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2章
33.魔法競技会⑥
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地上から飛び立った竜は、校舎の壁を這うように上昇していく。僕は振り落とされないように、必死に背中にしがみついた。
もうじきレースが始まる頃だ。早くスタート地点に向かわないと、失格になってしまう。
尖塔の高さから地上を見下ろすと、三体の竜が正門で横並びになっていた。どれも人が乗れるほどの巨大な竜だ。各寮から選出した竜使いたちは、竜の背に乗ってレースが始まるのを待ち構えていた。
「あそこの門まで向かってくれ」
正門を指さして、命令する。竜は速度を上げて急降下し、門へ向かった。
内臓が浮き上がる感覚になる。向かい風が強すぎて、思わず目を細めてしまった。
指示通りに正門まで近付いたが、竜は速度を緩めることはない。
「ストップ、ストープ!」
慌てて叫ぶと、竜は地面に足を引き摺りながら急停止した。その衝撃で、竜の背中に額をぶつける。
「いたたた……」
ルゥが激突してきた場所と同じ場所をぶつけてしまった。ジンジンと痛む額を押さえていると、審判にギロリと睨まれる。
「ガーネット寮、遅いぞ」
「す、すいません!」
スタートラインに並んでいる竜たちに倣って、僕らも急いで整列した。
ふと隣に視線を向けると、サファイア寮の選手にじろじろ見られていることに気付く。
「なぜお前が出るんだ? 竜使いじゃないだろ?」
「クライドに代わって出場することになりました。竜に乗るのは初めてですが、精一杯頑張ります」
初めてと聞くと、サファイア寮の選手は小馬鹿にするように鼻で笑う。
「せいぜい怪我しないように頑張れよ」
「はい!」
皮肉を跳ね返すように笑顔を向けると、サファイア寮の選手は決まりが悪そうに顔を背けた。
ふと見物人の集団に視線を向けると、ルーカスとフレッドがポカンと口を開けながらこちらを見つめていることに気付く。僕が出場するなんて予想してなかっただろう。恐る恐る手を振ってみると、二人はハッと現実に引き戻されて、人混みをかき分けて最前列に出てきた。
「なんでアレンが!?」
「無謀すぎる!」
二人が混乱するのも分かる。僕だって、こんな展開になるとは思わなかった。
とはいえ、事情を説明するのは後だ。今はレースに集中しよう。
選手たちの準備が整ったことを確認すると、審判はレース開始を知らせる鐘を鳴らす。軽やかな音と共に、三体の竜たちが一斉に飛び立った。その華々しい光景に、見物人たちは大きな歓声をあげた。
スタートで出遅れた僕らは、先を飛ぶ竜たちを追いかける。ひとまずは引き離されないように、ついていくことにした。
「先を飛ぶ竜たちを追いかけよう」
ドラゴンレースは、学園の外周を一回りするコースになっている。学園の敷地面積は広大であるため、一回りするだけでもそれなりの距離になる。途中で引き離されなければ、追い抜けるチャンスも巡ってくるだろう。まずは、僕が飛行に慣れることを優先した。
竜の背に乗るのは初めてだから、慣れるのも一苦労だ。カーブをすると、遠心力で吹き飛ばされそうになる。猛スピードで飛んでいるところで落下したらと考えると、ゾッとした。
落っこちたら洒落にならない。序盤は安定して飛行して、ラストで勝負を仕掛けよう。
コースの三分の一に差し掛かってきた頃、先を飛んでいた竜が速度を落とした。トパーズ寮の竜だ。失速したことで、あっさりと追い抜いた。
もしかしたら、序盤で飛ばし過ぎて疲弊したのかもしれない。長距離レースでは、ペース配分が命だ。疲弊しきった後に挽回するのは難しい。
「速度を一定に保ちながら、前を飛ぶ竜たちを追いかけよう」
そう指示すると、二体の竜を追いかけながら、一定の速度で飛んでいった。
しばらくすると、沈黙の森の側を通るコースになる。魔獣が潜む森が間近に迫っているとあって、前を飛行する竜たちは警戒したように速度を落とした。
サファイア寮の竜は、コースを外れて森へ入りたがっている。森の方へ近づいてく竜に、サファイア寮の生徒は「おい、そっちじゃないぞ」と荒々しく叱責しながら、竜をコントロールしようとしていた。
一方、僕の乗っている竜は、集中力が削がれることなく一定の速度で飛行している。その間にも、サファイア寮の竜を追い越した。
「凄いな! 流石クライドの竜だ!」
クライドの竜は、飛行速度を保つこともできるし、集中力が削がれることもない。あらためて冷静で賢い竜だと思い知らされた。
あとはラストスパートでエメラルド寮の竜を追い越すだけだ。森の側を抜けたら、正門まで直線になっている。そこで勝負を仕掛けよう。
先を飛行する竜をじっと見据えながら追いかける。あと少しで森を抜けるタイミングで、突如僕の後頭部に石のようなものが激突した。
「ぐっ……」
あまりの痛みで、目の前がチカチカする。うっかり竜の背を掴む力が緩んでしまい、バランスを崩してしまった。
「わっ、落ち……」
宙に放り出されそうになった時、咄嗟に竜が速度を緩めて僕を庇う。間一髪、落下は免れた。
僕が体勢を立て直そうとしてると、サファイア寮の竜が猛スピードで追い越していく。一瞬だけ竜使いがにやりと嘲笑っていたのが見えた。そこで、彼が石を投げたのだと察した。
飛行中に石を投げるなんて、明確な妨害行為だ。痛みと憤りで脳が焼ききれそうになりながら、僕は竜に指示をした。
「もう大丈夫だから、先に進もう」
僕の意思を汲み取って、竜は再び加速する。直線コースに差し掛かってから、前を飛行する二体の竜を追いかけた。
距離は離れているが、頑張ればまだ追い付けそうだ。僕は竜の背を撫でながら、お願いする。
「大事な人を守るためにも、このレースに勝ちたいんだ。だからあと少しだけ、力を貸してほしい」
強く竜にしがみつくと、声を張り上げて命令する。
「全速力で飛んで、前の二体を追い越せ!」
次の瞬間、竜は一気に加速する。ものすごい風圧で、目を開けていることすらできなかった。
油断したら振り落とされる。固く目を閉じながら、必死に竜にしがみついた。
目を閉じているせいで、自分たちがどの地点を飛んでいるのか分からない。そうこうしているうちに、見物人たちの声援が大きくなってくる。そこでゴール間近までやって来たことに気付いた。
内臓が激しく揺さぶられているせいで、意識が飛びそうだ。限界に達しそうになった時、ふっと竜が速度を緩めた。
ゆっくりと顔を上げると、ゴールラインを越えていることに気付く。
勝負の行方はどうなったんだ? 状況が掴めずにいると、審判が声を張り上げた。
「一位、ガーネット寮!」
わあっと歓声が湧く。盛り上がる中、僕はようやく状況を理解した。
一位。そうか。僕らは勝ったのか。
これでガーネット寮の優勝は、確実なものとなった。ダミアンが自主退学する必要もなくなる。
「よかっ……た」
安堵したところで、身体の力が抜けていく。揺さぶられ過ぎたせいで、意識が朦朧としていた。
くらりと眩暈に襲われて、バランスを崩す。その拍子に竜の背からずり落ちた。
ああ、これはマズいな。地面に落下したら、怪我では済まない……。
危機的状況にもかかわらず、あまり動じていない自分がいる。重力に従って落下していると、ふわりと身体が宙に浮いた。その直後、誰かに抱きかかえられた。
背中を支えられて、膝裏に腕が回されている。いわゆるお姫様抱っこだ。
助けてくれたのは、予想通りの人物だった。ダミアンだ。
「まったく……最後まで気を抜くな」
ダミアンは、呆れ顔で僕を見下ろしている。その顔を見て、胸の奥がジワジワと温かくなった。
こんなことを考えていたら、また怒られてしまうかもしれないけど、ダミアンなら助けてくれると思ったんだ。僕のことを四六時中気にかけている、ダミアンなら……。
「信用しすぎだ。馬鹿」
やっぱり怒られてしまった。でもその言葉すら、今は心地よかった。
今日は頑張りすぎたせいで疲れてしまった。この後は、来賓を招いた後夜祭も予定しているから、仕度をしないといけないのに。汗を流して、正装に着替えて、髪を整えて……。
ああ、だけど、少しくらいは休んでも構わないか。重くなったまぶたをゆっくり閉じた時、こつんと額に硬いものが押し付けられた。
「よく頑張ったな、アレン」
胸の内をくすぐられる。薄目を開けると、ダミアンが額を寄せていた。
もうじきレースが始まる頃だ。早くスタート地点に向かわないと、失格になってしまう。
尖塔の高さから地上を見下ろすと、三体の竜が正門で横並びになっていた。どれも人が乗れるほどの巨大な竜だ。各寮から選出した竜使いたちは、竜の背に乗ってレースが始まるのを待ち構えていた。
「あそこの門まで向かってくれ」
正門を指さして、命令する。竜は速度を上げて急降下し、門へ向かった。
内臓が浮き上がる感覚になる。向かい風が強すぎて、思わず目を細めてしまった。
指示通りに正門まで近付いたが、竜は速度を緩めることはない。
「ストップ、ストープ!」
慌てて叫ぶと、竜は地面に足を引き摺りながら急停止した。その衝撃で、竜の背中に額をぶつける。
「いたたた……」
ルゥが激突してきた場所と同じ場所をぶつけてしまった。ジンジンと痛む額を押さえていると、審判にギロリと睨まれる。
「ガーネット寮、遅いぞ」
「す、すいません!」
スタートラインに並んでいる竜たちに倣って、僕らも急いで整列した。
ふと隣に視線を向けると、サファイア寮の選手にじろじろ見られていることに気付く。
「なぜお前が出るんだ? 竜使いじゃないだろ?」
「クライドに代わって出場することになりました。竜に乗るのは初めてですが、精一杯頑張ります」
初めてと聞くと、サファイア寮の選手は小馬鹿にするように鼻で笑う。
「せいぜい怪我しないように頑張れよ」
「はい!」
皮肉を跳ね返すように笑顔を向けると、サファイア寮の選手は決まりが悪そうに顔を背けた。
ふと見物人の集団に視線を向けると、ルーカスとフレッドがポカンと口を開けながらこちらを見つめていることに気付く。僕が出場するなんて予想してなかっただろう。恐る恐る手を振ってみると、二人はハッと現実に引き戻されて、人混みをかき分けて最前列に出てきた。
「なんでアレンが!?」
「無謀すぎる!」
二人が混乱するのも分かる。僕だって、こんな展開になるとは思わなかった。
とはいえ、事情を説明するのは後だ。今はレースに集中しよう。
選手たちの準備が整ったことを確認すると、審判はレース開始を知らせる鐘を鳴らす。軽やかな音と共に、三体の竜たちが一斉に飛び立った。その華々しい光景に、見物人たちは大きな歓声をあげた。
スタートで出遅れた僕らは、先を飛ぶ竜たちを追いかける。ひとまずは引き離されないように、ついていくことにした。
「先を飛ぶ竜たちを追いかけよう」
ドラゴンレースは、学園の外周を一回りするコースになっている。学園の敷地面積は広大であるため、一回りするだけでもそれなりの距離になる。途中で引き離されなければ、追い抜けるチャンスも巡ってくるだろう。まずは、僕が飛行に慣れることを優先した。
竜の背に乗るのは初めてだから、慣れるのも一苦労だ。カーブをすると、遠心力で吹き飛ばされそうになる。猛スピードで飛んでいるところで落下したらと考えると、ゾッとした。
落っこちたら洒落にならない。序盤は安定して飛行して、ラストで勝負を仕掛けよう。
コースの三分の一に差し掛かってきた頃、先を飛んでいた竜が速度を落とした。トパーズ寮の竜だ。失速したことで、あっさりと追い抜いた。
もしかしたら、序盤で飛ばし過ぎて疲弊したのかもしれない。長距離レースでは、ペース配分が命だ。疲弊しきった後に挽回するのは難しい。
「速度を一定に保ちながら、前を飛ぶ竜たちを追いかけよう」
そう指示すると、二体の竜を追いかけながら、一定の速度で飛んでいった。
しばらくすると、沈黙の森の側を通るコースになる。魔獣が潜む森が間近に迫っているとあって、前を飛行する竜たちは警戒したように速度を落とした。
サファイア寮の竜は、コースを外れて森へ入りたがっている。森の方へ近づいてく竜に、サファイア寮の生徒は「おい、そっちじゃないぞ」と荒々しく叱責しながら、竜をコントロールしようとしていた。
一方、僕の乗っている竜は、集中力が削がれることなく一定の速度で飛行している。その間にも、サファイア寮の竜を追い越した。
「凄いな! 流石クライドの竜だ!」
クライドの竜は、飛行速度を保つこともできるし、集中力が削がれることもない。あらためて冷静で賢い竜だと思い知らされた。
あとはラストスパートでエメラルド寮の竜を追い越すだけだ。森の側を抜けたら、正門まで直線になっている。そこで勝負を仕掛けよう。
先を飛行する竜をじっと見据えながら追いかける。あと少しで森を抜けるタイミングで、突如僕の後頭部に石のようなものが激突した。
「ぐっ……」
あまりの痛みで、目の前がチカチカする。うっかり竜の背を掴む力が緩んでしまい、バランスを崩してしまった。
「わっ、落ち……」
宙に放り出されそうになった時、咄嗟に竜が速度を緩めて僕を庇う。間一髪、落下は免れた。
僕が体勢を立て直そうとしてると、サファイア寮の竜が猛スピードで追い越していく。一瞬だけ竜使いがにやりと嘲笑っていたのが見えた。そこで、彼が石を投げたのだと察した。
飛行中に石を投げるなんて、明確な妨害行為だ。痛みと憤りで脳が焼ききれそうになりながら、僕は竜に指示をした。
「もう大丈夫だから、先に進もう」
僕の意思を汲み取って、竜は再び加速する。直線コースに差し掛かってから、前を飛行する二体の竜を追いかけた。
距離は離れているが、頑張ればまだ追い付けそうだ。僕は竜の背を撫でながら、お願いする。
「大事な人を守るためにも、このレースに勝ちたいんだ。だからあと少しだけ、力を貸してほしい」
強く竜にしがみつくと、声を張り上げて命令する。
「全速力で飛んで、前の二体を追い越せ!」
次の瞬間、竜は一気に加速する。ものすごい風圧で、目を開けていることすらできなかった。
油断したら振り落とされる。固く目を閉じながら、必死に竜にしがみついた。
目を閉じているせいで、自分たちがどの地点を飛んでいるのか分からない。そうこうしているうちに、見物人たちの声援が大きくなってくる。そこでゴール間近までやって来たことに気付いた。
内臓が激しく揺さぶられているせいで、意識が飛びそうだ。限界に達しそうになった時、ふっと竜が速度を緩めた。
ゆっくりと顔を上げると、ゴールラインを越えていることに気付く。
勝負の行方はどうなったんだ? 状況が掴めずにいると、審判が声を張り上げた。
「一位、ガーネット寮!」
わあっと歓声が湧く。盛り上がる中、僕はようやく状況を理解した。
一位。そうか。僕らは勝ったのか。
これでガーネット寮の優勝は、確実なものとなった。ダミアンが自主退学する必要もなくなる。
「よかっ……た」
安堵したところで、身体の力が抜けていく。揺さぶられ過ぎたせいで、意識が朦朧としていた。
くらりと眩暈に襲われて、バランスを崩す。その拍子に竜の背からずり落ちた。
ああ、これはマズいな。地面に落下したら、怪我では済まない……。
危機的状況にもかかわらず、あまり動じていない自分がいる。重力に従って落下していると、ふわりと身体が宙に浮いた。その直後、誰かに抱きかかえられた。
背中を支えられて、膝裏に腕が回されている。いわゆるお姫様抱っこだ。
助けてくれたのは、予想通りの人物だった。ダミアンだ。
「まったく……最後まで気を抜くな」
ダミアンは、呆れ顔で僕を見下ろしている。その顔を見て、胸の奥がジワジワと温かくなった。
こんなことを考えていたら、また怒られてしまうかもしれないけど、ダミアンなら助けてくれると思ったんだ。僕のことを四六時中気にかけている、ダミアンなら……。
「信用しすぎだ。馬鹿」
やっぱり怒られてしまった。でもその言葉すら、今は心地よかった。
今日は頑張りすぎたせいで疲れてしまった。この後は、来賓を招いた後夜祭も予定しているから、仕度をしないといけないのに。汗を流して、正装に着替えて、髪を整えて……。
ああ、だけど、少しくらいは休んでも構わないか。重くなったまぶたをゆっくり閉じた時、こつんと額に硬いものが押し付けられた。
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