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1章
11.あんな事があって、よく平然としていられますね
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柔らかな毛布に包まれながら目を覚ました。
起き抜けのぼんやりした頭で周囲を見回すと、見知らぬ部屋で寝かされていることに気付く。僕らに与えられた部屋の倍ほどの広さがあり、調度品は白で統一されていた。本棚には隙間なく魔導書が並んでいて、部屋の主の勤勉さが窺えた。
寝具も上質だ。広々としたベッドは大人二人は寝れそうなスペースがあり、シーツは吸い付くように滑らかでいつまでも触れていたい気分になった。
えっと、ここはどこだっけ……。
昨日の記憶を掘り起こそうとしたところで、低い声が飛んできた。
「目を覚ましたか。身体の具合はどうだ?」
声のする方向に視線を向けると、窓辺でサンドイッチを手に持つダミアンがいた。
一つに束ねていたブロンドの髪は、今は下ろしている。カーテンの隙間から入り込む陽の光が反射して、艶やかに輝いていた。
ぽーっと見惚れてしまったが、すぐに昨日の出来事を思い出す。
そうだ。僕は昨日、ダミアンに弄ばれたんだ。一度ならまだしも、何度も何度も……。最後の方は自分が何を出しているのかも分からなくなって、糸が切れるように意識を失ったんだ。
ふと、視線を落とすと、清潔なパジャマに身を包んでいることに気付く。昨日は散々苦しめられた熱もすっかり引いていた。どうやら回復したようだ。
「問題なさそうだな。朝食を用意したから食え」
ダミアンは、ベッド脇のサイドテーブルを一瞥する。そこには、ダミアンが食べているものと同じサンドイッチが置かれていた。ハムとレタスを挟んだ、シンプルなサンドイッチだ。
「安心しろ。毒は入っていない。信じられないというなら、食わなくてもいいが」
毒の心配はしていなかったけど、ダミアンが朝食を用意してくれたというのは驚きだ。
というか、昨日はあんなことがあったのに、よく平然としていられるな?
気まずくないのか? 僕なんて気まずくて、いますぐ部屋を飛び出したいのに。
まさか、ダミアンにとっては、あんなのは日常茶飯事なのか? だからそんなに平然として……。
「日常茶飯事ではない。あんなふしだらなことをしたのは初めてだ。話題にあげなかったのは、食事中に蒸し返す話ではないからだ。それくらい察しろ」
……うん。たしかに食事中にする話ではないな。それは激しく同意だ。
ダミアンは、窓の外に視線を投げながらサンドイッチを齧る。その様子を見ていると、腹の虫が鳴きはじめた。
昨晩は、食事どころではなかったから、胃の中が空っぽだ。食欲には抗えず、サンドイッチに手を伸ばした。
「いただきます……」
おずおずとサンドイッチに手を伸ばし、齧りつく。見た目を裏切らない、シンプルな味付けだ。食堂に行けば、もっと美味しくて栄養バランスの整った食事が出てくるのに……。
もさもさとサンドイッチを頬張る。部屋の中で、男二人が顔も合わせずサンドイッチを食べている光景は、なんとも奇妙だった。
「これ、寮長の手作りですか?」
沈黙に耐え切れず、尋ねてみる。寮長はこちらと目を合わせることなく頷いた。
「ああ。信頼できる店から取り寄せた食材で作ったものだ」
「……逆に信頼できない店ってあるんですか?」
思わずツッコミを入れてしまう。すると、ダミアンはようやく視線を合わせてくれた。
「信頼できない店の方が多いだろう。いつどこで毒を盛られるか分からない」
「毒って……」
大袈裟な物言いに、苦笑いを浮かべてしまう。しかし、ダミアンは冗談を言っているようには見えなかった。
「俺は過去に何度も、食事に毒を盛られた。幼少期から世話をしてくれた使用人に仕込まれたり、学友に招かれた茶会で仕込まれたり。ああ、義妹から渡されたクッキーに仕込まれていたこともあったな」
そんな話は初めて聞いた。毒を盛られるなんて僕としてはありえないことだけど、ダミアンにとっては日常茶飯事なのか……。
公爵家の子息ともなれば、命を狙われる機会も多いのか? もしかしたらそうした生い立ちから、寮でも一人で食事をとっていたりして……。
「学園でも油断はできないからな。寮のコックだって、いつ金で買収されるか分かったもんじゃない」
「そんな言い方……」
僕が見た限り、寮のコックは良い人ばかりだ。笑顔で挨拶してくれるし、仕事熱心だし。そんな彼らに疑いをかけるのは可哀そうだ。
だけど、ダミアンにとっては、信頼にたる相手ではないのだろう。
ダミアンは、根本的に人のことを信用していないのかもしれない。過去の境遇が、彼をそうさせているのだろうけど……。
「勝手に人のことを詮索するな」
「す、すみません……」
また、心を読まれた。なんだかやりにくいな……。
ダミアンから睨まれながら、もさもさとサンドイッチを食べる。監視されているせいで喉に詰まりそうだ。
「それを食ったら、さっさと部屋に戻れ。貴様の弟が、また癇癪を起す前に」
「は、はいっ」
そうだ。リオンのことをすっかり忘れていた。
一晩部屋を空けていたのだから、リオンが心配しているに違いない。急いでサンドイッチを口に詰め込んで、ベッドから降りた。
「ご馳走様でした!」
そう告げると、急いでダミアンの部屋から退出した。
南側の長い廊下を歩いている途中、ふと足を止める。
昨日、あんな辱めを受けたのに、僕ときたらまるで憤りを感じていない。最中は羞恥心で頭の中がぐちゃぐちゃになっていたけど、今は清々しい気分だ。
ああいう場面では、怒るべきだったのでは? それなのに、呑気にサンドイッチをご馳走になって、世間話までしてしまった。
「まあ、あれは不運の事故だったってことで……忘れよう」
そう片付けることにした。我ながら、タフだと思う。
起き抜けのぼんやりした頭で周囲を見回すと、見知らぬ部屋で寝かされていることに気付く。僕らに与えられた部屋の倍ほどの広さがあり、調度品は白で統一されていた。本棚には隙間なく魔導書が並んでいて、部屋の主の勤勉さが窺えた。
寝具も上質だ。広々としたベッドは大人二人は寝れそうなスペースがあり、シーツは吸い付くように滑らかでいつまでも触れていたい気分になった。
えっと、ここはどこだっけ……。
昨日の記憶を掘り起こそうとしたところで、低い声が飛んできた。
「目を覚ましたか。身体の具合はどうだ?」
声のする方向に視線を向けると、窓辺でサンドイッチを手に持つダミアンがいた。
一つに束ねていたブロンドの髪は、今は下ろしている。カーテンの隙間から入り込む陽の光が反射して、艶やかに輝いていた。
ぽーっと見惚れてしまったが、すぐに昨日の出来事を思い出す。
そうだ。僕は昨日、ダミアンに弄ばれたんだ。一度ならまだしも、何度も何度も……。最後の方は自分が何を出しているのかも分からなくなって、糸が切れるように意識を失ったんだ。
ふと、視線を落とすと、清潔なパジャマに身を包んでいることに気付く。昨日は散々苦しめられた熱もすっかり引いていた。どうやら回復したようだ。
「問題なさそうだな。朝食を用意したから食え」
ダミアンは、ベッド脇のサイドテーブルを一瞥する。そこには、ダミアンが食べているものと同じサンドイッチが置かれていた。ハムとレタスを挟んだ、シンプルなサンドイッチだ。
「安心しろ。毒は入っていない。信じられないというなら、食わなくてもいいが」
毒の心配はしていなかったけど、ダミアンが朝食を用意してくれたというのは驚きだ。
というか、昨日はあんなことがあったのに、よく平然としていられるな?
気まずくないのか? 僕なんて気まずくて、いますぐ部屋を飛び出したいのに。
まさか、ダミアンにとっては、あんなのは日常茶飯事なのか? だからそんなに平然として……。
「日常茶飯事ではない。あんなふしだらなことをしたのは初めてだ。話題にあげなかったのは、食事中に蒸し返す話ではないからだ。それくらい察しろ」
……うん。たしかに食事中にする話ではないな。それは激しく同意だ。
ダミアンは、窓の外に視線を投げながらサンドイッチを齧る。その様子を見ていると、腹の虫が鳴きはじめた。
昨晩は、食事どころではなかったから、胃の中が空っぽだ。食欲には抗えず、サンドイッチに手を伸ばした。
「いただきます……」
おずおずとサンドイッチに手を伸ばし、齧りつく。見た目を裏切らない、シンプルな味付けだ。食堂に行けば、もっと美味しくて栄養バランスの整った食事が出てくるのに……。
もさもさとサンドイッチを頬張る。部屋の中で、男二人が顔も合わせずサンドイッチを食べている光景は、なんとも奇妙だった。
「これ、寮長の手作りですか?」
沈黙に耐え切れず、尋ねてみる。寮長はこちらと目を合わせることなく頷いた。
「ああ。信頼できる店から取り寄せた食材で作ったものだ」
「……逆に信頼できない店ってあるんですか?」
思わずツッコミを入れてしまう。すると、ダミアンはようやく視線を合わせてくれた。
「信頼できない店の方が多いだろう。いつどこで毒を盛られるか分からない」
「毒って……」
大袈裟な物言いに、苦笑いを浮かべてしまう。しかし、ダミアンは冗談を言っているようには見えなかった。
「俺は過去に何度も、食事に毒を盛られた。幼少期から世話をしてくれた使用人に仕込まれたり、学友に招かれた茶会で仕込まれたり。ああ、義妹から渡されたクッキーに仕込まれていたこともあったな」
そんな話は初めて聞いた。毒を盛られるなんて僕としてはありえないことだけど、ダミアンにとっては日常茶飯事なのか……。
公爵家の子息ともなれば、命を狙われる機会も多いのか? もしかしたらそうした生い立ちから、寮でも一人で食事をとっていたりして……。
「学園でも油断はできないからな。寮のコックだって、いつ金で買収されるか分かったもんじゃない」
「そんな言い方……」
僕が見た限り、寮のコックは良い人ばかりだ。笑顔で挨拶してくれるし、仕事熱心だし。そんな彼らに疑いをかけるのは可哀そうだ。
だけど、ダミアンにとっては、信頼にたる相手ではないのだろう。
ダミアンは、根本的に人のことを信用していないのかもしれない。過去の境遇が、彼をそうさせているのだろうけど……。
「勝手に人のことを詮索するな」
「す、すみません……」
また、心を読まれた。なんだかやりにくいな……。
ダミアンから睨まれながら、もさもさとサンドイッチを食べる。監視されているせいで喉に詰まりそうだ。
「それを食ったら、さっさと部屋に戻れ。貴様の弟が、また癇癪を起す前に」
「は、はいっ」
そうだ。リオンのことをすっかり忘れていた。
一晩部屋を空けていたのだから、リオンが心配しているに違いない。急いでサンドイッチを口に詰め込んで、ベッドから降りた。
「ご馳走様でした!」
そう告げると、急いでダミアンの部屋から退出した。
南側の長い廊下を歩いている途中、ふと足を止める。
昨日、あんな辱めを受けたのに、僕ときたらまるで憤りを感じていない。最中は羞恥心で頭の中がぐちゃぐちゃになっていたけど、今は清々しい気分だ。
ああいう場面では、怒るべきだったのでは? それなのに、呑気にサンドイッチをご馳走になって、世間話までしてしまった。
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そう片付けることにした。我ながら、タフだと思う。
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