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3章
49.首輪を付けて繋いでおけたら(ダミアン視点)
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消灯時間が近付いた頃、俺は自室で事務仕事を片付けていた。
あの学長は、面倒な仕事をいつも俺に押し付けてくる。今回だってそうだ。
競技会の見物に来た企業や研究所の職員から、当日活躍した生徒と引き合わせてほしいという趣旨の手紙が多数届いていた。
優秀な学生と引き合わせるという目論見は成功だが、後処理まで丸投げされるとは……。学長からにっこり渡された手紙の束を見ながら、深くため息をついていた。
嘆いていても仕方がない。先方を待たせては悪いから、さっさと片付けよう。ただでさえ、放課後はろくに作業を進められなかったのだから……。
などと考えていると、ふとアレン・マクミランのことを思い出す。数時間前には、彼がこの部屋に訪れていた。少し乱れたベッドを見ると、先ほどの出来事が脳裏をよぎった。
あの時は、本当に危なかった。あと少しで歯止めが利かなくなるところだった。
『寮長は、いいんです』
潤んだ瞳でそう告げられた時、彼への愛おしさが溢れ返った。
抱きしめて、キスをして、身体中に印をつけて、俺だけのものにしたい。できることなら、首輪で繋いで、誰の目にも触れないように地下牢で監禁したかった。
だけどそんなのは、彼が望むことではない。強引に繋ぎ留めても、彼は自らの魔力で逃げ出すだろう。そうなれば、今度こそ俺のもとには戻って来なくなる。
本当に、彼のことだけは思い通りにいかない。傍にいるのに、手に入らないことがもどかしく思えた。
深くため息をつく。集中力が途切れてしまった。少し外の空気を吸おうと、窓を開けた。
涼しい風が入り込み、ブロンドの長い髪が揺れる。ふと、窓から顔を出して隣の部屋の様子を窺ってみた。
部屋の灯りは消えているものの、窓は空いている。
アレン・マクミランは、もう眠ってしまったのだろうか? 監視をしていた頃は、もう少し遅くまで起きていたはずだが。
眠っているのだとしても、窓を開けっ放しというのは不用心だ。夜風に晒されて、風邪をひいてしまうかもしれない。
まったく、世話の焼ける奴だ。なんて呆れながらも、彼の部屋に行く口実ができたことに密かに喜びを感じていた。
「アレン・マクミラン、いるか?」
扉を叩いて呼びかけたものの、返事はない。やはり、眠っているのか。
そっと扉を押し開けたが、アレン・マクミランの姿はない。
開けっ放しの窓から夜風が入り込み、白いカーテンがゆらゆらと揺れている。ベッドには、脱ぎっぱなしのジャケットが無造作に置かれているだけ。枕元には、俺が渡した指輪の小箱が口を開けていた。
がらんとした部屋を見ていると、妙な胸騒ぎがする。すぐさま扉を閉めて、談話室へ向かった。
談話室を覗いたが、アレン・マクミランの姿はない。賑やかにカードゲームをしていた生徒たちは、俺が見回りに来たと勘違いしたのか、そそくさと部屋に戻ろうとしていた。
その中の一人に、アレン・マクミランと親しくしているルーカスが混じっていることに気付く。慌てて部屋に戻ろうとする彼を引きとめた。
「アレン・マクミランがどこに行ったか知らないか?」
「え? アレンですか? 見ていないですけど、部屋にいるんじゃないですか?」
「部屋にはいなかった。他にどこか心当たりはないか?」
「心当たりですか……。クライドかフレッドの部屋ですかね?」
ルーカスからの助言で、すぐさま二人の部屋に向かう。しかし、そこにもアレン・マクミランはいなかった。
「おかしいなぁ……。あと考えられるのはリオンの部屋か」
その言葉で眉を顰める。アレン・マクミランは、数日前に弟から迫られたと言っていたため、自分から部屋に行くというのは考えにくい。とはいえ、他に心当たりもないから探しに行くことにした。
アレン・マクミランの友人たちも、彼のことが気がかりだったようで、同行を申し出てきた。
四人で部屋の前にやって来ると、すぐさま扉を叩く。しばらくすると、リオン・マクミランと相部屋になったロランが出てきた。
「あっ……寮長……」
ロランは、俺の顔を見た途端、慌てて視線を逸らす。その反応を見て、彼が何らかに関与していることを察した。
「アレン・マクミランの姿が見当たらない。何か知っているか?」
ロランは視線を彷徨わせたまま口を噤む。
「言え。隠蔽したら、ただじゃ済まないぞ」
睨みを利かせながら詰め寄ると、ロランはびくっと肩を震わせる。それからおずおずと口を開いた。
「アレン・マクミランは、故郷に帰るそうです」
「…………は?」
間の抜けた声を出してしまう。すぐには理解が追い付かなかった。
ロランは、視線を落としながら言葉を続ける。
「競技会の後、彼が闇属性であることが発覚したじゃないですか。そのせいで居心地が悪くなったから、退学を決意したそうです」
呆れたものだ……。そんな嘘で、俺を欺けるとでも思っているのか?
怒りが抑えきれず、ロランの胸ぐらを掴む。
「嘘をつくな。あいつがそんなことで退学を決意するはずがない。どこに隠した?」
声を荒げながら詰め寄ると、ロランは青ざめた顔で息を呑む。俺の怒りが伝染したのか、後ろで控えていた者たちもロランを責め立てた。
「寮長の言う通りだ! アレンが俺たちに何も言わずに退学するはずがありません!」
「退学なんてありえない……」
「ロラン先輩、吐くならもっとマシな嘘を吐いてくださいよー」
この場にいる全員が、ロランの言葉を嘘だと断定した。
胸ぐらを掴む手に力がこもる。正直に白状しないのなら、多少手荒な真似をしてでも吐かせるまでだ。生憎俺は、優しい男ではない。
ロランの胸ぐらを掴んでいる側とは逆の手に、ぼうっと炎を灯す。メラメラと燃え盛る炎を見せつけると、ロランは小さく悲鳴をあげた。
痛い目を見ると分かれば口を割ると思っていたが、ロランは視線を落としながら首を左右に振る。
「脅されても言いませんよ」
強情なやつだ。自白させるには、時間がかかりそうだ。
そんな中、ルーカスとクライドが顔を見合わせる。意思確認をするように一度頷くと、彼らは廊下を走り出した。
「俺たちは、周辺を捜索します!」
「何か分かったら知らせてください」
二人がひと足先に捜索をしてくれるようだ。それは非常に助かる。ロランの口を割らせるのと、周辺の捜索を同時に行った方が効率的だろう。
残されたフレッドは、新しい玩具を見つけた子供のように、にやりと笑う。
「それじゃあ僕は、寮長のお手伝いをしますよ。ちょうど試してみたい魔法薬があったんですよねー」
その発言に思わず笑ってしまう。先輩を実験体にしようだなんて、この男、良い性格をしているな。
乱暴に扉を閉めてから、ロランの肩を強く押す。尻もちをついたロランは、青ざめた顔でこちらを見上げていた。
「た、たとえ拷問されても、口は割りませんよ!」
声を震わせながら抵抗するロランを見て、俺とフレッドはにやりと顔を見合わせる。
「その強がりが、いつまで持つか……」
それからの出来事は、とてもじゃないがアレン・マクミランには言えそうになかった。真実を伝えたら、また鬼畜寮長なんて罵られるに違いない。
あの学長は、面倒な仕事をいつも俺に押し付けてくる。今回だってそうだ。
競技会の見物に来た企業や研究所の職員から、当日活躍した生徒と引き合わせてほしいという趣旨の手紙が多数届いていた。
優秀な学生と引き合わせるという目論見は成功だが、後処理まで丸投げされるとは……。学長からにっこり渡された手紙の束を見ながら、深くため息をついていた。
嘆いていても仕方がない。先方を待たせては悪いから、さっさと片付けよう。ただでさえ、放課後はろくに作業を進められなかったのだから……。
などと考えていると、ふとアレン・マクミランのことを思い出す。数時間前には、彼がこの部屋に訪れていた。少し乱れたベッドを見ると、先ほどの出来事が脳裏をよぎった。
あの時は、本当に危なかった。あと少しで歯止めが利かなくなるところだった。
『寮長は、いいんです』
潤んだ瞳でそう告げられた時、彼への愛おしさが溢れ返った。
抱きしめて、キスをして、身体中に印をつけて、俺だけのものにしたい。できることなら、首輪で繋いで、誰の目にも触れないように地下牢で監禁したかった。
だけどそんなのは、彼が望むことではない。強引に繋ぎ留めても、彼は自らの魔力で逃げ出すだろう。そうなれば、今度こそ俺のもとには戻って来なくなる。
本当に、彼のことだけは思い通りにいかない。傍にいるのに、手に入らないことがもどかしく思えた。
深くため息をつく。集中力が途切れてしまった。少し外の空気を吸おうと、窓を開けた。
涼しい風が入り込み、ブロンドの長い髪が揺れる。ふと、窓から顔を出して隣の部屋の様子を窺ってみた。
部屋の灯りは消えているものの、窓は空いている。
アレン・マクミランは、もう眠ってしまったのだろうか? 監視をしていた頃は、もう少し遅くまで起きていたはずだが。
眠っているのだとしても、窓を開けっ放しというのは不用心だ。夜風に晒されて、風邪をひいてしまうかもしれない。
まったく、世話の焼ける奴だ。なんて呆れながらも、彼の部屋に行く口実ができたことに密かに喜びを感じていた。
「アレン・マクミラン、いるか?」
扉を叩いて呼びかけたものの、返事はない。やはり、眠っているのか。
そっと扉を押し開けたが、アレン・マクミランの姿はない。
開けっ放しの窓から夜風が入り込み、白いカーテンがゆらゆらと揺れている。ベッドには、脱ぎっぱなしのジャケットが無造作に置かれているだけ。枕元には、俺が渡した指輪の小箱が口を開けていた。
がらんとした部屋を見ていると、妙な胸騒ぎがする。すぐさま扉を閉めて、談話室へ向かった。
談話室を覗いたが、アレン・マクミランの姿はない。賑やかにカードゲームをしていた生徒たちは、俺が見回りに来たと勘違いしたのか、そそくさと部屋に戻ろうとしていた。
その中の一人に、アレン・マクミランと親しくしているルーカスが混じっていることに気付く。慌てて部屋に戻ろうとする彼を引きとめた。
「アレン・マクミランがどこに行ったか知らないか?」
「え? アレンですか? 見ていないですけど、部屋にいるんじゃないですか?」
「部屋にはいなかった。他にどこか心当たりはないか?」
「心当たりですか……。クライドかフレッドの部屋ですかね?」
ルーカスからの助言で、すぐさま二人の部屋に向かう。しかし、そこにもアレン・マクミランはいなかった。
「おかしいなぁ……。あと考えられるのはリオンの部屋か」
その言葉で眉を顰める。アレン・マクミランは、数日前に弟から迫られたと言っていたため、自分から部屋に行くというのは考えにくい。とはいえ、他に心当たりもないから探しに行くことにした。
アレン・マクミランの友人たちも、彼のことが気がかりだったようで、同行を申し出てきた。
四人で部屋の前にやって来ると、すぐさま扉を叩く。しばらくすると、リオン・マクミランと相部屋になったロランが出てきた。
「あっ……寮長……」
ロランは、俺の顔を見た途端、慌てて視線を逸らす。その反応を見て、彼が何らかに関与していることを察した。
「アレン・マクミランの姿が見当たらない。何か知っているか?」
ロランは視線を彷徨わせたまま口を噤む。
「言え。隠蔽したら、ただじゃ済まないぞ」
睨みを利かせながら詰め寄ると、ロランはびくっと肩を震わせる。それからおずおずと口を開いた。
「アレン・マクミランは、故郷に帰るそうです」
「…………は?」
間の抜けた声を出してしまう。すぐには理解が追い付かなかった。
ロランは、視線を落としながら言葉を続ける。
「競技会の後、彼が闇属性であることが発覚したじゃないですか。そのせいで居心地が悪くなったから、退学を決意したそうです」
呆れたものだ……。そんな嘘で、俺を欺けるとでも思っているのか?
怒りが抑えきれず、ロランの胸ぐらを掴む。
「嘘をつくな。あいつがそんなことで退学を決意するはずがない。どこに隠した?」
声を荒げながら詰め寄ると、ロランは青ざめた顔で息を呑む。俺の怒りが伝染したのか、後ろで控えていた者たちもロランを責め立てた。
「寮長の言う通りだ! アレンが俺たちに何も言わずに退学するはずがありません!」
「退学なんてありえない……」
「ロラン先輩、吐くならもっとマシな嘘を吐いてくださいよー」
この場にいる全員が、ロランの言葉を嘘だと断定した。
胸ぐらを掴む手に力がこもる。正直に白状しないのなら、多少手荒な真似をしてでも吐かせるまでだ。生憎俺は、優しい男ではない。
ロランの胸ぐらを掴んでいる側とは逆の手に、ぼうっと炎を灯す。メラメラと燃え盛る炎を見せつけると、ロランは小さく悲鳴をあげた。
痛い目を見ると分かれば口を割ると思っていたが、ロランは視線を落としながら首を左右に振る。
「脅されても言いませんよ」
強情なやつだ。自白させるには、時間がかかりそうだ。
そんな中、ルーカスとクライドが顔を見合わせる。意思確認をするように一度頷くと、彼らは廊下を走り出した。
「俺たちは、周辺を捜索します!」
「何か分かったら知らせてください」
二人がひと足先に捜索をしてくれるようだ。それは非常に助かる。ロランの口を割らせるのと、周辺の捜索を同時に行った方が効率的だろう。
残されたフレッドは、新しい玩具を見つけた子供のように、にやりと笑う。
「それじゃあ僕は、寮長のお手伝いをしますよ。ちょうど試してみたい魔法薬があったんですよねー」
その発言に思わず笑ってしまう。先輩を実験体にしようだなんて、この男、良い性格をしているな。
乱暴に扉を閉めてから、ロランの肩を強く押す。尻もちをついたロランは、青ざめた顔でこちらを見上げていた。
「た、たとえ拷問されても、口は割りませんよ!」
声を震わせながら抵抗するロランを見て、俺とフレッドはにやりと顔を見合わせる。
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