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3章
39.普通の恋とやらは、忍耐がいるんだな
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その日の晩も、当然のごとくダミアンと共に過ごすことになった。
さすがに今晩はダミアンにベッドを明け渡そうと思った僕は、ソファに毛布を運んで寝仕度を整える。これでよし、と膝に毛布を掛けていると、入浴を終えて部屋に戻ってきたダミアンに「退け」と睨まれた。
「貴様はベッドで寝ろ。身体を痛めるぞ」
「それならなおのこと、僕がソファで寝ます」
「駄目だ。退け」
僕は一日中部屋にこもっていたのだから、大して疲れていない。どう考えても競技会の後始末で奔走していたダミアンがベッドで眠るべきだろう。
ここは譲るまいと、ソファにしがみついていると、膝にかけていた毛布を奪われてしまう。あっ、と手を伸ばした瞬間、ダミアンに手首を握られる。次の瞬間、僕はベッドの上に腰掛けていた。
転移魔法だ。こんな至近距離で使うなんて、魔力の無駄遣いにもほどがある。
ダミアンの強情っぷりに呆れて、ため息をついてしまった。
「それなら一緒に寝ます? こんなに広いんですから、二人でも寝れますよ」
ダミアンのベッドは、男二人でも問題なく寝れるサイズだ。端と端で眠れば、互いの睡眠を妨害することもないだろう。良いアイデアだと思ったが、ダミアンはさらに深く眉間にしわを刻む。
「本気で言っているのか?」
「はい。昔は弟ともよく一緒に寝ていましたし」
何食わぬ顔で答えると、ダミアンは額に手を添えてため息をついた。
「襲われるのは拒絶したくせに、一緒のベッドに入るのは良いのか。貴様の基準はよく分からないな」
指摘されたことで、昨夜の出来事が過る。
男同士だからと気軽に誘ってしまったが、ダミアンは僕に好意を寄せているんだ。また同じような展開になったらと想像すると、顔面が発火しそうになる。
「あ、えっと……いかがわしいことはナシで」
視線を逸らしながら忠告をすると、ダミアンはふっとおかしそうに噴き出す。
「貴様のいう普通の恋とやらは、忍耐がいるんだな」
それはどうなんだろう? 実際のところ、僕も普通の恋というものをよく分かっていない。現状では、僕のペースに合わせてもらっているに過ぎなかった。
恐る恐る顔を上げると、ダミアンから優し気な眼差しを向けられる。
「今夜は手を出すつもりはないから安心しろ。昨日みたいに闇魔法をかけられたら、堪ったものじゃないからな」
そういえば、昨晩はダミアンの行動を制するために闇魔法を使ってしまったんだ。そのことに関しては、まだ謝っていない。
「あの、昨日は闇魔法をかけてしまってすみません。あの時は、僕も錯乱していて」
「褒められた行為ではないが、あれは正当防衛の範疇だろう。咎めるつもりはない」
叱られることも覚悟していたから、あっさりと許してもらえて安堵する。そっと胸を撫で下ろしていると、ダミアンはこちらを見下ろしながら話を続けた。
「それより、先ほど弟と一緒に寝ていたと話していたな。随分と仲が良いんだな」
「僕らは生まれた時から一緒にいましたからね。半身みたいな存在だったんです。僕が闇属性だと分かった時も、リオンだけは味方でいてくれましたし」
リオンの話題をあげられたのは意外だったが、隠すことではない。正直に関係性を明かした。
「リオンは、僕にとって大切な弟なんです」
微笑みながら告げると、ダミアンはゆっくりと視線を落とす。ブラコンだと呆れられているのかもしれない。
リオンは、大切な弟。それは今だって変わらない。リオンは守るべき存在だし、心から幸せになってほしいと願っている。
だけど最近は、僕らの関係が少しずつ歪になっていることにも気付いていた。きっかけは多分、あの日の晩だ。
「以前、リオン・マクミランに押し倒されていたな」
ダミアンが心を見透かしたように言い当てる。もう首輪の効力は切れているはずなのに、おかしな話だ。
「……見ていたんですね」
「ああ」
弟に組み敷かれて怯えている姿を、ダミアンに見られていたなんて。多分あの時の僕は、相当情けない顔をしていたはずだ。その顔も見られていたというのは、屈辱的だ。
ダミアンは、どんな心境であの様子を見ていたのだろう? 僕が困惑する姿を見て、陰で笑っていたとしたら趣味が悪すぎる。
「俺の目には、貴様が弟を拒絶しているように見えた。お前たちは、頻繁にあのようなことをしていたわけではないんだな?」
「しているわけないじゃないですか。僕らは血の繋がった兄弟ですよ?」
ダミアンは何を言い出すんだ。的外れな質問に呆れていると、ダミアンは僅かに頬を緩めた。
「そうか。ならば邪魔をして正解だったな」
それは、どういうことだ? 聞き返そうとすると、正面に立つダミアンが僕の肩に手を添える。
その手をじっと見つめていると、ダミアンはゆっくりと僕の肩を押した。
「寮長?」
されるがままに仰向けで倒れると、ダミアンが肩の脇に手を置いて、こちらを見下ろす。わけが分からずに赤い瞳を見つめ返していると、ダミアンはふっとおかしそうに頬を緩めた。
「拒絶をしないのか? 嫌だったら昨日のように闇魔法で操って良いんだぞ?」
その一言で、からかわれていることに気付く。
「……さっきは手を出さないって言ったのに、嘘つき」
むすっとしながら抗議すると、ダミアンは肩を震わせて笑いながら、僕の隣に寝転んだ。
「試しただけだ。俺も拒絶されるのかと」
その一言で、自らの心境に気付く。
ダミアンに押し倒されても、嫌悪感はなかった。リオンにされた時とは明らかに違う。状況は同じはずなのに、相手が違うだけで感じ方がこうも違うのか。
まあ、そんな事実を口にしたら、余計にからかわれそうだから言わないけど。羞恥心を悟られないように、ごろんと寝返りを打つ。
「……おかしな実験をしないでください」
ダミアンと目を合わせることすら恥ずかしい。距離が近いから、なおさら意識してしまう。
こんな風に背を向けていたら、背後から抱きしめられてしまうかとも想像したが、ダミアンはそれ以上触れてくることはなかった。
手を出さないという約束は、守ってくれるようだ。安堵していると、ダミアンは思い出したかのように話を切り出す。
「そういえば、今日注文した魔石を明日の朝に受け取りに行く。魔石が手に入ったら、魔封じの装飾品を作ろうと思う」
「魔封じの装飾品?」
咄嗟に聞き返す。それは、僕の魔力属性を隠すためのものだろうか?
「魔封じの装飾品を付けていれば、首輪を付けていた時と同様に魔力を制限できる。貴様の魔力属性が周囲に悟られることもない」
対策を考えるとは約束してくれたが、こうも早く解決策を提示されるとは思わなかった。競技会の後始末で忙しい中でも、僕のことを気にかけてくれたということか。
「明日は装飾品を作る材料を調達するために街に出る。もう少しの辛抱だ」
ダミアンも、僕が部屋で暇を持て余していたことはお見通しだったのだろう。だからこそ、早急に対処しようとしてくれたのだ。その優しさに、胸がくすぐられる。
くるりと振り返って、ダミアンと正面で向き合う。浮かれているのを悟られないように、できる限り声のトーンを落として尋ねた。
「材料調達、僕も手伝わせてくれませんか?」
その発言は予想外だったのか、ダミアンは驚いたように目を見開く。無理なお願いをしているのは重々承知だ。だけど、街に出るというのはダミアンと距離を縮めるチャンスだ。
「二人で街に出て、デートをしましょう」
さすがに今晩はダミアンにベッドを明け渡そうと思った僕は、ソファに毛布を運んで寝仕度を整える。これでよし、と膝に毛布を掛けていると、入浴を終えて部屋に戻ってきたダミアンに「退け」と睨まれた。
「貴様はベッドで寝ろ。身体を痛めるぞ」
「それならなおのこと、僕がソファで寝ます」
「駄目だ。退け」
僕は一日中部屋にこもっていたのだから、大して疲れていない。どう考えても競技会の後始末で奔走していたダミアンがベッドで眠るべきだろう。
ここは譲るまいと、ソファにしがみついていると、膝にかけていた毛布を奪われてしまう。あっ、と手を伸ばした瞬間、ダミアンに手首を握られる。次の瞬間、僕はベッドの上に腰掛けていた。
転移魔法だ。こんな至近距離で使うなんて、魔力の無駄遣いにもほどがある。
ダミアンの強情っぷりに呆れて、ため息をついてしまった。
「それなら一緒に寝ます? こんなに広いんですから、二人でも寝れますよ」
ダミアンのベッドは、男二人でも問題なく寝れるサイズだ。端と端で眠れば、互いの睡眠を妨害することもないだろう。良いアイデアだと思ったが、ダミアンはさらに深く眉間にしわを刻む。
「本気で言っているのか?」
「はい。昔は弟ともよく一緒に寝ていましたし」
何食わぬ顔で答えると、ダミアンは額に手を添えてため息をついた。
「襲われるのは拒絶したくせに、一緒のベッドに入るのは良いのか。貴様の基準はよく分からないな」
指摘されたことで、昨夜の出来事が過る。
男同士だからと気軽に誘ってしまったが、ダミアンは僕に好意を寄せているんだ。また同じような展開になったらと想像すると、顔面が発火しそうになる。
「あ、えっと……いかがわしいことはナシで」
視線を逸らしながら忠告をすると、ダミアンはふっとおかしそうに噴き出す。
「貴様のいう普通の恋とやらは、忍耐がいるんだな」
それはどうなんだろう? 実際のところ、僕も普通の恋というものをよく分かっていない。現状では、僕のペースに合わせてもらっているに過ぎなかった。
恐る恐る顔を上げると、ダミアンから優し気な眼差しを向けられる。
「今夜は手を出すつもりはないから安心しろ。昨日みたいに闇魔法をかけられたら、堪ったものじゃないからな」
そういえば、昨晩はダミアンの行動を制するために闇魔法を使ってしまったんだ。そのことに関しては、まだ謝っていない。
「あの、昨日は闇魔法をかけてしまってすみません。あの時は、僕も錯乱していて」
「褒められた行為ではないが、あれは正当防衛の範疇だろう。咎めるつもりはない」
叱られることも覚悟していたから、あっさりと許してもらえて安堵する。そっと胸を撫で下ろしていると、ダミアンはこちらを見下ろしながら話を続けた。
「それより、先ほど弟と一緒に寝ていたと話していたな。随分と仲が良いんだな」
「僕らは生まれた時から一緒にいましたからね。半身みたいな存在だったんです。僕が闇属性だと分かった時も、リオンだけは味方でいてくれましたし」
リオンの話題をあげられたのは意外だったが、隠すことではない。正直に関係性を明かした。
「リオンは、僕にとって大切な弟なんです」
微笑みながら告げると、ダミアンはゆっくりと視線を落とす。ブラコンだと呆れられているのかもしれない。
リオンは、大切な弟。それは今だって変わらない。リオンは守るべき存在だし、心から幸せになってほしいと願っている。
だけど最近は、僕らの関係が少しずつ歪になっていることにも気付いていた。きっかけは多分、あの日の晩だ。
「以前、リオン・マクミランに押し倒されていたな」
ダミアンが心を見透かしたように言い当てる。もう首輪の効力は切れているはずなのに、おかしな話だ。
「……見ていたんですね」
「ああ」
弟に組み敷かれて怯えている姿を、ダミアンに見られていたなんて。多分あの時の僕は、相当情けない顔をしていたはずだ。その顔も見られていたというのは、屈辱的だ。
ダミアンは、どんな心境であの様子を見ていたのだろう? 僕が困惑する姿を見て、陰で笑っていたとしたら趣味が悪すぎる。
「俺の目には、貴様が弟を拒絶しているように見えた。お前たちは、頻繁にあのようなことをしていたわけではないんだな?」
「しているわけないじゃないですか。僕らは血の繋がった兄弟ですよ?」
ダミアンは何を言い出すんだ。的外れな質問に呆れていると、ダミアンは僅かに頬を緩めた。
「そうか。ならば邪魔をして正解だったな」
それは、どういうことだ? 聞き返そうとすると、正面に立つダミアンが僕の肩に手を添える。
その手をじっと見つめていると、ダミアンはゆっくりと僕の肩を押した。
「寮長?」
されるがままに仰向けで倒れると、ダミアンが肩の脇に手を置いて、こちらを見下ろす。わけが分からずに赤い瞳を見つめ返していると、ダミアンはふっとおかしそうに頬を緩めた。
「拒絶をしないのか? 嫌だったら昨日のように闇魔法で操って良いんだぞ?」
その一言で、からかわれていることに気付く。
「……さっきは手を出さないって言ったのに、嘘つき」
むすっとしながら抗議すると、ダミアンは肩を震わせて笑いながら、僕の隣に寝転んだ。
「試しただけだ。俺も拒絶されるのかと」
その一言で、自らの心境に気付く。
ダミアンに押し倒されても、嫌悪感はなかった。リオンにされた時とは明らかに違う。状況は同じはずなのに、相手が違うだけで感じ方がこうも違うのか。
まあ、そんな事実を口にしたら、余計にからかわれそうだから言わないけど。羞恥心を悟られないように、ごろんと寝返りを打つ。
「……おかしな実験をしないでください」
ダミアンと目を合わせることすら恥ずかしい。距離が近いから、なおさら意識してしまう。
こんな風に背を向けていたら、背後から抱きしめられてしまうかとも想像したが、ダミアンはそれ以上触れてくることはなかった。
手を出さないという約束は、守ってくれるようだ。安堵していると、ダミアンは思い出したかのように話を切り出す。
「そういえば、今日注文した魔石を明日の朝に受け取りに行く。魔石が手に入ったら、魔封じの装飾品を作ろうと思う」
「魔封じの装飾品?」
咄嗟に聞き返す。それは、僕の魔力属性を隠すためのものだろうか?
「魔封じの装飾品を付けていれば、首輪を付けていた時と同様に魔力を制限できる。貴様の魔力属性が周囲に悟られることもない」
対策を考えるとは約束してくれたが、こうも早く解決策を提示されるとは思わなかった。競技会の後始末で忙しい中でも、僕のことを気にかけてくれたということか。
「明日は装飾品を作る材料を調達するために街に出る。もう少しの辛抱だ」
ダミアンも、僕が部屋で暇を持て余していたことはお見通しだったのだろう。だからこそ、早急に対処しようとしてくれたのだ。その優しさに、胸がくすぐられる。
くるりと振り返って、ダミアンと正面で向き合う。浮かれているのを悟られないように、できる限り声のトーンを落として尋ねた。
「材料調達、僕も手伝わせてくれませんか?」
その発言は予想外だったのか、ダミアンは驚いたように目を見開く。無理なお願いをしているのは重々承知だ。だけど、街に出るというのはダミアンと距離を縮めるチャンスだ。
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