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1章
7.貴様、男の身体に興味があるのか?
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「おかしい……」
大浴場の湯に浸かりながら、僕は腕組みをしていた。
リオンはBLゲームの主人公だというのに、攻略対象たちと恋に落ちる気配がない。それどころか交流を拒んでいるようにも見える。
もともとリオンは、人付き合いに慎重なところはあるが、不愛想なタイプではなかったはずだ。原作では、ひとりぼっちでどこか影のあるリオンに魅了され、攻略対象たちが次々と声をかけていたっけ。そんな彼らに心を開いていくのだが、今のリオンときたら驚くほど塩対応だ。粗塩だ。
一体、どうしてこうなってしまったのだろう? もしかして僕がリオンの傍にいるせいで、人格が変わってしまったのか?
隣で湯に浸かるリオンに視線を向ける。雪のような白い頬は、湯に浸かったせいで赤く火照っていた。
視線を落とせば、綺麗なうなじがある。あのうなじにむしゃぶりつきたい男はたくさんいるだろう。リオンの心の壁を打ち砕くような、圧倒的な攻めが現れればいいのに……。
「兄さん、なにじろじろ見ているの?」
「べ、別にぃ~……。じろじろなんて……」
邪な目で見ていたのがバレてしまったか? 慌てて視線を逸らし、誤魔化した。
安心してくれ。僕は、リオンに欲情することはない。うなじを見せつけられたからって、感情をかき乱されることはないぞ。
僕らは兄弟だし、当然だろう。ここはBLゲームの世界だけど、アレン×リオンのカップリングが成立することはあり得ない。
それに僕は腐男子だけど、男性が恋愛対象というわけでもない。そりゃあ格好いい男を見ればテンションが上がるけど、男が好きなのかと聞かれると首を傾げてしまう。
前世でも恋愛経験は皆無だった。恋愛なんてしなくても毎日楽しいし、恋人を作る必要性を感じなかったからだ。
転生した今でも、その感覚は抜けていない。人生二周目でも、リアルな恋愛はよく分からなかった。
「兄さんはさ、警戒心がなさ過ぎだよ」
考えこんでいると、湯に浸かったリオンが膝を抱えながら切り出す。
「そうか?」
「うん。見ていて心配になる。世の中、良い人ばかりじゃないんだから、誰にでも心を開くのはやめた方がいいよ」
良い人ばかりではないというのは、確かにその通りなのだろうけど、あまり危険なことをしている自覚はなかった。寮の先輩だってクラスメイトだって悪い人ではない。関わることには、なんら問題がないように思えるけど……。
腑に落ちないまま押し黙っていると、リオンがその場で立ち上がる。
「とにかく、もっと危機感を持ってよね。兄さんは、自分が思っている以上に魅力的なんだから」
そう言い残すと、リオンは浴槽からあがって、脱衣所に向かった。ひとり取り残された僕は、ザブンと深く湯に浸かる。
「危機感を持つ、かぁ……」
僕は、できることならみんなと仲良くなりたい。攻略対象の誰かと恋仲になりたいとは思わないけど、友達くらいにはなりたいと思っている。
せっかく憧れの魔法学校に入学したんだ。学園生活を楽しまなければ損じゃないか。それに弟のリオンにも、僕と同じく、いやそれ以上に学園生活を楽しんでもらいたかった。
そのためには、積極的に人に歩み寄るのが一番だと思うんだけど、リオンに言わせれば警戒心がなさ過ぎる行動なのかもしれない。
人付き合いに慎重になるのは、貴族特有の考え方なのかもしれないけど、前世の価値観の方が深く根付いている僕にとっては、ちょっと理解ができなかった。
リオンの言葉を脳内で反芻していると、脱衣所から物音が聞こえてくる。リオンは既に部屋に戻ったようだから、別の寮生だろう。こんな遅い時間に人が入ってくるとは思わなかったからちょっと驚いている。
様子を窺っていると、ガラリと音を立てて扉が開く。そこには、意外な人物が立っていた。
「……寮長?」
ブロンドの長い髪に、冷徹さを感じさせる面持ち。間違いない。寮長のダミアンだ。
向こうもすぐにこちらの存在に気付き、不機嫌そうに眉を顰めた。
「なんだ。まだ入っている奴がいたのか」
「す、すいません……」
反射的に謝ってしまった。だけどまだ入浴時間内だから、怒られるいわれはない。
ここで出て行くのも癪だから、もう少し湯に浸かっていることにした。
ダミアンは、浴槽に近付くと、桶で湯をすくって肩からかける。その一連の動作が様になっていたせいで、まじまじと観察してしまった。
日中は束ねていた髪は、解いて下ろしている。ブロンドの髪を揺らしながら身体に湯をかける仕草は、聖なる泉で神が身を清めているようだった。
制服を着ている時は細身に見えた身体も、服を脱げば鍛えあげられていることに気付く。腹部には六つの隆起が浮かび上がっていて、二の腕も引き締まっていた。腰巻から覗く脚は、驚くほど長い。良い体つきをしているんだなぁと見惚れてしまった。
「……貴様、男の身体に興味があるのか?」
ダミアンから、気持ち悪い虫でも見るような視線を向けられる。指摘された途端、顔面が発火しそうになった。
「な、ななななっ、なんで……」
じろじろ見ていたせいでバレたか? 口をぱくぱくさせながら慌てふためいていると、ダミアンは自身の首元を指さした。
「貴様の考えていることはお見通しだ」
そこで一つの可能性に気付く。まさか、この首輪をつけているせいで、心を読まれている?
首輪に触れながらダミアンの反応を窺うと、「そうだ」と静かに頷いた。
なんということだ……。行動を監視されて、魔法を封じられているうえに、心の中まで覗かれているなんて……。
衝撃的な事実を知って震え上がっていると、ダミアンは呆れたようにため息をついた。
「安心しろ。心が読めるのは、顔を合わせている時だけだ。読まれたくなければ、俺とあまり関わり合いにならないことだな」
四六時中読まれているわけではないのか。それならダミアンと会わなければいいだけだ。
対処法を知っていくぶん気が楽になったところで、ダミアンが湯に浸かろうと足を上げた。次の瞬間、ダミアンが腰に巻いていた布がはらりと床に落ちる。
「……っ……!?」
言葉にならないとは、このことだ。圧倒的な差を見せつけられてしまった。
一糸まとわぬ姿をまじまじと凝視していると、ダミアンは顔を赤くしながら僕を睨みつけた。
「出てけ。貴様のふしだらな思考には付き合っていられない」
「いい、い、言われなくても出て行きますよ~」
いたたまれなくなって、僕は大浴場から逃げ出した。
涙目になりながら急いで衣服をまとい、ダッシュで部屋まで戻る。体当たりするように部屋に飛び込むと、リオンにギョッとした顔をされた。
「どうしたの? 兄さん」
「うううぅ……」
リオンの言葉を無視して、僕はベッドに倒れこむ。先ほどの出来事を思い出して、枕に顔を埋めていた。
心を読まれているということは、僕のふしだらな妄想もダミアンに筒抜けというわけだ。
これは一刻も早く首輪を外してもらわないと、僕の尊厳が破壊される。
大浴場の湯に浸かりながら、僕は腕組みをしていた。
リオンはBLゲームの主人公だというのに、攻略対象たちと恋に落ちる気配がない。それどころか交流を拒んでいるようにも見える。
もともとリオンは、人付き合いに慎重なところはあるが、不愛想なタイプではなかったはずだ。原作では、ひとりぼっちでどこか影のあるリオンに魅了され、攻略対象たちが次々と声をかけていたっけ。そんな彼らに心を開いていくのだが、今のリオンときたら驚くほど塩対応だ。粗塩だ。
一体、どうしてこうなってしまったのだろう? もしかして僕がリオンの傍にいるせいで、人格が変わってしまったのか?
隣で湯に浸かるリオンに視線を向ける。雪のような白い頬は、湯に浸かったせいで赤く火照っていた。
視線を落とせば、綺麗なうなじがある。あのうなじにむしゃぶりつきたい男はたくさんいるだろう。リオンの心の壁を打ち砕くような、圧倒的な攻めが現れればいいのに……。
「兄さん、なにじろじろ見ているの?」
「べ、別にぃ~……。じろじろなんて……」
邪な目で見ていたのがバレてしまったか? 慌てて視線を逸らし、誤魔化した。
安心してくれ。僕は、リオンに欲情することはない。うなじを見せつけられたからって、感情をかき乱されることはないぞ。
僕らは兄弟だし、当然だろう。ここはBLゲームの世界だけど、アレン×リオンのカップリングが成立することはあり得ない。
それに僕は腐男子だけど、男性が恋愛対象というわけでもない。そりゃあ格好いい男を見ればテンションが上がるけど、男が好きなのかと聞かれると首を傾げてしまう。
前世でも恋愛経験は皆無だった。恋愛なんてしなくても毎日楽しいし、恋人を作る必要性を感じなかったからだ。
転生した今でも、その感覚は抜けていない。人生二周目でも、リアルな恋愛はよく分からなかった。
「兄さんはさ、警戒心がなさ過ぎだよ」
考えこんでいると、湯に浸かったリオンが膝を抱えながら切り出す。
「そうか?」
「うん。見ていて心配になる。世の中、良い人ばかりじゃないんだから、誰にでも心を開くのはやめた方がいいよ」
良い人ばかりではないというのは、確かにその通りなのだろうけど、あまり危険なことをしている自覚はなかった。寮の先輩だってクラスメイトだって悪い人ではない。関わることには、なんら問題がないように思えるけど……。
腑に落ちないまま押し黙っていると、リオンがその場で立ち上がる。
「とにかく、もっと危機感を持ってよね。兄さんは、自分が思っている以上に魅力的なんだから」
そう言い残すと、リオンは浴槽からあがって、脱衣所に向かった。ひとり取り残された僕は、ザブンと深く湯に浸かる。
「危機感を持つ、かぁ……」
僕は、できることならみんなと仲良くなりたい。攻略対象の誰かと恋仲になりたいとは思わないけど、友達くらいにはなりたいと思っている。
せっかく憧れの魔法学校に入学したんだ。学園生活を楽しまなければ損じゃないか。それに弟のリオンにも、僕と同じく、いやそれ以上に学園生活を楽しんでもらいたかった。
そのためには、積極的に人に歩み寄るのが一番だと思うんだけど、リオンに言わせれば警戒心がなさ過ぎる行動なのかもしれない。
人付き合いに慎重になるのは、貴族特有の考え方なのかもしれないけど、前世の価値観の方が深く根付いている僕にとっては、ちょっと理解ができなかった。
リオンの言葉を脳内で反芻していると、脱衣所から物音が聞こえてくる。リオンは既に部屋に戻ったようだから、別の寮生だろう。こんな遅い時間に人が入ってくるとは思わなかったからちょっと驚いている。
様子を窺っていると、ガラリと音を立てて扉が開く。そこには、意外な人物が立っていた。
「……寮長?」
ブロンドの長い髪に、冷徹さを感じさせる面持ち。間違いない。寮長のダミアンだ。
向こうもすぐにこちらの存在に気付き、不機嫌そうに眉を顰めた。
「なんだ。まだ入っている奴がいたのか」
「す、すいません……」
反射的に謝ってしまった。だけどまだ入浴時間内だから、怒られるいわれはない。
ここで出て行くのも癪だから、もう少し湯に浸かっていることにした。
ダミアンは、浴槽に近付くと、桶で湯をすくって肩からかける。その一連の動作が様になっていたせいで、まじまじと観察してしまった。
日中は束ねていた髪は、解いて下ろしている。ブロンドの髪を揺らしながら身体に湯をかける仕草は、聖なる泉で神が身を清めているようだった。
制服を着ている時は細身に見えた身体も、服を脱げば鍛えあげられていることに気付く。腹部には六つの隆起が浮かび上がっていて、二の腕も引き締まっていた。腰巻から覗く脚は、驚くほど長い。良い体つきをしているんだなぁと見惚れてしまった。
「……貴様、男の身体に興味があるのか?」
ダミアンから、気持ち悪い虫でも見るような視線を向けられる。指摘された途端、顔面が発火しそうになった。
「な、ななななっ、なんで……」
じろじろ見ていたせいでバレたか? 口をぱくぱくさせながら慌てふためいていると、ダミアンは自身の首元を指さした。
「貴様の考えていることはお見通しだ」
そこで一つの可能性に気付く。まさか、この首輪をつけているせいで、心を読まれている?
首輪に触れながらダミアンの反応を窺うと、「そうだ」と静かに頷いた。
なんということだ……。行動を監視されて、魔法を封じられているうえに、心の中まで覗かれているなんて……。
衝撃的な事実を知って震え上がっていると、ダミアンは呆れたようにため息をついた。
「安心しろ。心が読めるのは、顔を合わせている時だけだ。読まれたくなければ、俺とあまり関わり合いにならないことだな」
四六時中読まれているわけではないのか。それならダミアンと会わなければいいだけだ。
対処法を知っていくぶん気が楽になったところで、ダミアンが湯に浸かろうと足を上げた。次の瞬間、ダミアンが腰に巻いていた布がはらりと床に落ちる。
「……っ……!?」
言葉にならないとは、このことだ。圧倒的な差を見せつけられてしまった。
一糸まとわぬ姿をまじまじと凝視していると、ダミアンは顔を赤くしながら僕を睨みつけた。
「出てけ。貴様のふしだらな思考には付き合っていられない」
「いい、い、言われなくても出て行きますよ~」
いたたまれなくなって、僕は大浴場から逃げ出した。
涙目になりながら急いで衣服をまとい、ダッシュで部屋まで戻る。体当たりするように部屋に飛び込むと、リオンにギョッとした顔をされた。
「どうしたの? 兄さん」
「うううぅ……」
リオンの言葉を無視して、僕はベッドに倒れこむ。先ほどの出来事を思い出して、枕に顔を埋めていた。
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