歪んだ愛はお断りします ~断罪ルートを回避した悪役令息は、鬼畜寮長に囚われる~

南 コウ

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3章

40.街へ出掛けよう①

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 僕らは朝のうちに馬車に乗り込み、街へ向かっていた。
 ダミアンが注文した魔石を受け取り、魔封じの装飾品を作る材料を調達するためだ。だけどそれは表向きの目的で、別の目的も隠れている。

 正面に座るダミアンは、窓の外を眺めながらため息をつく。

「わざわざ馬車に乗らなくても、転移魔法で事足りるだろう」
「それじゃあ、意味がないんですってば!」

 街にやって来たもう一つの目的は、ダミアンとデートをするためだ。

 普通の恋をするためには、同じ時間を共有し、心の距離を縮めることが大切だ。そのためにも、休日に街へ出掛けるのは都合が良かった。

 転移魔法で目的地まで一飛びしてしまえば時間は短縮できるけど、一瞬で用事を片付けてしまっては何の意味がない。

「馬車でゆったり移動しながら、二人の時間を楽しむのがいいんじゃないですか……」

 本音を零すと、窓の外を眺めていたダミアンがこちらに視線を移す。
 あっ……。いま小恥ずかしいことを言ってしまったかも。
 ほんの少し後悔していると、真顔だったダミアンが口元に手を添えながら噴き出した。

「なるほどな。そういうことなら喜んで付き合おう」

 なんだか馬鹿にされているような気もするが、深く考えるのはやめておこう。
 僕らを乗せた馬車が街へ入ったところで、ダミアンは思い出したように話を切り出す。

「そういえば、魔封じの装飾品はどのような種類がいいんだ?」
「種類ですか?」
「首飾りや腕輪など色々あるだろう。どうせなら普段使いしやすいものを選べ」

 普段から装飾品を付け慣れていない僕は、聞かれてもすぐに答えられなかった。おまかせでも良かったけど、それはちょっと投げやりに思えた。

 魔封じの装飾品だから、簡単には外れないものというのは絶対条件だ。それでいて、いざという時には瞬時に外せるものが良い。

 しばらくうんうん唸りながら考えていると、ダミアンの手元にあるガーネットの指輪が視界に入る。寮長の証として与えられた指輪だ。それにはちょっと憧れがあった。

「指輪はどうでしょう? サイズを測ってあつらえたものなら、簡単には外れませんよ」
「なるほど。指輪か。いいんじゃないか」

 ダミアンも賛成してくれたところで、魔封じの指輪を作ることで話がまとまった。

 その後もデザインの相談をしているうちに、馬車は魔石専門の宝飾店に到着した。
 馬車が停まると、先に降りたダミアンが手を差し伸べる。まるで令嬢をエスコートするような仕草だ。

「いいか? 外では俺の傍から離れるなよ。他人とぶつかりでもしたら、貴様の魔力が悟られるからな」

 ダミアンが声をひそめて忠告する。
 僕はダミアンの傍から離れないという条件のもと、街へ連れてきてもらえたのだ。万が一、誰かと接近して闇属性であることを悟られたら、騒ぎになるかもしれない。

「分かっています。寮長の傍から離れないようにしますね」

 そう約束してから、僕はダミアンの手を取り、宝飾店に入った。

 * * *

 ダミアンの傍から離れないと約束したけど……これは流石に近すぎないか?

 店に入るなり、ダミアンは僕の背中にぴたりと身を寄せて、肩に手を添えた。美丈夫に付き添われている姿は、店内でも目立つ。

 ショーケースの魔石に夢中だった令嬢たちは、ダミアンの姿を見てうっとりとした後に、傍にいる僕を見て怪訝そうに眉を顰めた。分不相応なのは自分でも分かっているから、いちいち顔に出さないでほしい。

「あの、寮長、こんなに密着しなくても……」
「貴様は目を離すと、ちょろちょろ動き回りそうだからな。これくらいでちょうどいい」

 まるで子どものような扱いだ。不本意ではあるが、離れないという約束のもとで連れてきてもらったのだから、それ以上は文句を言わないことにした。

 ショーケース内の色とりどりの魔石を眺めていると、店の奥から白髭を蓄えた初老の男性がやって来る。

「ブラッドリー様。わざわざご足労いただきありがとうございます」
「注文していたものは、届いているか?」
「ええ。ただいまお持ちいたします」

 男性は店の奥に引っ込んでから、ベルベッドの赤い小箱を持って戻ってきた。

「すぐに取り寄せられる魔石の中でも、最上級の品をご用意いたしました。色や形が上等なのはもちろん、耐久性にも優れています」
「確認させてもらおう」

 ダミアンは小箱を受け取ると、中で輝く魔石を注意深く観察する。僕もダミアンに倣って、魔石を眺めていた。
 大きさは5mmほどの小さなものだけど、深みのある美しい赤色をしている。光を反射させながら、キラキラと輝く様子は神秘的だった。

「これを貰おう」
「ありがとうございます」

 ダミアンのお眼鏡にも叶ったのか、すぐに購入を決めた。

 その後は、奥の間に通されて、指輪に加工するためのリングパーツを選んだ。
 指輪に加工する作業は、ダミアンが行うそうだ。ダミアンに促されながら、リングの素材を選び、指周りの採寸もされた。

 必要なものが揃うと、店主はダミアンに伝票を渡す。ちらっと見えてしまった金額に、僕は白目を剥いた。
 魔石もリングパーツも、とんでもなく高額だ。僕の手持ちの衣服をすべて売り払ったとしても、支払えそうになかった。

「魔力制限のみなら、魔石のグレードにはこだわらないでいいと言っていませんでしたっけ?」

 店主に聞かれないようにこっそり尋ねると、ダミアンは何食わぬ顔を答える。

「手に入る素材の中で、最も上等なものを選ぶのは当然だろう? 急ごしらえする必要がないのなら、もっとハイグレードの素材を選んでいたぞ」
「なぜですか!?」

 勢いのままに追及すると、ダミアンはどこか気恥ずかしそうに視線を逸らした。

「……好意を寄せている相手に、いい加減な贈り物はできないだろう」

 不意打ちの甘い言葉に、心臓が止まりそうになる。ダミアンの頬は、心なしか赤く染まっていた。

 魔封じの装飾品は、僕の魔力属性を隠すための道具だと思っていたが、ダミアンにとっては贈り物と認識されていたらしい。そう考えると、胸の奥がむず痒くなる。

「このお礼は、いつか必ず……」

 熱くなった顔を隠すように、僕も視線を逸らす。するとダミアンは、ふっと可笑しそうに噴き出した。

「ああ。楽しみにしているぞ」

 俯いていると、大きな手が頭に降ってきて、わしゃわしゃと撫でられる。少し前なら、犬扱いをして!とむくれていたが、今はその手付きすら心地よく感じた。

 高価な指輪に相当するお返しは、果たして僕にできるのだろうか? 今は難しいけど、いつかそれくらいの甲斐性のある男になりたいと願っていた。

 * * *

 宝飾店を出る頃には、昼時になっていた。

 魔封じの装飾品の材料を調達するという目的は果たしたが、このまま寮に戻るというのは味気ない。帰りたくないなぁ……なんて思いながら窓枠で頬杖をついていると、ダミアンはにやりと笑った。

「まだ遊び足りないという顔をしているな」
「よく分かりましたね」
「それくらいはな」

 僕の心を散々読んできただけのことはある。これくらいの考えは、お見通しというわけか。

「この先の中央マーケットに、馴染みの食料品店がある。その場で調理もしてくれるから、そこで昼食にしよう」

 その提案には胸が躍る。空腹も感じていたし、ちょうどいい。

「ぜひ!」

 身を乗り出してお願いすると、ダミアンから優し気な眼差しを向けられた。
 デートはまだ終わらない。ダミアンとゆったりと過ごす時間は、学園にいる時よりも心が軽くなった。
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