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2章
24.貴方のことは誰にも傷つけさせない
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泣きすぎたせいで過呼吸になってしまった僕は、落ち着くまでダミアンに介抱されることになった。ベッドに横たわり、ダミアンに正面から抱きかかえられながら背中を撫でられている。
恥ずかしいけど、この体勢だったら泣き顔を見られることもない。羞恥心を押し殺しながら、されるがままになっていた。
ダミアンは「世話の焼けるやつだ」なんて悪態を吐いていたけど、背中を撫でる手は優しかった。
呼吸が落ち着いてからも、顔を合わせるのが恥ずかしくて、離れられずにいた。するとダミアンは、僕の背中を撫でながら話を切り出す。
「驚かせてしまって悪かった。あんなのは俺にとってはよくあることだが、他の人間が見れば気が動転するのも無理はない」
毒を盛られることがよくあるなんて、考えたくもない。余所ならまだしも、今回仕掛けられたのは屋敷の中だ。そんな環境で暮らしていたら、気が休まる暇もないだろう。これまでのダミアンの境遇を想像すると、胸が張り裂けそうになった。
「首謀者は、第三夫人のサラだろう。以前話したシリルの姉だ。娘を使って油断させたところを潰すつもりだったようだな。あの女のやり口は、昔から変わらない」
「それじゃあ、あの子もグルだったんですか?」
先ほどの少女の姿が脳裏に過る。無垢な笑顔を浮かべながら、毒入りクッキーを渡してきたなんて考えたくもない。何も知らずに母に利用されていたのだとしても許せない。
「真相は分からないが、義妹が善意で俺に贈り物をするなんてありえない。陥れようとする意志はあったんだろうな」
あんなに幼い子にまで狙われているなんて、ゾッとする。恐怖で震えていると、僕を落ち着かせるようにダミアンが背中を擦った。
「先日、俺の事情に巻き込みたくないと言ったばかりなのに、こんなことになってしまって申し訳なかった。今後は害が及ばないように、より一層目を光らせておく」
ダミアンは、命を狙われたというのに、僕の心配ばかりしてくる。そんな態度にも胸が締め付けられた。
優しいという言葉だけでは片付けられない。自分に危害が及ぶことに対しては、取り乱すこともなくなってしまったのだろう。慣れと呼ぶには、あまりに悲しいことだ。
「ブラッドリー公爵には報告しないんですか?」
跡継ぎとなる息子が毒殺されかけたとなれば、ブラッドリー公爵だって黙っていないはずだ。第三夫人に何らかの制裁が下ることを期待していたが、あっけなく裏切られた。
「報告はする。だが状況は変わらないだろうな。厳重注意をしても、ほとぼりが冷めた頃にはまた企てる。俺が生きていて、彼女が夫人の座についている限り、繰り返されるだろう」
「そんな……」
「父も似たような境遇の中で家督を継いだ。一族間での跡目争いに負けるような男には、公爵家の当主は務まらないとでも考えているのかもしれないな」
それはあまりに酷だ。血のつながりがある父ですら、守ってくれないなんて……。
このままでいいのだろうか? この先も彼を一人にしていたら、いつか本当に取り返しのつかないことになってしまいそうな気がする。今、触れている温もりが、誰かの悪意で奪われるなんてあってはならない。
それなら、僕が――。
ゆっくりとダミアンの肩から離れ、背中に回されていた腕を解く。至近距離で向き合うと、ダミアンの赤い瞳をじっと見据えた。
「貴方のことは、誰にも傷つけさせない」
ダミアンが孤高の王なら、僕は王の背中を守る騎士になろう。周囲を敵に包囲されても、僕だけは彼の味方でありたい。
僕の言葉を聞いたダミアンは、信じられないものを見るように目を見開く。本気であることが伝わるように見つめ返していると、ダミアンはふっと頬を緩めた。
「貴様に何ができる? 魔法すら使えないくせに」
「それは、寮長が首輪を付けているからじゃないですか……。今すぐ外してください」
「無理だな」
首輪を外すことを要求したものの、あっさりと拒否されてしまう。まあ、このタイミングで外してもらえるとは思っていないから、良いのだけれど。
それにしたって、僕は本気でダミアンを守りたいと思っているのに、当の本人からは小馬鹿にするように笑われるばかりだ。その温度差にも腹が立った。
むすっと唇を尖らせて俯いていると、ダミアンがゆっくりと手を持ち上げて僕の頬を包み込む。顔を上げると、ダミアンはにやりと口元を歪ませていた。
「俺のことは、嫌いだったんじゃないのか?」
「はい? なぜ急に……」
「シリルにそう話していたじゃないか」
その言葉で、先日のシリルとのやりとりを思い出す。ダミアンは、そんな些細な会話まで盗み聞きしていたのか。
「あれは、好きか嫌いかの二択で迫られたらの話で」
「その二択では、嫌いなのだろう?」
ダミアンは、依然としてにやりと笑っている。僕のことをからかっているのは、一目瞭然だ。
ここで、嫌いだと突き放すことは容易い。だけど、本人を前にすると言えそうになかった。熱くなった顔を隠すように、ダミアンの胸元に額をくっつける。
「撤回します。嫌いではありません」
嘘ではない。ダミアンに対して憤りを感じることはあるけど、安易に嫌いと分類できるような存在ではなかった。そもそも嫌いだったら、守りたいなんて感情は芽生えないだろう。
羞恥心に悶えながら額を押し当てていると、ダミアンが再び僕の背中に腕を回す。思いがけず触れられたことで、びくりと身体が飛びはねた。
「随分と懐かれたものだな」
またしても犬のような扱いをされてしまう。複雑な気分になったが、反発する気は起きなかった。
ダミアンに抱きしめられている間は、不思議と心が安らぐ。
僕は自分で思っていた以上に、ダミアンに懐柔されていたようだ。
恥ずかしいけど、この体勢だったら泣き顔を見られることもない。羞恥心を押し殺しながら、されるがままになっていた。
ダミアンは「世話の焼けるやつだ」なんて悪態を吐いていたけど、背中を撫でる手は優しかった。
呼吸が落ち着いてからも、顔を合わせるのが恥ずかしくて、離れられずにいた。するとダミアンは、僕の背中を撫でながら話を切り出す。
「驚かせてしまって悪かった。あんなのは俺にとってはよくあることだが、他の人間が見れば気が動転するのも無理はない」
毒を盛られることがよくあるなんて、考えたくもない。余所ならまだしも、今回仕掛けられたのは屋敷の中だ。そんな環境で暮らしていたら、気が休まる暇もないだろう。これまでのダミアンの境遇を想像すると、胸が張り裂けそうになった。
「首謀者は、第三夫人のサラだろう。以前話したシリルの姉だ。娘を使って油断させたところを潰すつもりだったようだな。あの女のやり口は、昔から変わらない」
「それじゃあ、あの子もグルだったんですか?」
先ほどの少女の姿が脳裏に過る。無垢な笑顔を浮かべながら、毒入りクッキーを渡してきたなんて考えたくもない。何も知らずに母に利用されていたのだとしても許せない。
「真相は分からないが、義妹が善意で俺に贈り物をするなんてありえない。陥れようとする意志はあったんだろうな」
あんなに幼い子にまで狙われているなんて、ゾッとする。恐怖で震えていると、僕を落ち着かせるようにダミアンが背中を擦った。
「先日、俺の事情に巻き込みたくないと言ったばかりなのに、こんなことになってしまって申し訳なかった。今後は害が及ばないように、より一層目を光らせておく」
ダミアンは、命を狙われたというのに、僕の心配ばかりしてくる。そんな態度にも胸が締め付けられた。
優しいという言葉だけでは片付けられない。自分に危害が及ぶことに対しては、取り乱すこともなくなってしまったのだろう。慣れと呼ぶには、あまりに悲しいことだ。
「ブラッドリー公爵には報告しないんですか?」
跡継ぎとなる息子が毒殺されかけたとなれば、ブラッドリー公爵だって黙っていないはずだ。第三夫人に何らかの制裁が下ることを期待していたが、あっけなく裏切られた。
「報告はする。だが状況は変わらないだろうな。厳重注意をしても、ほとぼりが冷めた頃にはまた企てる。俺が生きていて、彼女が夫人の座についている限り、繰り返されるだろう」
「そんな……」
「父も似たような境遇の中で家督を継いだ。一族間での跡目争いに負けるような男には、公爵家の当主は務まらないとでも考えているのかもしれないな」
それはあまりに酷だ。血のつながりがある父ですら、守ってくれないなんて……。
このままでいいのだろうか? この先も彼を一人にしていたら、いつか本当に取り返しのつかないことになってしまいそうな気がする。今、触れている温もりが、誰かの悪意で奪われるなんてあってはならない。
それなら、僕が――。
ゆっくりとダミアンの肩から離れ、背中に回されていた腕を解く。至近距離で向き合うと、ダミアンの赤い瞳をじっと見据えた。
「貴方のことは、誰にも傷つけさせない」
ダミアンが孤高の王なら、僕は王の背中を守る騎士になろう。周囲を敵に包囲されても、僕だけは彼の味方でありたい。
僕の言葉を聞いたダミアンは、信じられないものを見るように目を見開く。本気であることが伝わるように見つめ返していると、ダミアンはふっと頬を緩めた。
「貴様に何ができる? 魔法すら使えないくせに」
「それは、寮長が首輪を付けているからじゃないですか……。今すぐ外してください」
「無理だな」
首輪を外すことを要求したものの、あっさりと拒否されてしまう。まあ、このタイミングで外してもらえるとは思っていないから、良いのだけれど。
それにしたって、僕は本気でダミアンを守りたいと思っているのに、当の本人からは小馬鹿にするように笑われるばかりだ。その温度差にも腹が立った。
むすっと唇を尖らせて俯いていると、ダミアンがゆっくりと手を持ち上げて僕の頬を包み込む。顔を上げると、ダミアンはにやりと口元を歪ませていた。
「俺のことは、嫌いだったんじゃないのか?」
「はい? なぜ急に……」
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その言葉で、先日のシリルとのやりとりを思い出す。ダミアンは、そんな些細な会話まで盗み聞きしていたのか。
「あれは、好きか嫌いかの二択で迫られたらの話で」
「その二択では、嫌いなのだろう?」
ダミアンは、依然としてにやりと笑っている。僕のことをからかっているのは、一目瞭然だ。
ここで、嫌いだと突き放すことは容易い。だけど、本人を前にすると言えそうになかった。熱くなった顔を隠すように、ダミアンの胸元に額をくっつける。
「撤回します。嫌いではありません」
嘘ではない。ダミアンに対して憤りを感じることはあるけど、安易に嫌いと分類できるような存在ではなかった。そもそも嫌いだったら、守りたいなんて感情は芽生えないだろう。
羞恥心に悶えながら額を押し当てていると、ダミアンが再び僕の背中に腕を回す。思いがけず触れられたことで、びくりと身体が飛びはねた。
「随分と懐かれたものだな」
またしても犬のような扱いをされてしまう。複雑な気分になったが、反発する気は起きなかった。
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