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紅の剣士と恐怖の剣
赤き悲劇5
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神剣ヘルギ……それはコナハト国の王妃が、村の英雄ゲインに授けた聖なる刃。
敵を恐怖に凍りつかせ、無抵抗の命を無情に刈り取る恐るべき力を持つ。
だがゲインはその冷酷な特性を嫌悪し、友である神父に託して教会の闇に封じた。
だが、運命は皮肉を愛する。
父が呪いと呼んだその剣を、息子ガイエンが手にすることとなった。
いや、ヘルギがガイエンを選んだのかもしれない。
ヘルギを握り締めたガイエンは、村の中心へと足を踏み出していた。
その瞳からは涙の跡が消え、燃え盛る復讐の炎だけが宿っていた。
村の中心に辿り着いた時、そこは地獄と化していた。
教会と反対側の丘にヨトゥン軍の黒い影が迫り、雷鳴のような喊声が響き渡る。
ゲインの死を知った敵は、躊躇なく進軍を開始していた。
指導者を失った村の騎士たちは、まるで風に散る枯れ葉のように乱れ、ヨトゥンの刃に次々と飲み込まれていく。
規律なき彼らに、一対一で勝つ術などなかった。
ガイエンは、その無残な光景を冷たく見つめた。
村を救う意志など、彼の心には欠片も残っていなかった。
父と母を襲っていた村人たちは恐怖に顔を歪め、慌てふためいて四方八方へと散り逃げていったのだろう。
切り刻まれた父の亡骸は冷たく横たわり、母は血の池の中で力なく倒れていた。
その無惨な姿を、ガイエンはただ立ち尽くして見つめていた。
2人の亡骸を前にしても、彼の瞳からは涙が流れなかった。
悲しみは確かに胸を締め付け心の奥底でうねっていたはずなのに、その感情は表面に浮かぶことなく深い闇に沈んだままだった。
代わりに、彼の内側で燃え上がったのは復讐の炎だった。
それは薪をくべられた炉のように、激しく、熱く、止めどなく燃え盛り、ガイエンの心を焦がし、身体を突き動かすほどの力を持っていた。
枯れ果てた瞳には、もはや温もりも哀れみも宿っていなかった。
ただ冷たく鋭い光が宿り、復讐を果たす瞬間だけを見据えているようだった。
やがて村の家々に火の手が上がり、赤い舌が空を舐めるように広がった。
絶叫と煙が渦巻く中、2人の少女が炎の間を縫ってガイエンの前を駆け抜けようとした。
エストとティア……幼馴染として仲良くしていた少女達だ。
「おい!」
ガイエンの鋭い声が、エストを刺した。
「ガイエン、早く逃げて! このままじゃ、炎に呑まれるよ!」
エストは彼を認め、恐怖と焦燥に震える声で叫んだ。
だが、ガイエンは燃え盛る炎など眼中にない。
愛したエストの口から、後悔と悔悟の言葉を引き出したかった。
彼女の声に、わずかな救いを求めていたのかもしれない。
「エスト……なぜだ? なぜ、父さんは……母さんは、死ななきゃならなかった?」
ガイエンは一歩また一歩と近づき、低く呻くように問いかけた。
「それは……村を裏切ったんだから、仕方ないじゃない! 私のお父さんだって、殺されたんだから!」
その言葉は、ガイエンの胸に突き刺さる刃だった。
期待が裏切られた瞬間……彼の中で何かが崩れ落ち、代わりに灼熱の怒りが噴き上がった。
エストはその異変に気付き、恐怖に足がすくんで後ずさる。
「お前は……オレの父さんと母さんが殺された時、何を思った? 守ってきた村人達に囲まれ、裏切られ、切り刻まれた気持ちが……分かるのか?」
ガイエンはヘルギを抜き放ち、その冷たく光る剣先をエストへと突きつけた。
「やめて、ガイエン……お願い!」
エストは尻餅をつき、震える足で立ち上がることもできず涙をこぼしながら懇願した。
「ガイエン兄ちゃん! 何? 何? 何をする気? もうこれ以上、嫌だよぅ!」
ティアは半狂乱で泣き叫び、恐怖に縛られた小さな体で必死に声を絞り出した。
だが……ガイエンの耳には、届かない。
彼は、無言でエストに迫る。
復讐の炎が、彼の理性を焼き尽くしていた。
「やめて……ガイエン……」
エストの声はか細く、絶望に呑まれていく。
彼女はもはや、抗う力すら失っていた。
「父さんと母さんが味わった恐怖を……その身で感じて、死ね!」
その瞬間、ガイエンの心の中で最後の鎖が千切れた。
彼は一瞬の躊躇もなく、ヘルギをエストの胸に突き立てた。
刃が肉を裂く鈍い音とともに、彼女の首元で深紅のペンダントが血に染まり一瞬だけ不気味に輝いた。
「いやぁぁぁぁ!」
ティアの絶叫が、夜空を切り裂いた。
幼い少女の悲鳴は、燃え盛る村の中で虚しく響き渡る。
ガイエンはその声を聞き、一瞬だけ悲哀の影が瞳をよぎった。
が……次の瞬間には、彼は無慈悲に剣を引き抜いた。
そしてガイエンは、母からもらったエストとお揃いのペンダントをまるで忌まわしい記憶を振り払うように首から引きちぎり、好きだった女の子の血で汚れた冷たい地面に叩きつけた。
幼馴染の血で染まった顔で一瞬だけ笑ったガイエンは、エストが倒れ伏す姿を見ようともせず炎の海へと歩を進めた。
ティアの絶叫を背中で聞き、逃げ惑う村人達を次々と斬り捨てながら……
やがて彼の身体は村人の返り血で真っ赤に染まり、まるで血の亡魂と化していた。
その鬼気迫る姿を見たクロウ・クルワッハが、低く響く声で呼びかけた。
「人間の醜さを見ただろう? 綺麗事を並べるだけで、自分に害が及びそうになると保身に走る。恩人ですら、簡単に手をかける。ヨトゥンは、欲望を隠さない。その分、シンプルで裏表もない。どうだ、我々と共に来ないか? お前の力なら、直ぐに我が軍の将になれるぞ。腐った人間どもを、共に駆逐しようではないか」
ガイエンは言葉もなく、ただ頷いた。
クロウ・クルワッハはゲインの息子であるガイエンの剣才を見抜き、狡猾な策略で手中に収めていた。
厄介な英雄ゲインを葬り、その子を新たな駒として手に入れたのだ。
ガイエンは深い傷を心に刻み、ヨトゥンと共に歩む道を選んだ。
すべてがクロウ・クルワッハの仕掛けた罠であり、彼の戦術によって引き起こされた悲劇であることにガイエンは気付かぬままに……
敵を恐怖に凍りつかせ、無抵抗の命を無情に刈り取る恐るべき力を持つ。
だがゲインはその冷酷な特性を嫌悪し、友である神父に託して教会の闇に封じた。
だが、運命は皮肉を愛する。
父が呪いと呼んだその剣を、息子ガイエンが手にすることとなった。
いや、ヘルギがガイエンを選んだのかもしれない。
ヘルギを握り締めたガイエンは、村の中心へと足を踏み出していた。
その瞳からは涙の跡が消え、燃え盛る復讐の炎だけが宿っていた。
村の中心に辿り着いた時、そこは地獄と化していた。
教会と反対側の丘にヨトゥン軍の黒い影が迫り、雷鳴のような喊声が響き渡る。
ゲインの死を知った敵は、躊躇なく進軍を開始していた。
指導者を失った村の騎士たちは、まるで風に散る枯れ葉のように乱れ、ヨトゥンの刃に次々と飲み込まれていく。
規律なき彼らに、一対一で勝つ術などなかった。
ガイエンは、その無残な光景を冷たく見つめた。
村を救う意志など、彼の心には欠片も残っていなかった。
父と母を襲っていた村人たちは恐怖に顔を歪め、慌てふためいて四方八方へと散り逃げていったのだろう。
切り刻まれた父の亡骸は冷たく横たわり、母は血の池の中で力なく倒れていた。
その無惨な姿を、ガイエンはただ立ち尽くして見つめていた。
2人の亡骸を前にしても、彼の瞳からは涙が流れなかった。
悲しみは確かに胸を締め付け心の奥底でうねっていたはずなのに、その感情は表面に浮かぶことなく深い闇に沈んだままだった。
代わりに、彼の内側で燃え上がったのは復讐の炎だった。
それは薪をくべられた炉のように、激しく、熱く、止めどなく燃え盛り、ガイエンの心を焦がし、身体を突き動かすほどの力を持っていた。
枯れ果てた瞳には、もはや温もりも哀れみも宿っていなかった。
ただ冷たく鋭い光が宿り、復讐を果たす瞬間だけを見据えているようだった。
やがて村の家々に火の手が上がり、赤い舌が空を舐めるように広がった。
絶叫と煙が渦巻く中、2人の少女が炎の間を縫ってガイエンの前を駆け抜けようとした。
エストとティア……幼馴染として仲良くしていた少女達だ。
「おい!」
ガイエンの鋭い声が、エストを刺した。
「ガイエン、早く逃げて! このままじゃ、炎に呑まれるよ!」
エストは彼を認め、恐怖と焦燥に震える声で叫んだ。
だが、ガイエンは燃え盛る炎など眼中にない。
愛したエストの口から、後悔と悔悟の言葉を引き出したかった。
彼女の声に、わずかな救いを求めていたのかもしれない。
「エスト……なぜだ? なぜ、父さんは……母さんは、死ななきゃならなかった?」
ガイエンは一歩また一歩と近づき、低く呻くように問いかけた。
「それは……村を裏切ったんだから、仕方ないじゃない! 私のお父さんだって、殺されたんだから!」
その言葉は、ガイエンの胸に突き刺さる刃だった。
期待が裏切られた瞬間……彼の中で何かが崩れ落ち、代わりに灼熱の怒りが噴き上がった。
エストはその異変に気付き、恐怖に足がすくんで後ずさる。
「お前は……オレの父さんと母さんが殺された時、何を思った? 守ってきた村人達に囲まれ、裏切られ、切り刻まれた気持ちが……分かるのか?」
ガイエンはヘルギを抜き放ち、その冷たく光る剣先をエストへと突きつけた。
「やめて、ガイエン……お願い!」
エストは尻餅をつき、震える足で立ち上がることもできず涙をこぼしながら懇願した。
「ガイエン兄ちゃん! 何? 何? 何をする気? もうこれ以上、嫌だよぅ!」
ティアは半狂乱で泣き叫び、恐怖に縛られた小さな体で必死に声を絞り出した。
だが……ガイエンの耳には、届かない。
彼は、無言でエストに迫る。
復讐の炎が、彼の理性を焼き尽くしていた。
「やめて……ガイエン……」
エストの声はか細く、絶望に呑まれていく。
彼女はもはや、抗う力すら失っていた。
「父さんと母さんが味わった恐怖を……その身で感じて、死ね!」
その瞬間、ガイエンの心の中で最後の鎖が千切れた。
彼は一瞬の躊躇もなく、ヘルギをエストの胸に突き立てた。
刃が肉を裂く鈍い音とともに、彼女の首元で深紅のペンダントが血に染まり一瞬だけ不気味に輝いた。
「いやぁぁぁぁ!」
ティアの絶叫が、夜空を切り裂いた。
幼い少女の悲鳴は、燃え盛る村の中で虚しく響き渡る。
ガイエンはその声を聞き、一瞬だけ悲哀の影が瞳をよぎった。
が……次の瞬間には、彼は無慈悲に剣を引き抜いた。
そしてガイエンは、母からもらったエストとお揃いのペンダントをまるで忌まわしい記憶を振り払うように首から引きちぎり、好きだった女の子の血で汚れた冷たい地面に叩きつけた。
幼馴染の血で染まった顔で一瞬だけ笑ったガイエンは、エストが倒れ伏す姿を見ようともせず炎の海へと歩を進めた。
ティアの絶叫を背中で聞き、逃げ惑う村人達を次々と斬り捨てながら……
やがて彼の身体は村人の返り血で真っ赤に染まり、まるで血の亡魂と化していた。
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