雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

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紅の剣士と恐怖の剣

決意の夜明け2

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 オゼス村の郊外に辿り着いた瞬間、航太たちは凍りついた。

 林の中、道端、民家の軒先……視界の全てが、死で埋め尽くされていた。
 騎士の亡骸、幼子の小さな身体、女性の絶望に歪んだ顔……年齢も性別も関係なく、無慈悲に斬り捨てられた命が大地を染めていた。

「酷い……こんなこと……ここまでする必要があるの?」

 智美の声は震え、涙が頬を伝った。
 彼女の身体は恐怖と悲しみで硬直し、誰とも知れぬ相手に叫ぶように呟く。
 一真もその場に立ち尽くし、目を背けることすらできなかった。

 身動きのできない航太達を背に、ゼーク隊の隊員たちは黙々と生存者の救出に動き出す。

「これが……本当の戦争なんだ。私……軽い気持ちで、ここに来ちゃったけど……こんなの……」

 絵美の声も震え、普段の明るさが消え失せている。
 航太の頭の中は、混乱と絶望で渦巻いていた。

(神話の世界が、戦いの世界って事は聞いていた。けど……本当に命の危険があるなんて、考えてもいなかった。オレは……オレ達は、どうすればいいんだ?)

 まだ、この世界に足を踏み入れたばかりだ。
 智美や絵美の涙を見れば、ここに留まることなどできない。
 帰るべきだ……今なら、同じ方法で帰れる筈だ。
 自分が……智美や絵美達が、死ぬかもしれないなんて……そんな事、微塵も考えていなかった。
 しかし、その考えを覆す現実が目の前に広がっている。
 だが……航太の胸には、燃え尽きない葛藤が渦巻いていた。

(このまま、帰っていいのか? だが……オレたちが命を懸けたって、戦争が終わるわけじゃない……帰るのが正解だ!)

 決意を固めた航太に、ゼークが静かに近づいた。

「航太さん、客人なのに、こんな目に遭わせてしまって……ごめんなさい。もう少ししたら、休める場所を……」

「待ってくれ!」

 航太はゼークの言葉を遮って、自分でも思いもしない大声で叫んでいた。

「オレたち、帰るよ! 戦うなんて……無理だ! 戦争なんて、無縁の場所から来たんだ……こんな惨状を見るのは、皆んな耐えきれないんだ!」

 声が震え、葛藤が溢れ出す。
 ゼークは綺麗な銀髪をかきあげ、鋭い視線で応えた。

「その気持ち……分かるよ。こんな地獄を見れば、誰だってそう思う。私達だって、慣れてる訳じゃない。こんな殺戮が起きない様に、皆んな必死に戦ってる。でも、ヨトゥン軍を……クロウ・クルワッハを止めないと、この村と同じ惨劇が繰り返される。逃げたら逃げただけ、助かる人が少なくなるのよ……」

「分かってる! この戦場を……戦場になった村を見れば、何かしなきゃって思う! でもオレ達は、こんな血と死の世界とは無縁だったんだよ! オレ達がこの世界で、出来る事なんてない。無駄に、命を落とすだけ……だったら、逃げたっていいだろ!」

 航太の声が、空を切り裂いた。

「目を背けたくなる気持ち……分かるよ。でもね……背けた先に、何があるの? この村が自分と関係ないからって、見捨てられる? この子達の叫びが……守りたくても守れなかった人達の声が……私の耳に響いてる。聞こえないふりなんて、私にはできない」

 ゼークの言葉が刃のように突き刺さり、航太は唇を噛み潰した。

「貴方たちは、神話騎士なんだよ……神剣に選ばれたMyth Knightなんだ。神剣は、そう何本もあるものじゃないの。それに選ばれた貴方たちが戦わなければ、人間は……ここで死んだ村人達は、誰に希望を託せばいいの? 悔しいけど、神剣は私を選んでくれなかった。神剣に選ばれたのに、逃げ出すなんて悲しい事……言わないで……」

 年下の少女に魂を貫かれ、航太は言葉を失った。

 神剣に守られていたから戦えた……
 自分達を守ってくれようとした騎士達は、あまりに呆気なく殺されていった。
 ただの人間が、ガイエンやヨトゥンに挑む無謀さも理解できた。
 それでも命を賭ける決断、人の命を奪う覚悟……そんな重荷を、背負えるはずがなかった。
 その決断が、幼馴染を危険に晒す事も……

「私は……戦う!」

 悩んでいる航太の横から、突然大声が聞こえた。
 智美が、雷鳴のように叫んでいたのだ。
 普段は冷静で静かな智美の大声に、航太は目を剥いた。

「智美……ここは、アニメや映画の世界じゃない! 本当に、死ぬかもしれないんだぞ!」

「分かってる! そして、この村の惨状もリアルなんだって……でも、戦争が続く限り終わらないんでしょ? ガイエンも、この村の人たちも……戦争が無ければ、こんな悲惨な事が起こらなくなるんだから! もし私に、戦争を止める力が……一刻も早く終わらせる手伝いが出来るのなら、私は戦う!」

 智美の瞳は涙に濡れながらも、炎のように燃えていた。
 その手に握られた草薙剣と天叢雲剣が、智美の決意を感じて静かに輝きを増す。

「そうだよ、航兄。知らなかったら、関係なかったかもしれない。でも、知ってしまった……オレ達が戦いから逃げても、この世界の戦いは続く。見えてないだけで、この村と同じ事が繰り返されるんだ。守る為の力を、航兄は持っているだろ!」

 一真は、航太の持つエアの剣を指差した。

「おいおい……現実を見ろ! ガイエン1人にすら、ゼークさんやエリサさんの助けがなきゃ全滅だったんだぞ! 死んでいても、おかしくなかった。神剣を持ってる……使えるっていっても、所詮素人だ! 何もできやしねぇよ!」

 航太の叫びは、仲間を失う恐怖に震えていた。

「私も……この惨劇を見て、関係ないなんて言えないよ。現実なのか夢なのかも分からない世界だけど、ここに生きる人たちは本物なんだよ。私達を守ってヨトゥン兵に殺されちゃった騎士さん達にも、私は報いたい」

 絵美も涙を堪え、真剣に訴えた。

「航太さんが素人なのも、他の皆んなも戦いに慣れてないのは分かったわ。でも……その素人がガイエンと打ち合い、私が駆け付けるまで戦い抜いた。訓練された騎士が、ヨトゥン兵に倒されたのに……貴方はそのヨトゥン兵を指揮するガイエンに、押されてたにしても戦って生き延びたのよ。Myth Knightとしての力は、本物だと思うわ」

 今にして思うと、熟練の剣士であるガイエンと戦って生き延びた事……それはやはり、奇跡だと思う。
 Myth Knightという存在は……神剣に認められるという事は、やはり特別な事なのだろう。
 オゼス村の惨劇……それを繰り返さない為にも、神剣の力が必要だ。

「航ちゃん、強くなろう。私たちは、殺すんじゃない。神の剣で……圧倒的な力で、被害を食い止めるような戦い方をしてみようよ。難しいとは思うけど……神剣があれば、いつでも帰れるんだから! 今できる事、してみよう!」

 智美の言葉が乾いた心に轟き、航太は目を閉じた。
 そして長い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。
 剣を振れば、帰れる。
 その事実にすがり、彼は決意を固めた。

(強くなれば、救える命も多くなるって事だ。だが……自分の身も、皆んなの命も守らなきゃいけねぇ! 気合い入れろ、オレ!)

 航太は頬を叩き、その決意を新たにする。

「大丈夫だよ……私たちが、Myth Knight達を命懸けで守る! 貴方たちは、救世主になる可能性を秘めているんだから!」

 ゼークがウインクし、始めて少女らしい笑みを初めて浮かべた。
 その瞬間、太陽が雲を突き破り彼らの決意に眩い光を投げかけた。

(とりあえず……寝よう。頬を叩いたからって、眠気は覚めねぇ……気持ち切り替えて、全てはそこからだ)

 航太は全身から力が抜け、魂が抜け殻のようになった。
 太陽が高く昇り始め、彼らの新たな戦いの幕開けを照らし出していた。
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