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プロローグ
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ひぐらしが夏の終わりを知らせる頃、妻の日和が二十五歳の若さで亡くなった。
日和の葬儀は、雷鳴と豪雨が町をかき乱す嵐の日に執り行われた。荒々しい雨音が、古びた斎場に響き渡っていた。
葬儀中は一滴の涙も出てこなかった。喪服をまとった親族を見ても、むせ返るような線香の匂いを嗅いでも、全く心が動かない。悲しいという感情がどういうものなのか分からなくなっていた。
棺を覗くと、真っ白な日和が横たわっている。数日前まで呑気に笑っていたのが嘘のようだ。
この世界から日和がいなくなったなんて、未だに信じられない。悪い夢なんじゃないかと何度も疑った。しかし、夢が冷めることはなかった。
俺の腕の中では、赤ん坊が泣き喚いている。生後五か月の一人娘、朝陽だ。
「朝陽、静かにしろ」
ぼんやりとした頭で窘めるも、朝陽は泣き止まない。顔を真っ赤にしながら、大粒の涙を流していた。それはまるで、不甲斐ない俺を責め立てているようにも聞こえた。
厳粛な空気の中、朝陽の泣き声が場違いに響き渡る。周囲の大人達は、チラチラとこちらの様子を伺っていた。早く泣き止ませろと言いたげな視線だ。
だけど俺は、これ以上朝陽をあやす気にはなれなかった。どんなにあやしても、朝陽は泣き止まないような気がしたからだ。
俺は一体どこで間違えたのだろう? 祭壇の上で穏やかに微笑む日和を見つめながら、ぼんやりと考えていた。
日和の葬儀は、雷鳴と豪雨が町をかき乱す嵐の日に執り行われた。荒々しい雨音が、古びた斎場に響き渡っていた。
葬儀中は一滴の涙も出てこなかった。喪服をまとった親族を見ても、むせ返るような線香の匂いを嗅いでも、全く心が動かない。悲しいという感情がどういうものなのか分からなくなっていた。
棺を覗くと、真っ白な日和が横たわっている。数日前まで呑気に笑っていたのが嘘のようだ。
この世界から日和がいなくなったなんて、未だに信じられない。悪い夢なんじゃないかと何度も疑った。しかし、夢が冷めることはなかった。
俺の腕の中では、赤ん坊が泣き喚いている。生後五か月の一人娘、朝陽だ。
「朝陽、静かにしろ」
ぼんやりとした頭で窘めるも、朝陽は泣き止まない。顔を真っ赤にしながら、大粒の涙を流していた。それはまるで、不甲斐ない俺を責め立てているようにも聞こえた。
厳粛な空気の中、朝陽の泣き声が場違いに響き渡る。周囲の大人達は、チラチラとこちらの様子を伺っていた。早く泣き止ませろと言いたげな視線だ。
だけど俺は、これ以上朝陽をあやす気にはなれなかった。どんなにあやしても、朝陽は泣き止まないような気がしたからだ。
俺は一体どこで間違えたのだろう? 祭壇の上で穏やかに微笑む日和を見つめながら、ぼんやりと考えていた。
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