歪んだ愛はお断りします ~断罪ルートを回避した悪役令息は、鬼畜寮長に囚われる~

南 コウ

文字の大きさ
26 / 58
2章

25.優しくされると調子が狂うな

しおりを挟む
 ブラッドリー公爵家を訪問してから数日が経過した。
 その間に競技会の準備が本格始動し、慌ただしく過ごす毎日が続いていた。

 今日はドラゴンレースのコース確認をする予定だ。終礼が終わり、教室を出ようとしたところで、ルーカスに呼び止められた。

「アレン、今日も競技会の準備か?」
「うん。そうだよ」
「大変そうだな。俺にも手伝えることはあるか?」

 ルーカスが屈託のない笑顔で手伝いを申し出る。その後ろには、クライドとフレッドもいた。

「いいの? 放課後はみんな忙しいんじゃ……」
「いいって、いいって! アレンだって言ってただろ? 祭りは外から見ているよりも、中に飛び込んで踊った方が楽しいって」

 にっと笑ったルーカスに、肩を叩かれる。その明るさに、こっちまでエネルギーをもらえた。

「ありがとう! 助かるよ!」

 お言葉に甘えて、三人にも協力してもらうことにした。
 四人で廊下を歩いていると、後ろを歩いていたクライドが尋ねる。

「競技会の参加人数は増えたのか?」
「うん! 競技を見直したら、希望者もかなり増えたよ。今のところ、生徒の半数は参加を希望してくれている。競技の選択肢が増えたのが良かったのかもね」

 上機嫌で報告すると、クライドは安心したように頬を緩める。すると、フレッドも得意げに話に入って来た。

「競技が増えて参加しやすくなったのは確かだろうね。あとは、今年の競技会には国内企業の重役や王立研究所の職員も注目しているっていうのも参加を決める理由になっていると思う。実際に僕も、それで参加を決めたし」

 フレッドの言うように、今年の競技会は各企業や専門家が注目している。ダミアンが各企業や研究所宛てに企画の概要をまとめた招待状を郵送したおかげだ。ブラッドリー公爵を説得した時と同様にメリットを提示したのだろう。

 お偉方に自分のスキルをアピールできることも、参加希望者を増やす要因になっていた。

「貴族は遊んで暮らしていればいいって時代はとっくに終わったからね。家督を継がない次男は、自分の力で生きていかなければならないし」

 フレッドは、腕組みをしながらため息をつく。そういえば、フレッドは伯爵家の次男だったっけ。
 家督は長男が継ぐのがこの国の慣習だから、フレッドはいずれ家を出て行かなければならない。そのためにも、いまのうちに伝手を作っておきたいのだろう。
 隣を歩いていたルーカスも、同意するように頷く。

「当日は騎士団も見学に来るそうだからな。剣技で活躍すれば、第一部隊への配属も夢じゃない。気合を入れて鍛錬に励まないとな」
「ルーカスもはりきってるね」
「おうよ!」

 乗り気な二人を見ていると、僕も嬉しくなってくる。この調子で、当日も盛り上がってもらいたいものだ。

 四人で校舎を出たところで、ダミアンと鉢合わせる。偶然なのか、待ち伏せていたのかは不明だが、ダミアンは僕の姿を見つけると迷いのない足取りで近付いてきた。

 ダミアンと顔を合わせると、先日の出来事がフラッシュバックする。あの時は予想だにしなかった出来事に遭遇してショックを受けていたけど、あらためて思い出すとあんなに密着していたなんて恥ずかし過ぎる。

 顔が熱くなるのを感じながら視線を泳がせていると、ダミアンは何食わぬ顔で話を切り出した。

「今日はコース確認だったな。一人で大丈夫か?」
「あ、えっと、三人が手伝ってくれるそうで……」

 たどたどしく説明すると、ダミアンはちらりと三人を一瞥する。

「……そうか」

 妙な沈黙が生まれる。なんだこの雰囲気? ルーカスたちに手伝ってもらうのは良くなかったか?
 何か嫌味を言われるのではと身構えていると、ダミアンはゆっくり手を持ち上げて、僕の頭を撫でた。

「頼んだぞ」

 僅かに頬を緩ませながら、わしゃわしゃと僕の頭を撫でる。されるがままになっていると、ダミアンは踵を返して綺石の館へ向かった。
 遠ざかるダミアンの背中をぼんやり見つめていると、ルーカスたちに詰め寄られる。

「今のはなんだ? 寮長がアレンの頭を撫でて笑っていなかったか?」
「あれは寮長の姿をした別人か?」
「一体何があったの?」

 三人から追及されたところで、現実に引き戻される。みんなの前で頭を撫でられていたことを自覚すると、カアアッと顔が熱くなった。

「何もない! 断じて何もない!」

 僕がムキになって否定したせいで、三人からは余計に疑いの眼差しを向けられる羽目になった。

 先日の一件以降、ダミアンは妙に優しくなった。嫌味を言われたり揶揄われたりするよりはマシだけど、慣れていないせいで調子が狂う。複雑な面持ちで、ダミアンに触れられた場所を押さえていた。

 * * *

 競技会の準備も順調に進み、本番が十日後に迫った頃、生徒総会が開催された。この日の議題は、競技会についてだ。
 檀上には、四寮長が登壇している。その中心で、ダミアンが競技会の概要を説明していた。

 昨年までとは異なる取り組みとあって、生徒たちは熱心に話を聞いている。僕も檀上に注目しながらダミアンの話に耳を傾けた。

 競技の説明が終わると、優勝した寮に与えられる特権の話題になる。各寮で話し合った特権の希望を、全校生徒の前で発表するのだ。
 各寮の望む特権は、既に寮長会議で共有してある。どれも生徒の要望を叶えつつ、実現可能な範囲で合意していた。
 まずは、我らがガーネット寮の希望する特権を発表する。

「ガーネット寮が優勝した暁には、食堂の事前予約制を希望する」

 ダミアンの口から発表すると、ガーネット寮の生徒たちは顔を見合わせながら、拍手をした。
 これは、ガーネット寮の集会で決まったことだ。昼休みに食堂に行っても、人が多すぎて席が確保できず、食べたい料理にもありつけないという意見からあがったものだ。

 ダミアンは「くだらない」と呆れていたが、食べ盛りの男子にとっては深刻な問題だ。そこでガーネット寮の生徒限定で、食堂を事前予約できる制度を思いついた。
 特権の有効期限は一年間だ。その程度であれば、生徒間の取り決めで実現できるだろうとダミアンが許可してくれた。

 他の寮からも承認を示す拍手が飛んでくる。大多数から承認を得たところで、ガーネット寮の特権は決定した。

 続けて、エメラルド寮、トパーズ寮も、希望する特権を発表する。事前に共有してあった通り、エメラルド寮は自習室の専用スペースの確保、トパーズ寮は四半期に行われる慈善活動の免除を要求してきた。トパーズ寮の要求については学園側とも掛け合ったところ、一年の期限付きであれば構わないとのことで承認された。

 いずれの特権も、生徒たちから承認される。残すは、サファイア寮だ。
 生徒から注目を集める中、シリルは涼し気な笑みを浮かべながら宣言した。

「サファイア寮が優勝した暁には、ダミアン・ブラッドリーの自主退学を要求します」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」 ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。 (これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!) 妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。 スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。 スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。 もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます? 十万文字程度。 3/7 完結しました! ※主人公:マイペース美人受け ※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。 たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト
BL
2024.12.11~2巻がアンダルシュノベルズ様より書籍化されます。皆様のおかげです。誠にありがとうございます。 番外編などは書籍に含まれませんので是非、楽しんで頂けますと嬉しいです。 他の番外編も少しずつアップしたいと思っております。 ◇ストーリー◇ 孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人 姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。 そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。 互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!? ・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。 総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。 自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

処理中です...