歪んだ愛はお断りします ~断罪ルートを回避した悪役令息は、鬼畜寮長に囚われる~

南 コウ

文字の大きさ
41 / 58
3章

39.普通の恋とやらは、忍耐がいるんだな

しおりを挟む
 その日の晩も、当然のごとくダミアンと共に過ごすことになった。
 さすがに今晩はダミアンにベッドを明け渡そうと思った僕は、ソファに毛布を運んで寝仕度を整える。これでよし、と膝に毛布を掛けていると、入浴を終えて部屋に戻ってきたダミアンに「退け」と睨まれた。

「貴様はベッドで寝ろ。身体を痛めるぞ」
「それならなおのこと、僕がソファで寝ます」
「駄目だ。退け」

 僕は一日中部屋にこもっていたのだから、大して疲れていない。どう考えても競技会の後始末で奔走していたダミアンがベッドで眠るべきだろう。

 ここは譲るまいと、ソファにしがみついていると、膝にかけていた毛布を奪われてしまう。あっ、と手を伸ばした瞬間、ダミアンに手首を握られる。次の瞬間、僕はベッドの上に腰掛けていた。

 転移魔法だ。こんな至近距離で使うなんて、魔力の無駄遣いにもほどがある。
 ダミアンの強情っぷりに呆れて、ため息をついてしまった。

「それなら一緒に寝ます? こんなに広いんですから、二人でも寝れますよ」

 ダミアンのベッドは、男二人でも問題なく寝れるサイズだ。端と端で眠れば、互いの睡眠を妨害することもないだろう。良いアイデアだと思ったが、ダミアンはさらに深く眉間にしわを刻む。

「本気で言っているのか?」
「はい。昔は弟ともよく一緒に寝ていましたし」

 何食わぬ顔で答えると、ダミアンは額に手を添えてため息をついた。

「襲われるのは拒絶したくせに、一緒のベッドに入るのは良いのか。貴様の基準はよく分からないな」

 指摘されたことで、昨夜の出来事が過る。
 男同士だからと気軽に誘ってしまったが、ダミアンは僕に好意を寄せているんだ。また同じような展開になったらと想像すると、顔面が発火しそうになる。

「あ、えっと……いかがわしいことはナシで」

 視線を逸らしながら忠告をすると、ダミアンはふっとおかしそうに噴き出す。

「貴様のいう普通の恋とやらは、忍耐がいるんだな」

 それはどうなんだろう? 実際のところ、僕も普通の恋というものをよく分かっていない。現状では、僕のペースに合わせてもらっているに過ぎなかった。

 恐る恐る顔を上げると、ダミアンから優し気な眼差しを向けられる。

「今夜は手を出すつもりはないから安心しろ。昨日みたいに闇魔法をかけられたら、堪ったものじゃないからな」

 そういえば、昨晩はダミアンの行動を制するために闇魔法を使ってしまったんだ。そのことに関しては、まだ謝っていない。

「あの、昨日は闇魔法をかけてしまってすみません。あの時は、僕も錯乱していて」
「褒められた行為ではないが、あれは正当防衛の範疇だろう。咎めるつもりはない」

 叱られることも覚悟していたから、あっさりと許してもらえて安堵する。そっと胸を撫で下ろしていると、ダミアンはこちらを見下ろしながら話を続けた。

「それより、先ほど弟と一緒に寝ていたと話していたな。随分と仲が良いんだな」
「僕らは生まれた時から一緒にいましたからね。半身みたいな存在だったんです。僕が闇属性だと分かった時も、リオンだけは味方でいてくれましたし」

 リオンの話題をあげられたのは意外だったが、隠すことではない。正直に関係性を明かした。

「リオンは、僕にとって大切な弟なんです」

 微笑みながら告げると、ダミアンはゆっくりと視線を落とす。ブラコンだと呆れられているのかもしれない。

 リオンは、大切な弟。それは今だって変わらない。リオンは守るべき存在だし、心から幸せになってほしいと願っている。

 だけど最近は、僕らの関係が少しずつ歪になっていることにも気付いていた。きっかけは多分、あの日の晩だ。

「以前、リオン・マクミランに押し倒されていたな」

 ダミアンが心を見透かしたように言い当てる。もう首輪の効力は切れているはずなのに、おかしな話だ。

「……見ていたんですね」
「ああ」

 弟に組み敷かれて怯えている姿を、ダミアンに見られていたなんて。多分あの時の僕は、相当情けない顔をしていたはずだ。その顔も見られていたというのは、屈辱的だ。

 ダミアンは、どんな心境であの様子を見ていたのだろう? 僕が困惑する姿を見て、陰で笑っていたとしたら趣味が悪すぎる。

「俺の目には、貴様が弟を拒絶しているように見えた。お前たちは、頻繁にあのようなことをしていたわけではないんだな?」
「しているわけないじゃないですか。僕らは血の繋がった兄弟ですよ?」

 ダミアンは何を言い出すんだ。的外れな質問に呆れていると、ダミアンは僅かに頬を緩めた。

「そうか。ならば邪魔をして正解だったな」

 それは、どういうことだ? 聞き返そうとすると、正面に立つダミアンが僕の肩に手を添える。
 その手をじっと見つめていると、ダミアンはゆっくりと僕の肩を押した。

「寮長?」

 されるがままに仰向けで倒れると、ダミアンが肩の脇に手を置いて、こちらを見下ろす。わけが分からずに赤い瞳を見つめ返していると、ダミアンはふっとおかしそうに頬を緩めた。

「拒絶をしないのか? 嫌だったら昨日のように闇魔法で操って良いんだぞ?」

 その一言で、からかわれていることに気付く。

「……さっきは手を出さないって言ったのに、嘘つき」

 むすっとしながら抗議すると、ダミアンは肩を震わせて笑いながら、僕の隣に寝転んだ。

「試しただけだ。俺も拒絶されるのかと」

 その一言で、自らの心境に気付く。
 ダミアンに押し倒されても、嫌悪感はなかった。リオンにされた時とは明らかに違う。状況は同じはずなのに、相手が違うだけで感じ方がこうも違うのか。

 まあ、そんな事実を口にしたら、余計にからかわれそうだから言わないけど。羞恥心を悟られないように、ごろんと寝返りを打つ。

「……おかしな実験をしないでください」

 ダミアンと目を合わせることすら恥ずかしい。距離が近いから、なおさら意識してしまう。
 こんな風に背を向けていたら、背後から抱きしめられてしまうかとも想像したが、ダミアンはそれ以上触れてくることはなかった。

 手を出さないという約束は、守ってくれるようだ。安堵していると、ダミアンは思い出したかのように話を切り出す。

「そういえば、今日注文した魔石を明日の朝に受け取りに行く。魔石が手に入ったら、魔封じの装飾品を作ろうと思う」
「魔封じの装飾品?」

 咄嗟に聞き返す。それは、僕の魔力属性を隠すためのものだろうか?

「魔封じの装飾品を付けていれば、首輪を付けていた時と同様に魔力を制限できる。貴様の魔力属性が周囲に悟られることもない」

 対策を考えるとは約束してくれたが、こうも早く解決策を提示されるとは思わなかった。競技会の後始末で忙しい中でも、僕のことを気にかけてくれたということか。

「明日は装飾品を作る材料を調達するために街に出る。もう少しの辛抱だ」

 ダミアンも、僕が部屋で暇を持て余していたことはお見通しだったのだろう。だからこそ、早急に対処しようとしてくれたのだ。その優しさに、胸がくすぐられる。

 くるりと振り返って、ダミアンと正面で向き合う。浮かれているのを悟られないように、できる限り声のトーンを落として尋ねた。

「材料調達、僕も手伝わせてくれませんか?」

 その発言は予想外だったのか、ダミアンは驚いたように目を見開く。無理なお願いをしているのは重々承知だ。だけど、街に出るというのはダミアンと距離を縮めるチャンスだ。

「二人で街に出て、デートをしましょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」 ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。 (これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!) 妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。 スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。 スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。 もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます? 十万文字程度。 3/7 完結しました! ※主人公:マイペース美人受け ※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。 たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト
BL
2024.12.11~2巻がアンダルシュノベルズ様より書籍化されます。皆様のおかげです。誠にありがとうございます。 番外編などは書籍に含まれませんので是非、楽しんで頂けますと嬉しいです。 他の番外編も少しずつアップしたいと思っております。 ◇ストーリー◇ 孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人 姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。 そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。 互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!? ・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。 総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。 自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

処理中です...