歪んだ愛はお断りします ~断罪ルートを回避した悪役令息は、鬼畜寮長に囚われる~

南 コウ

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3章

48.肝心なことはまだ伝えていないのに

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 夕食の片付けが済んだ後、僕は大浴場の湯に浸かりながら、先ほどの出来事を思い出していた。

 ダミアンに押し倒されて、キスをされてしまった。あの時の感触を思い出すだけで、心臓が激しく暴れまわった。
 心音が波のように水面に伝わって、周囲に悟られてしまいそうだ。そう心配していたが、幸い周囲には誰もいなかった。

 小さく息をつきながら、肩まで湯に浸かる。

 ダミアンから向けられる感情は、日に日に激しさを増している気がする。その激しさに飲まれてしまいそうになる時もあるけど、ダミアンはきちんとこちらの意思を尊重しようとしてくれた。

 さっきだってそうだ。本当は、もっと激しくしたかったに違いない。だけど僕が受け止めきれないと判断して、我慢をしてくれたんだ。

 強引なところもあるが、根っこの部分では優しい。そんな一面も、愛おしく思えた。

 僕も、ダミアンの気持ちに応えられるようになりたい。ダミアンから与えられた愛情を、同じ熱量で返せるようになりたかった。

 こんな風に思ったのは初めてだ。前世ですら知らなかった恋心が、自分のなかで着実に育っていくのを感じていた。

 そんなことを考えていると、ふと重大なことに気付く。

 僕は、ダミアンに「好き」と伝えたことはあったか?
 これまでの出来事を振り返る。後夜祭の晩、街でのデート、指輪を受け取った時、二人きりでの食事会……。どの場面を思い返しても、肝心なことが抜け落ちていた。

「……伝えていないな」

 キスの直前に好意は仄めかしていたが、直接好きと口にしたわけではない。察しの良いダミアンのことだから僕の気持ちなんてお見通しだろうけど、伝えていないというのは気がかりだった。

 このままでいいのだろうか? 僕が好意をきちんと示していないせいで、ダミアンに不安な思いをさせていたらと考えると、申しわけない気分になった。

 ザブンと水音を立てながら、勢いよく立ち上がる。
 僕だって男だ。好きな人に想いを伝えられなくてどうする。

 次にダミアンと良い雰囲気になったら、きちんと伝えよう。そう決意しながら、大浴場をあとにした。

 * * *

 火照った身体で、ふらふらと部屋に向かう。湯の中で考え事をしていたせいで、のぼせてしまった。
 早く部屋に戻って休みたい。おぼつかない足取りで、部屋へ向かった。

 一昨日、ダミアンに部屋割りの件を相談したことで、リオンと部屋を分けてもらっていた。
 調整した結果、僕はもともと副寮長のロランが使っていた部屋に移動することになった。場所はダミアンの部屋の隣だ。僕が寮長補佐だからと表向きには話していたが、別の目的も隠れているような気がしてならなかった。

 ちなみにロランは、リオンの部屋へ移動することになった。副寮長ともなれば一人部屋を使わせてもらえるが、本人たっての希望でリオンと同室になることを希望したらしい。

 それがリオンに想いを寄せていて、なんて事情だったら可愛げがあるのだけど、真意は分からない。妙なことを企んでいないと良いけど……。

 階段を上ろうとしたところで、奇しくもロランとばったり鉢合わせる。ロランは僕の顔を見た途端、深刻な面持ちで詰め寄ってきた。

「アレン、大変だ。ダミアン寮長が倒れた」
「え……?」

 ガツンと頭を殴られた衝撃に襲われる。
 ダミアンが倒れた? 嘘だろう? さっきまでは元気そうにしていたのに……。
 信じられずに立ち尽くしていると、ロランに腕を掴まれる。

「ついさっき馬車で学外の診療所へ運ばれた。アレンも一緒に来てくれ。馬車を手配しているから」

 ロランは早口でそう捲し立てると、僕の腕を引く。促されるままに外へ連れ出されたが、頭の中は大混乱していた。

 倒れたって、どういうことだ? まさか僕の作った料理が原因か? 衛生管理に問題があって、食中毒を起こしたとか。

 ……いや、それは考えにくい。寮の調理器具は清潔だったし、使用した肉や野菜はどれも新鮮だった。ダミアンの馴染みの店で買ったものだし、食材に問題があったとは考えにくい。

 もしや毒が混入していたのか? いや、その可能性も低い。調理中は鍋に張り付いていたから、何者かが毒を混入させる隙は無かった。
 そもそも毒が混入していたら、僕だって無事では済まない。僕とダミアンは、同じ鍋に入っているシチューを食べたのだから。

 あらゆる可能性を考えたものの、どうにも腑に落ちない。そもそもダミアンが倒れたというのに、寮内ではまるで騒ぎになっていないのもおかしい。

 ロランは、こちらに目をくれることなく、早足で正門へ向かっている。強く腕を掴まれているせいで痛い。僕は足を止めて、ロランの手を振り払った。

「あのっ! 寮長が倒れたって、本当なんですか? 僕にはちょっと信じられなくて……」

 ロランは振り返る。暗がりでも、瞳が血走っていることが分かった。
 ロランは口元を引きつらせてから、再び僕の手を掴む。

「信じたくない気持ちも分かるけど本当だ。早く向かわないと手遅れになる」

 早足で一気にまくしたてられる。その態度からも不信感が募った。僕はもう一度、手を振り払う。

「本当に寮長が倒れたというのなら、みんなにも知らせてきます。教師にだって報告しないと」

 踵を返して寮に引き返そうとしたところで、またしてもロランから腕を強く掴まれた。

「いたっ……」

 腕を強く引っ張られて、痛みが走る。ロランは僕の手を強く握りながら、乾いた笑みを浮かべていた。

「ははっ……もっと馬鹿なやつだと思っていたんだけどなぁ」

 それはどういう意味だ? 眉を顰めていると、ロランは僕の額に指を突きつける。

「傷つけるなとは言われたが、抵抗されたら仕方ない。少しの間、眠っていてくれ」

 そう告げられた直後、目の前でバチンと電撃のようなものが弾ける。鋭い衝撃が脳まで伝わって、意識が朦朧としてきた。
 力が抜けて、へなへなと地面に倒れこむ。ぐったりしていると、ロランに軽々と持ち上げられた。

「行くぞ」

 僕は、どこに連れて行かれるんだろう? 聞きたくても言葉が出てこない。
 朦朧とする意識の中で、後悔ばかりが募っていった。

 僕は馬鹿だ。ロランの言葉を真に受けて、のこのこついて行くなんて。おかしいと思った時点で、すぐに逃げ出していれば良かったんだ。

 それ以前に、ダミアンの部屋に留まっていれば、ロランの言葉に惑わされることもなかった。
 ベッドに押し倒されたま、深い口づけをかわして、身を委ねていれば、今ごろ……。

 このまま知らない場所に連れて行かれて、売り飛ばされたらどうしよう。原作のアレン・マクミランが救いのない断罪エンドを迎えたように。

 こんなことなら、もっと早くダミアンに好きだと伝えておけば良かった。
 途方もなく愚かな自分を呪いたくなった。
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