬間だった。
王宮の玉座の間は、荘厳な静寂に満ちている。
見習い騎士だったランカストは、緊張に震える手でデュランダルを国王に差し出していた。
見習い騎士の身で、国王に謁見するなど異例中の異例である。
羨望の眼差しに混じる、嫉妬の視線。
ガヌロンが声を荒げて、ランカストの事を糾弾している。
しかしその声は、ランカストに届かなかった。
差し出した神剣の刃は、燭台の光を受けて神聖な輝きを放っている。
国王は神剣デュランダルを確認し、その重みを確かめるように見つめた。
そしてゆっくりと、ランカストに差し戻す。
「レンヴァル村を救いし英雄よ、神剣デュランダルは其方を認めた。デュランダルと共に、我が国と民を守ってくれ。其方の大切な者の命を力に、神剣デュランダルは必ず応えるだろう」
国王の声は、若き騎士の胸に深く刻まれる。
ランカストは、両手でデュランダルを握りしめた。
デュランダルがランカストの意志と共鳴するかのように、微かな振動を伝えてくる。
「ランカスト・バニッシュ。其方にベルヘイム12騎士の称号と、Myth Knightとしての地位を与える。これからもベルヘイム王国の騎士として、弱き者を守り続けろ」
そして国王から与えられたのは、称号と名誉だけではなかった。
デュランダルを納める、黄金の鞘。
輝かしい鞘からデュランダルを抜くたびに、ランカストは国王の言葉を思い出す。
ベルヘイム国民の為、正義の為に……
国と民を守る決意を、新たにしていた。
それが、ソフィーアの心に準じる事だと信じて……
そしてその強い意志が、ランカストを愛される英雄たらしめていた。
酒場の片隅でゼークが絵美に身を寄せ、何故かほろ酔いの声で囁く。
「ねぇ……絵美たちって、私には救世主に見えるんだ。絵美たちがベルヘイム遠征軍に入ってくれて、何かが変わった気がするの。厳しい戦いが多いけど、それでも軍は確実に進軍している。だから、これからも一緒に戦ってね……」
絵美は少し困ったように笑い、フルーツ・ジュースのグラスを手にしながら答える。
「ごめんね、ゼーク。私も航ちゃんも、ベルヘイムに来るなんて想像もしてなかったんだ……だから正直、何も考えてなかったの。けどカズちゃんだけは、なんか理由があるみたいなんだけど……」
一真の名前を口にして、絵美の心に小さな波が立った。
一真がなぜ、この神話の世界にこだわったのか……その理由を知りたいという思いが、ふと胸をよぎる。
先祖を助けた恩人の姫を、囚われの身から救いたい……そう聞いた事はあったけど、ただ救いたいだけなのか?
そもそも、救いたいって言ってたのに戦いに参加もしない。
違和感が、絵美の胸に引っ掛かる。
ゼークも少し眉をひそめ、声を潜めた。
「一真ね……正直、私は少し苦手。神剣グラムを持ってるのに、戦おうとしない。治療班だからって、みんなが苦しんでる時でも他の兵の治療を優先する。絵美たちの仲間だから、悪く言いたくはないけどさ。けど、貴重な神剣を持ってるのに……使わないなら、私が欲しいよ!」
「うーん……カズちゃん、コッチに来てからちょっと変わった気がするんだよね。本当は、もの凄く優しい子なんだよ。だから、戦闘向きではないんだけどね……でも、智ちゃんも戦場に出てるぐらいだからなぁー」
2人がそんな会話を交わしていると、店内の喧騒が再び弾ける。
航太とガーゴの追いかけっこが、最高潮に達していたのだ。
ついに航太がガーゴの羽を掴み、持ち上げる。
「痛いでしゅ~! 放すでしゅよ~! 虐待、ダメ! 絶対!」
ガーゴがじたばたと暴れるが、構わず航太はニヤリと笑う。
そして、悪戯っぽく言った。
「そういや、ガーゴさん……酒を飲みたいって、言ってましたよね? 一杯、ご馳走しますよ」
航太はガーゴの大きなクチバシを広げ、問答無用で葡萄酒を無理やり流し込む。
「☆£‡†Å◎◇★!」
ガーゴが意味不明な叫び声を上げ、フラリと倒れ込む。
その白い体には、葡萄酒が染み込んで紫色のシミが広がっていく。
「ガーゴ……こりゃ、シミになっちゃうね。漂白剤とか、あるのかな?」
絵美が心配そうに呟くと、ガーゴは涙目で訴えてくる。
「嫌でしゅ~! ガーゴは、純白の体が自慢なんでしゅよ~」
その瞬間、酒場は爆笑の渦に包まれた。
村人たちの笑い声が、夜の闇を明るく照らすようである。
楽しい宴もいつしか終わりを告げ、航太たちは名残惜しそうに酒場を後にした。
村の夜風は冷たく、しかしどこか温もりを帯びている。
ランカストはデュランダルの柄にそっと手をやり、仲間たちの笑顔を胸に刻む。
だがこの時、航太も絵美も……そして、村人たちも知る由もなかった。
レンヴァル村が、新たな惨劇の舞台となる。
そんな運命が、直ぐそこまで迫っていることを……
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