歪んだ愛はお断りします ~断罪ルートを回避した悪役令息は、鬼畜寮長に囚われる~

南 コウ

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3章

47.なんだ、このBLゲームみたいな展開は?

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 僕の魔力属性が判明してからというもの、学園では余所余所しい態度を取られることが増えた。

 朝、おはようと挨拶をしても、困惑したように目を逸らされてしまうばかり。改めて、闇属性の魔導士に対する風当たりの強さを実感した。

 そんな状況でも、ルーカスたちは変わらずに接してくれる。そのことが救いだった。あの三人がいれば、僕が学園で孤立することはなかった。

 ルーカスたちとは、これまで関わってきた積み重ねがある。信頼できる友人だと認めてもらえたからこそ、繋がりが途絶えることはなかったんだ。それと同じように、他の生徒とも信頼関係を築けたらと願っていた。たとえ、時間がかかったとしても。

 昨日仕上げたレポートを提出してから、教室の前でルーカスたちに別れを告げる。

「じゃあ僕は、用事があるから先に帰るな」

 今日はダミアンに夕食を作る約束をしている。そのための材料を調達するために、放課後は街へ出る予定だった。
 はりきっている僕とは対照的に、ルーカスは心配そうに眉を下げる。

「一人で大丈夫か? 闇属性の魔導士に敵意を持っている人間は大勢いる。一人になった隙に狙われる可能性もあるぞ」
「ああ、それなら平気だよ。実は――」

 説明しようとした時、目の前にダミアンが現れる。この早さは転移魔法だ。
 ダミアンが飛んできたことで、ルーカスも事情を察した。

「なるほど。寮長も一緒ってわけか」
「そういうこと」

 昨日、食材の調達のために街へ出ると報告すると、ダミアンは間髪入れずに「俺も行く」と同行を希望してきた。手間をかけさせるのは申し訳なかったが、トラブルに巻き込まれたら余計に迷惑をかけてしまう。一昨日、リオンたちが何かを企てていることも気がかりだった。

 身の安全を優先させるため、お言葉に甘えてダミアンと一緒に買い物に行くことにした。

「行くぞ」

 ダミアンから手を差し伸べられたところで、僕は躊躇いなくその手を取る。
 その様子を見ていたフレッドからは「見せつけてくれるねー」と茶化されたが、返事をする前に僕らはダミアンが贔屓にしている食料品店の前に転移していた。相変わらず、便利な魔法だな。

 店内に入ると、さっそく食材を吟味する。

「寮長は、苦手な食べ物はありますか?」
「辛い味付けの料理は好まないな。舌がビリビリ痺れる感覚は不快だ」

 辛いものが苦手なんて、意外と可愛いところがあるんだな。思わず頬を緩めていると、ダミアンからギロリと睨まれる。

「何がおかしい?」
「いえ、まったくおかしくありません! それより、今夜は野菜と肉を煮込んだシチューを作ろうと思います。それなら辛くないですし、大丈夫ですよね?」
「ああ」

 ダミアンが頷いたところで、本日のメニューが決まった。

 材料を調達したところで、僕らは転移魔法で寮に戻る。それからすぐに調理場へ向かった。
 調理場を使わせてもらうことは既に交渉済みだ。邪魔にならないように、隅っこの台で作業をすることにした。

 さっそく野菜の皮むきをしようと包丁を握った時、ダミアンが背後から手元を覗き込んでくる。

「本当に大丈夫か? 包丁で指でも切ったら大変だぞ?」
「ご心配なく。初めて料理をするわけじゃないんですから」

 平気だと伝えたものの、ダミアンは僕の後ろから離れようとしない。
 僕が野菜の皮むきをしている最中も、「その持ち方で大丈夫か?」「危なっかしいな」など背後でごにょごにょ言っていた。

 これでは集中できない。一度包丁を置いてから、僕はくるっと振り返った。

「気が散るので出て行ってもらえませんか?」
「いや、だけど……」
「いいから。完成したら部屋まで運びます」

 渋るダミアンの背中を押して、調理場から追い出す。バタンっと扉を閉めたところで、ようやく静かになった。

「まったく、心配性にもほどがある」

 ため息をついていると、一部始終を見ていたコック見習いのコーディーにクスクスと笑われる。
 以前、僕が配膳を手伝った少年だ。出会った当初は仕事に不慣れで頼りない印象だったが、今では先輩コックたちに混じってキビキビ働いていた。

 コーディーは先輩コックたちの目を掻い潜って、僕のもとに駆け寄ってくる。

「僕、知りませんでした。ダミアン寮長って、あんなに過保護な方だったんですね」
「うん。僕に対してだけだけど。困っちゃうよね」

 真後ろにくっついて見張られていたのは、僕の料理の腕を信用していないからだろう。自虐のつもりだったが、コーディーは異なる解釈をしていた。

「愛されているんですね」

 思いかげない言葉が飛んできて、どきっと心臓が跳ねる。ダミアンからの監視が、愛ゆえの行動だと自覚すると、途端に恥ずかしくなった。

「そ、それはどうだろうねー」

 あははー、とぎこちなく笑ってから、野菜の皮むきを再開した。
 左手では、赤い魔石が輝いている。その魔石の色がダミアンの瞳の色を彷彿させて、余計に心臓の音がうるさくなった。

 * * *

「おお……想像していたよりもずっと美味いな」
「普通に美味いって言ってくださいよ」

 シチューを口にしたダミアンの反応を見て、僕は苦笑いを浮かべた。
 想像していたよりもって、一体どんな味を想像していたんだ。砂糖と塩を間違えるような古典的なヘマはしないぞ。

 見くびられていたのは確かだけど、美味しいと言ってもらえたのは嬉しい。公爵家で一流の料理を食べていたダミアンに、僕の作った料理が口に合うかは心配だった。黙々と食べている様子を見ると、気に入ってもらえたことが窺える。

 テーブルを挟んだ向かいでダミアンが食事をする様子を眺めていると、ふと視線が交わる。なんだろうと目を丸くしていると、ダミアンが頬を緩めた。

「ありがとう、アレン」

 ぎゅっと胸の奥が狭まる。ただ名前を呼ばれただけなのにおかしい。
 競技会の終盤でもダミアンに名前を呼ばれたけど、今はあの時よりもずっと苦しい。

「どうした、顔が赤いぞ?」

 ダミアンが笑顔を引っ込めて、僕の顔色を窺う。
 僕の様子がおかしいせいで、ダミアンに心配をかけてしまったようだ。どうやって言い訳をしようかと考えていると、ダミアンは席を立ってこちらにやって来る。

「具合が悪いのか? それならベッドで休んで」
「いえ、そうじゃなくて、名前が……」

 うっかり口を滑らせてしまいそうになり、慌てて口を噤む。ダミアンは怪訝そうに「名前?」と繰り返していた。

「アレン」
「あっ……」

 名前を呼ばれると、またしても胸の奥が狭まる。おずおずと顔を上げると、ダミアンは何かを察したようににやりと口元を釣り上げていた。

「なるほど。名前を呼ばれると悦ぶのか」

 見抜かれてしまった! 恥ずかしくて顔を背けていると、ダミアンに腕を掴まれる。「えっ……」と戸惑っているうちに、手を引かれて、ベッドに放り出された。

「うわっ!」

 柔らかなベッドに背中からダイブする。突然のことで、思考が追い付かない。

「な、何しているんですか? 食事中ですよ?」

 注意をしたが、ダミアンは聞く耳を持たず。ベッドに膝を乗せると、僕の手首を掴み、覆い被さるように迫ってきた。

「シチューよりも、こっちの方が美味そうだ」

 ええ!? なんだ、このBLゲームみたいな展開は? ……いや、ここはBLゲームの世界だったな。
 ダミアンはにやりと色気のある笑みを浮かべたまま、僕を見下ろす。

「アレン」
「な、なんですか?」

 視線を逸らしても、ダミアンからの攻撃は止まらない。

「アレン、アレン、アレン……」

 しきりに名前で呼ばれる。揶揄われていると頭では分かっているのに、胸の疼きは収まらなかった。
 ぎゅうぎゅう締め付けられて、破裂しそうだ。恥ずかしさが最高潮に達して、視界が滲んでくる。

「そんなに呼ばれたら、おかしくなる……」

 抵抗のつもりで口にすると、ダミアンの喉元がごくりと動いた。

「おかしくなりそうなのは、こっちだって同じだ」

 ダミアンは、腰を落としてさらに距離を縮める。端正な顔が至近距離に迫ってきて、パニックになった。

 これは、キスをされる流れかもしれない。ぎゅっと目を閉じて身構えていたものの、いつまで経っても触れる感触はない。恐る恐る目を開けてみると、ダミアンは唇が触れ合う一歩手前で停止していた。

「キスは、好きな人としかしたくないと言っていたな」

 そういえば、そんな話もしたな。だけど今、それを持ち出すのはズルイ。
 どうしてこんなにも強引に迫っておいて、最後の一手は僕に委ねてくるのか……。

 もどかしそうに眉を下げるダミアンの顔を見ていると、堪らなくなる。僕はゆっくりと、ダミアンの肩に腕を回した。

「寮長は、いいんです」

 次の瞬間、そっと唇を奪われた。

 柔らかな感触に溺れそうだ。後頭部をがっちり押さえて逃げられないようにしているくせに、唇はただ触れているだけ。本当はもっと深く交わりたいのに、必死にこらえているようにも思えた。

 強引なくせに、優しい。こんなキスをしてくるのは、ダミアンくらいだ。触れ合うだけのキスが、こんなにもどかしいものだとは思わなかった。

 長く触れ合っていた唇がゆっくりと離れる。興奮のせいで浅い呼吸を繰り返していると、熱のこもった瞳で見下ろされた。

「そんな顔で見られると、歯止めが利かなくなりそうだ」

 瞳の奥の熱が伝染して、身体の芯まで火照っていく。
 歯止めが利かなくなったら、どうなるんだろう。その先を知りたい欲求はあれど、実際に進むのは少し怖かった。僕はそっとダミアンの肩を押す。

「シチューが冷めてしまいます」

 こちらにその気がないと察すると、ダミアンは静かに目を伏せる。

「……ああ、そうだな」

 あっさりと僕を解放すると、ベッドから離れて席に戻った。
 その後も食事を続けたが、シチューの味なんてまるで分からなくなってしまった。
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