歪んだ愛はお断りします ~断罪ルートを回避した悪役令息は、鬼畜寮長に囚われる~

南 コウ

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1章

6.寮での生活が始まる

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 ガーネット寮に戻ってきてからは、新入生を集めて寮を案内してもらった。

 まず案内されたのは、生徒が寝起きする部屋だ。通常はランダムでペアになるそうだが、僕らは双子ということもあり同室になった。
 ちなみにゲームでは、リオンはルーカスと同室になるはずだった。その展開にはならなかったのは、実に惜しい……。
 割り当てられた部屋はベッドと勉強机だけがある簡素な内装だが、休息をとるために使うのならば十分だろう。

 次に案内されたのは大浴場だ。寮には各部屋に浴槽は備え付けられていないため、生徒たちは決められた入浴時間に大浴場を利用するらしい。
 先輩から説明を受けている最中に、リオンから耳元で「入浴は人の少なくなった時間帯に済ませよう」と言われた。理由を尋ねてもだんまり。まあ、空いている方が楽だから、それでいいんだけど。

 その後に案内されたのは食堂だ。寮生たちは、朝晩は一階の食堂に集まって食事をとるそうだ。長テーブルが三列になって並んでいて、部活の合宿を思わせるような雰囲気だった。

 一通り施設を案内してもらったところで、寮ツアーは終了した。新入生が自室に戻って行く中、副寮長のロランがこちらに手招きする。

「リオン・マクミラン、少し話がある」

 深刻そうな顔をするロランと、警戒心を露わにするリオン。甘いムードとはほど遠いけど、もしやこれはロランとの恋愛イベントか? それなら僕は、お邪魔しないように退散しよう。

 リオンと別れて部屋に戻ろうとしたところで、両手いっぱいに皿を持っている茶髪の少年を見かけた。年齢は12歳くらいだろうか。制服ではなくコック服を着ているから、学園の生徒ではなさそうだ。
 スープを運びながら、危なげに歩く彼に見かねて声をかけた。

「大丈夫? 手伝おうか?」

 声をかけると、少年はギョッとしたように振り返る。

「い、いえっ! 寮生の方に手伝っていただくなんてとんでもない! これは僕の仕事ですから!」

 手元ではスープの入った皿がぐらぐら揺れている。今にもこぼれそうだ。

「だけど、そんなにいっぺんに運んだら危ないよ。ほら、皿を二枚貸して」

 躊躇ってる少年から、ひょいっと皿を奪う。

「食堂に運べばいい?」
「あ、はい。ですが……」
「いいから、いいから」

 申し訳なさそうに眉を下げる少年に笑いかけてから、僕は食堂へとスープを運んだ。

「あの、すいません。手伝わせてしまって……」
「全然気にしなくていいよ。これって、僕らの夕食でしょ? 運ぶのくらい手伝うよ」

 手伝いを申し出ると、少年は信じられないと言わんばかりに目を見開く。
 そんな反応をしたくなる気持ちもわかる。この学園に通っているのは、貴族の子息だ。率先して使用人の真似事をしようという者はいないだろう。

 だけど前世の記憶を取り戻した僕は、良くも悪くも貴族のプライドがない。給仕を手伝うことに何ら抵抗を持っていなかった。
 気にすんな、と笑顔を見せると、少年は僅かに頬を緩めた。

「ありがとうございます。僕はコーディって言います。今日から寮のお手伝いをすることになったんですけど、不慣れな点が多くて、ご迷惑ばかりかけてしまっているんです……」
「初日なら不慣れなことが多いのも仕方ないんじゃないか? これから仕事を覚えていけばいいでしょ」

 そう励ますと、コーディは目を輝かせながら笑った。

「はいっ!」

 それからもコーディと一緒に皿を運んでいると、食堂にルーカスがやってきた。

「アレンじゃないか。何やってんだ?」

 両手に皿を持つ僕を見て、ルーカスは不思議そうに首を傾げる。

「夕食を運ぶ手伝いをしているんだ。なんだか人手不足だったから」

 そう説明すると、ルーカスは顎に手を添えながらにやりと笑う。

「ははん。分かったぞ。寮長への点数稼ぎだな」

 ルーカスは、自分の首元を指さす。その仕草で魔法の首輪のことだと察した。

 別に寮長への点数稼ぎのために手伝っていたわけではないけど、そういうやり方もあるのか。寮での雑用を率先して引き受けていけば、僕が善良な生徒であると証明できるかもしれない。そう企んでいたものの、ルーカスの言葉であっさりと打ち砕かれた。

「けど、残念だったな。先輩から聞いた話だけど、寮長は食堂では食事をとらないらしい。いつも自分で用意したものを部屋で食べているそうだ」
「えっ!? そうなの?」
「ああ、だから給仕の手伝いをしている姿を寮長に見せるのは無理だな」

 自室で食べているというのは初耳だ。てっきりダミアンもみんなと夕食をとると思っていたから。

「一人だけ自室で別メニューって、優遇され過ぎじゃない?」

 いくら寮長だからって、自分だけ特別メニューなんてズルイ。むむっと顔をしかめていると、ルーカスに笑われた。

「寮長特権ってやつだろう。寮長の部屋も一般生徒より広いらしいし」
「ズルイっ! これが格差社会か!」

 大袈裟に悔しがっていると、ルーカスは腹を抱えて笑った。
 そんなやりとりをしているうちに、他の寮生も食堂に集まってきた。その中には、リオンの姿もある。

「兄さん、こんな所にいたんだ。部屋に戻っていないから心配したよ」
「ああ、ごめん。給仕の手伝いをしていた」
「まったく兄さんは……相変わらずお人よしなんだから」

 リオンは悩まし気に額を押さえていた。へらりと笑っていると、ふとリオンがロランに呼び出されていたことを思い出す。

「そういえば、ロラン先輩と何を話していたんだ?」
「……別に。ただの世間話だよ」

 リオンは、視線を落としながら素っ気なく答えた。
 それは、世間話という名の、恋愛イベントでは?

「とにかく、兄さんは学園内でも僕の傍から離れないでね」

 リオンは、念押しするように言う。離れないでということは、この先発生する恋愛イベントを傍で見守れるということか。それは大歓迎だ。

「もちろん。僕ら双子は、いつだって一緒だ!」

 にっと笑いながら言うと、リオンは小さくため息をついた。

「……約束だよ」

 寮生が集まると、夕食が始まる。同じテーブルについたのは、奇しくも攻略対象たちだった。
 僕の隣には、リオンとルーカス。正面にはクライドとフレッドがついた。
 なんて美味しいシチュエーションなんだ。これは、リオンと攻略対象たちの親密度を深めるチャンスだ。

「兄さん、なにニヤニヤしているの?」

 リオンから指摘されて、ハッと表情を引き締める。いかん、いかん。邪念が滲み出てしまった。平静を装わなければ。
 こほんっと咳払いをしてから、晴れやかな笑みを浮べる。

「なんでもないよ。それより入学初日の晩餐だし、みんなと親睦を深めよう」

 良き兄らしく提案をしたものの、リオンはつんとした態度で顔を背けた。

「必要ないよ。そんなの」

 んんんっ!? なんだか思っていた反応と違う。もしやまたフラグをへし折ろうとしている?
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