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3章
43.三日三晩って、恐ろしいな
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競技会の休息日が明けて、いつも通りの日常が戻ってきた。
朝日を背に受けながら、制服のシャツに袖を通し、ネクタイを結ぶ。左手の薬指には、ダミアンから貰った魔封じの指輪がきらりと輝いていた。その輝きを目に焼き付けてから、よしっと覚悟を決める。
「行ってきます」
「くれぐれも外で指輪を外すなよ」
窓辺に立つダミアンに忠告される。その瞳は真剣そのもので、僕を心配していることが伝わってきた。
「分かっています」
魔封じの指輪の効力は、昨日の段階で確認済みだ。昼下がりに、ダミアンと街に出て、食料品の買い物に行ったが、特段怪しまれることはなかった。
この指輪を付けている限り、この先も平穏な学園生活を送れるはずだ。そっと指輪に触れてから、僕は改めてダミアンと向き合った。
「三日間、お世話になりました」
ダミアンの部屋に引きこもる生活も、今日で終わりだ。お礼を伝えると、ダミアンは名残惜しそうに眉を下げる。
「ああ」
一瞬、引きとめられるのではと予感したが、ダミアンはそれ以上言葉を発することなく、窓の外に視線を向けた。
* * *
朝の食堂は、寮生たちで賑わっている。休息日に寮を離れていた生徒もいたようで、あちらこちらから休暇中の楽し気な会話が聞こえてきた。
賑やかな会話を聞き流しながら空いている席を探していると、いつものメンバーを発見した。
「おー、アレン! やっと出てこられたのか」
ルーカスが爽やかな笑顔を浮かべながら、こちらに手を振っている。傍にはクライドとフレッドもいた。僕の足は、自然と彼らのもとに向かう。
「心配かけてごめん。もう平気だよ」
笑顔を見せながら元気だとアピールすると、三人は安堵したように頬を緩ませた。
ルーカスの隣の席についたところで、正面に座っていたフレッドが「あっ!」と声をあげる。その声で、周囲も何事かとこちらに注目した。
急にどうしたんだ? まさか僕の魔力属性がバレたか? 魔封じの指輪をしていればバレないと思っていたけど、甘かったか?
背中に冷たい汗をかきながら続く言葉を待っていると、フレッドは神妙な面持ちで僕の首元を指さす。
「アレンの首輪がない!」
なんだ、そっちか。魔力属性がバレたわけではなないと知り、そっと胸を撫でおろした。
「実は後夜祭が終わった後に、外してもらったんだ。競技会での働きぶりを認めてもらって」
実際には自分で魔石を割ったんだけど、彼らにはその件は伏せておくつもりだ。魔石を割るほどの魔力を隠し持っていることを、この場で知られるのはリスキーだ。
それに、魔石を割った経緯を説明するとなると、あの晩の出来事まで話さなければいけなくなる。それは僕としても避けたかった。
「良かったじゃねーか! これで監視生活から解放されるな!」
ルーカスからバシバシと背中を叩かれる。力が強すぎてちょっと痛かったけど、自分のことのように喜んでもらえたのは嬉しかった。
喜ぶルーカスとは対照的に、クライドはまじまじと僕を見つめる。
「首輪が外れても、魔力は感じられないようだが……」
「あ、確かに」
クライドが指摘したところで、フレッドはテーブルから身を乗り出す。すんすんと犬のように匂いを嗅いできたところで、僕は慌てて椅子を引いた。
「実は魔力はまだ制限されているんだ。限定解除……みたいな。あははー」
苦笑いを浮かべながら説明すると、フレッドからは憐みの視線を向けられた。
「競技会であれだけ活躍しても、完全には自由にしてくれないなんて、相当目の敵にされているんだね」
「……いや、むしろ逆だろう」
クライドのもとに視線が集まる。どういうことかと瞬きを繰り返していると、クライドは僕の手元を指さした。
「その指輪は寮長から貰ったのだろう? 後夜祭の晩から三日間も部屋に閉じ込めて、傍に置いておこうとするなんて、よっぽど気に入られているんだな」
クライドの言わんとしていることを察すると、カアアッと顔が熱くなる。他の二人も「あー……」と何かを察したように目を細めた。
「そういうことだったのか。心配して損したぜ」
「三日三晩って、恐ろしいな……」
肩を竦めるルーカスと、ぶるりと身震いするフレッド。そんな二人の反応を見て、慌てて弁解した。
「さすがに三日三晩はないから!」
勢い余って否定したものの、すぐに失言したと気付く。その言い方だと、一部は肯定しているようなものだ。
「あ、いや、えっと……僕と寮長はまだそういう関係ではなくて」
僕がしどろもどろになったせいで、ダミアンとの関係はより一層疑われることとなった。
気まずさを感じながらもパンを千切っていると、フレッドが周囲を見回してから小声で話を切り出す。
「そういえば、シリル寮長はひと月の謹慎処分になったって噂だよ。クライドを洗脳した闇属性の生徒も、同様の処分になったみたい」
シリルの話題があがると、緊張感が走る。生徒の手本である寮長が、ひと月の謹慎処分というのは異例の事態だ。
「寮長退任は免れたのかな?」
「学園側から正式に退任処分が下されたわけではないみたい。だけど信用が失墜した今、寮長として振舞うのは難しいんじゃないかな。謹慎明けに自主退任にして、副寮長あたりが寮長に繰り上がるんじゃないかと予想しているけど」
フレッドの言うように、学園側から命じられなくても、シリルが寮長を続けるのは難しいだろう。
シリルの悪事は、公の場で明るみになったのだ。このまま寮長の座についていたら、外野が黙っていない。
次期寮長は公私混同することなく、役割をまっとうしてくれる人に就いてもらいたいと密かに願っていた。
* * *
朝食を終えて、自室に戻ったところで、リオンと鉢合わせる。
リオンと顔を合わせるのは、ダミアンの部屋の前で話をした時以来だ。学園を辞めて、屋敷に戻ろうと言われたことも気がかりだった。
入口で立ち尽くしていると、リオンに冷ややかな視線を向けられる。
「部屋から出してもらえるようになったんだね」
「ああ、うん。魔封じの指輪を作ってもらったから」
左手に付けた指輪を見せる。リオンは指輪を一瞥すると、視線を落とした。
「それは、魔封じのためだけ?」
「え?」
質問の意図が分からずに聞き返すと、リオンは小さく首を振った。
「ううん、何でもない。それより僕は、先に行くね。ロラン先輩が待っているから」
リオンは鞄を肩にかけると、僕と目を合わせることなく、部屋から出て行った。
ひとり部屋に取り残された僕は、小さくため息をつく。
相変わらずリオンは、素っ気ない。顔を合わせて話していても、何を考えているのか全然分からなかった。
寂しいけれど、僕ら双子がそれぞれの世界を持ち始めた兆候なのかもしれない。
この学園に来るまでは、僕らはいつも一緒だった。その距離感がおかしかったんだ。互いに干渉しすぎない今の状況のほうが、ずっと自然だ。
当初の目的通り、リオンは兄離れをしてくれた。そう考えれば、今の状況も悲観的になることではないように思えた。
朝日を背に受けながら、制服のシャツに袖を通し、ネクタイを結ぶ。左手の薬指には、ダミアンから貰った魔封じの指輪がきらりと輝いていた。その輝きを目に焼き付けてから、よしっと覚悟を決める。
「行ってきます」
「くれぐれも外で指輪を外すなよ」
窓辺に立つダミアンに忠告される。その瞳は真剣そのもので、僕を心配していることが伝わってきた。
「分かっています」
魔封じの指輪の効力は、昨日の段階で確認済みだ。昼下がりに、ダミアンと街に出て、食料品の買い物に行ったが、特段怪しまれることはなかった。
この指輪を付けている限り、この先も平穏な学園生活を送れるはずだ。そっと指輪に触れてから、僕は改めてダミアンと向き合った。
「三日間、お世話になりました」
ダミアンの部屋に引きこもる生活も、今日で終わりだ。お礼を伝えると、ダミアンは名残惜しそうに眉を下げる。
「ああ」
一瞬、引きとめられるのではと予感したが、ダミアンはそれ以上言葉を発することなく、窓の外に視線を向けた。
* * *
朝の食堂は、寮生たちで賑わっている。休息日に寮を離れていた生徒もいたようで、あちらこちらから休暇中の楽し気な会話が聞こえてきた。
賑やかな会話を聞き流しながら空いている席を探していると、いつものメンバーを発見した。
「おー、アレン! やっと出てこられたのか」
ルーカスが爽やかな笑顔を浮かべながら、こちらに手を振っている。傍にはクライドとフレッドもいた。僕の足は、自然と彼らのもとに向かう。
「心配かけてごめん。もう平気だよ」
笑顔を見せながら元気だとアピールすると、三人は安堵したように頬を緩ませた。
ルーカスの隣の席についたところで、正面に座っていたフレッドが「あっ!」と声をあげる。その声で、周囲も何事かとこちらに注目した。
急にどうしたんだ? まさか僕の魔力属性がバレたか? 魔封じの指輪をしていればバレないと思っていたけど、甘かったか?
背中に冷たい汗をかきながら続く言葉を待っていると、フレッドは神妙な面持ちで僕の首元を指さす。
「アレンの首輪がない!」
なんだ、そっちか。魔力属性がバレたわけではなないと知り、そっと胸を撫でおろした。
「実は後夜祭が終わった後に、外してもらったんだ。競技会での働きぶりを認めてもらって」
実際には自分で魔石を割ったんだけど、彼らにはその件は伏せておくつもりだ。魔石を割るほどの魔力を隠し持っていることを、この場で知られるのはリスキーだ。
それに、魔石を割った経緯を説明するとなると、あの晩の出来事まで話さなければいけなくなる。それは僕としても避けたかった。
「良かったじゃねーか! これで監視生活から解放されるな!」
ルーカスからバシバシと背中を叩かれる。力が強すぎてちょっと痛かったけど、自分のことのように喜んでもらえたのは嬉しかった。
喜ぶルーカスとは対照的に、クライドはまじまじと僕を見つめる。
「首輪が外れても、魔力は感じられないようだが……」
「あ、確かに」
クライドが指摘したところで、フレッドはテーブルから身を乗り出す。すんすんと犬のように匂いを嗅いできたところで、僕は慌てて椅子を引いた。
「実は魔力はまだ制限されているんだ。限定解除……みたいな。あははー」
苦笑いを浮かべながら説明すると、フレッドからは憐みの視線を向けられた。
「競技会であれだけ活躍しても、完全には自由にしてくれないなんて、相当目の敵にされているんだね」
「……いや、むしろ逆だろう」
クライドのもとに視線が集まる。どういうことかと瞬きを繰り返していると、クライドは僕の手元を指さした。
「その指輪は寮長から貰ったのだろう? 後夜祭の晩から三日間も部屋に閉じ込めて、傍に置いておこうとするなんて、よっぽど気に入られているんだな」
クライドの言わんとしていることを察すると、カアアッと顔が熱くなる。他の二人も「あー……」と何かを察したように目を細めた。
「そういうことだったのか。心配して損したぜ」
「三日三晩って、恐ろしいな……」
肩を竦めるルーカスと、ぶるりと身震いするフレッド。そんな二人の反応を見て、慌てて弁解した。
「さすがに三日三晩はないから!」
勢い余って否定したものの、すぐに失言したと気付く。その言い方だと、一部は肯定しているようなものだ。
「あ、いや、えっと……僕と寮長はまだそういう関係ではなくて」
僕がしどろもどろになったせいで、ダミアンとの関係はより一層疑われることとなった。
気まずさを感じながらもパンを千切っていると、フレッドが周囲を見回してから小声で話を切り出す。
「そういえば、シリル寮長はひと月の謹慎処分になったって噂だよ。クライドを洗脳した闇属性の生徒も、同様の処分になったみたい」
シリルの話題があがると、緊張感が走る。生徒の手本である寮長が、ひと月の謹慎処分というのは異例の事態だ。
「寮長退任は免れたのかな?」
「学園側から正式に退任処分が下されたわけではないみたい。だけど信用が失墜した今、寮長として振舞うのは難しいんじゃないかな。謹慎明けに自主退任にして、副寮長あたりが寮長に繰り上がるんじゃないかと予想しているけど」
フレッドの言うように、学園側から命じられなくても、シリルが寮長を続けるのは難しいだろう。
シリルの悪事は、公の場で明るみになったのだ。このまま寮長の座についていたら、外野が黙っていない。
次期寮長は公私混同することなく、役割をまっとうしてくれる人に就いてもらいたいと密かに願っていた。
* * *
朝食を終えて、自室に戻ったところで、リオンと鉢合わせる。
リオンと顔を合わせるのは、ダミアンの部屋の前で話をした時以来だ。学園を辞めて、屋敷に戻ろうと言われたことも気がかりだった。
入口で立ち尽くしていると、リオンに冷ややかな視線を向けられる。
「部屋から出してもらえるようになったんだね」
「ああ、うん。魔封じの指輪を作ってもらったから」
左手に付けた指輪を見せる。リオンは指輪を一瞥すると、視線を落とした。
「それは、魔封じのためだけ?」
「え?」
質問の意図が分からずに聞き返すと、リオンは小さく首を振った。
「ううん、何でもない。それより僕は、先に行くね。ロラン先輩が待っているから」
リオンは鞄を肩にかけると、僕と目を合わせることなく、部屋から出て行った。
ひとり部屋に取り残された僕は、小さくため息をつく。
相変わらずリオンは、素っ気ない。顔を合わせて話していても、何を考えているのか全然分からなかった。
寂しいけれど、僕ら双子がそれぞれの世界を持ち始めた兆候なのかもしれない。
この学園に来るまでは、僕らはいつも一緒だった。その距離感がおかしかったんだ。互いに干渉しすぎない今の状況のほうが、ずっと自然だ。
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