歪んだ愛はお断りします ~断罪ルートを回避した悪役令息は、鬼畜寮長に囚われる~

南 コウ

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2章

20.寮長会議

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 植物園からシリルが立ち去った後、ダミアンから神妙な面持ちで見つめられる。

「あの男の誘いには、二度と乗るな。いいな?」

 そんな忠告をされるとは思わなかったから、面食らってしまう。戸惑いつつも、こちらの言い分を主張する。

「僕だって好きで誘いに乗ったわけではありません。ですが、競技会の話を持ち出されたら無下にはできなくて」
「競技会の件は、こちらでどうにかする。各寮長への伝令も、今後はしなくていい。これ以上、俺の事情に無関係な人間を巻き込みたくない」

 それはつまり、ブラッドリー公爵家の確執に僕を巻き込みたくないということか? ダミアンは、僕がシリルに何かしらの危害を与えられることを恐れているのか?

「そうだとしたら?」

 また心を読まれたようだ。威圧的な口調だが、赤い瞳の奥には憂いが滲んでいた。目は口ほどにものを言うとは、よく言ったものだ。

「分かりました。今後はシリル寮長との接触は控えます」

 聞き分けよく返事をすると、ダミアンは僅かに頬を緩める。その変化に驚いていると、ダミアンはゆっくりと右手を持ち上げて、僕の頭に掌を乗せた。

「良い子だ」

 くしゃくしゃと頭を撫でられる。突然の出来事に、思考が追い付かなかった。
 反応できずに固まっていると、ダミアンは右手を引っ込めて、校舎へ向かった。

 取り残された僕は、ダミアンの大きな掌が乗っていた場所を押さえる。
 今、褒められたのか? 言うことを聞いたから?

 理由は分からないが、ダミアンに触れられた部分がじんじんと熱を帯びてくる。その熱は身体中に伝線して、体温を上昇させた。頬が緩みかけたが、すぐに我に返る。

「頭を撫でで褒めるなんて、犬扱いじゃないか!」

 ほんの少しでも喜んでしまった自分が情けない。熱を振り払うように頭を揺らしてから、早足で校舎へ向かった。

 * * *

 廊下を歩いていると、見知った人物が前を歩いていることに気付く。
 癖のある銀髪の生徒と、背の高いオレンジ髪の生徒。あれは、リオンと副寮長のロランだ。

 リオンは伏し目がちでボソボソと話をしている。会話の内容までは聞こえなかったが、ロランはしきりに頷きながらリオンの話に耳を傾けていた。

 二人が一緒にいる現場を見て、僕はピンとくる。もしやリオンは、ロランルートに入ったのか?

 そういえば原作でも、クラスで孤立しているリオンを心配して、ロランが声をかけていたんだ。
 僕との関係がギクシャクしてから、リオンは一人で過ごすことが増えた。その状況を見かねてロランが動いたのかもしれない。

 理由はなんであれ、リオンとロランが親しくなったのは喜ばしいことだ。ブラコンをこじらせていたリオンは、面倒見のいい兄貴気質のロランに心を開いたのかもしれない。

 二人の仲が深まったことを密かに祝福していると、不意にリオンが振り返る。僕の姿を見た瞬間、リオンはびくりと肩を揺らし、足を止めた。

「兄さん……」
「あ……ごめん、邪魔しちゃって」

 慌てて笑顔を取り繕いながら謝ると、二人は困惑したように顔を見合わせる。微妙な空気が流れた後、ロランはリオンの肩を叩いた。

「例の件、協力するよ」

 端的に告げると、ロランは僕と目を合わせることなく早足で先に進んだ。

 例の件って、なんだ? 原作のシナリオを思い返しながら首を捻っていると、リオンが遠慮がちに僕のもとへ駆け寄って来た。

「あの……兄さん。この間は、ごめんね」

 この間というのは、部屋でリオンに押し倒された件だろう。あの時は、突然のことに驚いて、悲鳴をあげそうになったけど、今のリオンを怖いだなんて思っていない。

「もういいよ。だけど、ああいう悪ふざけは、もうやめてほしい。心臓に悪いから」
「悪ふざけでは、ないんだけど……」

 リオンは俯きながら、拳を握る。空気が悪くなったことを察した僕は、慌てて話題を変えた。

「それより、ロラン副寮長と仲良くなったんだね。安心したよ」

 良き兄らしく喜んで見せると、リオンは俯いたままポツリと言葉を零す。

「……別に、仲良くなったわけじゃない」

 そうなのか? いや、兄の前だから照れているだけかもしれない。

「と、とにかく、教室に戻ろう! そろそろ午後の授業が始まる」

 明るく促すと、リオンは口を閉ざしたまま小さく頷いた。

 * * *

 シリルからお茶の誘いを受けてから三日経った頃、大きな進展があった。
 シリルが他の寮長に呼びかけてくれたおかげで、放課後に四寮長が綺石の館に集まって会議をすることになった。

 終礼が終わると、僕は大急ぎで館に向かう。寮長が集まるとなれば、相応の準備をしなければならない。
 館に着くと、机に積み重ねていた書物を本棚にしまい、床やテーブルの掃除をする。さらには、寮長をもてなすための茶の支度をした。

 大慌てで動き回る僕を見て、ダミアンはふっと可笑しそうに笑う。

「随分はりきっているな。たかが会議くらいで」
「たかがって……四寮長が集まるんですよ? ここで心象を悪くしたら、協力を得られなくなるかもしれないじゃないですか。失礼のないようにおもてなししないと」

 心配する僕とは裏腹に、ダミアンは書類を眺めながら悠長に構えていた。寮長たちをもてなす気はゼロだ。

 準備があらかた終わった頃、寮長たちが館へ訪ねてきた。
 気難しそうな顔で館内を見回すエメラルド寮のモール。いかにもダルそうに猫背で入室するトパーズ寮のエイダン。そして人の良さそうな笑みを浮かべるサファイア寮のシリル。約束通り、全員集結した。

 彼らは形式的な挨拶を済ませると、それぞれ席につく。いままでは空席だった三つの席に、それぞれの寮長が座っている光景を見て、感慨深い気分になった。

 ソワソワしながら、寮長たちへ茶を差し出す。三人とも礼を言ってくれたが、茶に口を付けようとするものはいなかった。
 重々しい空気が流れる中、ダミアンが口を開く。

「今日は、魔法競技会について相談したく、お集りいただきました」

 畏まった口調で話を切り出したところで、トパーズ寮のエイダンがひらひらと片手を挙げる。

「企画の概要は、そこにいる補佐くんとシリル寮長から聞きました。寮対抗で競技に参加して、勝った寮には特権が与えられるそうですね。特権っていうのは、何でもいいんですか?」
「学園側と掛け合って、実現可能なものであれば」
「なるほどね」

 エイダンは、にやりと口元に笑みを浮かべながら腕組みをする。その表情から、比較的乗り気であることが伝わってきた。特権を付ければ各寮長を説得できるというシリルの読みは正しかったようだ。
 そんな中、エメラルド寮のモールが静かに挙手をする。

「例えばですが、北棟の自習室にエメラルド寮専用のスペースを設けることも可能ですか? 試験前には生徒が溢れ返って、席を確保できないと寮生から苦情があがっているので」

 生真面目なモールらしい要求だ。ダミアンは顎に手を添えてしばらく考えた後に頷いた。

「その程度なら実現可能だろう。生徒間で取り決めをすればいいだけの話だからな」
「承知いたしました」

 モールは、表情ひとつ変えずに手を下ろす。肯定的なのか否定的なのかいまいち読めない。
 重苦しい空気が流れる中、今度はトパーズ寮のエイダンが挙手をした。

「トパーズ寮の寮生は、外出時の門限を緩和するというのは可能ですか?」

 エイダンの提案に、ダミアンは眉を顰める。

「それは学園の規則に関わることだから、こちらの権限で許可するわけにはいかない。生徒間の取り決めで実現可能な内容にしてもらいたい」

 ダミアンが説明すると、エイダンは肩を竦めながら「ですよね。別案を考えてみます」と引き下がった。
 二寮の希望を聞いたところで、ダミアンはシリルにも視線を向ける。

「サファイア寮はどのような特権を望んでいるんだ?」

 威圧的なダミアンの態度とは対照的に、シリルは優美な笑みを浮かべる。

「寮生の意見を聞いて検討します」

 自分から言い出したくせに、まだ要求を考えていないというのは意外だった。てっきり、実現したい事柄があるから、提案してきたと思ったのに。

「では、決まり次第、報告を」
「承知いたしました」

 その後も、競技内容や予算、事前準備についてダミアンから説明をし、最後に学長へ提出する嘆願書を回した。

「ここまで説明した内容に賛同してもらえるなら、嘆願書にサインをしてほしい」

 ダミアンが申し出ると、シリルが真っ先にペンを手に取る。

「構いませんよ。サファイア寮は賛同します」

 思いのほかあっさりサインをもらえそうだ。他の寮長にも視線を向けると、それぞれペンを手に取った。

「先ほどの説明を聞く限り、エメラルド寮の生徒が準備に駆り出されることはないようですね」
「準備は発起人のガーネット寮に一任して、僕たちは当日参加するだけなら、サインをしても構いませんよ」

 もともと競技会の準備は、ガーネット寮で引き受けるつもりだ。不満がないと言ったら嘘にはなるが、邪魔をされるよりは僕たちだけで進めた方が良い。

「ああ、それで構わない」

 ダミアンが承諾したところで、モールとエイダンも嘆願書にサインをした。そこで会議はお開きとなった。

 寮長たちを見送ると、室内の空気が和らいで、まともに息を吸えるようになった。

「どうにかサインを貰えましたね」
「ああ。あとは嘆願書を学長に提出すれば、正式に競技会の改革を進められる」

 道すじが見えてきた。晴れやかな気持ちになったところで、隣に立つダミアンに肩を叩かれる。

「あの三寮長を説得できたんだ。やるからには必ず成功させるぞ」

 ダミアンから、いつになく熱い台詞が飛び出す。驚いてしまったものの、その熱意が伝染して、意欲が湧いてきた。

「はいっ!」
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