雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

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レンヴァル村の戦い

疾風と閃光1

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「フェルグスの母親はぁ、まだ見つからんのかぁ?」  

 スリヴァルディの声は、凍える刃のように夜の静寂を切り裂く。

 月光の下スリヴァルディの瞳は猛獣の如く赤く輝き、薄い唇が毒々しい笑みに歪む。
 黒いマントが風に揺れ、まるで闇そのものが蠢くようだった。

「はっ! たった今、それらしい女を捕えたとの報せがありましたぜ! すぐに、この場へ引きずってこさせます!」  

 部下の言葉に、スリヴァルディの顔は不気味な喜びが広がる。

「後は、やっかいな風の野郎だなぁ! だが、対策は考えてみてやったぜぇぁ!」

 スリヴァルディは、近くで怯えている少女に魔法をかけた。
 一瞬で少女は眠り、身体の力が抜ける。

 魔法の効果を確かめたスリヴァルディは、少女を荒々しく抱え上げた。
 そして冷たく輝く剣の刃を、白く細い首筋に押し当てる。

 少女は魔術の呪縛に囚われ、まるで壊れた人形のように力なく項垂れていた。
 少女の小さな身体が、スリヴァルディの腕の中でかすかに震える。

「風のMyth Knightぁ! この状況で、風の刃を撃ち放てるかぁ? オレの首を斬れたとしても、このガキの命は血の霧となって散るだけだぁ! オレの首を斬った瞬間、オレの剣がガキの首を掻き捌くからなぁ!」  

 スリヴァルディの声は、毒蛇が鎌首をもたげるような響きで戦場に響き渡った。

 伝心の魔法によって、スリヴァルディの声は遠くの丘に立つフードの男へと瞬時に届けられた。

 深いフードの下、男の目は一瞬だけ鋭く光り月光を反射する。

「ふぅ……」  

 重いため息が漏れると同時に、フードの男はエアの剣を握りしめ丘の斜面を滑るように駆け下りた。
 黒いフードが風を切り、背後で砂塵が渦を巻く。

 エアの剣の柄を握る手には、静かな怒りが宿っていた。

「そのまま、こっちへ来いやぁ!」
   
 スリヴァルディは哄笑を抑えきれず、声を張り上げる。

「その首を差し出せば、この少女を助けてやらぁ! 人間の愚かさは、実に滑稽だなぁ! どんなに強かろうが、弱い者を助ける習性が染み付いてるからなぁ!」  

 ヨトゥン軍の将であるスリヴァルディの胸中は、勝利の確信で沸き立っていた。

 どれほどの力を誇ろうと、たった1人の人質でその力を封じ込められる。
 人間の脆さが、スリヴァルディを狂喜させた。

 レンヴァル村の中心広場にある、命の泉。

 フードの男が泉の前まで踏み込んだ時、フェルグスの母親が乱暴に引きずられてきた。

 フェルグスの母親……ロータ・マクロイヒの顔は恐怖に青ざめ、ボロボロの服が月光に照らされて白く浮かび上がる。
 瞳には諦観の色が宿り、しかし微かに震える唇は希望を捨てきれていないようだった。  

 スリヴァルディの顔には、止めどない笑みが溢れる。

 先ほどまでの恐怖は消え去り、スリヴァルディは自らが仕掛けた罠の完璧さに酔いしれていた。

 だが、その時……

 逆側の丘から、雷鳴のような轟音とともに一条の閃光が迸った。
 まるで夜空を裂く流星のように、眩い光の刃がスリヴァルディを目がけて突き進む。

 空気が引き裂かれ、大地が震え、草木がその圧力に折れ曲がる。
 光の尾は白熱し、戦場を昼のように照らし出す。

「おっとぁ! 正気かぁ? フェルグスさんよぁ!」  

 スリヴァルディは、獣のような敏捷さで動く。

 ロータを盾のように突き出し、閃光をその身に受け止めさせようとする。

 光の刃がロータの身体に当たる瞬間、鋭い剣の形が光の中から現れた。
 ロータの喉元わずか数寸で、剣の動きが止まる。

 刃先から放たれる冷気が、ロータの髪をわずかに揺らす。

 戦場は一瞬、息を呑むような静寂に包まれた。

「貴様にはなぁ! 母親を傷付ける事など、できんだろうなぁ!」  

 スリヴァルディの声は勝ち誇ったように響き、気味の悪い笑みが顔に広がる。

「ゲッシュってなぁ! フィアナ騎士の誓いとかっていう面倒な枷が、自分を不利にしてるって気付かないのかなぁ!」  

 閃光の起点……そこには黄金の鎧に身を包んだフェルグスが、戦馬の背に屹立していた。

 馬の蹄が地面を抉り、砂塵が巻き上がる。
 鎧は月光を浴びて燦然と輝き、神剣カラドボルグは星の欠片を宿したように光を放つ。

 だがフェルグスの顔は苦悶に歪み、瞳は燃えるような憤怒でスリヴァルディを射抜いた。  

 ゲッシュ……それは、フィアナ騎士に課せられた神聖な誓い。
 守れば神の祝福を受け、破れば禍が降る。
 厳しいゲッシュを課すことこそ、最強の騎士への道とされていた。
 フェルグスのゲッシュは、3つ。

「母を傷つけない」
「母を救った者を命懸けで守る」
「親友と戦わない」

 特に「母を傷つけない」は、絶対の制約。
 自身はおろか、他者が母に危害を加えることも許されない。  

 スリヴァルディがフェルグスの母親を盾にしている限り、フェルグスは一歩も動けなかった。  

「そうだぁ! 良い事を考えたぁ!」  

 スリヴァルディは剣を少女の首に押し当て、狂気じみた笑みを浮かべる。

「フェルグスぁ! 風のMyth Knightぁ! まとめて、死んでもらおうじゃないかぁ!」  

 スリヴァルディの背後で、ヨトゥン軍の兵士たちが一斉に動き出した。
 重い戦靴が地面を震わせ、甲冑が擦れ合う甲高い音が響く。

 無数の槍と剣が、月光を反射しながらフェルグスとフードの男を包囲する。
 槍の穂先が煌めき、まるで星々が戦場に降り注ぐようだった。  

「何をするつもりか知らんが、母を返してもらうぞ」

 冷静かつ大胆に、フェルグスは動く。

 戦馬が嘶き、地面を抉る勢いでヨトゥン兵に向かって突進する。
 黄金の鎧が月光を切り裂き、まるで流星が大地を滑るように輝く。

 フェルグスのカラドボルグが弧を描き、風を裂く轟音とともにヨトゥン軍の兵士たちを薙ぎ払った。
 血が噴き出し、断末魔の叫びが夜を切り裂く。
 ヨトゥン兵たちの身体が軽々と宙を舞い、地面に叩きつけられる。
 カラドボルグの軌跡は光の尾を引き、まるで彗星の如く戦場を駆け抜けた。  

 その動きに合わせて、フードの男が動く。
 フードが風を孕み、黒い影が幽鬼のように舞う。
 エアの剣が唸りを上げ、空間を切り裂く鎌鼬が無数の刃となってヨトゥン兵に襲いかかる。
 刃は空気を劈く鋭い音を立て、草木を切り刻みながら進む。
 その一撃は、まるで嵐そのものが形を成したようだった。  

「そこまでだぁ! オレの話を聞きやがれぁ!」  

 スリヴァルディは、ロータと少女を盾の様に掲げる。

 スリヴァルディの声が聞こえた瞬間、カラドボルグがヨトゥン兵の包囲網を突き破った。

 槍が折れ、盾が砕け……ヨトゥン兵たちが、血と土に塗れて倒れていく。
 戦馬の蹄が地面を打ち、砂塵が血の匂いと共に舞い上がる。  

「話が分からない奴だなぁ! そのまま進めば、母親の命が消し飛ぶって言ってんだろぅがぁ!」  

 スリヴァルディは哄笑しながら、ロータの首に剣を押し込む。
 鮮血が一筋ロータの白い肌を伝い、地面に滴る。
 月光に照らされたその赤は、まるで戦場の運命を象徴するようだった。  

 フェルグスの瞳が燃え上がり、その動きが止まる。

 フードの男は、エアの剣を握り直す。

 フェルグスの母親と、少女……2つの命を前に、エアの剣がわずかに震えた。

 戦場は、血と鋼の嵐と化した。

 フェルグスと風のMyth Knight、そしてスリヴァルディ……

 月光の下、血と砂塵が舞い踊る。

 そんな予感が、戦場を駆け抜けていった……
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