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2章
28.魔法競技会①
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そして迎えた魔法競技会当日。学園内は朝から大勢の紳士淑女で賑わっていた。
普段は閉ざされている正門が開かれ、続々と人が流れ込んでくる。その様子を中庭から眺めているだけで、いよいよ本番がやって来たのだと身が引き締まる思いになった。
今年の競技会には父兄だけでなく、企業や研究所の職員も見物に来る。見られていることを意識すると、余計に緊張感が高まった。
「第一競技の剣技は、あちらの闘技場で行います」
続々とやって来る見物人を、闘技場へ誘導していく。人手が足りないこともあり、ガーネット寮の生徒は案内役として駆り出されていた。
和やかに歓談しながら進んでいく見物人の後ろ姿を眺めながら、額に滲んだ汗を拭う。この日を狙っていたかのように燦燦と輝く太陽を見上げていると、背後から「やあ」と聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、ブラッドリー公爵がにこやかに手を振っている。その後ろには、数名の従者がいた。
「こ、こんにちはっ」
思いがけず再会したことで、声がひっくりかえってしまう。ガチガチに緊張しながらお辞儀をする僕を見て、ブラッドリー公爵は「はっはっは」と朗らかに笑っていた。
「頑張っているね、アレンくん」
「いえ、これも仕事ですから」
おずおずと申し出ると、ブラッドリー公爵は「感心、感心」と頷いた。
相変わらず、ダミアンとは違って明朗な人だ。腹のうちまでは分からないから、油断はできないけど……。
警戒しながらもぎこちなく笑顔を浮かべていると、ブラッドリー公爵はちらりと周囲を見回す。かと思えば、僕の耳元を顔を寄せた。
「先日は申し訳ないことをしてしまった。これに懲りずに、息子とも仲良くしてあげてね」
先日というのは、毒入りクッキー事件のことだろうか。まさかブラッドリー公爵から直接謝罪されるとは思わなかった。
謝罪をしてきたということは、あの日の出来事はブラッドリー公爵の耳にも入っているのだろう。
「幸い口にする前にダミアン寮長が気付いてくれたので……」
うっかり零れそうになった「大丈夫です」という言葉は、寸でのところで飲み込んだ。正直、大丈夫ではない。あんなのは、あってはならないことだ。気付くのが遅れたら、取り返しのつかないことになっていた。
当時のことを思い返すと、憤りが湧き上がってくる。だけど、それをブラッドリー公爵にぶつける勇気はなかった。
拳を握り締めながら俯いていると、背後から誰かに肩を掴まれる。
「彼には見物人の案内係を任せているんです。邪魔をしないでいただけますか?」
振り返ると、鋭い眼光でブラッドリー公爵を睨みつけるダミアンがいた。
うわっ、出たな……と身構えてしまう。おおかた、中庭で立ち話をする僕らのことが気になって飛んできたのだろう。
突如現れた息子を見て、ブラッドリー公爵はおかしそうに笑いだす。
「邪魔をしようだなんて思っていないさ。ただ、先日のことを謝りたくてね」
「貴方の口から謝罪しても、不信感が募るだけだと思いますが?」
棘のある言葉に、僕の方が驚いてしまう。二人の顔を交互に見つめていると、ブラッドリー公爵は「はっはっは」と豪快に笑った。
「我が息子ながら手厳しいな」
同調して笑うこともできずに口元を引きつらせていると、ブラッドリー公爵は僕に視線を合わせる。
「これからも息子のことをよろしくね。末永く」
そう告げると、従者を引きつれて競技場へ向かっていった。
ブラッドリー公爵の背中を見つめながら、思考を巡らせる。
末永くって、どういうことだ? 卒業してからもダミアンの補佐でいろということか? まさかダミアンの従者になることを望んでいたりして……。
まあ、闇属性の僕なんて、どこも雇ってくれないだろうし、ブラッドリー家が引き取ってくれるのならありがたい。マクミラン家の嫡男といえど、僕は家督を継がないからいずれは出て行かなければならないし。
なんて将来のことに想いを馳せていると、ダミアンに驚いたような視線を向けられる。
「貴様は家督を継がないのか?」
「はい。言っていませんでしたっけ? マクミラン家は弟のリオンが継ぐことになっています」
正直に明かすと、ダミアンは口を半開きにして呆気にとられたような顔をする。
そんなに驚くことか? ブラッドリー公爵家の人間からすれば、しがない男爵家のお家事情なんて些末なことだと思っていたけど……。
不思議に思いながら瞬きを繰り返していると、ダミアンはどこか嬉しそうに頬を緩める。
「そういう事情なら、遠慮なく囲い込めるな」
「……は?」
「俺の従者になりたいのだろう?」
先ほどの心の声を読まれていたようだ。密かに抱いていた目論見を知られてしまい、羞恥心が込み上げてくる。
「別に従者になることを望んでいるわけでは……」
「先日も俺のことを誰にも傷つけさせないと言っていたが、あれはそのような意味だったのか。なるほどな」
「だからそうじゃなくて!」
ムキになって否定したものの、ダミアンはおかしそうに笑うばかり。その反応で、余計に恥ずかしくなった。俯いていると、ぽんっと頭を撫でられる。
「安心しろ。俺の傍にいる限り、生活は保障してやる」
それはつまり、将来の従者として認められたということか? こんな口約束で公爵家の従者が決まるとは思えないけど、ダミアンから認められたのは素直に嬉しかった。
普段は閉ざされている正門が開かれ、続々と人が流れ込んでくる。その様子を中庭から眺めているだけで、いよいよ本番がやって来たのだと身が引き締まる思いになった。
今年の競技会には父兄だけでなく、企業や研究所の職員も見物に来る。見られていることを意識すると、余計に緊張感が高まった。
「第一競技の剣技は、あちらの闘技場で行います」
続々とやって来る見物人を、闘技場へ誘導していく。人手が足りないこともあり、ガーネット寮の生徒は案内役として駆り出されていた。
和やかに歓談しながら進んでいく見物人の後ろ姿を眺めながら、額に滲んだ汗を拭う。この日を狙っていたかのように燦燦と輝く太陽を見上げていると、背後から「やあ」と聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、ブラッドリー公爵がにこやかに手を振っている。その後ろには、数名の従者がいた。
「こ、こんにちはっ」
思いがけず再会したことで、声がひっくりかえってしまう。ガチガチに緊張しながらお辞儀をする僕を見て、ブラッドリー公爵は「はっはっは」と朗らかに笑っていた。
「頑張っているね、アレンくん」
「いえ、これも仕事ですから」
おずおずと申し出ると、ブラッドリー公爵は「感心、感心」と頷いた。
相変わらず、ダミアンとは違って明朗な人だ。腹のうちまでは分からないから、油断はできないけど……。
警戒しながらもぎこちなく笑顔を浮かべていると、ブラッドリー公爵はちらりと周囲を見回す。かと思えば、僕の耳元を顔を寄せた。
「先日は申し訳ないことをしてしまった。これに懲りずに、息子とも仲良くしてあげてね」
先日というのは、毒入りクッキー事件のことだろうか。まさかブラッドリー公爵から直接謝罪されるとは思わなかった。
謝罪をしてきたということは、あの日の出来事はブラッドリー公爵の耳にも入っているのだろう。
「幸い口にする前にダミアン寮長が気付いてくれたので……」
うっかり零れそうになった「大丈夫です」という言葉は、寸でのところで飲み込んだ。正直、大丈夫ではない。あんなのは、あってはならないことだ。気付くのが遅れたら、取り返しのつかないことになっていた。
当時のことを思い返すと、憤りが湧き上がってくる。だけど、それをブラッドリー公爵にぶつける勇気はなかった。
拳を握り締めながら俯いていると、背後から誰かに肩を掴まれる。
「彼には見物人の案内係を任せているんです。邪魔をしないでいただけますか?」
振り返ると、鋭い眼光でブラッドリー公爵を睨みつけるダミアンがいた。
うわっ、出たな……と身構えてしまう。おおかた、中庭で立ち話をする僕らのことが気になって飛んできたのだろう。
突如現れた息子を見て、ブラッドリー公爵はおかしそうに笑いだす。
「邪魔をしようだなんて思っていないさ。ただ、先日のことを謝りたくてね」
「貴方の口から謝罪しても、不信感が募るだけだと思いますが?」
棘のある言葉に、僕の方が驚いてしまう。二人の顔を交互に見つめていると、ブラッドリー公爵は「はっはっは」と豪快に笑った。
「我が息子ながら手厳しいな」
同調して笑うこともできずに口元を引きつらせていると、ブラッドリー公爵は僕に視線を合わせる。
「これからも息子のことをよろしくね。末永く」
そう告げると、従者を引きつれて競技場へ向かっていった。
ブラッドリー公爵の背中を見つめながら、思考を巡らせる。
末永くって、どういうことだ? 卒業してからもダミアンの補佐でいろということか? まさかダミアンの従者になることを望んでいたりして……。
まあ、闇属性の僕なんて、どこも雇ってくれないだろうし、ブラッドリー家が引き取ってくれるのならありがたい。マクミラン家の嫡男といえど、僕は家督を継がないからいずれは出て行かなければならないし。
なんて将来のことに想いを馳せていると、ダミアンに驚いたような視線を向けられる。
「貴様は家督を継がないのか?」
「はい。言っていませんでしたっけ? マクミラン家は弟のリオンが継ぐことになっています」
正直に明かすと、ダミアンは口を半開きにして呆気にとられたような顔をする。
そんなに驚くことか? ブラッドリー公爵家の人間からすれば、しがない男爵家のお家事情なんて些末なことだと思っていたけど……。
不思議に思いながら瞬きを繰り返していると、ダミアンはどこか嬉しそうに頬を緩める。
「そういう事情なら、遠慮なく囲い込めるな」
「……は?」
「俺の従者になりたいのだろう?」
先ほどの心の声を読まれていたようだ。密かに抱いていた目論見を知られてしまい、羞恥心が込み上げてくる。
「別に従者になることを望んでいるわけでは……」
「先日も俺のことを誰にも傷つけさせないと言っていたが、あれはそのような意味だったのか。なるほどな」
「だからそうじゃなくて!」
ムキになって否定したものの、ダミアンはおかしそうに笑うばかり。その反応で、余計に恥ずかしくなった。俯いていると、ぽんっと頭を撫でられる。
「安心しろ。俺の傍にいる限り、生活は保障してやる」
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