雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

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紅の剣士と恐怖の剣

赤き悲劇3

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「森の中で、クレイサーが死んでいたぞ! 間違いない! 殺されたまま、放置されている! 応急処置も、弔いもされちゃいない!」 

 別の村人が森の中から息を切らせて出て来て、そして叫ぶ。
 その声は、村中に届いた様に思えた。

「エストが、クレイサーを殺された瞬間を見たらしいぞ! エストに確認するんだ!」

 ゲインの思考を遮る様に、次々と事態が進行していく。
 まるで、映画やドラマのように……
 まるで、決められたストーリーを紡いでいるだけのように……
 ヨトゥンが化けた村人達が、的確に役割を遂行していく。

「ゲイン程の騎士が襲ってきたら、オレ達では太刀打ち出来ない。団結しないと、勝ち目はないぞ!」

 村で、一番の騎士……
 ベルヘイム12騎士、フィアナ騎士と並び称される赤枝の騎士。
 その赤枝の剣術を自分のモノにし、ヨトゥンと戦ってきたゲイン。
 小さな村に、これ程の騎士に敵う騎士は存在しない。
 頼りにしていた強大な力は、敵になった瞬間に強大な恐怖の対象になる。
 その力を、知ってしまっているのだから……

 村は一瞬にして混乱の坩堝と化した。
 怒りと疑念が渦を巻き、収拾がつかない。

 騒ぎを聞きつけたガイエンは、家から飛び出した。

 村の中心地に行く途中の道でガイエンの目に飛び込んできたのは、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたエストの姿だった。
 彼女の首元には、ガイエンの渡したペンダントがない。
 あんなに嬉しそうに着けていたのに……ペンダントの喪失が、ガイエンの胸に不吉な影を落とした。

「なんで……なんでゲインさんは、お父さんを殺したの?」

 エストの声は震え、憎しみと悲しみに濡れていた。
 ガイエンは目を丸くした。
 幼い頃から側で支え合ったエスト。
 淡い恋心を抱いていた少女。
 その彼女から放たれた言葉に、心が砕けそうになる。

「父さんは、クレイサーさんの助けになるって……ティアを救うんだって……そう言ってたんだ! 何かの間違いだよ!」

 ガイエンの頭は、混乱していた。
 何が起きているのか、全く分からなかった。
 父さんが、クレイサーさんを殺した?
 そんな筈はない!
 この村の事を一番に考えて、村を守る為に戦ってきた。
 親友のクレイサーさんの事だって……エストやティアの事も、大切に思ってた筈だ。

 エストに声をかけようとした瞬間、ゲインが村人に囲まれ広場に連れ出されてきた。

「父さん、この騒ぎは何だ? クレイサーさんを殺したなんて、嘘だよな!」

 ガイエンは父に駆け寄り、すがるように叫んだ。

「ゲインは、クレイサー殺しとヨトゥンへの裏切り容疑で疑われてる!  ガイエン、近づくな!」

 村長の鋭い声が響き、ガイエンを制した。

「そんな馬鹿な! 父さん、何かの間違いだよな!」

 ガイエンは涙を堪え、父を見つめた。

「クレイサーはオレと戦っている時に、何者かに殺された。オレが殺した様に見せかける為にな。クエイサーは、ティアちゃんを人質にとられてた……だからヨトゥンに気付かれない様に、戦うフリをして話を聞き出そうとした。その時に、何者かに殺された!」

 ゲインの声は最初はガイエンに向けられていたが、最後には村全体に届くような咆哮となった。
 その言葉を聞いた瞬間、エストの瞳から涙が溢れ地面に滴り落ちた。

「私、お父さんが殺される瞬間を見ていた。ゲインさんの剣が、お父さんを斬るところを……どうして、嘘をつくの?」

「エスト、違うんだ! オレの剣は、クレイサーに届いていない! オレの剣の動きに合わせて、誰かが風の刃を放ったに違いない!」

 赤枝の剣術に合わせて……ゲインの太刀筋に合わせて、風の魔法を放つ……
 それが、どんなに高等技術か……
 小さな村に、そんな事が出来る人物などいない。
 ゲインが手を抜いて戦っていた事など、この場にいる村人達は知らないのだから……

「ゲイン……赤枝の剣は剣舞と呼ばれ、その変則的な剣が強さの秘密だ。その剣を自在に操るお前の剣に、誰が合わせて魔法が使えると思うのか? 嘘が苦し過ぎるぞ」

 村長の言葉に、ゲインは縋る様にエストを見る。
 クレイサーを斬ったフリをした時、赤枝の剣術など使っていなかった。
 それさえ、証明してくれれば……

 ゲインの思いは、1人の男の言葉で簡単に崩れさった。

「ティアが人質にされて、ヨトゥンに操られてたって言ってんのか? 泣いているエストの前で、クレイサーに罪を押し付けるなんて……そこまで、堕ちたのか!」

 村人の……ヨトゥン兵が化けている村人が、ゲインを罵った。
 エストを餌にした事で村人の怒りが燃え上がり、広場全体が憎悪に染まる。

「止めろ!  父さんは、この村を守り続けた騎士だぞ!  エストの父ちゃんを斬ったのだって、理由があるはずなんだ!」

 ガイエンは父の前に立ちはだかり、両手を広げて叫んだ。
 だが、村人たちの目は冷たく、疑惑は膨らむばかりだった。

 その時……隣町の騎士に化けたヨトゥン兵が、ティアとガイエンの母アリア・ドーマを連れて現れた。

「ティアがゲインに監禁されてたぞ!  これで決まりだな!」

 その姿を見た村人の1人が、大声を上げる。

「なん……だと?」

 ゲインの声が、震えた。
 驚愕と怒りが、彼を支配する。
 ガイエンもまた、胸が締め付けられる感覚に襲われた。

「父さんが、ティアを監禁なんてするか! 病気の事を心配していたんだ! だいたい、お前は誰だよ? どうして母ちゃんとティアを連れているんだ?」

 ガイエンは、喉が裂けんばかりに訴えた。
 そして、疑問を口にする。
 この村の人でもない騎士が、なぜ母とティアを連れているのか?

「あなた……どういう事ですか? 隣町に買い物に行ったら、ティアちゃんに会って……そしたら、あなたに連れて来られたって! その時に、そこの騎士様に会って……ティアちゃん足を痛めて治療してたって言うから、騎士様が抱えてくれて……帰って来たら、こんな事になってて……」

 ガイエンの言葉に答えるように、アリアがゲインに語りかける。
 間違いであってほしい……視線が、その願いを訴えていた。

「決まりだな! ゲイン・ドーマは我々を裏切り、ヨトゥン側に寝返った! これが現実だ!」

 ヨトゥンに化けた村人が、考える時間を与えない様に……しかし冷静に、冷たく言い放つ。

 ティアはまだ幼く、目の前の混乱を理解できずにいた。
 彼女は拐われたとはいえ、乱暴に扱われたわけではない。
 遊んでた時に足を怪我し、ゲインが隣町の病院に連れて行った。
 ティアからすれば、それだけの事だった。
 治療に数日かかったのは予想外だったが、ゲインが両親にも伝えておくと話していたので安心して治療していただけだ。
 この時のゲインはヨトゥンが化けたゲインだったが、幼いティアに分かる訳もなかった。

 だからティアは、ただ困惑した顔でそこに立っていた。

「ティア!」

 エストがティアに駆け寄り、強く抱きしめた。
 妹の温もりに触れ、彼女の涙が再び溢れる。

「ティアは平気だよ。お昼間に遊んでたら、足を怪我しちゃって……そのままゲインさんに、病院に連れてってもらっただけだから。お姉ちゃん、何が起きているの?」

 ティアはエストを不思議そうな瞳で見上げ、無垢な声で言う。
 その言葉を聞いたエストは、ゲインを睨みつけた。
 どれだけ考えて、計画に移したのか……
 本気でティアの事を心配していたのに、ゲインもガイエンも足を怪我しただけって知っていた。
 それなのに重病のように伝えられ、お父さんはティアを人質にとられて森に呼び出され殺された。
 瞳に宿るのは、純粋な憎悪だった。

「裏切り者!」

 彼女の叫びが、広場に木霊した。
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