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2章
30.魔法競技会③
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剣技では、ガーネット寮が2勝1敗という結果を収めた。第一競技が終了した段階では、各寮との差はほどんど付いていない。優勝するためには、この先の競技で着実に勝利を収めていく必要があった。
第一競技以降は、複数のエリアに分かれて競技を進めていく。見物人は興味のある試合を観戦できる仕組みになっていた。
僕らは闘技場をあとにすると、屋外のグラウンドに向かう。グラウンドでは、薬草鑑定レースが予定されていた。
薬草鑑定レースには、フレッドが出場する。その他にも、薬草に詳しい生徒や魔法薬の調合に秀でている生徒が参加していた。
コースには、お題となる薬草が記されたカードが置かれていて、その先には瓶詰めにされた薬草が点在している。三十種類以上の瓶から指定された薬草が入っている瓶を選び、真っ先にゴールしたものの勝利だ。ゴールまでのタイム差が、各寮の総スコアに反映される。
フレッドはよほど自信があるのか、開始前から余裕の態度だ。
「この試合で他寮と差をつけるから、期待していてね」
ふふんっと得意げに笑いながら、フレッドはスタート位置に向かった。
レースが始まると、選手は一斉に駆け出す。各々お題の描かれたカードを拾うと、お目当ての瓶を探し始めた。
フレッドは、カードを確認すると同時に走り出す。躊躇いなく赤い実の入った瓶を掴んで、ゴールへ走った。
「早っ……もう見つけたのか?」
あまりの早さに驚いてしまう。他の選手は、瓶の中身を見比べながら、うろうろしている。その間に、フレッドは一着でゴールした。
他寮と圧倒的なタイム差を付けている。さすが天才薬師だ……。
感心していると、フレッドは赤い実の入った瓶を判定員に渡した。
「お題は、イチルの実です。催淫作用を持つ薬草で、媚薬を調合する際に少量使用します」
薬効と使用方法を明かすと、判定員である魔法薬教師が「正解」と高らかに告げる。周囲が盛り上がる中、僕だけはドキッとしてしまった。
あれは、以前僕が誤飲した赤い実じゃないか……。反射的にダミアンに弄ばれたことを思い出してしまい、顔が熱くなる。
「どうした、アレン? 顔が赤いぞ」
クライドから指摘をされたところで、ばっと両手で顔を覆った。
「き、気のせいだよ!」
* * *
薬草鑑定レースの次は、アルミラージハントだ。結界を張ったグラウンドに50匹のアルミラージが放たれた。
ふわふわした毛並みと、つぶらな瞳は愛らしいけど、額から生えた一本の角を見るとゾッとする。角を突き出して突進されたら、ひとたまりもないだろう。
「想像していたよりも怖いな……」
開始前からアルミラージに怯えていると、誰かに肩を叩かれる。振り返ると、先ほどの薬草鑑定レースで勝利を収めたフレッドがにっこり笑っていた。
「アレン、良いものをあげるよ」
「良いものって?」
「アルミラージをハントするための魔法薬だよ」
フレッドは懐から小瓶を取り出す。その中には、紫色の怪しげな液体が入っていた。
「いや、あの、それは遠慮したく……」
両手を左右に揺らしながら後退りしていると、どんっと誰かにぶつかる。振り返ると、ダミアンがいた。
もしかして、助けに来てくれたのか? 僕が怪しげな魔法薬を飲まされそうになっていたから。
慌ててダミアンの背後に回り、盾にする。これで諦めてくれると思いきや、フレッドは躊躇いなくダミアンに声をかけた。
「寮長、許可を」
「ああ。やれ」
……今、なんて言った? ギョッとダミアンを見上げていると、腕を引かれてフレッドの前に突き出される。
「ちょ、ちょっと! なんで庇ってくれないんですか!?」
「安全性は俺の方でも確認してある。問題ないと判断したから、許可を出したんだ」
そんな勝手に……。僕の意思はどこにいった?
逃げ出したかったが、ダミアンに肩を掴まれていて動けない。震え上がっていると、フレッドが強引に瓶を口に突っ込んできた。
「これさえあれば、本能で獲物を捕まえらえるよー」
苦い液体を無理やり流し込まれている中、フレッドの悪魔のようなささやきが聞こえた。
試合開始を知らせる鐘の音が響くと、選手たちはアルミラージのいる結界内に突入する。
俊敏なアルミラージを身ひとつで捕まえるのは、簡単なことではない。他寮の選手たちは、アルミラージの好む餌を用意しておびき寄せようとしていた。
サファイア寮からは、テイマーの適性を持つ生徒が出場している。警戒心の強いアルミラージも、彼が穏やかに微笑みながら手を差し伸べると、鼻をひくつかせながら近付いていった。
おびき寄せる戦法をとる選手がいる中、ひとりだけ異質な存在がいた。僕だ。
結界に侵入した途端、四つん這いになってアルミラージを追い回す。頭にはキツネの耳、手足には肉球、お尻にはふさふさの尻尾が生えている。
僕はフレッドの調合した魔法薬のせいで、キツネに変身させられていた。動物の身体能力を一時的に付与する効果があるそうだ。そのおかげで、人間離れした俊敏な動きができるようになっていた。
全身がキツネになれれば良かったが、顔や胴体は人間のままだ。その不完全さも、異質さを引き立たせていた。
人間離れした速度で、アルミラージの群れを追いかける。他の選手におびき寄せられていたアルミラージも、危険を察して逃げ出した。
僕の奇行を目の当たりにした見物人は、騒然としている。結界の中では話し声までは聞こえてこないが、ぽかんと口を開けて驚いている人や、指をさしてくすくす笑っている人がいた。
恥ずかしくて仕方ないけど、足が止まらない。この魔法薬は、動物の身体能力を付与するだけでなく、狩猟本能も付与されているようだ。獲物を前にすると、追いかけ回したくて堪らなくなる。昼食前で腹を空かせていたのも良くなかった。
こうなったらさっさと捕まえて終わらせてやる。地面を蹴って、アルミラージとの距離を縮めた。
目と鼻の先まで追い詰めたところで、ふと考えてしまう。
そういえば、四つん這いで走っているけど、捕まえる時はどうするんだ? なんて考えているうちに、僕は本能的に大きく口を開けた。
がぶっ――。
見物していた令嬢が、青ざめた顔で失神する。野蛮な姿を見せてしまったせいかもしれない。
彼女の傍にいた少女も泣き出している。僕も泣きたくなった。
* * *
アルミラージハントは、圧倒的な差をつけてガーネット寮が勝利を収めたが、僕の気分は最悪だった。
「うう……。口の中に、まだ毛と血が残っているようだ……」
殺菌作用のある薬で口を注いだ後、グラウンドの隅でしゃがみ込んで項垂れていた。その背中をダミアンが擦ってくれる。
「まさかアルミラージに噛みつくとはな……。あれは予想外だった」
心配してくれているようだけど、笑いを堪えているようにも見える。その証拠に、肩が小刻みに震えていた。誰のせいでこうなったと思っているんだ。
諸悪の根源であるフレッドは、試合終了後に魔法薬研究所の研究員たちに囲まれていた。動物並みに身体能力を引き上げる魔法薬は珍しいようで、研究員たちは熱心にフレッドに質問をしていた。
自分の調合した魔法薬に興味を持ってもらえたのはよっぽど嬉しかったようで、フレッドは誇らしげに解説をしていた。いい気なものだ……。
「現在行なわれている乗馬レースが終わったら、昼休憩に入る。ひと足先に綺石の館に戻って、昼食にしよう」
「……そう、ですね。ちなみに、今日の昼食は?」
「ラビットパイだ」
「うっ……」
先ほどのアルミラージが脳裏をよぎる。口元を押さえる僕を見て、ダミアンは声を押し殺して笑っていた。
「冗談だ。貴様が好む料理を用意してある」
本当にうさぎを食べる羽目にならずに、胸を撫でおろす。気を取り直して立ち上がったところで、ダミアンが沈黙の森の方角に視線を向けた。
「午後は狩猟だ。シリルも出場するようだから、気を引き締めて臨まないとな」
そこで僕も表情を引き締める。狩猟には、ダミアンが出場する。そのことを知ってか、シリルも出場を希望していた。
「……妙なことを企んでいないと良いですが」
何も起こらないことを祈りながら、僕らは綺石の館に向かった。
第一競技以降は、複数のエリアに分かれて競技を進めていく。見物人は興味のある試合を観戦できる仕組みになっていた。
僕らは闘技場をあとにすると、屋外のグラウンドに向かう。グラウンドでは、薬草鑑定レースが予定されていた。
薬草鑑定レースには、フレッドが出場する。その他にも、薬草に詳しい生徒や魔法薬の調合に秀でている生徒が参加していた。
コースには、お題となる薬草が記されたカードが置かれていて、その先には瓶詰めにされた薬草が点在している。三十種類以上の瓶から指定された薬草が入っている瓶を選び、真っ先にゴールしたものの勝利だ。ゴールまでのタイム差が、各寮の総スコアに反映される。
フレッドはよほど自信があるのか、開始前から余裕の態度だ。
「この試合で他寮と差をつけるから、期待していてね」
ふふんっと得意げに笑いながら、フレッドはスタート位置に向かった。
レースが始まると、選手は一斉に駆け出す。各々お題の描かれたカードを拾うと、お目当ての瓶を探し始めた。
フレッドは、カードを確認すると同時に走り出す。躊躇いなく赤い実の入った瓶を掴んで、ゴールへ走った。
「早っ……もう見つけたのか?」
あまりの早さに驚いてしまう。他の選手は、瓶の中身を見比べながら、うろうろしている。その間に、フレッドは一着でゴールした。
他寮と圧倒的なタイム差を付けている。さすが天才薬師だ……。
感心していると、フレッドは赤い実の入った瓶を判定員に渡した。
「お題は、イチルの実です。催淫作用を持つ薬草で、媚薬を調合する際に少量使用します」
薬効と使用方法を明かすと、判定員である魔法薬教師が「正解」と高らかに告げる。周囲が盛り上がる中、僕だけはドキッとしてしまった。
あれは、以前僕が誤飲した赤い実じゃないか……。反射的にダミアンに弄ばれたことを思い出してしまい、顔が熱くなる。
「どうした、アレン? 顔が赤いぞ」
クライドから指摘をされたところで、ばっと両手で顔を覆った。
「き、気のせいだよ!」
* * *
薬草鑑定レースの次は、アルミラージハントだ。結界を張ったグラウンドに50匹のアルミラージが放たれた。
ふわふわした毛並みと、つぶらな瞳は愛らしいけど、額から生えた一本の角を見るとゾッとする。角を突き出して突進されたら、ひとたまりもないだろう。
「想像していたよりも怖いな……」
開始前からアルミラージに怯えていると、誰かに肩を叩かれる。振り返ると、先ほどの薬草鑑定レースで勝利を収めたフレッドがにっこり笑っていた。
「アレン、良いものをあげるよ」
「良いものって?」
「アルミラージをハントするための魔法薬だよ」
フレッドは懐から小瓶を取り出す。その中には、紫色の怪しげな液体が入っていた。
「いや、あの、それは遠慮したく……」
両手を左右に揺らしながら後退りしていると、どんっと誰かにぶつかる。振り返ると、ダミアンがいた。
もしかして、助けに来てくれたのか? 僕が怪しげな魔法薬を飲まされそうになっていたから。
慌ててダミアンの背後に回り、盾にする。これで諦めてくれると思いきや、フレッドは躊躇いなくダミアンに声をかけた。
「寮長、許可を」
「ああ。やれ」
……今、なんて言った? ギョッとダミアンを見上げていると、腕を引かれてフレッドの前に突き出される。
「ちょ、ちょっと! なんで庇ってくれないんですか!?」
「安全性は俺の方でも確認してある。問題ないと判断したから、許可を出したんだ」
そんな勝手に……。僕の意思はどこにいった?
逃げ出したかったが、ダミアンに肩を掴まれていて動けない。震え上がっていると、フレッドが強引に瓶を口に突っ込んできた。
「これさえあれば、本能で獲物を捕まえらえるよー」
苦い液体を無理やり流し込まれている中、フレッドの悪魔のようなささやきが聞こえた。
試合開始を知らせる鐘の音が響くと、選手たちはアルミラージのいる結界内に突入する。
俊敏なアルミラージを身ひとつで捕まえるのは、簡単なことではない。他寮の選手たちは、アルミラージの好む餌を用意しておびき寄せようとしていた。
サファイア寮からは、テイマーの適性を持つ生徒が出場している。警戒心の強いアルミラージも、彼が穏やかに微笑みながら手を差し伸べると、鼻をひくつかせながら近付いていった。
おびき寄せる戦法をとる選手がいる中、ひとりだけ異質な存在がいた。僕だ。
結界に侵入した途端、四つん這いになってアルミラージを追い回す。頭にはキツネの耳、手足には肉球、お尻にはふさふさの尻尾が生えている。
僕はフレッドの調合した魔法薬のせいで、キツネに変身させられていた。動物の身体能力を一時的に付与する効果があるそうだ。そのおかげで、人間離れした俊敏な動きができるようになっていた。
全身がキツネになれれば良かったが、顔や胴体は人間のままだ。その不完全さも、異質さを引き立たせていた。
人間離れした速度で、アルミラージの群れを追いかける。他の選手におびき寄せられていたアルミラージも、危険を察して逃げ出した。
僕の奇行を目の当たりにした見物人は、騒然としている。結界の中では話し声までは聞こえてこないが、ぽかんと口を開けて驚いている人や、指をさしてくすくす笑っている人がいた。
恥ずかしくて仕方ないけど、足が止まらない。この魔法薬は、動物の身体能力を付与するだけでなく、狩猟本能も付与されているようだ。獲物を前にすると、追いかけ回したくて堪らなくなる。昼食前で腹を空かせていたのも良くなかった。
こうなったらさっさと捕まえて終わらせてやる。地面を蹴って、アルミラージとの距離を縮めた。
目と鼻の先まで追い詰めたところで、ふと考えてしまう。
そういえば、四つん這いで走っているけど、捕まえる時はどうするんだ? なんて考えているうちに、僕は本能的に大きく口を開けた。
がぶっ――。
見物していた令嬢が、青ざめた顔で失神する。野蛮な姿を見せてしまったせいかもしれない。
彼女の傍にいた少女も泣き出している。僕も泣きたくなった。
* * *
アルミラージハントは、圧倒的な差をつけてガーネット寮が勝利を収めたが、僕の気分は最悪だった。
「うう……。口の中に、まだ毛と血が残っているようだ……」
殺菌作用のある薬で口を注いだ後、グラウンドの隅でしゃがみ込んで項垂れていた。その背中をダミアンが擦ってくれる。
「まさかアルミラージに噛みつくとはな……。あれは予想外だった」
心配してくれているようだけど、笑いを堪えているようにも見える。その証拠に、肩が小刻みに震えていた。誰のせいでこうなったと思っているんだ。
諸悪の根源であるフレッドは、試合終了後に魔法薬研究所の研究員たちに囲まれていた。動物並みに身体能力を引き上げる魔法薬は珍しいようで、研究員たちは熱心にフレッドに質問をしていた。
自分の調合した魔法薬に興味を持ってもらえたのはよっぽど嬉しかったようで、フレッドは誇らしげに解説をしていた。いい気なものだ……。
「現在行なわれている乗馬レースが終わったら、昼休憩に入る。ひと足先に綺石の館に戻って、昼食にしよう」
「……そう、ですね。ちなみに、今日の昼食は?」
「ラビットパイだ」
「うっ……」
先ほどのアルミラージが脳裏をよぎる。口元を押さえる僕を見て、ダミアンは声を押し殺して笑っていた。
「冗談だ。貴様が好む料理を用意してある」
本当にうさぎを食べる羽目にならずに、胸を撫でおろす。気を取り直して立ち上がったところで、ダミアンが沈黙の森の方角に視線を向けた。
「午後は狩猟だ。シリルも出場するようだから、気を引き締めて臨まないとな」
そこで僕も表情を引き締める。狩猟には、ダミアンが出場する。そのことを知ってか、シリルも出場を希望していた。
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