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2章
26.偽善者の主張
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しんっと場が凍り付く。誰もが呆然としながら、壇上にいるシリルを見つめていた。
サファイア寮が優勝したら、ダミアン・ブラッドリーの自主退学を要求する。
シリルは確かにそう言った。先日の寮長会議で共有された内容とは、明らかに変わっている。
沈黙に包まれる中、シリルは目を伏せながら、胸を痛めるような仕草を見せた。
「最近のダミアン寮長の振る舞いは、目に余るものがあります。ひと月前には、あやまって胸像を破壊してしまった新入生に対し、行動の監視と魔力制限を目的とする首輪を付けました。生徒の行動を四六時中監視するなんて、人道的ではない。罰だとしても重すぎる」
シリルが話題にあげた新入生って、僕のことか? 確かに首輪を付けられたのは不本意だけど、退学に追い込むほどの行いとは思えない。
「当該の新入生に限った話だけではありません。サファイア寮の生徒も、ダミアン寮長にきつく叱られて心を痛めておりました。生徒を監督する立場だとしても、生徒の尊厳を踏みにじって良いのでしょうか?」
まるで悪の所業を暴くかのように、生徒たちに訴えかける。シリルの言葉で、沈黙していた生徒たちもひそひそと意見交換を始めた。
「確かにダミアン寮長は恐ろしいけど、退学というのは……」
「だけど、他寮の俺たちにもきつく叱りつけてくるし」
「退学となれば、これ以上怯える心配もなくなるのか……」
ダミアンを擁護する声と退学を望む声が同時に聞こえてくる。あらゆる思惑が錯綜する中で、僕は言葉を失っていた。
一生徒を退学に追い込むなんて、競技会で設定する特権の範疇を超えている。退学となれば、ダミアンのその後の人生にも大きく影響してくるだろう。
もしやシリルは、最初からこの流れを作るために競技会に協力したのか? ダミアンを退学に追い込み、ブラッドリー公爵家の跡取りの座から引きずり下ろすために計画していたのだとしたら……。
壇上にいるダミアンへ視線を向ける。信じがたい要求がされたというのに、ダミアンは取り乱すわけでもなく、毅然とした態度で佇んでいた。
「それはあまりに横暴では?」
ダミアンは横目でシリルを捉えながら、異議を唱える。本人から指摘されると、シリルはわざとらしくため息をついた。
「横暴なのは、貴方の振る舞いではありませんか? 不服というのなら、今この場でアレン・マクミランの首輪を外してあげてください。そうすれば、この要求は取り下げます」
「それはできない」
ダミアンは即答する。その一言で、生徒たちにざわめきが起こった。
周囲がダミアンに批判的な目を向ける中、シリルはやれやれと肩を竦める。
「ダミアン寮長は、彼を解放する気はないようですね。残念です」
まるで僕を憐れんでいるような口ぶりだが、本心ではそうでないことを知っている。シリルは僕の首輪を理由に、ダミアンを引き摺り下ろそうとしているんだ。
なんて卑怯なんだ! 戸惑いは、次第に憤りへと変わっていく。
こうしてはいられない。僕は生徒たちを押しのけて、壇上に向かった。
シリルにはっきり言ってやる。この首輪は自分の力で外してもらうから、放っておいてくれと。そうすれば、生徒たちからの非難も少しは収まるはずだ。
怒りで脳が焼ききれそうになりながら、前へ前へと進む。先頭までやって来たところで、ダミアンと目が合った。
ダミアンは、こちらを射貫くように睨みつけながら、首を左右に振る。まるで「来るな」とでも言いたげに。その命令で、僕の足が止まった。
ダミアンは小さく息をついてから、シリルと向き合う。
「分かった。その条件を呑もう」
ダミアンの言葉を聞いた瞬間、「はあ?」とその場で叫んでしまった。生徒たちからもざわめきが起きる。
混乱の渦に突き落とされる中、まばらに拍手の音が聞こえてくる。振り返ると、サファイア寮の生徒が承認を意味する拍手をしていた。
拍手の音は次第に大きくなる。サファイア寮だけでなく、エメラルド寮やトパーズ寮の生徒まで承認をしていた。
なんで、こうなるんだ……。全然納得できない。底の見えない谷底に突き落とされた気分だ。
背後から聞こえてくる拍手の音が、どんどん遠くなっていくような気がした。
* * *
生徒総会が終わり、四寮長が壇上から降りてきたところで、ダミアンに詰め寄る。
「どういうつもりですか!? なぜ要求を呑んだんです?」
噛みつく勢いで追及する。ダミアンはそんな反応すら面白がるように、ふっと笑みを零した。
「なんだ? 心配しているのか? この俺が、退学になるんじゃないかと」
「当たり前ですよ!」
はっきり肯定すると、ダミアンはまたしてもおかしそうに笑う。
なんでそんなに余裕なんだよ……。苛立ちを隠せずにいると、ダミアンはにやりと口元を歪ませる。
「要は、負けなければいいのだろう?」
「はい?」
あまりに楽観的すぎる言葉が飛んでくる。負けなければいいというのは確かにその通りだけど、上手くいく保証はない。恐らくシリルは、ダミアンを退学に追い込むために、あの手この手で優勝を狙いにくるだろう。
「どんな手を使っても勝つ。それだけだ」
その自信は、どこから来るのかと呆れてしまう。ダミアンは口元では笑っているが、その瞳は獲物を狩る獣のようにギラギラと光っている。
その目を見たのは二度目だ。一度目は、僕がイチルの実を誤飲した時。ソファでダミアンに押し倒された時も、いまと同じような目をしていた。
ぞくりと背中に電流が走る。圧倒的な強者のオーラを目の当たりにして、その場から動けなくなった。
サファイア寮が優勝したら、ダミアン・ブラッドリーの自主退学を要求する。
シリルは確かにそう言った。先日の寮長会議で共有された内容とは、明らかに変わっている。
沈黙に包まれる中、シリルは目を伏せながら、胸を痛めるような仕草を見せた。
「最近のダミアン寮長の振る舞いは、目に余るものがあります。ひと月前には、あやまって胸像を破壊してしまった新入生に対し、行動の監視と魔力制限を目的とする首輪を付けました。生徒の行動を四六時中監視するなんて、人道的ではない。罰だとしても重すぎる」
シリルが話題にあげた新入生って、僕のことか? 確かに首輪を付けられたのは不本意だけど、退学に追い込むほどの行いとは思えない。
「当該の新入生に限った話だけではありません。サファイア寮の生徒も、ダミアン寮長にきつく叱られて心を痛めておりました。生徒を監督する立場だとしても、生徒の尊厳を踏みにじって良いのでしょうか?」
まるで悪の所業を暴くかのように、生徒たちに訴えかける。シリルの言葉で、沈黙していた生徒たちもひそひそと意見交換を始めた。
「確かにダミアン寮長は恐ろしいけど、退学というのは……」
「だけど、他寮の俺たちにもきつく叱りつけてくるし」
「退学となれば、これ以上怯える心配もなくなるのか……」
ダミアンを擁護する声と退学を望む声が同時に聞こえてくる。あらゆる思惑が錯綜する中で、僕は言葉を失っていた。
一生徒を退学に追い込むなんて、競技会で設定する特権の範疇を超えている。退学となれば、ダミアンのその後の人生にも大きく影響してくるだろう。
もしやシリルは、最初からこの流れを作るために競技会に協力したのか? ダミアンを退学に追い込み、ブラッドリー公爵家の跡取りの座から引きずり下ろすために計画していたのだとしたら……。
壇上にいるダミアンへ視線を向ける。信じがたい要求がされたというのに、ダミアンは取り乱すわけでもなく、毅然とした態度で佇んでいた。
「それはあまりに横暴では?」
ダミアンは横目でシリルを捉えながら、異議を唱える。本人から指摘されると、シリルはわざとらしくため息をついた。
「横暴なのは、貴方の振る舞いではありませんか? 不服というのなら、今この場でアレン・マクミランの首輪を外してあげてください。そうすれば、この要求は取り下げます」
「それはできない」
ダミアンは即答する。その一言で、生徒たちにざわめきが起こった。
周囲がダミアンに批判的な目を向ける中、シリルはやれやれと肩を竦める。
「ダミアン寮長は、彼を解放する気はないようですね。残念です」
まるで僕を憐れんでいるような口ぶりだが、本心ではそうでないことを知っている。シリルは僕の首輪を理由に、ダミアンを引き摺り下ろそうとしているんだ。
なんて卑怯なんだ! 戸惑いは、次第に憤りへと変わっていく。
こうしてはいられない。僕は生徒たちを押しのけて、壇上に向かった。
シリルにはっきり言ってやる。この首輪は自分の力で外してもらうから、放っておいてくれと。そうすれば、生徒たちからの非難も少しは収まるはずだ。
怒りで脳が焼ききれそうになりながら、前へ前へと進む。先頭までやって来たところで、ダミアンと目が合った。
ダミアンは、こちらを射貫くように睨みつけながら、首を左右に振る。まるで「来るな」とでも言いたげに。その命令で、僕の足が止まった。
ダミアンは小さく息をついてから、シリルと向き合う。
「分かった。その条件を呑もう」
ダミアンの言葉を聞いた瞬間、「はあ?」とその場で叫んでしまった。生徒たちからもざわめきが起きる。
混乱の渦に突き落とされる中、まばらに拍手の音が聞こえてくる。振り返ると、サファイア寮の生徒が承認を意味する拍手をしていた。
拍手の音は次第に大きくなる。サファイア寮だけでなく、エメラルド寮やトパーズ寮の生徒まで承認をしていた。
なんで、こうなるんだ……。全然納得できない。底の見えない谷底に突き落とされた気分だ。
背後から聞こえてくる拍手の音が、どんどん遠くなっていくような気がした。
* * *
生徒総会が終わり、四寮長が壇上から降りてきたところで、ダミアンに詰め寄る。
「どういうつもりですか!? なぜ要求を呑んだんです?」
噛みつく勢いで追及する。ダミアンはそんな反応すら面白がるように、ふっと笑みを零した。
「なんだ? 心配しているのか? この俺が、退学になるんじゃないかと」
「当たり前ですよ!」
はっきり肯定すると、ダミアンはまたしてもおかしそうに笑う。
なんでそんなに余裕なんだよ……。苛立ちを隠せずにいると、ダミアンはにやりと口元を歪ませる。
「要は、負けなければいいのだろう?」
「はい?」
あまりに楽観的すぎる言葉が飛んでくる。負けなければいいというのは確かにその通りだけど、上手くいく保証はない。恐らくシリルは、ダミアンを退学に追い込むために、あの手この手で優勝を狙いにくるだろう。
「どんな手を使っても勝つ。それだけだ」
その自信は、どこから来るのかと呆れてしまう。ダミアンは口元では笑っているが、その瞳は獲物を狩る獣のようにギラギラと光っている。
その目を見たのは二度目だ。一度目は、僕がイチルの実を誤飲した時。ソファでダミアンに押し倒された時も、いまと同じような目をしていた。
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