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2章
19.好きか嫌いかで言ったら、嫌いですね
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翌日、食堂でルーカスたちと昼食をとっている最中に、魔法競技会の話題をあげてみた。
「というわけで、今年の競技会では運動が得意ではない生徒も参加できるように、競技を見直そうと考えているんだ」
企画のあらましを伝えると、ルーカスは興味深そうに頷く。
「へえ、面白そうじゃないか。具体的にどんな競技が追加されるんだ?」
「例えば、薬草鑑定レース」
「なんだそれ?」
「お題に書かれた薬草を入手して、一番早くゴールした人の勝ち」
競技の内容を伝えると、我関せずといった顔で食事をしていたフレッドが、ふっと頬を緩めた。
「それなら負けないだろうね。たいていの薬草はひと目で見分けられる」
流石は天才薬師。自信があるようだ。
「他にも竜使いが活躍できるドラゴンレースなんかも考えているよ。その名の通り、ドラゴンに乗って競うレース」
「おー、それは派手になりそうだな」
ルーカスが食いつくと、クライドが肩に乗った幼竜の背中を撫でた。
「それなら参加できそうだ。ルゥの母竜は、パワーがあって俊敏だからな。レースでは負けないだろう」
クライドも乗り気だ。競技会の参加に消極的だった二人が興味を示してくれたのは大きな収穫だ。この調子で参加希望者を増やしていきたい。
「それぞれが得意分野を発揮できるような競技会になるように頑張るよ!」
意気込みを伝えると、ルーカスから爽やかな笑顔を向けられる。
「はりきってるな、アレン」
「うん! こういうイベントって燃える方だからね。祭りは外から見ているよりも、中に飛び込んで踊った方が楽しいじゃん」
にっと笑いながら伝えると、ルーカスも「だな」と同意してくれた。
そんな中、食堂の入り口がやけに騒がしいことに気付く。
「なんだ?」
振り返って様子を伺うと、男子生徒が群がる中にひと際目立つ人物がいた。ウェーブがかった紫色の髪に、涼し気な目元。あれは、シリルだ。
警戒しながら様子を窺っていると、深い紫色の瞳と目が合った。その瞬間、ふわりと笑いかけられる。
「アレン、ここにいたのか」
突然声をかけられたことで、手に持っていたサンドイッチを皿に落としてしまう。
まさかシリルは、僕を探していたのか? 理解が追い付かずにいると、シリルが僕らのテーブルに近付いてくる。
「食事が済んだら、僕とお茶をしよう。アレンと二人で話がしたい」
お茶? 僕と? なぜ?
昨日、ダミアンから二人の関係を明かされたせいで、何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。
「お誘き光栄ですが、どうして僕を……」
「言ったじゃないか。君と親しくなりたいって」
シリルは、優美な笑顔でさらりと答える。初心な令嬢がその笑顔を向けられたら、ひと目で恋に落ちそうな威力があった。
警戒していると、シリルは笑顔を浮かべたまま続ける。
「それに、魔法競技会の相談もしたかったからね」
できることなら断りたかったが、魔法競技会の話を持ち出されたら無下にできない。
「わ、分かりました」
戸惑いながらも頷くと、シリルに連れられて食堂を出た。
* * *
植物園に設けられた二人掛けのテーブルに、シリルと向かい合わせでつく。
既に紅茶と菓子が用意されていて、シリルは優雅に紅茶を飲んでいた。
大丈夫なのか? 紅茶に毒でも入っているんじゃないか?
ダミアンが過去に何度も毒を盛られた話を聞かされたせいで、余計に慎重になっていた。
紅茶にも菓子にも手を付けずに石像のように固まっていると、シリルは肩をすくめて笑いだす。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。君を取って食おうなんて気はないから」
本当か? 話を聞く限り、シリルはダミアンを潰そうとしているようだ。
ダミアンの犬と見なされている僕は、彼にとっては敵なんじゃないか? 巻き添えを食らったっておかしくはない。怖い、怖い……。
「それにしても、君は人気者なんだね」
「えっ? そ、そうですかね?」
「さっきも食堂で友人たちに囲まれていたじゃないか。きっと君の明るさが、人を引き寄せるんだろうね」
そんなことを言われたのは初めてだ。これは、喜んでも良いのか?
何と答えれば良いのか分からずに苦笑いを浮かべていると、シリルは笑顔を浮かべたまま、ティーカップをテーブルに置いた。
「あまり時間もないし、本題に移ろうか。魔法競技会の件だけど、優勝した寮には何か特権を与えたら、生徒たちの士気が上がるんじゃないかな?」
「特権?」
思いがけない提案に目を丸くする。確かに優勝することにメリットがあった方が、生徒達も盛り上がるとは思うけど……。
「勝てば特権を得られるというのなら、エメラルド寮とトパーズ寮の寮長も説得しやすいと思うんだけど」
「……一度、ダミアン寮長に相談してみます」
この件は、僕ひとりの判断で承諾できることではない。話を持ち帰らせてもらおうとしたところで、シリルは糸のように目を細めた。
「君は従順に手懐けられているんだね。そんなにダミアン寮長のことが好きかい?」
「好きか嫌いかで言ったら、嫌いです」
正直に答えると、シリルは驚いたように目を見開く。かと思えば、肩を震わせて笑いだした。
「君は、面白い子だね」
面白くなんてない。事実を言ったまでだ。人に首輪を付けて、四六時中監視して、そのうえ雑用まで押し付けてくる男を、好きになれるはずがない。
可笑しそうに笑う姿を眺めていると、不意にシリルが僕の首元へ手を伸ばす。
「競技会が終わったら、その首輪を外してもらうようにダミアン寮長に掛け合ってもいいよ」
「なぜ、そのようなことを……」
真意が読み取れずに眉を顰めると、シリルの指先が首輪に付いた魔石に触れる。
「君が可哀そうだからだよ」
吸い込まれそうな紫色の瞳に、じっと見つめられる。その瞳の奥には、どんな思惑が隠れているんだ?
緊迫した空気に包まれていると、不意に背後から低い声が聞こえた。
「そいつは俺の犬だ。勝手に手懐けないでもらえるか?」
ハッと振り返ると、鋭い眼光でシリルを睨みつけるダミアンがいた。
いつからそこにいた? いや、この素早さは転移魔法か。
ダミアンが現れたことで、シリルは気が削がれたように僕の首元から手を離す。
「犬なんて、酷い言い方ですね。支配することでしか人と繋がれないなんて、貴方も可哀そうな人間だ」
先ほどの甘い雰囲気とは一変して、冷ややかな空気が流れる。シリルは、口調こそ丁寧だが、その眼差しは氷のように冷ややかだった。
これは、ひと悶着起きるのでは? 警戒していたものの、シリルはあっさりと席を立った。
「アレン、悪いね。僕はこれで失礼するよ。付き合ってくれてありがとう」
挨拶を返そうとしたものの、ダミアンの形相があまりに恐ろしくて言葉が出ない。
去り行くシリルの背中を見つめていると、彼は何かを思い出したかのように振り返った。
「近いうちに綺石の館に伺います。エメラルド寮とトパーズ寮の寮長には、僕から話を付けておきましょう」
社交的な笑顔を浮かべながら淡々と告げると、シリルは再び歩き出す。その背中を、ダミアンは射るような眼差しで見つめていた。
「というわけで、今年の競技会では運動が得意ではない生徒も参加できるように、競技を見直そうと考えているんだ」
企画のあらましを伝えると、ルーカスは興味深そうに頷く。
「へえ、面白そうじゃないか。具体的にどんな競技が追加されるんだ?」
「例えば、薬草鑑定レース」
「なんだそれ?」
「お題に書かれた薬草を入手して、一番早くゴールした人の勝ち」
競技の内容を伝えると、我関せずといった顔で食事をしていたフレッドが、ふっと頬を緩めた。
「それなら負けないだろうね。たいていの薬草はひと目で見分けられる」
流石は天才薬師。自信があるようだ。
「他にも竜使いが活躍できるドラゴンレースなんかも考えているよ。その名の通り、ドラゴンに乗って競うレース」
「おー、それは派手になりそうだな」
ルーカスが食いつくと、クライドが肩に乗った幼竜の背中を撫でた。
「それなら参加できそうだ。ルゥの母竜は、パワーがあって俊敏だからな。レースでは負けないだろう」
クライドも乗り気だ。競技会の参加に消極的だった二人が興味を示してくれたのは大きな収穫だ。この調子で参加希望者を増やしていきたい。
「それぞれが得意分野を発揮できるような競技会になるように頑張るよ!」
意気込みを伝えると、ルーカスから爽やかな笑顔を向けられる。
「はりきってるな、アレン」
「うん! こういうイベントって燃える方だからね。祭りは外から見ているよりも、中に飛び込んで踊った方が楽しいじゃん」
にっと笑いながら伝えると、ルーカスも「だな」と同意してくれた。
そんな中、食堂の入り口がやけに騒がしいことに気付く。
「なんだ?」
振り返って様子を伺うと、男子生徒が群がる中にひと際目立つ人物がいた。ウェーブがかった紫色の髪に、涼し気な目元。あれは、シリルだ。
警戒しながら様子を窺っていると、深い紫色の瞳と目が合った。その瞬間、ふわりと笑いかけられる。
「アレン、ここにいたのか」
突然声をかけられたことで、手に持っていたサンドイッチを皿に落としてしまう。
まさかシリルは、僕を探していたのか? 理解が追い付かずにいると、シリルが僕らのテーブルに近付いてくる。
「食事が済んだら、僕とお茶をしよう。アレンと二人で話がしたい」
お茶? 僕と? なぜ?
昨日、ダミアンから二人の関係を明かされたせいで、何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。
「お誘き光栄ですが、どうして僕を……」
「言ったじゃないか。君と親しくなりたいって」
シリルは、優美な笑顔でさらりと答える。初心な令嬢がその笑顔を向けられたら、ひと目で恋に落ちそうな威力があった。
警戒していると、シリルは笑顔を浮かべたまま続ける。
「それに、魔法競技会の相談もしたかったからね」
できることなら断りたかったが、魔法競技会の話を持ち出されたら無下にできない。
「わ、分かりました」
戸惑いながらも頷くと、シリルに連れられて食堂を出た。
* * *
植物園に設けられた二人掛けのテーブルに、シリルと向かい合わせでつく。
既に紅茶と菓子が用意されていて、シリルは優雅に紅茶を飲んでいた。
大丈夫なのか? 紅茶に毒でも入っているんじゃないか?
ダミアンが過去に何度も毒を盛られた話を聞かされたせいで、余計に慎重になっていた。
紅茶にも菓子にも手を付けずに石像のように固まっていると、シリルは肩をすくめて笑いだす。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。君を取って食おうなんて気はないから」
本当か? 話を聞く限り、シリルはダミアンを潰そうとしているようだ。
ダミアンの犬と見なされている僕は、彼にとっては敵なんじゃないか? 巻き添えを食らったっておかしくはない。怖い、怖い……。
「それにしても、君は人気者なんだね」
「えっ? そ、そうですかね?」
「さっきも食堂で友人たちに囲まれていたじゃないか。きっと君の明るさが、人を引き寄せるんだろうね」
そんなことを言われたのは初めてだ。これは、喜んでも良いのか?
何と答えれば良いのか分からずに苦笑いを浮かべていると、シリルは笑顔を浮かべたまま、ティーカップをテーブルに置いた。
「あまり時間もないし、本題に移ろうか。魔法競技会の件だけど、優勝した寮には何か特権を与えたら、生徒たちの士気が上がるんじゃないかな?」
「特権?」
思いがけない提案に目を丸くする。確かに優勝することにメリットがあった方が、生徒達も盛り上がるとは思うけど……。
「勝てば特権を得られるというのなら、エメラルド寮とトパーズ寮の寮長も説得しやすいと思うんだけど」
「……一度、ダミアン寮長に相談してみます」
この件は、僕ひとりの判断で承諾できることではない。話を持ち帰らせてもらおうとしたところで、シリルは糸のように目を細めた。
「君は従順に手懐けられているんだね。そんなにダミアン寮長のことが好きかい?」
「好きか嫌いかで言ったら、嫌いです」
正直に答えると、シリルは驚いたように目を見開く。かと思えば、肩を震わせて笑いだした。
「君は、面白い子だね」
面白くなんてない。事実を言ったまでだ。人に首輪を付けて、四六時中監視して、そのうえ雑用まで押し付けてくる男を、好きになれるはずがない。
可笑しそうに笑う姿を眺めていると、不意にシリルが僕の首元へ手を伸ばす。
「競技会が終わったら、その首輪を外してもらうようにダミアン寮長に掛け合ってもいいよ」
「なぜ、そのようなことを……」
真意が読み取れずに眉を顰めると、シリルの指先が首輪に付いた魔石に触れる。
「君が可哀そうだからだよ」
吸い込まれそうな紫色の瞳に、じっと見つめられる。その瞳の奥には、どんな思惑が隠れているんだ?
緊迫した空気に包まれていると、不意に背後から低い声が聞こえた。
「そいつは俺の犬だ。勝手に手懐けないでもらえるか?」
ハッと振り返ると、鋭い眼光でシリルを睨みつけるダミアンがいた。
いつからそこにいた? いや、この素早さは転移魔法か。
ダミアンが現れたことで、シリルは気が削がれたように僕の首元から手を離す。
「犬なんて、酷い言い方ですね。支配することでしか人と繋がれないなんて、貴方も可哀そうな人間だ」
先ほどの甘い雰囲気とは一変して、冷ややかな空気が流れる。シリルは、口調こそ丁寧だが、その眼差しは氷のように冷ややかだった。
これは、ひと悶着起きるのでは? 警戒していたものの、シリルはあっさりと席を立った。
「アレン、悪いね。僕はこれで失礼するよ。付き合ってくれてありがとう」
挨拶を返そうとしたものの、ダミアンの形相があまりに恐ろしくて言葉が出ない。
去り行くシリルの背中を見つめていると、彼は何かを思い出したかのように振り返った。
「近いうちに綺石の館に伺います。エメラルド寮とトパーズ寮の寮長には、僕から話を付けておきましょう」
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