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紅の剣士と恐怖の剣
赤き悲劇6
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ガイエンの刃がエストの胸を貫いた瞬間、彼女の血がティアの手に滴り落ちた。
熱い……けれど、その熱はすぐに冷たさに変わりティアの心を凍らせた。
エストの掠れた声がティアの耳に届くたび、彼女の小さな世界が崩れていく音がした。
エストの手には、ガイエンから贈られた赤いペンダントが握られていた。
血に濡れた指が震え、宝石は真っ赤に染まって見えなかった。
ティアは、その手を握りしめる。
姉の手が冷たくなっていく感触に、心が裂けた。
「ティア……この……ペンダントを……持って…行って……」
エストの声は途切れ、血と涙に塗れて消えそうだった。
「これには……人の心を……保つ力が……あるはずなのに……私……なんで……こんな時に……持ってなかったんだろう……」
ティアは、言葉を失った。
ただエストの瞳を見つめ、彼女の後悔に染まった声に耳を傾けた。
姉の目から溢れる涙がティアの頬に落ちた時、彼女の心は叫んだ。
お姉ちゃん、逝かないで!
私を置いて、逝かないで!
差し出されたペンダントは、エストの血で真っ赤に染まっていた。
宝石の輝きは消え、まるで姉の命そのものがそこに閉じ込められたようだった。
ティアはその血まみれの手を握り、震える指でペンダントを受け取った。
冷たい……重い。
姉の命がこんな小さなものに詰まっているなんて、信じられなかった……
……
ガイエンの両親が襲われる中、エストはティアの震える声から真相を聞いた。
村人達を止める様に訴えるその声は、震えていながら迫真の力が篭っていた。
冷静になっていくにつれ、エストの心は乱れ嵐のように感情が渦巻く。
その時、エストはふと自分の部屋に置き忘れていたペンダントの存在を思い出した。
あの赤の輝きが、何故か頭から離れない。
ペンダントをプレゼントしてくれた時、ガイエンが言っていた……ペンダントには、心を穏やかにする効果があると。
足早に部屋へ戻り、震える手で机の片隅に置いてあるペンダントを掴む。
そして、胸に押し当てるようにして首にかけた。
その瞬間……心の奥底から熱い波が押し寄せ、同時に奇跡のような静寂が訪れた。
まるで荒れ狂う海が一瞬にして静まり、神聖な光に照らされたかのように……
心が、深い安らぎに包まれたのだ。
エストは目を閉じ、深呼吸を一つ。
開いた瞳には迷いの影はなく、鋭く澄んだ光が宿っていた。
彼女は気づいていた……自分がこれまでにないほど冷静に、まるで運命を見透かすように物事を捉えていることを。
エストの胸に燃え上がったのは、揺るぎない決意の炎だった。
家の外ではヨトゥン軍の炎が空を焼き、赤い光がティアの涙を照らした。
家に業火が迫る前に、エストはティアの手を握り外へ飛び出る。
ティアの心は、まだ恐怖と悲しみで埋め尽くされていた。
震える幼き妹の手を強く握り、エストは迷いなく走りだす。
「ガイエン……ガイエンを……助けなきゃ!」
エストの心の中では、ガイエンへの罪悪感と申し訳なさが重くのしかかっていた。
同時に、ヨトゥンに対する深い恨みが彼女の感情を支配していた。
ガイエンと再び巡り会えた瞬間、本当は心の底から嬉しくて謝罪の言葉を口にしたくてたまらなかった。
しかし……父の死を受け入れることができず、その葛藤が彼女を苛んでいた。
複雑に絡み合った感情が、エストの胸の中で渦を巻いていた。
そんな時、ガイエンの表情が目に入った。
まるで悪に飲み込まれているかのようなその姿を見て、エストはいてもたってもいられなくなった。
この場所から、できるだけ早くガイエンを逃がさなければ……そう強く思ってしまったのだ。
その結果、彼女の言葉はガイエンの怒りをさらに煽ることになり、エストは深い後悔に沈む事になった。
……
「ティア……ここにいたら……炎に飲み込まれる! お願い……ガイエンを追って……一緒に逃げて! 私にできる事は……もう、何もないから……」
ティアの手を握る力が徐々に弱々しくなり、姉の命が消えていくのを感じた。
いやだ……お姉ちゃんがいなくなるなんて、いやだ!
ティアは、叫びたかった。
しかし声は喉に詰まり、涙だけが溢れた。
エストがガイエンへの罪悪感に苛まれながらティアを連れ出した時、ティアの心は姉の痛みを映していた。
お姉ちゃんがそんなに苦しんでるなら、私がガイエン兄ちゃんを助けるよ。
でも……どうやって?
私には、何もない。
小さな手には、姉の血と涙しか残っていなかった。
「ゴメンね……ティア……私、もうダメみたい……」
エストの声は、風に散るように儚かった。
「ガイエンを……お願い……私……なんて酷いことを……ガイエンに……ティアに……こんな思いをさせて……私……許されない……」
ティアがペンダントを受け取った瞬間、エストの手から力が抜けた。
彼女の瞳は涙で溢れたまま閉じられ、ティアの前から永遠に消えた。
お姉ちゃん!
ティアの心が、叫んだ。
嗚咽が喉を裂き、胸が張り裂けるほどの痛みが彼女を襲った。
姉の手が冷たくなる感触が、ティアの小さな指に焼き付いた。
もう二度と、温もりは戻らない。
ティアは……泣いた。
いや、泣くという言葉では足りなかった。
彼女の魂が崩れ落ち、涙と一緒にすべてが流れ出した。
大粒の涙が地面に落ち、血と混ざって赤黒い染みを作った。
血まみれのペンダントを握り潰すように抱きしめ、ティアは立ち上がった。
お姉ちゃんは、もういない。
お父さんも、いない。
私の家族が……私の世界が、全部消えた。
涙で滲む視界に、地面から赤い輝きが浮かび上がった。
それはまるで、エストの命がそこに宿っているかのように脈打っていた。
ティアの心は締め付けられ、再び嗚咽が漏れた。
「これ……同じペンダント……」
無意識に、ガイエンが捨てたそのペンダントを拾い上げる。
姉が、命と涙で託したものと同じだった。
ティアはその冷たい感触に触れ、エストの笑顔を思い出した。
優しかった姉、いつもそばにいてくれた姉。
その姉が、もういない。
ティアの胸は空っぽになり、涙が止まらなかった。
1人になっちゃった……他には、誰もいない。
彼女はペンダントを握り締め、嗚咽を噛み殺した。
そして、その重さが心を押し潰した。
彼女は、廃墟と化した村の中を歩き出した。あてもなく、ただ足が動くままに。
ペンダントを握る手が震え、その冷たさが心に突き刺さった。
お姉ちゃんの声が、頭の中で響き続ける。
「ティア……お願い……」
何を?
私に、何ができるの?
私には、何もできないよ……
お姉ちゃんを救えなかった私に、何ができるっていうの?
「私……これから、どうすればいいの?」
父の優しい声、姉の温かい手……すべてが炎に飲み込まれ、灰になった。
ティアの小さな身体は、家族を失った虚無感に震えた。
私は、何のために生きてるんだろう?
何で、生き残っているんだろう?
お姉ちゃんが死んだのに、私が生きてる意味なんてあるの?
そんな思いに沈みながら歩いていると、突然、頭に激しい痛みが走った。
逃げ惑う村人の荷物が、ぶつかったのだろう。
膝をつき、視界が暗転する中でティアは意識を失いかける。
僅かに残る意識の中で、ティアは持っていたペンダントを咄嗟にポケットに放り込む。
お姉ちゃん……助けて……
そしてティアは、意識を失った。
逃げ惑う村人たちは、倒れた少女に目を向ける余裕すらなかった。
自分の命が危険に晒されている時に、他人の心配なんてできなかった。
ティアは誰にも気付かれる事なく、ただ冷たい地面に倒れていた。
どれぐらいの時間が経ったのだろう……
再び目を開けた時、ティアの前には更に廃墟と化した村が広がっていた。
焼け焦げた家々、散乱する瓦礫、そして静寂。
家族の笑い声が響いていた場所は、もう何もなかった。
ティアの心は灰と同じくらい冷たく、空っぽだった。
「私……ここで何してたんだっけ? 名前……私の名前……なんだっけ? 何も、思い出せない……」
茫然と立ち尽くすティアの瞳から、涙がこぼれた。
お姉ちゃんの顔も、お父さんの声も、頭から消えかかっていた。
私は誰?
ここはどこ?
私の居場所は、もうどこにもない。
どこに行っていいかも分からない。
帰る場所も、分からない。
悲しみが彼女を飲み込み、足が動かなくなった。
その時、旅の一座の馬車が通り過ぎた。
埃を巻き上げ、遠ざかる音が虚しく響く。
「ねえ……キミ、こんなところで何してるの?」
馬車が止まり、1人の少年が顔を覗かせた。その声は優しく、ティアの凍りついた心に微かな光を投げかけた。
でも、ティアにはそれが届かなかった。
お姉ちゃんじゃない。
お父さんじゃない。
「私……自分の名前も、分からなくて……」
掠れた声でそう呟くと、ポケットに何か硬い感触があることに気づいた。
震える手で取り出すと、固まった血にまみれたペンダントが現れた。
その赤黒い汚れを見つめるうちに、エストの声が頭に響いた。
「ティア……」
涙と後悔に濡れた、姉の声……ティアの心が震えた。
「私……名前……ティア?」
その小さな呟きを聞いて、少年は目を輝かせる。
「ティアちゃんだね! 思い出せて良かった!」
彼は屈託なく笑い、まるで太陽のような明るさで続けた。
「僕は、レイ・ノースラン! よろしくね! こんな場所に、1人でいちゃダメだよ。一緒に行こう! そのペンダント、洗って綺麗にしなきゃね!」
ティアは、言葉なく頷いた。
でも、心は動かなかった。
少年の手が差し伸べられ、彼女はその温かさにすがるように馬車に乗り込んだ。
ペンダントを握る手には、姉の血と涙が染みついたままだった。
私は、お姉ちゃんじゃない。
私には、生きてる意味がない。
ティアの瞳から、涙が静かにこぼれ落ちた。
熱い……けれど、その熱はすぐに冷たさに変わりティアの心を凍らせた。
エストの掠れた声がティアの耳に届くたび、彼女の小さな世界が崩れていく音がした。
エストの手には、ガイエンから贈られた赤いペンダントが握られていた。
血に濡れた指が震え、宝石は真っ赤に染まって見えなかった。
ティアは、その手を握りしめる。
姉の手が冷たくなっていく感触に、心が裂けた。
「ティア……この……ペンダントを……持って…行って……」
エストの声は途切れ、血と涙に塗れて消えそうだった。
「これには……人の心を……保つ力が……あるはずなのに……私……なんで……こんな時に……持ってなかったんだろう……」
ティアは、言葉を失った。
ただエストの瞳を見つめ、彼女の後悔に染まった声に耳を傾けた。
姉の目から溢れる涙がティアの頬に落ちた時、彼女の心は叫んだ。
お姉ちゃん、逝かないで!
私を置いて、逝かないで!
差し出されたペンダントは、エストの血で真っ赤に染まっていた。
宝石の輝きは消え、まるで姉の命そのものがそこに閉じ込められたようだった。
ティアはその血まみれの手を握り、震える指でペンダントを受け取った。
冷たい……重い。
姉の命がこんな小さなものに詰まっているなんて、信じられなかった……
……
ガイエンの両親が襲われる中、エストはティアの震える声から真相を聞いた。
村人達を止める様に訴えるその声は、震えていながら迫真の力が篭っていた。
冷静になっていくにつれ、エストの心は乱れ嵐のように感情が渦巻く。
その時、エストはふと自分の部屋に置き忘れていたペンダントの存在を思い出した。
あの赤の輝きが、何故か頭から離れない。
ペンダントをプレゼントしてくれた時、ガイエンが言っていた……ペンダントには、心を穏やかにする効果があると。
足早に部屋へ戻り、震える手で机の片隅に置いてあるペンダントを掴む。
そして、胸に押し当てるようにして首にかけた。
その瞬間……心の奥底から熱い波が押し寄せ、同時に奇跡のような静寂が訪れた。
まるで荒れ狂う海が一瞬にして静まり、神聖な光に照らされたかのように……
心が、深い安らぎに包まれたのだ。
エストは目を閉じ、深呼吸を一つ。
開いた瞳には迷いの影はなく、鋭く澄んだ光が宿っていた。
彼女は気づいていた……自分がこれまでにないほど冷静に、まるで運命を見透かすように物事を捉えていることを。
エストの胸に燃え上がったのは、揺るぎない決意の炎だった。
家の外ではヨトゥン軍の炎が空を焼き、赤い光がティアの涙を照らした。
家に業火が迫る前に、エストはティアの手を握り外へ飛び出る。
ティアの心は、まだ恐怖と悲しみで埋め尽くされていた。
震える幼き妹の手を強く握り、エストは迷いなく走りだす。
「ガイエン……ガイエンを……助けなきゃ!」
エストの心の中では、ガイエンへの罪悪感と申し訳なさが重くのしかかっていた。
同時に、ヨトゥンに対する深い恨みが彼女の感情を支配していた。
ガイエンと再び巡り会えた瞬間、本当は心の底から嬉しくて謝罪の言葉を口にしたくてたまらなかった。
しかし……父の死を受け入れることができず、その葛藤が彼女を苛んでいた。
複雑に絡み合った感情が、エストの胸の中で渦を巻いていた。
そんな時、ガイエンの表情が目に入った。
まるで悪に飲み込まれているかのようなその姿を見て、エストはいてもたってもいられなくなった。
この場所から、できるだけ早くガイエンを逃がさなければ……そう強く思ってしまったのだ。
その結果、彼女の言葉はガイエンの怒りをさらに煽ることになり、エストは深い後悔に沈む事になった。
……
「ティア……ここにいたら……炎に飲み込まれる! お願い……ガイエンを追って……一緒に逃げて! 私にできる事は……もう、何もないから……」
ティアの手を握る力が徐々に弱々しくなり、姉の命が消えていくのを感じた。
いやだ……お姉ちゃんがいなくなるなんて、いやだ!
ティアは、叫びたかった。
しかし声は喉に詰まり、涙だけが溢れた。
エストがガイエンへの罪悪感に苛まれながらティアを連れ出した時、ティアの心は姉の痛みを映していた。
お姉ちゃんがそんなに苦しんでるなら、私がガイエン兄ちゃんを助けるよ。
でも……どうやって?
私には、何もない。
小さな手には、姉の血と涙しか残っていなかった。
「ゴメンね……ティア……私、もうダメみたい……」
エストの声は、風に散るように儚かった。
「ガイエンを……お願い……私……なんて酷いことを……ガイエンに……ティアに……こんな思いをさせて……私……許されない……」
ティアがペンダントを受け取った瞬間、エストの手から力が抜けた。
彼女の瞳は涙で溢れたまま閉じられ、ティアの前から永遠に消えた。
お姉ちゃん!
ティアの心が、叫んだ。
嗚咽が喉を裂き、胸が張り裂けるほどの痛みが彼女を襲った。
姉の手が冷たくなる感触が、ティアの小さな指に焼き付いた。
もう二度と、温もりは戻らない。
ティアは……泣いた。
いや、泣くという言葉では足りなかった。
彼女の魂が崩れ落ち、涙と一緒にすべてが流れ出した。
大粒の涙が地面に落ち、血と混ざって赤黒い染みを作った。
血まみれのペンダントを握り潰すように抱きしめ、ティアは立ち上がった。
お姉ちゃんは、もういない。
お父さんも、いない。
私の家族が……私の世界が、全部消えた。
涙で滲む視界に、地面から赤い輝きが浮かび上がった。
それはまるで、エストの命がそこに宿っているかのように脈打っていた。
ティアの心は締め付けられ、再び嗚咽が漏れた。
「これ……同じペンダント……」
無意識に、ガイエンが捨てたそのペンダントを拾い上げる。
姉が、命と涙で託したものと同じだった。
ティアはその冷たい感触に触れ、エストの笑顔を思い出した。
優しかった姉、いつもそばにいてくれた姉。
その姉が、もういない。
ティアの胸は空っぽになり、涙が止まらなかった。
1人になっちゃった……他には、誰もいない。
彼女はペンダントを握り締め、嗚咽を噛み殺した。
そして、その重さが心を押し潰した。
彼女は、廃墟と化した村の中を歩き出した。あてもなく、ただ足が動くままに。
ペンダントを握る手が震え、その冷たさが心に突き刺さった。
お姉ちゃんの声が、頭の中で響き続ける。
「ティア……お願い……」
何を?
私に、何ができるの?
私には、何もできないよ……
お姉ちゃんを救えなかった私に、何ができるっていうの?
「私……これから、どうすればいいの?」
父の優しい声、姉の温かい手……すべてが炎に飲み込まれ、灰になった。
ティアの小さな身体は、家族を失った虚無感に震えた。
私は、何のために生きてるんだろう?
何で、生き残っているんだろう?
お姉ちゃんが死んだのに、私が生きてる意味なんてあるの?
そんな思いに沈みながら歩いていると、突然、頭に激しい痛みが走った。
逃げ惑う村人の荷物が、ぶつかったのだろう。
膝をつき、視界が暗転する中でティアは意識を失いかける。
僅かに残る意識の中で、ティアは持っていたペンダントを咄嗟にポケットに放り込む。
お姉ちゃん……助けて……
そしてティアは、意識を失った。
逃げ惑う村人たちは、倒れた少女に目を向ける余裕すらなかった。
自分の命が危険に晒されている時に、他人の心配なんてできなかった。
ティアは誰にも気付かれる事なく、ただ冷たい地面に倒れていた。
どれぐらいの時間が経ったのだろう……
再び目を開けた時、ティアの前には更に廃墟と化した村が広がっていた。
焼け焦げた家々、散乱する瓦礫、そして静寂。
家族の笑い声が響いていた場所は、もう何もなかった。
ティアの心は灰と同じくらい冷たく、空っぽだった。
「私……ここで何してたんだっけ? 名前……私の名前……なんだっけ? 何も、思い出せない……」
茫然と立ち尽くすティアの瞳から、涙がこぼれた。
お姉ちゃんの顔も、お父さんの声も、頭から消えかかっていた。
私は誰?
ここはどこ?
私の居場所は、もうどこにもない。
どこに行っていいかも分からない。
帰る場所も、分からない。
悲しみが彼女を飲み込み、足が動かなくなった。
その時、旅の一座の馬車が通り過ぎた。
埃を巻き上げ、遠ざかる音が虚しく響く。
「ねえ……キミ、こんなところで何してるの?」
馬車が止まり、1人の少年が顔を覗かせた。その声は優しく、ティアの凍りついた心に微かな光を投げかけた。
でも、ティアにはそれが届かなかった。
お姉ちゃんじゃない。
お父さんじゃない。
「私……自分の名前も、分からなくて……」
掠れた声でそう呟くと、ポケットに何か硬い感触があることに気づいた。
震える手で取り出すと、固まった血にまみれたペンダントが現れた。
その赤黒い汚れを見つめるうちに、エストの声が頭に響いた。
「ティア……」
涙と後悔に濡れた、姉の声……ティアの心が震えた。
「私……名前……ティア?」
その小さな呟きを聞いて、少年は目を輝かせる。
「ティアちゃんだね! 思い出せて良かった!」
彼は屈託なく笑い、まるで太陽のような明るさで続けた。
「僕は、レイ・ノースラン! よろしくね! こんな場所に、1人でいちゃダメだよ。一緒に行こう! そのペンダント、洗って綺麗にしなきゃね!」
ティアは、言葉なく頷いた。
でも、心は動かなかった。
少年の手が差し伸べられ、彼女はその温かさにすがるように馬車に乗り込んだ。
ペンダントを握る手には、姉の血と涙が染みついたままだった。
私は、お姉ちゃんじゃない。
私には、生きてる意味がない。
ティアの瞳から、涙が静かにこぼれ落ちた。
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