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3章
42.同じ色の瞳
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夕刻前に寮に戻ってくると、ダミアンはすぐさま魔封じの指輪製作に取り掛かった。
他の寮長が立ち入らないのを良いことに、ダミアンは綺石の館を工房代わりに使っているそうだ。魔道具製作に必要な素材や工具をこっそり持ち込んでいると聞いた時は、職権乱用だと笑ってしまった。
まあ、ダミアンは他の寮長の分まで仕事を引き受けているのだから、それくらいの役得があっても罰は当たらないと思うけど。
僕も手伝いを申し出たが、「貴様がいると気が散って作業が進まなくなる」と断られてしまった。僕がいたところで大して役には立たないだろうから、大人しく部屋で待っていることにした。
夜になると、ダミアンは夕食の用意と入浴のために一度部屋に戻ってきたが、用事を済ませるとすぐに綺石の館に戻ってしまった。作業はまだ続いているそうだ。
ダミアンがいなくなった部屋の中で、僕はベッドに横たわる。
「今夜は一人か……」
あの調子だと、夜通し作業をするつもりなのだろう。明後日からは授業が始まるから、それまでに完成させたいと話していた。その気持ちは嬉しいけど、根詰めすぎるのはちょっと心配だった。
広いベッドに横たわっていると、妙に心細くなる。昨日までは一人でも平気だったのに不思議だ。ダミアンのぬくもりに触れるたびに、僕の身体が少しずつ作り替えられていくような気がした。
少しでも存在を感じたくて、昨晩ダミアンが掛けていた毛布に手を伸ばす。柔らかな毛布を抱きしめると、かすかにダミアンの香りを感じた。
胸の内がくすぐられる。目を閉じると、ダミアンに抱きしめられているような気分になった。
実際に抱きしめられたら平常心なんて保っていられないのだろうけど、妄想だけなら心が安らいだ。
ダミアンの香りに包まれていると、瞼が重くなる。リラックスし過ぎたせいか毛布を抱きしめながら、眠りについていた。
* * *
ベッドの軋む音で目を覚ます。ゆっくりと瞼を開けると、薄明るい部屋の中でダミアンがベッドに腰掛けていた。
「悪いな。起こしてしまった」
「いえ、構いません。それより、完成したんですか?」
「ああ」
ダミアンは、枕元に置かれた小箱に手を伸ばす。僕は急いで身体を起こして、ダミアンと向き合った。
ぱかっと小箱を開けると、深みのある赤い魔石の付いたシルバーリングが現れる。魔石も上等だったが、指輪に加工されると美しさが増した。
ストレート形状の指輪に、斜めラインの彫刻が施されている。シンプルなデザインでありながらも、洗練されていた。
「綺麗ですね」
見惚れていると、ダミアンは小箱から指輪を取り出して僕に手渡す。もっとじっくり見てみたくて、ベッドから降りてカーテンを開けた。
薄明の空の下では、赤い魔石がより一層輝いて見える。空にかざしながらキラキラと輝く様を見つめていると、ダミアンも隣にやって来た。
「気に入ったか?」
「はい!」
笑顔で即答すると、ダミアンは眉を下げて微笑む。疲労を滲ませた顔をしているが、赤い瞳には光が宿っていた。手元の指輪と見比べると、思わず笑みが零れる。
「何を笑っている?」
「指輪の魔石が、寮長の瞳と同じ色をしているなぁと思いまして」
「貴様の瞳も同じ色だぞ」
指摘されたことで、ハッと気付く。そういえば、僕らはどちらも赤い瞳をしていたな。思わぬ共通点を見つけて、ちょっと嬉しくなった。
「それじゃあ、僕らは同じ色で世界が見えているのかもしれませんね」
浮かれたように告げると、ダミアンは赤い瞳を大きく見開く。しばらく凝視された後、ダミアンはおかしそうに肩を震わせた。
「瞳の色で見え方が変わるはずないだろ」
その通りだ。おかしな発言をしてしまったことに恥じていると、ダミアンは僕の手のひらから指輪を奪い、左手を握る。
「貸してみろ。俺が付けてやる」
「は、はい」
指を伸ばして待っていると、ダミアンは左手の薬指にはめる。きちんとサイズを測っただけのことはあり、指輪はぴったりとフィットしていた。これなら簡単に取れることはなさそうだ。
「ありがとうございます!」
顔を上げて御礼を伝えると、ダミアンが淡く微笑みながら僕の後頭部を手のひらで包み込む。距離が縮まったことで、キスをされることを予感した。
突然のことで驚いているけど、嫌悪感は微塵もない。受け入れるように、そっと瞼を閉じた。
唇が触れ合うことを期待していたが、柔らかな感触が伝わったのは瞼だった。驚いて目を見開くと、ダミアンは悪戯っぽく笑う。
「唇は駄目なんだろう?」
その言葉で、馬車でのやりとりを思い出す。確かにあの場所では駄目だと伝えたけど、全面的に駄目というわけではなくて……。なんて説明するのは恥ずかし過ぎる!
顔が熱くなるのを感じながら俯いていると、ダミアンはカーテンを閉めてベッドへ向かった。
「俺は少し寝る」
ダミアンは一晩中作業をしていたから、寝ていないんだ。無事に完成したのだから、今はゆっくり寝かせてあげたい。
ダミアンの睡眠の邪魔をしないようにソファに向かおうとすると、ベッドに腰掛けたダミアンに手招きされた。
「来い。抱かせろ」
「……は? え? ええ!?」
突拍子もない発言に、思わず叫んでしまう。そんな強引な誘い方ってあるか?
確かにダミアンは、僕のために寝る間も惜しんで魔封じの指輪を作ってくれたけど、その対価が身体っていうのは……。まだ、全然準備ができていない。心も体も……。
パニックになっていると、ダミアンはおかしそうに笑い出す。
「貴様が想像しているようなことじゃない。ただ抱きしめさせてほしいと言っているんだ」
「あ、なるほど。そういうことでしたか……」
それくらいなら、引き受けられそうだ。おずおずとベッドに近付くと、ダミアンに腕を引かれる。
正面からは恥ずかしいから、背を向けて横たわる。すると後ろから手を回されて、抱きしめられた。
抱き枕にでもなった気分だ。背中から伝わる体温も、首筋に触れる吐息も熱い。心臓は破裂しそうなほどに暴れまわっていた。
眠気なんてすっかり吹き飛んで覚醒している僕とは対照的に、ダミアンはすぐに眠りについてしまった。よっぽど疲れていたのだろう。背後からはすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえた。
こっちの気も知らないで、いい気なものだ。呆れてしまったが、全方位に警戒心を向けているようなダミアンが、僕を抱きしめて無防備に眠っていることには密かに喜びを感じていた。
他の寮長が立ち入らないのを良いことに、ダミアンは綺石の館を工房代わりに使っているそうだ。魔道具製作に必要な素材や工具をこっそり持ち込んでいると聞いた時は、職権乱用だと笑ってしまった。
まあ、ダミアンは他の寮長の分まで仕事を引き受けているのだから、それくらいの役得があっても罰は当たらないと思うけど。
僕も手伝いを申し出たが、「貴様がいると気が散って作業が進まなくなる」と断られてしまった。僕がいたところで大して役には立たないだろうから、大人しく部屋で待っていることにした。
夜になると、ダミアンは夕食の用意と入浴のために一度部屋に戻ってきたが、用事を済ませるとすぐに綺石の館に戻ってしまった。作業はまだ続いているそうだ。
ダミアンがいなくなった部屋の中で、僕はベッドに横たわる。
「今夜は一人か……」
あの調子だと、夜通し作業をするつもりなのだろう。明後日からは授業が始まるから、それまでに完成させたいと話していた。その気持ちは嬉しいけど、根詰めすぎるのはちょっと心配だった。
広いベッドに横たわっていると、妙に心細くなる。昨日までは一人でも平気だったのに不思議だ。ダミアンのぬくもりに触れるたびに、僕の身体が少しずつ作り替えられていくような気がした。
少しでも存在を感じたくて、昨晩ダミアンが掛けていた毛布に手を伸ばす。柔らかな毛布を抱きしめると、かすかにダミアンの香りを感じた。
胸の内がくすぐられる。目を閉じると、ダミアンに抱きしめられているような気分になった。
実際に抱きしめられたら平常心なんて保っていられないのだろうけど、妄想だけなら心が安らいだ。
ダミアンの香りに包まれていると、瞼が重くなる。リラックスし過ぎたせいか毛布を抱きしめながら、眠りについていた。
* * *
ベッドの軋む音で目を覚ます。ゆっくりと瞼を開けると、薄明るい部屋の中でダミアンがベッドに腰掛けていた。
「悪いな。起こしてしまった」
「いえ、構いません。それより、完成したんですか?」
「ああ」
ダミアンは、枕元に置かれた小箱に手を伸ばす。僕は急いで身体を起こして、ダミアンと向き合った。
ぱかっと小箱を開けると、深みのある赤い魔石の付いたシルバーリングが現れる。魔石も上等だったが、指輪に加工されると美しさが増した。
ストレート形状の指輪に、斜めラインの彫刻が施されている。シンプルなデザインでありながらも、洗練されていた。
「綺麗ですね」
見惚れていると、ダミアンは小箱から指輪を取り出して僕に手渡す。もっとじっくり見てみたくて、ベッドから降りてカーテンを開けた。
薄明の空の下では、赤い魔石がより一層輝いて見える。空にかざしながらキラキラと輝く様を見つめていると、ダミアンも隣にやって来た。
「気に入ったか?」
「はい!」
笑顔で即答すると、ダミアンは眉を下げて微笑む。疲労を滲ませた顔をしているが、赤い瞳には光が宿っていた。手元の指輪と見比べると、思わず笑みが零れる。
「何を笑っている?」
「指輪の魔石が、寮長の瞳と同じ色をしているなぁと思いまして」
「貴様の瞳も同じ色だぞ」
指摘されたことで、ハッと気付く。そういえば、僕らはどちらも赤い瞳をしていたな。思わぬ共通点を見つけて、ちょっと嬉しくなった。
「それじゃあ、僕らは同じ色で世界が見えているのかもしれませんね」
浮かれたように告げると、ダミアンは赤い瞳を大きく見開く。しばらく凝視された後、ダミアンはおかしそうに肩を震わせた。
「瞳の色で見え方が変わるはずないだろ」
その通りだ。おかしな発言をしてしまったことに恥じていると、ダミアンは僕の手のひらから指輪を奪い、左手を握る。
「貸してみろ。俺が付けてやる」
「は、はい」
指を伸ばして待っていると、ダミアンは左手の薬指にはめる。きちんとサイズを測っただけのことはあり、指輪はぴったりとフィットしていた。これなら簡単に取れることはなさそうだ。
「ありがとうございます!」
顔を上げて御礼を伝えると、ダミアンが淡く微笑みながら僕の後頭部を手のひらで包み込む。距離が縮まったことで、キスをされることを予感した。
突然のことで驚いているけど、嫌悪感は微塵もない。受け入れるように、そっと瞼を閉じた。
唇が触れ合うことを期待していたが、柔らかな感触が伝わったのは瞼だった。驚いて目を見開くと、ダミアンは悪戯っぽく笑う。
「唇は駄目なんだろう?」
その言葉で、馬車でのやりとりを思い出す。確かにあの場所では駄目だと伝えたけど、全面的に駄目というわけではなくて……。なんて説明するのは恥ずかし過ぎる!
顔が熱くなるのを感じながら俯いていると、ダミアンはカーテンを閉めてベッドへ向かった。
「俺は少し寝る」
ダミアンは一晩中作業をしていたから、寝ていないんだ。無事に完成したのだから、今はゆっくり寝かせてあげたい。
ダミアンの睡眠の邪魔をしないようにソファに向かおうとすると、ベッドに腰掛けたダミアンに手招きされた。
「来い。抱かせろ」
「……は? え? ええ!?」
突拍子もない発言に、思わず叫んでしまう。そんな強引な誘い方ってあるか?
確かにダミアンは、僕のために寝る間も惜しんで魔封じの指輪を作ってくれたけど、その対価が身体っていうのは……。まだ、全然準備ができていない。心も体も……。
パニックになっていると、ダミアンはおかしそうに笑い出す。
「貴様が想像しているようなことじゃない。ただ抱きしめさせてほしいと言っているんだ」
「あ、なるほど。そういうことでしたか……」
それくらいなら、引き受けられそうだ。おずおずとベッドに近付くと、ダミアンに腕を引かれる。
正面からは恥ずかしいから、背を向けて横たわる。すると後ろから手を回されて、抱きしめられた。
抱き枕にでもなった気分だ。背中から伝わる体温も、首筋に触れる吐息も熱い。心臓は破裂しそうなほどに暴れまわっていた。
眠気なんてすっかり吹き飛んで覚醒している僕とは対照的に、ダミアンはすぐに眠りについてしまった。よっぽど疲れていたのだろう。背後からはすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえた。
こっちの気も知らないで、いい気なものだ。呆れてしまったが、全方位に警戒心を向けているようなダミアンが、僕を抱きしめて無防備に眠っていることには密かに喜びを感じていた。
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